Infinite Stratos~蒼騎士の軌跡~   作:ミリオンゴッド

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円舞曲

~side セシリア~

 

 アリーナで待機していると、ピットから彼が飛び出してきた。その身体には、わたくしと同じく蒼い機体を纏っている。ブルー・ティアーズから彼の機体情報が送信される。

 

 《オルディーネ》……それがあのISの名前ですのね。

 

 羽のようなスラスター、金色の一本の角のような装飾が施されたヘッドギア等、各パーツが全て尖り、鋭い印象を抱かせる機体。身体は顔の一部以外は装甲に覆われほぼフルスキン、西洋の騎士を連想させる。

 

「……お待ちしておりましたわ」

 

 勝負を始める前に、わたくしはどうしても彼に言わなくてはならないことがあります。

 

「一つだけ、よろしいですか?」

 

 あの日看病してもらった時から、ずっと言いたかったこと。

 

「ん?どうしたよ?」

 

「先日は看病して頂き、ありがとうございました。それと、今まできちんとお礼も言えず、申し訳ありませんでしたわ……」

 

 あんな見下すような態度をとった、そんなわたくしに彼は態度を変えることなく話しかけてくれた。心配してくれた。……そして、叱ってくれた。あんな子供みたいに叱られたのはいつ振りでしょうか。

 

 両親が列車事故で亡くなって、名門オルコットの当主として受け継いだものを守るため、わたくしなりに賢明な努力をしてきましたし、その自負もあります。

 

 ですが、そうやって大人達に立ち向かうために自分を高め、追い込んでいった結果、気付けばわたくしを心配して叱ってくれる人なんてどこにも居なくなってしまっていました。

 

 当然ですわね……自分達より能力が高くて、プライドが高い癇癪持ち。加えて差別思考、男嫌いの女尊男卑主義者なんて、妬んだり擦り寄ったりはしても心配するなんて選択肢は浮かびませんもの。同年代の人たちだって、本当の意味で仲良くなんて……

 

 現状、わたくしはクラスで孤立しています。どうしてって、馬鹿でも分かりますわよね。日本の学校で、日本人だらけの教室で、日本人に対して《極東の猿》だなんて侮辱も良い所ですわ……

 

 そんなわたくしに、貴方は何度も気さくに話しかけてくれた……挨拶程度しか返さないのに、何度も何度も。

 

 最初は正直鬱陶しかったです。体調が悪いのを隠そうともしてましたし、あの時は対戦相手の貴方に体調不良だとばれたくありませんでしたから。

 

 けれど今は、貴方にお嬢と呼ばれる度、言葉では言い表せない複雑な感情が押し寄せます。

 

 嫌な感じはしません。ただ、どう扱ったらいいかわからない、不思議な気持ち……

 

 男性は皆、父みたいな人だと思っていました。卑屈で、女性に媚びを売って、あわよくば取り入ろうとする弱い存在。

 

 けれど、クロウ・アームブラストさん。貴方はわたくしを心配して、叱って、頼らせてくださいました……

 

 貴方は、父とは違うのでしょうか……?

 

「何だそのことかよ……おう、礼は受け取っとくぜ♪しっかしお嬢。お前さんも不器用なヤツだなぁ」

 

 そうやって、貴方ははまた軽口を言いながら笑いますのね。

 

「ええ、自覚しています……」

 

 こんな態度を取らせているのは、貴方ですのよ……?

 

「ま、けどこれでお嬢も言いたいこと言えて少しはスッキリしたんじゃねぇか?」

 

 未だ、胸の靄は晴れないけれど。

 

「……そうですわね」

 

 未だ、貴方の声に戸惑うけれど。

 

「なら、余計なこと考えないで全力で来な!こういうイベントは、やらせ無しのガチンコ勝負だからこそ面白いんだからよ!!」

 

 この気持ちの正体を知りたい。

 

「ええ、全力で行きますわ!準備はよろしくて、クロウ・アームブラスト!!」

 

 だから、この勝負で確かめさせてもらいます!!

 

「ああ……来な!セシリア・オルコット!!」

 

 彼は二丁拳銃を取り出し、両手に構える。

 

「大型ハンドガンが二つ、二丁拳銃…それが貴方の武器……!!」

 

「ああ、今はコイツが俺の武器だぜ」

 

「今は……奥の手がありますの?」

 

「さぁ、どうだろうな」

 

『お前達。時間が無い、さっさと始めろ!』

 

 アリーナに織斑先生の声が響く。随分と話し込んでいたみたいですわね。

 

「おっと、怒られちまったぜ。んじゃとっとと始めるとすっか!!」

 

「ええ!さあ、一緒に踊りましょう!!わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

 

「クク……ちゃんとリードしてくれよ、お嬢!!」

 

 

 

 

 

――瞬間、互いに動き出す。

 

 

 

 

 

 ライフルを構え狙い撃つも、難なく躱され、逆に二丁拳銃による弾幕を張られる。咄嗟に飛び上がって躱すも多少被弾してしまった。ただ所詮はハンドガン、一発毎の威力は高くない。

 

「そのハンドガン、結構な連射性能ですわね!!」

 

「ヒューッ♪俺様の速射、躱すなんて中々やるねぇ!そら、どんどん行くぜ!」

 

 躱しながらライフルで応戦するも、こちらの攻撃はまるで当たらない。逆にこちらはじわじわと少しずつSEを削られ、既に残量は七割を切っている。

 

(拙いですわ…ビットを使う暇が無い!……なら!!)

