Infinite Stratos~蒼騎士の軌跡~ 作:ミリオンゴッド
「――あぁ、そちらもご健在で何よりだ……クソ兎。
着信元は予測通り、《天災》篠ノ之束。まぁこのタイミングで非通知で掛けてくる相手となれば、コイツくらいだろう。
『勘違いするなよ生ゴミくん。
「クク…そうだろうな……だったら何だ?わざわざ《天災》が電話してくるんだ、何か目的があるんだろう?」
『お前、IS学園に入っただろ。さっさと出てってよ。束さんの計画の邪魔なんだけど』
「そいつは無理ってもんだ。千冬に頼まれているんでね」
『あんまり調子に乗るなよ。プチッと潰してやろうか?』
「出来るならな。こちらも黙って殺されるつもりは毛頭無いが」
『お前ホントムカつくなぁ!黙ってちーちゃん達から離れてとっとと死ねよ、
「貴様こそ、そろそろ持病の幼児退行と妄想癖を治療したらどうだ、
『うるさいうるさい!束さんの世界にはお前みたいな奴は要らないんだ!!お前も、お前の使っている
「貴様の計画や思想に興味は無いが、それが周囲の犠牲の上に成り立つなら悪いが潰させてもらう。千冬や一夏を巻き込むなら尚更だ」
『いっくんとちーちゃん、箒ちゃんがいれば他の奴なんかどうなろうと知ったこっちゃないよ!!お前も含めて全員ゴミなんだからな!!』
「あぁ、そう言えば箒に会ったが、貴様と比べて随分と好感の持てるヤツだったな。ま、少々捻じ曲がった部分もあるが……本当に血が繋がっているのか?」
『お前……ッ!!箒ちゃんは正真正銘束さんの妹だ!!!!』
「そうか。ならよかったな、近くに守ってくれるヤツがいて。心配するな、お前の妹は
『……もういい、お前は殺す。大体どこから持ってきたかもわからないISやコアを使っている時点で死んでほしいのに、束さんに盾突くんだから死んでも文句は無いよね?とにかく、計画は進めるから邪魔するなよ。お前はもう殺すのは決定だけど、少しでも長生きしたいだろ?じゃ――』
一方的に通話は切られた。辺りは静寂に包まれており、緊張から解放されたためか夜風の肌寒さが身に染みる。
「ふぅ……計画、か。メンドクサイことになってきたぜ――」
「そうね。そのお話、おねーさんにも詳しく教えてもらってもいいかしら?」
「――ッ!?」
慌てて後ろを振り返る。そこには水色のショートヘアの女が立っていた。暗がりでよく見えないが、その顔立ちは美人であることは容易に想像できる。しかしこの女、束に気を取られていたとはいえ俺が気配に気付けないとは……普通じゃない。
「ハァ……いつから居た?」
「最初から、ね」
「どっから聞いてたよ?」
「フフ、全部かしら。私、気配を消すのは得意なの」
「……最悪だぜ」
女の手には『神出鬼没』と書かれた扇子が広げられている。ふざけているのか、この状況で。
「さて、洗いざらい話してもらうわ」
「断る。大体何の権利があってそんなこと言ってんだ?これは俺の問題だ」
「権利ならあるわ。私こう見えて、この学園の生徒会長なの♪」
「会長だから何だってんだ?」
「IS学園の生徒会長は、学園に対するあらゆる危険に対して対処する義務があるの。貴方のさっきの通話の内容、生徒会長として看過できるものではないわ。だから聞かせてくれる?行方不明のはずの篠ノ之束博士となぜ面識があるのか、そして計画とは何か、ね」
不敵な笑みを浮かべながら女は言う。学園を守る、か……この女にならば話しても良いかもしれないし、協力者として使える可能性があるが、今はまだ時期じゃない。
「悪いがノーだ。好感度が足りねえぜ」
「……あらそうなの?ざんね~ん…………なら、一つだけ聞いてもいい?」
「何だよ?」
「
「……いや、違う」
「へぇ…………?」
俺と女はしばらく見つめ合う。数十秒探るような視線が向けられたが、その後視線は途切れ彼女は表情を崩した。
「うん、貴方の事信じてあげる♪特別だからね?」
「そうか、ワリィな会長さん。いつか、必ずアンタには話す」
「そ、楽しみに待ってるわ」
「そういや会長さんよ。アンタの名前、なんて言うんだ?」
「ふふ、私は更識楯無。覚えておいてね、クロウ・アームブラストくん?」
そう言い残し、彼女の後姿は闇に溶けていく。
「俺は名乗った覚えが無いんだがな、会長殿――」
***
篠ノ之束との通話、そして更識楯無との出会いの後、俺は自室に戻ってきていた。セシリアはぐっすり眠っているのか、俺が部屋に入る音に反応している様子は無い。
俺はゆっくりとベッドへと向かう。セシリアにに近づくにつれ、彼女が何か言葉を発していることに気付く。
「すまんお嬢、起こしちまったか?」
俺の言葉に対して反応は無い。寝言か……?
