Infinite Stratos~蒼騎士の軌跡~ 作:ミリオンゴッド
パーティーの翌日。クラスの連中は対抗戦と二組に来たらしき転校生の話題で盛り上がっていた。一夏の席近くに居た奴らに話を聞くと、なんでも中国の代表候補生が転入してきたらしい。
「代表候補生、だとよ。お嬢的にはどーなんだよそこら辺。なんか情報無いのか?」
「いえ、特には。まあ、どんな方が来ようとクロウさん以上に強いという事はないですわ!」
「セシリアはホントブレないよねー……」
「人は変わるって言うけど、まさかあのセシリアがねー……」
「けど、代表候補生かー。どんな奴なんだろ、やっぱ強いのかな?」
「クク、まぁ一夏よりは強いんじゃねーか?そいつが対抗戦にもし出てきたらお前、マズいかもな」
「確かにその代表候補生がクラス代表になったりしたら織斑くん……あー私達の学食デザート半年フリーパスがあぁぁぁ……」
「でもでも、今のところ専用機持ちって一組と四組だけらしいから、きっと余裕だよ!」
「――その情報、古いよ」
扉の方向に視線を向け、瞬間、目を見開く。正直驚きを隠せない。そこには、見覚えのあるちびっこツインテールが立っていた。その姿は一年前と変わらない。特に胸とか。笑いが込み上げるが、必死に堪えてしゃがみ込み皆の陰に身を隠す。ここは黙っておいた方が後で面白い反応が見れそうだ。
「二組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから!」
「鈴?お前……鈴か?」
「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」
世にも珍しいモノを見つけた気分だ。なんだあの気取った態度は?どうにか口を押さえ笑いを噛み殺すも、隙間から息が漏れる。周囲の女子達からは『大丈夫かコイツ』みたいな視線を向けられるが、ここは気にしたら負けだろう。
「なんだ、その格好つけた感じ。凄い似合わないぞ」
「ま、そうね。やめるわ……ただいま、一夏!」
鈴は満面の笑みを浮かべ一夏に抱き着く。
「お、おう!……おかえり、鈴」
一夏も飛び込んできた鈴を抱き止め、満更でもない様子で鈴の頭を撫でている。クラスの連中は突然の出来事に固まってしまっている。彼らの様子を見て、セシリアは人影に隠れている俺にこっそりと耳打ちしてきた。
「(クロウさん、あの方もしかして……)」
「(ククッ、あ、ああ…ぷっ……あれがそうだよ。まさかこんなところでエンカウントするとは思わなかったが……あ、アイツらヤバいな)」
「(なにがですの……って、ああ確かに)」
二人とも気付いていないが、奴らの付近には千冬が近づいている。次の瞬間、一夏は気付いたようだがもう遅い。
「出入り口の真ん前でいちゃつくな、馬鹿共が」
スパンと気持ちいい音を立て、一夏と鈴の頭に出席簿がヒットする。二人とも抱擁を止め、頭を抱えた。
「痛っ、久しぶりの再会の邪魔しないでよ!……って、千冬さん!?」
「ここでは織斑先生だ。凰、SHRの時間だ。さっさと自分の教室に戻れ」
「……わかりました。またお昼にね、一夏っ!」
「おう、またな!」
一夏は笑顔で手を振って鈴を見送る。その様子を人一倍気に入らないという目で見ているヤツがいる。箒だ。
「ククッ、なぁお嬢?」
「どうかなさいまして……って、クロウさん!?なんだかイヤらしいお顔になってますわよ!?」
「そのうち、おもしろいモンが見れるかもしれねぇぜ」
***
昼休み、食堂。定食を注文し席を探していると、既に鈴が席を陣取って一夏を待ち構えていた。
「一夏!席取っておいたわよっ」
「サンキュー鈴。助かったよ」
「いいのよ、あたしがあんたと食べたいんだから。さ、座って座って」
「悪いな。そうだ、他の奴も一緒でも構わないか?」
「うーん……別にいいわよ」
「ありがとう。しっかし丸一年ぶりか。元気にしてたか?」
「元気にしてたわよ。あんたこそ、怪我病気しなかった?」
一夏と鈴は二人で仲良く話し込んでいる。ウチのクラス含め様々な視線を浴びていることには気付いているのかいないのか。
俺達もその視線を送る仲間であり、俺とセシリア、箒は現在少し離れて二人の様子を観察している。
「(なんというか……凄く仲が良さそうですわね)」
「(ああ、実際仲良いしなぁ)」
