Infinite Stratos~蒼騎士の軌跡~ 作:ミリオンゴッド
「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、アームブラスト、オルコット。試しに飛んでみろ」
四月下旬。刻々とクラス対抗戦の開催が差し迫る中、俺達は千冬によるISの基本操縦についての授業を受けていた。
セシリアの《ブルー・ティアーズ》だが、中々に俺が破壊してしまったため一度本国に送るハメになったそうだ。どうやら昨日戻ってきたようで、現在は彼女の体に装着されている。
「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ」
まだISを展開していない一夏。右腕の白いガントレットを掴んで何やら唸っている。……少しアドバイスをしてやるかね。
「一夏、あんま焦んな。身体を機体と一体化させる感じでやってみな」
「……分かった」
一夏が目を閉じ、集中する。刹那、一夏の体が真っ白い機体《白式》に包まれる。
「おお!出来たぜクロウ!!」
「クク……上出来じゃねーか」
「アームブラスト。お前も人に構ってないでさっさと展開しろ」
「へーへー、わかりましたよっと」
俺が左耳のピアスに触れるとほぼ同時に展開は完了した。俺の体は現在《オルディーネ》に包まれている。
「ふふっ、クロウさんも待機状態は耳につけるタイプですのね。しかも同じ蒼……お揃いですわねっ」
「ああ、言われてみりゃそうだな」
セシリアの機体も蒼く、待機状態はイヤーカフス。確かに似通っているかもしれない。
「お前達、話してないでさっさと飛べ!」
「っ、はい!」
「おうよ!」
千冬に言われ、俺とセシリアは即座に飛んだ。一夏はもたつき出遅れている。速度も俺、セシリア、遠く離れて一夏といった感じで、なんとも一夏にとっては情けない結果となってしまった。
「何をやっている。スペック上の出力ではブルー・ティアーズよりは白式の方が上だぞ」
「そう言われても急上昇や急下降は昨日習ったばかりだし『自分の前方に角錐を展開させるイメージ』で行うようにって言われてもなぁ」
「織斑さん、イメージは所詮イメージ。自分がやりやすい方法を模索する方が建設的でしてよ」
「ま、お嬢の言うとおりだな。自分に合った方法を見つけるこった。後はまあ、慣れだ慣れ」
「そう言われてもなぁ。大体、空を飛ぶ感覚自体がまだあやふやなんだよ。なんで浮いてるんだ、これ」
「説明しても構いませんが、長いですわよ? 反重力力翼と流動波干渉の話になりますもの」
「わかった。説明はしてくれなくていい」
「そう、残念ですわ。ふふっ」
セシリアは流石に代表候補生だけあって優秀だ。俺が感覚でやっていることを、説明しようと思えば出来るんだからな。俺の場合こういう理論的な話は相手に教えるのは向いていない。
現在、一夏とセシリアはずいぶん仲良くなった様子で、今ではセシリアが一夏のコーチを買って出ている。そして、何故かその訓練には特に何をするわけでもないのに毎回俺も誘われている。理由について尋ねてもセシリアにはぐらかされてしまうため最早追求はしていないが。
「織斑さん、よろしければまた放課後に指導してさしあげますわ。ク、クロウさんももし、お時間が合えばご一緒に――」
「織斑、アームブラスト、オルコット、急下降と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ」
「――っ、了解です。ではクロウさん、織斑さん、お先に」
セシリアは地上へと降下していく。そして目標の高さでぴったりと静止し、代表候補生たる技術を見せつけたくれた。
「うまいもんだなぁ」
「ま、アイツも伊達や酔狂で代表候補生名乗ってるわけじゃないってこったな。んじゃ一夏、お先~」
俺もセシリアに続き、急降下していく。そして目標地点の十センチ……は過ぎ、五センチの地点でギリギリ静止した。
「ひゅー危なかったぜ。織斑センセ―、こりゃどうなんだ?」
「馬鹿者が。五センチを狙ったのなら称賛に値するが、十センチを狙ったのなら当然アウトだ。早く止まりすぎたり、逆に止まれず地面に突っ込むよりはマシだがな」
「へいへい、せいぜい精進しますよ」
突如、上空から何かが落下し地上に激突する。
「「「「「……………………」」」」」
巨大な穴の中心には一夏が倒れている。原因が分かった途端にクラスメイト達は笑い始め、千冬は頭を抱えている。
「ククッ、よぉ一夏。生きてっか?」
