Infinite Stratos~蒼騎士の軌跡~ 作:ミリオンゴッド
足音が扉の前で止まり、数秒。扉を蹴破る激しい音と共に男たちが侵入してくる。予想通り数は二人で武装は見たところ拳銃のみ。隠し持っているとすればナイフくらいだろうか。
俺は現在とりあえず近くにあった物陰に隠れ、機会を伺っている。隙を見て一人を行動不能に、一人は完全に沈黙させておきたい。尤も、まだ相手が善人の可能性もあるため出来れば命までは取りたくないが。
「この部屋にいるのは分かっている。素直に投降すれば命までは取らん」
暫くの沈黙の後、こちらの沈黙を否定と捉えたのかもう一人の男が言葉を続ける。
「どうやら死にたいようだな。この部屋では逃げ場はあるまい。探し出して殺してやるから動くなよ」
そう言って男達は扉付近から部屋の奥へと足を進める。一歩、一歩と俺が有利なポイントまで近づいて行く。
(もう少し……今だ!!)
俺は天井の最早役割を果たしていない蛍光灯に向かい発砲する。破片が飛び散り、男達へと降り注ぐ。
「チッ……!!やりやがったな」
「どこに居る!!」
「――ここだぜ」
二人の背後に回り込み、格下らしき男の後頭部に銃を叩きつけ、次にいきなり気絶した部下に動揺したもう一人の眉間に拳銃を突き付ける。
「アンタには聞きたいことがある。とりあえず
男は苦虫を噛み潰したような顔で従う。うつ伏せになった所で用意しておいたロープで男の腕を拘束、次に気絶しているもう一人も同じように縛り付けた。
「……貴様、何者だ」
「さぁな、取りあえず《C》とでも名乗っておくぜ」
「どこの手の者だ」
「さぁて、どこだろうなぁ」
「ふざけるな貴様!!私を舐めているのか!!」
「別に舐めちゃいない……さて、こちらの質問に幾つか答えてもらうぜ。まずはそうだな、ここはどこの国だ?」
「……質問の意図が分からない」
「いいから答えな。でないと、アンタの頭が弾け飛ぶぜ」
「……ドイツだ」
ドイツだと?そんな国は知らない。だが男の様子からは嘘を吐いている挙動は無い。
「質問を続ける。エレボニアという国は知っているか?」
「知らん」
「……そうかよ」
この男がエレボニア帝国を知らない、となると確証はないがここは俺の生活していた場所とは異なるということになる。
(チッ……面倒なことになってきやがった)
「次だ。アンタ達はなぜ武装してこんな廃墟にいる」
「……秘匿事項だ」
俺は男の顔面のすぐ近くで一度発砲する。激しい音で床にぶつかった跳弾が男の頬を掠った。
「次は無いぜ」
「……ブリュンヒルデ、織斑千冬の弟の誘拐」
ブリュンヒルデ、それが何なのかわからないが重要人物なのだろう。そしてその弟の誘拐となると、身代金目当てってところか。
「お前らの人数は?」
「私達を除けばあと三人だ」
「へぇ、随分と少人数なんだな」
「人数など問題ではない。彼女にはアレがあるからな」
「アレってのは何だい?」
「判らないのか?現代人とは思えんな。貴様どんな田舎者だ?」
「さぁな。さて最後だ、その弟クンとお前らのお仲間は何処に居る?」
「扉を開けて右方向にある階段を降りた先の突き当りの部屋だ」
「りょーかい、もう寝てていいぜ」
その言葉を最後に拳銃のグリップで男の頭を殴りつけ意識を刈り取る。男の体からは力が抜け、完全に意識を手放した様子だった。
「さぁて、どーすっかねぇ」
このまま逃げてもいいが、こちらの居場所は特定されている。となると逃げても追われる可能性が高い。
ならば今後の事を考えると、捕らわれた少年を救出して誘拐犯を拘束してから逃げたほうがまだ面倒が少ない。
増援を呼ばれれば面倒だが、奴らの通信手段を奪ってしまえば幾らか時間は稼げるだろう。
リスクリターンを考え少年を助けることに決め、部屋を後にした。
***
男が言っていた部屋の付近に近づき気配を探る。どうやら彼は嘘は吐いていなかったらしい。
部屋の中から言い争っている声が聞こえる。どうやら誘拐犯と少年が言い争っているようだ。
(オイオイ……あんまり刺激してくれるなよ)
俺は更に部屋に近づき、中の気配を探る。近づくにつれ、より詳細な声が聞こえてくる。
「うるせえ!!俺は絶対にお前らの言いなりなんかにならないぞ!!」
「――ッ!?」
聞き覚えのある、似た声が聞こえた。背筋が凍る。
(……いや、ありえない、別人だ)
嫌な汗が額から流れるが、落ち着け、落ち着けと心を整える。そして回らない頭を無理やり回し作戦を考える。
(さっきの奴ら程度なら正面突破でも制圧は可能だ。だが奴らには奥の手があるようだ。迂闊には近づけない。ならどうする?奇襲か?いや、奇襲しようにも出入り口は一つ、壁を壊せるほどの装備もねぇ。クソッタレが…オルディーネさえありゃあ……)
「そこの人、いい加減入ってきたらどうかしら?」
(不味い、気付かれた……!!)