「(くっ……何なんだあいつは!!)」
「あっ!おーいクロウ、セシリア、箒。こっちだー!」
「クロウ?……えっ!?」
俺達に気付いた一夏に呼ばれ、席に向かう。鈴は俺がまさかここにいるなんておまわなかったのだろう。俺の名前が出た瞬間ビクッと体を震わせ、驚いた表情を浮かべている。
「ククッ……よっ、元気してたかよ?」
「えっ!?ホントにクロウ!?聞いてないんだけと!!」
「そりゃ言ってないからなぁ」
「悪いな鈴。クロウが黙っとけってうるさくてさぁ」
「そのほうがおもしれえだろ。だが俺の情報は入学初日に世界中に公開されてるハズだぜ?」
「編入試験でそれどころじゃなかったのよ!てかなんであんたまでIS動かしちゃってんのよ!?」
「さぁな。俺様が天才だからじゃねーの?」
「相変わらず適当な事ばっか言うわねー……ま、いいわ。一夏に会いに来たらあんたにも会えたんだから、むしろラッキーよね」
鈴は驚きの表情から、再会を喜ぶ笑顔へと表情を変える。コイツは本当に表情の移り変わりが激しいから話してて面白い。
「おぅ。またよろしく頼むぜ、おチビ♪」
「うん、よろしくっ!……って!チビって言うなって言ってんでしょー!!」
「まぁまぁ鈴。クロウも煽るなよ、せっかくの再開なんだからさ」
「あー、ゴホンゴホン!……一夏、そろそろ説明してほしいんだが」
箒は咳払いをして俺達の話を切り、説明を求める。確かに本格的に鈴のことを知らないのは箒だけだし、気になるだろうよ。セシリアには前に俺が軽く説明してあるしな。
「ああ、こいつは凰鈴音。箒が転校した後、小五で転校してきて中二の終わりで中国に帰っちまったけど、それまでずっと一緒のクラスだったんだ」
「ついでに言っとくと、俺が一夏と知り合ったのは一夏が中一の冬。んで一夏経由でおチビとも知り合いになって色々と相だ「クロウ……?」……知り合いになったってワケだ」
次に一夏は鈴の方を向いて、箒を手で指し示す。
「それで鈴、こっちが篠ノ之箒。小学校からの幼馴染みで、俺が通っていた剣術道場の娘だ。前に話したことあるだろ?」
「ああ、この子がそーなんだ。ふーん……初めまして。ま、これからよろしくね」
鈴は箒を一瞬値踏みするように見てから、表情を一転、明るい雰囲気で挨拶をする。だがその眼からはよろしくしたくない感情が滲み出ている。
「……ああ、こちらこそ」
対する箒は険悪な雰囲気を全身から醸し出し、正直よろしくしたくないのが丸分かりだ。
鈴も箒も俺から見ればお互いに敵意剥き出しだが、一応空気を読んでにこやかに挨拶している鈴の方が少しだけ大人かもな。
一夏の野郎はどうにも状況が読めていないらしく、頭に疑問符を浮かべている。
二人を観察していると不意に服の袖が軽く引っ張られ、そちらを向くとセシリアが耳元に顔を近づけてきた。
「(クロウさん……もしかしてさっき仰っていたのは……)」
「(な、言っただろ?おもしろいモンが見れるって)」
「(……流石に悪趣味ですわ)」
セシリアはジト目で俺のことを見ている。どうやらお嬢様的には人の修羅場をネタにしてってのはあまり気に入らないらしい。俺とセシリアが小声で話していると、鈴は箒からセシリアに視線を移す。
「それで、そっちのクロウの隣の金髪の人は?」
「あっ、申し遅れました。わたくし、セシリア・オルコットと申します。一応、イギリスの代表候補生を務めております。以後、お見知りおきを」
「クク……もう『わたくしを知らないなんて!?』とか言わないんだな」
「あっ、あれは忘れてくださいと言っているでしょう!!……いじわるですわ」
「悪かった悪かった、お嬢はそんなこと言わないもんな~」
「もう知らないですわ……ぷいっ」
「ありゃ、拗ねちまったか」
セシリアは頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。まあ尤もこっちをチラチラ見てくる様子から本気で怒っている感は無いが。
「ま、お嬢も悪い奴じゃないから仲良くしてやってくれや」
「ハァ……クロウあんたね、あんまり人をおちょくってるといつか後悔するわよ。ま、その子が悪い子じゃないのは今ので分かったけどさ。よろしくね、セシリア」
「はい。よろしくお願いします、凰さん」
「あ、鈴でいいわよ。あたしも名前で呼ぶし」