「な、何とか……」
「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」
「……すみません」
一夏は体勢を立て直し、大穴から抜け出す。ま、あんな速度で地面に衝突したら普通死んでもおかしくないんだが……絶対防御、付いててよかったなぁ、一夏。
「情けないぞ、一夏。昨日私が教えてやっただろう」
などと箒は言うが……果たしてあれが教えているといえるのだろうか?俺も感覚で操縦はこなしているタイプだが、あのグッだのドンだのずかーんだの、擬音だらけの説明は流石に酷い。あれで理解できる奴は本当の意味で天才だと思うぜ。
「一夏、貴様何か失礼なことを考えているだろう」
……どうやら一夏の野郎も同じようなこと考えてたみてぇだな。
「大体だな一夏、お前というやつは昔から――」
箒の一夏への説教が始まる。いや、説教と言うより最早ただの文句でしかないのだが。
「織斑さん、篠ノ之さんも大丈夫でしょうか……」
「何だよお嬢、いつものことだろ」
「いえ、そうではなく……」
「おい馬鹿者ども。私の授業で勝手に喧嘩を始めるとは、いい度胸だな」
ああ、成程。セシリアが心配していたのは千冬が怒りだすのを危惧してのことか……
「織斑、篠ノ之、二度目は無い……いいな?」
「「……はい」」
「織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」
「は、はあ」
「返事は『はい』だ」
「は、はいっ」
「よし。では始めろ」
一夏は右腕を前に突き出し、左手で手首を掴む。溢れ出した光は徐々に刀の形を形成していき《雪片弐型》となる。
「遅い。0.5秒で出せるようになれ。次にオルコット、武装を展開しろ」
「はい」
肩の高さまで左腕を上げ、真横に突き出す。次の瞬間、セシリアの左手には彼女の主力武器であるレーザーライフル《スターライトmkIII》が出現していた。一秒と立たずに展開し、既に射撃可能状態……やるなお嬢。
「さすがだな、代表候補生。ただしそのポーズはやめろ。横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。正面に展開できるようにしろ」
「はい!分かりましたわ!!」
「オルコット、近接用の武装を展開しろ」
「はっ、はいっ!!」
ライフルを即座に収納し近接武器、恐らくあの試合の最後で使用したショートブレードを取り出そうとしているのだろうが、なかなか展開できないでいる。
「くっ……」
「まだか?」
「す、すぐです。――ああ、もうっ!《インターセプター》!」
セシリアは武器の名前を叫ぶ。すると光はショートブレードの形となり、彼女の手に収まる。なるほど近接武器の呼び出しは苦手らしい。そういやあの試合の時も武器の名前を叫んでいたっけな。
「……何秒かかっている。お前は、実戦でも相手に待ってもらうのか?」
「じ、実戦では近接の間合いに入らせません! ですから、問題ありませんわ!」
「ほう。アームブラストとの試合では遠距離射撃武器はすべて破壊され、挙句自分から捨て身で突っ込んでいったように見えたが?」
「あ、あれは、その……そうですわね」
セシリアは悔しそうな表情を浮かべている。だが、言われたこと自体には納得している様子だった。
「……ふぅ、もういい。アームブラスト、最後はお前だ。さっさと展開しろ」
「あいよっ」
両手を前方に突きだし、刹那、二丁拳銃《トリックスター》が出現する。もちろん既に発砲可能だ。
「……文句を付ける所が無いな。いいだろう……時間だ。今日の授業はここまで。織斑、グラウンドを片付けておけよ」
千冬が言い終えた瞬間、終了を告げるチャイムが鳴り響く。しかし、これを一夏一人で埋めろとは、なかなか千冬も鬼畜なことを言う……ま、手伝う気はないが。
「……なあ、クロウって!?いないし!!じゃあ箒!セシリア!……なんでみんないないんだよおおおおお!!!!!!」
「……手伝わなくてよろしいんですの?」
「ほっとけほっとけ、自業自得だ。しかし箒も、こういう時に手伝ってやれば好感度も上がるだろうに、分かってねぇ奴だよな。こりゃおチビがいたらアイツの圧勝だぜ」
「おチビさん、ですの?」
「ああ、そのうち話してやるよ」
こうして、叫ぶ一夏を後目に俺達はグラウンドを後にした。
***
同日、IS学園正門前――
「ここがIS学園……待ってなさいよ、一夏!」
――新たな火種が、来日した。