急いで思考を纏める。現在の状態で考え付くのは一つの方法しか無かった。
(――突撃する!!)
扉を蹴破ると同時に敵を識別し、飛び掛かる。数は三人。向かってきた男達に発砲。両足を打ち抜き動きを封じ、蹴り飛ばす。
男達も抵抗するが、やはり弱い。こちらは無傷で制圧に成功した。出血はあるが命にかかわる怪我ではないだろう。
次に部屋の奥に向き直る。そこにはこの場には似つかわしくない派手な金髪の女が平然とした様子で佇んでいた。傍らには目隠しされた十代前半くらいの少年が拘束されている。
「強いのね」
「生憎とコレとギャンブルくらいしかやってこなかったからな」
「あら、素敵な半生ね」
銃を突き付けているにも関わらず笑みを崩さない女に、俺は内心恐怖を覚えていた。明らかに異常だが、奴から達人クラスの力量は感じられない。だがこの余裕は、男たちが言っていた何かがこの女にあるという証拠だろう。
「さて、無駄だと思うが一応言っとくぜ。武器を捨てて拘束されてくれねえか?」
「愚問ね」
「そうだろうよ」
「おい、なんだよ、何がおこってんだ!!」
「少年、ちょいと待ってな。助けてやっから!!」
少年と女の距離が近く迂闊に撃てないため、無茶を承知で格闘戦を仕掛けるため接近する。あわよくば奥の手が出てくる前に拘束してしまいたい。幸い女が現在武器を持っている様子は無く、格闘戦なら自分に分があると思っていた。
――しかし、次の瞬間俺の考えは打ち砕かれる。
女の身体が光った次の瞬間、身体が謎の機体に包まれていた。見たことのないそれは、明らかに生身では勝てないであろう雰囲気を放っていた。
(何だありゃ、機甲兵じゃねえ……話に聞いたオーバルギアか?いや違う、何だあの威圧感は、明らかにオーバーテクノロジーじゃねーか!!)
「今は量産機しかないのだけれど、まぁラファールでも問題ないでしょう」
「……オイオイ、そりゃ反則じゃねーか?」
「むしろこの状況でなぜ持っていないと思えるのかしら?」
「さてな……」
謎の機体の前に、俺は動くことができなくなる。今の俺にはアークスの補助も無く本来の得物も無い。この状況で目の前には正体不明の機体。
(ったく、何で魔王討伐の後にこんな連戦しなきゃいけないんだか……)
数十秒の硬直の後、女が口を開く。何やら通信をしているようだ。通信が終わった瞬間、謎の機体は飛び上がり壁を破壊した。
「なっ……!!」
「目的は達成されたわ。命拾いしたわねお兄さん」
「クソッタレが……何なんだその機体は!?」
「何って……そうね」
少し考えた後、女は薄い笑みを浮かべ、言い放つ。
「――インフィニット・ストラトス。