「はいっ。では鈴さん、と」
セシリアと鈴は笑顔で微笑み合う。箒と違ってこちらはすぐに仲良くなれそうな雰囲気だ。意外と相性がいいのかもな、この二人。そう思っていると、唐突に鈴が一夏に提案を持ちかける。
「そういえば一夏。あんた一組のクラス代表になったんだって?良かったらあたしが練習みてあげよっか?」
「おお、そりゃ助か「必要ない」……箒?」
一夏はその案にすぐに賛成しようとしたが、箒に妨害される。箒の表情はさながら狂犬だ。
「一夏に教えるのは私の役目だ。貴様の出る幕はない」
「悪いけど、あたしは一夏と話してるの。関係ない人は黙っててくれない?」
「関係ないだと!!私は「それじゃあ一夏、放課後時間開けといてよね?いろいろ積もる話もあることだしさ」無視をするなあぁぁぁああ!!!!」
「…………ねぇクロウ、こいつ何なの?」
何なのと言われても返答に困る。正直俺がアドバイスをする前の鈴に似ちゃあいるが、鈴はここまで独占的でも暴力的でもなかったしな。正直箒には自制心が欠落している気がする。そのくせ素直にはなれないというから困ったものだ。
「まぁあれだ、二年前のお前に近い何かだ」
「ああ、なるほどね。あたしもこんなんだったと……」
「ここまで酷くはなかったけどな。だがまあ箒のことはともかく、対抗戦前に一夏がおチビに教わるのはちょっとな。お互いのクラスの印象も良くないだろ?」
「……鈴さん。わたくしからも一つ申し上げますと、もうすぐクラス対抗戦ですから、あまりお互いに手の内を見せあうのは好ましくはないかと……今はわたくしとクロウさん、篠ノ之さんで織斑さんと訓練していますので、もしよろしければクラス対抗戦後からご一緒にということで如何でしょうか?」
「うーん、そうね。わかった……なら一夏!訓練終わったらいろいろ話しましょ!じゃあね」
そう言い残して、鈴はいつの間にか食べ終わっていたラーメンの食器を持って席から去っていく。その様子を箒は恨めしそうな様子で見ていた。
***
訓練終了後、俺とセシリアは夕食を摂り部屋に戻ってきていた。現在セシリアはシャワーを浴びており、先にシャワーを使わせてもらった俺は台所でコーヒーを淹れる準備をしていた。
湯を沸かしていると、シャワーの音が止む。そして数十秒後、シャワー室から濡れ髪のセシリアが寝間着に着替え出てきた。
俺が同室だと分かってからは最初のような透け透けのキャミソールで過ごすことはなくなったが、それでも彼女の部屋着は肩や胸元を露出したネグリジェなどかなり大胆なものが多く、濡れ髪を纏めてうなじが見えているのと相まって、今の姿は正直かなりエロい。まったく少しは他人の目を考えて欲しいってモンだぜ。
「お嬢、コーヒー飲むか?」
「ええ、お願いします」
「あいよ。髪でも乾かして待ってな」
最近はどちらかが入浴後に飲み物を用意するのが定番になっていた。定番は俺がコーヒーでセシリアが紅茶。一度トマトを使ったソーダなんてものを作ってみたりもしたのだが、彼女には刺激が強かったようで現在はこのような形で落ち着いている。
数分後、出来上がったコーヒーをカップに注ぎ、髪を乾かし終わってベッドに腰かけているセシリアのところまで持っていく。
「ほれお嬢、出来たぜ」
「ありがとうございます、頂きますね」
セシリアにカップを手渡し、同時に俺も自身のベッドに腰かけた。セシリアはコーヒーを一口啜るとリラックスした様子で息を吐き出し、表情を和らげる。
「ふぅ……今日もクロウさんのコーヒーは美味しいですわ……」
「ま、数少ない俺の得意料理だからよ……いや、コーヒーは料理とは言わねえか」
「ふふっ、他にはどんな料理が得意ですの?」
「そうだな……単純に肉焼いたり、鍋作ったりするのは得意だが、あとは…………ああ、
「アレってなんですの?気になりますわ」
「……ま、そのうちな。いつか気が向いたら食わせてやっからよ」
「ええ、楽しみにしてますわね」
口元に微笑を浮かべ、彼女は再度コーヒーを啜る。淹れる度にこんなに美味そうに飲んでくれるなら淹れるかいがあるってもんだ。なんて思っていると、コンコンとドアがノックされる音が聞こえた。
「クローウ、居るー?この部屋だって聞いたんだけどー」
この声、鈴か。俺はベッドから立ち上がり、扉を開く。
「おう、どーしたよ?」
