Infinite Stratos~蒼騎士の軌跡~ 作:ミリオンゴッド
「そんじゃ!一夏、クラス代表就任……」
「「「「おめでとー!!!!!!」」」」
祝福の言葉と共にクラッカーが弾け、グラスが重なりあう音が響く。
現在、俺達は食堂を貸し切り織斑一夏クラス代表就任パーティーを開いていた。幹事は俺。
ウチのクラスの連中は割とノリのイイヤツらが多いようで、俺が提案した瞬間可決された。といっても、そこまで大掛かりな事は出来ないため、料理出来るヤツが部屋で作ってきてそれ以外は出来合いのモノを並べてるだけだが。ま、こーゆーのは気持ちだ気持ち。
最初の号令を終えると、俺はスルッと中心から抜け窓際の席でクラスの様子を観察する。
やはり圧倒的に一夏に群がるヤツが多く、一夏の周囲は一気に女子で埋まりキャイキャイと騒ぎ始める。隣では箒が不機嫌そうにしているが、相変わらず一夏は箒が不機嫌な理由もわからないようで、朴念仁っぷりを存分に発揮している。
(……相変わらず、ねぇ)
気付けば一夏と出会ってからもう二年経つ。そう考えると、一夏の成長に感慨深さを抱きつつも、心に何かが引っかかる。だがまぁ何にせよ――
「――俺もすっかり馴染んじまったってことかねぇ」
「クロウさん……?」
声のした方向を見ると、両手に飲み物を持ってセシリアが近づいてきていた。
「っと、どーしたお嬢?」
「あっ、あの!お隣よろしいですか?」
ちょっと裏返った声でセシリアは言う。大方、端の方で一人で座っている俺に気を使ってくれたんだろう。
「一夏達のほうに行かなくていいのかよ?」
「いえ…もしかして、お邪魔でしたでしょうか……?」
見れば彼女は不安そうな表情をしている。あの後、すぐにセシリアはクラスの皆と打ち解けてすっかり仲良くなっていたし、皆が群がってる場所にいた方が楽しいと思ったんだが……
「いんや、大歓迎だぜ♪」
「だっ、大歓迎だなんて…嬉しいですわ……それでは失礼しますね!」
パッと嬉しそうな顔になり、セシリアが隣に座るが……近いな。肩が触れ合うギリギリの所だ。あれ、お嬢ってこんなに距離近いヤツだったか?
「お飲み物はどちらがよろしいですか?わたくしはどちらでも構いませんので、お好きな方を」
「……お嬢、こんな気の利くヤツだったか?」
「ふふっ。わたくし、気の利く女ですのよ♪」
気が利くと言われたのが嬉しいのか、やけに上機嫌なセシリアから飲み物を受け取る。中身はオレンジジュースのようだ。口に含むと、仄かな酸味が喉を刺激する。
ふと中心の方を見ると、やはり一夏の周囲は特に盛り上がりを見せており、皆が楽しそうに笑っている。尤も、当の一夏だけは多少囲まれ過ぎて疲れが顔に出ているようだが。
「にしても……自分で企画しといて何だが、凄い盛り上がりだな、いやー若い、若いねぇ」
「クロウさんだってお若いですわ!」
「そうは言うけどよ、やっぱ十代と二十代の差はでかいんだよ。本音なんて俺のこと、おじさん呼ばわりだぜ?」
「まあ、失礼ですわ!クロウさんはこんなに素敵な殿方ですのに……」
「いやーお嬢は優しいねぇ。辛辣な先週までのお嬢はどこ行ったんだ?」
「あれは!わ、忘れて下さいな!!」
しかし、本当にセシリアの変わり方には驚きを隠せない。つい先日まで挨拶しかしなかったヤツが、今ではこんなに表情をコロコロ変えながら話すんだから世の中何が起きるかわからないもんだと思う。ま、俺としてはルームメイトと仲良くなれるのは精神衛生的にも悪くないんだが。
「クク……わーったわーった。しっかし、相変わらず一夏の野郎もモテるよなぁ」
遂に我慢できなくなったのか、箒が一夏に詰め寄る。またおもしろ……ややこしい事になりそうだ。
「クロウさんと織斑さんは以前からのお知り合いなんですよね?」
「あぁ、大体二年くらい前からの付き合いだな。その頃からアイツ、女子にモテまくってやがった……ったく、羨ましいったらないぜ」
過去にあそこまで女にモテるヤツは、一人しか見たことがない。少し性格なんかは違うが、やっぱどんな世界でも同じようなタイプがモテんのかねぇ……
「そうなんですのね。でも、特定のお相手は……」
「居ねぇな。そもそもアイツは恋愛事に鈍すぎるんだ。一夏が中学の頃、同級生でアイツのことがずっと好きだってヤツが居てな。まぁその同級生は俺とも知り合いで、ちょくちょく相談に乗ってたんだ」
「相談……もしかしてその方、以前言っていたおチビさんですの?」
「ああ、そうだ。んで、最終的に普通のヤツならコロッといっちまうような告白までしたんだが……アイツ、どんな反応したと思う?」
「……?普通に、お返事を返したんじゃないですか?」
「アイツな、「ん?あぁ、スーパーか?買い物ならいつでも付き合うぜ!」……なーんて元気な声で言うんだよ。流石のおチビも泣いちまってよ」
「それは……お気の毒に…………」
「まったくだ。あのときは流石の俺もフォロー出来なかったぜ……ちなみにおチビは中国人でな、色々あって今は国に帰っちまったんだが、元気にしてんのかねぇ……」
小柄でツインテールの猫みたいな少女。おチビはまだ一夏のことが好きなんだろうが……日本に居るうちに何とかしてやりたかったぜ。