 

 勢いよく上下左右に飛び回り、相手の射線を乱す。完全に隙の無い弾幕などありえない。

 

 

 一瞬、連射に穴が開く――

 

 

「――ッ!ここですわ!!」

 

 動きを止め、機体制御に集中する。四機のビットが死角に回り込み、彼は躱せず被弾する。初めてこちらが有効打を与えた。

 

「やりましたわ!!」

 

「中々いいトコ突いて来るじゃねーの!!」

 

「続けていきますわよ!!」

 

 ビットを操作し続けて連撃を加える。四方から迫るレーザーに対し、彼は防戦一方だ。ビットを破壊しようとしているのか、躱しながら出鱈目に、各方向に銃弾を連射している。

 

(よし…このまま押し切れる……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――だがお嬢、あんまり止まってばっかいるとイイ的だぜ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何を…………ッ!?」

 

 

 周囲を見渡すと、鳥籠のような形で銃弾が空中に留まっていた。その射線は全て此方に向けられている。

 

 

(追尾弾!?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「喰らいな!!クロスレイヴンッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、銃弾の雨が降り注ぐ――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クッ……キャアアァァァァアアアッ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――為す術もなく、雨に撃たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ…………ッ!!」

 

 

 意識は朦朧としている。

 

 

「……やるねぇ……ビットを咄嗟に盾にして全壊は避けたか」

 

 

 既にビットは失った。

 

 

「……まだまだ…ですわ…………」

 

 

 ライフルも破壊された。

 

 

「おいおい、もう止めといたらどうだ。ホントにケガすんぞ?」

 

 

 機体の装甲は砕け散った。

 

 

「貴族として、敵に背は向けられません……行きますッ!!!!」

 

 

 強い……けれど、答えを得るまでは、敗けられない!!!!

 

 

「インターセプターァァァッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そこまで!!勝者、クロウ・アームブラスト!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼に刃が届く直前、織斑先生のアナウンスが場内に響く。

 

 目的を失った身体が崩れ落ちていく。意識が飛んでいく。前方への推進力に逆らえず、ゆっくりと前のめりで倒れていく身体が、蒼い騎士に受け止められた。

 

「わたくしの敗け、ですわね……」

 

「……よく頑張ったな、セシリア」

 

 

 

 

 

 抱き留められて、安心する。

 

 

 頑張ったなと言われ、嬉しくなる。

 

 

 名前を呼ばれると、温かくなる。

 

 

 ああ、こんなに簡単なことだったんですのね。

 

 

 わたくしは、きっと貴方に――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

――目を覚ますと、そこは見知った天井。先週もお世話になった、保健室。

 

「おっす、おはようさん」

 

 ベッドサイドには、先程まで対戦していた彼が座っている。

 

「おはよう、ございます……」

 

「いやー流石にやり過ぎたかと思ったが、大した外傷が無くて良かったぜ……どこか痛むトコはねーか?」

 

「はい……大丈夫ですわ…………」

 

 暫く無言が続く。彼の顔を見ると顔が熱くなるのが分かった。

 

「……ああそうだ。お嬢と一夏の試合は中止になったぜ」

 

「そ、そうですか……それで貴方は、ずっとここに……?」

 

「あの後、一夏のヤツを速攻で倒してな。その後すぐ来た。流石に放置じゃ寝覚めが悪いだろ」

 

 頭を掻きながら申し訳なさそうに笑う彼が、とても愛しく感じる。

 

 傍に居てくれたという事実に、心が躍る。

 

「……優しいんですのね」

 

 貴方の中で、きっとわたくしは同居人の我儘なお嬢様。それ以上でも以下でもない。

 

「ったりめーよ!俺は学園一の紳士だぜ?」

 

 今はそれで構わない。ただ、貴方と共にこの学園生活を楽しみながら過ごしていきたい。

 

「はぁ……軽すぎですわ」

 

 貴方はきっと鳥のように、いろんな所を好きなように飛び回るんでしょう。

 

「あらあら、お嬢は厳しいねぇ」

 

 けれど、飄々と飛ぶ貴方が飛び疲れて、羽を休めるときが来るなら――

 

「ええ、軽いのはイヤですわ。鳥みたいに何処かに飛んでいってしまいそうですから――」

 

――必ず捕まえて見せますわ、クロウさんっ♪

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