「久しぶりにちょっと相談。作戦会議、お願いしてもいい?」
「あぁ成程……ま、入りな」
ニヤリと笑みを浮かべ、鈴を部屋の中へと招き入れる。彼女はかなり思い悩んでいる様子で、表情は真剣そのものだ。
「いらっしゃいませ、鈴さん」
「ちょっ、セシリア!?何であんたがここに居るのよ!?」
「何でと言われましても……わたくしとクロウさんは、ルームメイトですからっ♪」
「……あー、なるほどね。ま、いいわ。この際セシリアにも作戦会議に加わってもらいましょ」
「んで今回の議題は?あ、適当に座ってくれや」
「ん、ありがと」
鈴は躊躇いなく俺のベッドに腰掛け、語り出す。
「今回の議題は一夏と箒が同室であること。そして改めて、一夏の相変わらずの唐変木っぷりについてよ」
鈴はどうやらどこかのタイミングで一夏と箒が同室であることを知ったらしい。まあ、鈴もそんなことを知っては内心穏やかじゃないだろう。
「荷物もって部屋に襲撃して箒に変わってもらおうかとも思ったけど、それはちょっと違うかなとも思ったし、どーしたらいいか分かんなくなっちゃって」
「わかります。好きな人が他の女子と同室なんて、考えたくもありませんもの。ただ箒さんが今の部屋を変わりたくない気持ちもわかりますけれど」
「……セシリアはいいわねー」
「ふふっ♪」
「……どや顔止めて、ムカつくから。それで、合法的に一夏と同じ部屋で暮らすか、それが無理ならせめて箒をあの部屋から追い出す方法、何か思い浮かばない?」
「そりゃ無理だ。千冬ちゃんが許すと思うか?」
「……そーなのよねー。千冬さん、厳しいなやっぱ」
「織斑先生を敵に回すのは得策ではないですわね……」
「ま、いずれ一夏は一人部屋になるだろうから、その時まで今まで通り素直に行動して地道に好感度上げとくんだな」
「けど、その間に二人に何かあったら!!」
「おチビ、一旦冷静に考えろ。あると思うか、一夏だぜ?」
「あぁ、確かに心配ないかも……」
「だろ?何せ誰かさんの告白も通じないスーパー唐変木だからな」
「そういえば、鈴さんは織斑さんに一度告白してるんですわよね?」
「クロウあんた、セシリアに言ったわね……はぁ、そうね。あたしは一夏に告白した。『あたしは一夏のことが大好き。あんたのために毎日美味しいご飯を作ってあげたい。だからもしよければ、あたしと付き合ってください』ってね」
「随分と大胆ですのね、鈴さん」
「ああ、ちっと重いが直球ど真ん中だぜ、普通なら……だが」
「ええ、あたしなりに頑張ったと思うわ。でもあいつの返答は、『んん?……ああ、スーパーか。買い物ならいつでも付き合うぜ!!』なのよ?あたし、その場はなんとかやり過ごしたけど、今日みたいにクロウに会ったら柄にもなく泣いちゃってさ。ほんとあのときだけはダメだったわ」
「それは……酷い話ですわね。鈴さんみたいな可愛い方にそうまで言わせても勘違いなさるなんて、織斑さんに恋愛感情はあるのでしょうか。まさか……?」
「やめろお嬢そんな目でこっちみんな!!」
セシリアが何を想像したのか察し、牽制する。やめろ俺はノーマルなんだ。そんなありもしない影をちらつかせるんじゃねえ。
「すっ、すみません!!ただ、どうしても……」
「まぁ言いてぇことはわかるけどよ」
あいつは別に性欲がない訳じゃないし、アブノーマルな趣味でもないハズだ。だが恋愛事において自分を起点にして考えられないんだろう。他人同士のことには意外と目敏い癖に、自分のことはまるで理解しちゃいない。
ただ、俺の見る限りでは一夏は多少鈴には惹かれている可能性はある。朝なんか満更でもなさそうな顔で鈴の頭を撫でていたし、現状箒よりはリードしていると見て間違いないだろう。
「まぁチビ鈴、現状じゃ物理的な距離は離れちゃいるが、多分箒より心は近いから心配すんな」
「心は近い、か……ってチビ鈴って何よ!?あたしがチビってるみたいじゃない!!」
「ククッ、被害妄想じゃねえか?」
「いーやこれは悪意があるわ!謝りなさいよ!!」
「へーへー、サーセン」
「舐めてんのあんた!?本気で殴るわよ!!!!」
「まあまあ鈴さん。クロウさんも止めてくださいな」
「フン、まあいいわ。それで次なんだけど――」
こうして、俺達の無意味な作戦会議は夜遅くまで続いていく。終わる頃には、鈴はスッキリした様子で笑いながら自室に帰って行くのだった。