「そっ、そういえばクロウさんは……特定のお相手は、いらっしゃいませんの?」
「ん、ああ。特定っつーと居たことねぇな。何だよお嬢、馬鹿にしてんのか?」
「い、いえ!!決してそんなことは……(良かったですわ……)」
「……?ま、せいぜいお嬢も一夏の毒牙にかかんないよう気を付けな」
「いえ、わたくしは絶対に大丈夫ですわ!!」
「そうかよ。ま、一応聞いとくぜ」
「ええ!絶対に、ですわ♪」
「……どっからその自信が沸いてくるのかねぇ」
その後もセシリアと談笑していると、眼鏡の女が近づいてきた。その顔には所謂野次馬根性が溢れている。
「どうもー!新聞部の副部長、黛薫子ですー!!はいこれ名刺ね。セシリアちゃんとアームブラストさんですよね?織斑くんと一緒にちょーっとお話聞かせて貰ってもイイですか?」
「ああ、別にいいぜ」
「わたくしも構いませんわ」
「ありがとう!じゃ、ちょっとこっちに来てくれるかな?」
俺とセシリアは黛に連れられ一夏のほうへ向かう。そこには狼狽した一夏と変わらず騒ぎ続ける女子達がいた。黛はみんなに取材に着た旨を伝え、クラスのヤツらもそれを聞いてはしゃいでいる。……良く見たら別クラスのヤツも紛れ込んでいやがる。全然気づかなかったぜ。
「クロウ…どこ行ってたんだよ……こっちは箒が何故か怒りだして宥めるのが大変だったんだぞ?」
「クク……いやー、ちょいと一夏には聞かせられない秘密のお話してたんだわ。ワリィな」
「そんなひっ、秘密のだなんて…イヤですわ……」
何を想像したのか、セシリアの顔が真っ赤に染まっていく。……本当に何を想像したんだか。
「それじゃあ改めまして!織斑くん、ずばり、クラス代表になった感想をどうぞ!」
「はい!まだまだ未熟な俺ですが、一組の看板を背負う以上は簡単には負けられません!なので、どんな相手だろうと全身全霊を持って相手になります!!」
一夏がキリッとした顔でそう言うと、クラスの女子達は一気に蕩ける。こういう真面目で男らしいのが彼女等の目には魅力的に映るらしい。
「おっ、いいわねーそれっぽい!じゃ、次はアームブラストさん!織斑くんをクラス代表に指名した理由は!?」
「ん、ああ……それを語るにはまず、俺と一夏の出会いから――」
「――あ、長そうだからいいわ。適当に捏造するから」
「それでイイのかジャーナリスト!?……ハァ、ま、勝手にやってくれや」
「ええ!読者が求めている内容を提供するのが私達の仕事ですから!」
ま、俺は真面目な文章よりそういう明らかに捏造したゴシップとかの方が好きなんだが、実際に自分がやられる立場になるとはな……
「じゃあ最後にセシリアちゃん!……って、オルコットさーん!おーい!……ダメだこりゃ」
セシリアはさっきの《秘密の》から妄想でも膨らませていたのか、一人真っ赤に染まった顔を押さえながら体をくねらせている。
「(クッ、クロウさん!そんなはしたない……いけません、いけませんわぁ)「ほれ、お嬢。さっさと戻ってきな」いたっ……はっ!?…………クロウさん、どうかいたしましたか?」
セシリアの頭を軽く叩くと一瞬驚いたような表情をし、すぐに表情を整える。だが今更平静を装ったところで、最早大半のクラスメイトにその様子を見られている。現にこの場に居るほぼ全員から彼女に対して生暖かい視線が向けられている。
「コホン……じゃ、セシリアちゃん。クラス代表を辞退した理由は!?」
「…………へっ、な、なんですの!?」
「あ、うん。いいや、写真だけもらうね」
「えっ……あっ、その」
「いいよ、適当に捏造しておくから。よし、織斑くんに惚れたからってことにしよう」
「なっ、な、ななっ……そんな嘘、書かないでください!わ、わたくしは……っ!!」
動揺し叫びながらもお嬢がチラチラとこっちを見る。クク……何だ、助けろってか?
「あーうん。わかったわかった、この件は触れないでおくねー。それじゃ、最後に専用機持ち三人の写真を撮らせて。バランス的に、そうね……セシリアちゃんが真ん中で、男子二人が左右にって感じでお願い」
「あいよ。ほれお嬢、並ぶぜ?」
「ふぇっ……あっ、はい」
言われた通り、セシリアを挟んで一夏と俺が並ぶ。セシリアは展開について行けていないようで、目を回しながら指示に従っている。
「それじゃあとるよー」
その後黛はワケのわからない計算問題を言い放ち、俺達の頭を混乱させた瞬間にシャッターを切る。さぞ間抜け面が映っていることだろう。
というか、俺と一夏、セシリアの新聞用の写真だったはずが、気付けばクラス全員がカメラに収まっていた。随分とアグレッシブな奴らだと思い少し呆れるが……こういうのも悪くねぇか。
写真を撮り終えると黛は「んじゃ、取材協力ありがとね~」と言い残して去っていき、食堂は再び喧騒に包まれていった。
「はっ……わたくしは一体なにを…………?」
どうやらお嬢はようやく平常心を取り戻したらしい。同時に暴走後の記憶も失っている様子だが、まあ突っ込む必要もないだろう。
ともあれ、パーティーは夜が更けるまで続いて行くのだった――