(――ッ!?)
セシリアに近づくと滝のように汗をかいており、魘されていたのが分かった。失礼を承知で額に手を当てると明らかに高熱があり、良くない状態であるのが分かる。
思えばセシリアは朝から食欲が無いと言っていた。あの時は俺と食べたくないだけだと思っていたが、本当に食欲が無かったのかもしれない。というか今日の夕飯時にも見かけなかったな。
そもそも俺が昨日部屋に入ったときもベッドで寝ていたし、その時点から既に調子が悪かった可能性もある。
そしてその体調不良を来週戦う対戦相手の俺に悟られまいとしていたなら、あの無口な状態にも納得できる。そもそもセシリアの性格なら煽って来たり突っかかって来たりするだろうしな。
「……ホントまぁ、プライドまでエリートだこと」
「…………ま、……う…ま…………」
「ん?どうしたお嬢」
「……おかあ…さま……お…とうさま…………いか…ないで…………」
お父様にお母様……か。もしかしてセシリアは両親を失っているのか?どうやらこの魘され方、相当ひどい形で両親を失った可能性があるな。その表情は苦痛で歪んでおり、顔は涙で濡れていてとてもじゃないが見ていられない。
「……あぁ、父さんも母さんも、セシリアの傍にいるよ」
「ふふ……よ…かった…………」
苦悶の表情が和らぎ、口元に笑みが浮かぶ。未だ顔は涙に濡れたままだがそのうち乾くだろう。それよりも熱が酷い。まずは冷やさないことにはな。
「しゃーねぇ、看病してやっか」
俺は自身の収納からタオルを取り出し、水道へ向かった。
***
「ん…んん……」
「おっ、起きたかお嬢。おはようさん♪」
早朝五時過ぎ、セシリアが目を覚ました。魘されることは無くなったものの、あの後も熱が下がることは無く未だ高熱だ。
「なにを…していますの……」
「何って、看病だっつの……ったくこんなんなるまで放っておきやがって。お嬢、凄い熱だぜ?」
「そういう、ことではなく…わたくしと、あなたは……対戦相手ですのよ…………?」
やっぱりそういうことか、大方俺に隠そうとして薬も飲まなかった結果症状が悪化したんだろう。まったく、バカなお嬢様だ。
「んなモンの前に俺たちはルームメイト、同居人だろうが。バカなこと言ってねぇで黙って俺様に看病されとけ」
「ですが……」
「へいへい、とりあえずお嬢は今日は授業休みな。千冬ちゃんには俺から言っといてやっから。後、授業の前に保健室連れてってやっからちゃんと薬飲んで寝とけ、いいな?」
「……はい、わかりましたわ」
「よっし、イイコだ♪」
「……子ども扱い、しないでくださいな」
「俺から見ればお嬢もまだまだガキだよ」
「そう…でしたわね――――」
「……寝たか」
俺は携帯を取り出し、織斑千冬をコールする。数コール後、千冬が電話に出た。
「よう千冬ちゃん、起きてるか」
『ふわあぁぁあ…………クロウ…こんな朝から……電話してくるな、馬鹿者が……』
「お、寝てたか。ワリィな」
『もういい……さっさと要件を言え』
「ああ、二つほどあるんだがよ。まずは、セシリアお嬢が随分な高熱でな。今日は授業を休ませることにしたぜ」
『ふむ、まあオルコットも疲れが溜まっていてのだろう。ゆっくり寝かせてやれ』
「ああ、それでもう一つだが……クソ兎から接触があった」
『何!?それは本当か!?』
「事実だ。昨日の夜、非通知で着信があってな。ま、案の定ってワケだ」
『そうか……アイツは何と言っていた?』
「具体的なことは何も。ただ、近いうちにこの学園で何か仕出かす可能性が高い。計画がどうこう言ってたぜ。それには俺が邪魔なんだとよ」
『クソ、束…何を考えている……』
「さあな。ただ以前から危惧していたように、一夏に対して何か仕掛けてくる可能性が高いな。注意するに越したことは無いだろ」
『そうだな、引き続き警戒を頼む』
「それとこの件に関してだが、更識楯無に知られた。協力を仰ぐか?」
『ふむ、更識か……信用は出来ると思うが、その判断はお前に任せよう』
「了解だ……んじゃ、要件は以上ってことで!」
『ああ、それではな――』
千冬との通話が切れた。言わなきゃいけないことは大体伝わっただろう。しかし、会長の件は任せる、か。こりゃもう一度更識楯無と接触する必要があるな。
「……ま、何にせよ今はお嬢を保健室までエスコートしなくちゃな」
その後、八時過ぎ。俺はセシリアを保健室まで運んでいく。周囲の視線が痛かったが、セシリア本人は特に抵抗することも無く素直に保健室まで運ばれていった。
そして昨日からオールしていた俺は、自室のベッドにダイブし本日の授業を欠席した――