Infinite Stratos~蒼騎士の軌跡~ 作:ミリオンゴッド
あの後、俺は織斑千冬に恐らく軍事施設であろう施設に連れていかれ、軍人による尋問を受けた。
一夏を助けたこと、そして俺自身もボロを出さなかったことが幸いしてか、記憶喪失であること、どこの国にも戸籍がないことには疑問が残るものの、概ね問題無しと判断され数日後には釈放された。
(ガバガバだな、大丈夫かよこの国……)
尋問室から出ると、コーヒーカップを二つ持った織斑千冬がベンチに座っていた。どうやら尋問が終わるのを待っていたらしい。
「ブラックでいいか?」
「何でもいいさ、それにどうせ砂糖もミルクも無いんだろ?」
織斑千冬からカップを受け取り、口に運ぶ。淹れてから多少時間が経っているのか、少し温い。
「座ってくれ、クロウ。お前に少し聞いてほしいことがある」
「尋問ならさっきまで散々受けてたんだがねぇ」
「安心しろ、その類の話ではない……愚痴のようなものだ。会って数日のお前に話すのもどうかと思うがな。他に話せる者がいない」
「……ハァ、そーゆーことなら、美人の誘いを断るわけにもいかねえな」
軽口を叩き、織斑千冬の横へと腰を降ろす。現在の彼女からは以前の覇気を感じない。
「で、話って何だ、織斑千冬」
「フルネームはよしてくれ、堅苦しくて好かん」
「んじゃ千冬ちゃんでどうよ?」
「お前な……まぁ、それでいい。話の内容は……一夏のことだよ」
「一夏ねぇ……アイツがどうかしたかよ?」
「私が棄権したことで自分を責めていてな。表には出さないが、精神的に相当きてるようだ」
ブリュンヒルデは最強の称号。姉の栄光に泥を塗った自分が許せないんだろう。彼女のことを話す一夏がどこか誇らしげだったことからも、姉を慕っていることが容易に想像できる。
「まあ、アイツの気持ちもわかる。だが今回の事は一夏のせいじゃないだろ?」
「ああ、誘拐した組織は勿論だが……無警戒だった私にも責任がある。一夏のせいじゃない、悪いのは私だ。何がブリュンヒルデだ…弟一人守ってやれない……」
「そうかもな。アイツにはまだ力が無い……アンタが守ってやるべきだったのかもな。だが、俺は千冬ちゃんが悪いとも思わないぜ」
「なに?」
「そんな厳しい口調しちゃあいるが、見たとこ俺とそんなに年も変わらねえんだろ?そんな若造が全部を背負い込もうなんてのは無理ってもんだ。だからよ、自分だけを責めるんじゃなくて、アンタはもっと周りを頼ってみたほうがいいと思うぜ?」
「そうか、そうかもな……だがそれにはこの肩書きが、ブリュンヒルデが重すぎる。世間は私を力の象徴として見ている……もう逃げられない、逃げることは赦されないんだ」
「肩肘張りすぎだと思うぜ。そんなんじゃいつか壊れちまう」
「それでも、私は……一夏のために…………」
「ハァァァァ…………こりゃとんだブラコンがいたもんだ。弟のために着けた仮面が自分で脱げなくなっちまってる。一夏のため一夏のためって、少しは自分の人生を生きたらどうよ?楽しくないだろそんな人生。押しつぶされて終わりだ」
「だが……」
「だがじゃねえ。いいか、人生ってのは本来一度しか無いんだ。だったらその人生、誰かのために生きるのもいいが、それじゃ振り返って後悔することになるかもしれないぜ?」
少しだけ、自分の人生を振り返る。じいさんの弟子として鉄血の野郎に勝負を挑み、仕留めた……はずだ。だがそのあと奴と同じ場所に致命傷を受け、死んだ。にもかかわらず俺は今この場所で息をしている。
俺は今までの人生に後悔は無い。常に自分で決めて、その道を進んできたと思えるからだ。だが、あの三人や
偽りだらけの人生だったが、あの場所にいるとき、俺は《C》としてではなく、《クロウ・アームブラスト》として生きることが出来た。
思えば、あの時間は俺にとって唯一俺自身として生きることが出来る時間だったように思う。そんな時間は不要だと思っていた俺は、気付けばこの思い出を宝物のように持っていた。
だから俺はなぜ生きているかわからないこの二度目の人生は、《クロウ・アームブラスト》として生きることに決めた。
「俺の考えを押し付けるつもりは無いが、アンタは《ブリュンヒルデ》じゃなく《織斑千冬》として生きたほうが幸せになれると思う。作った仮面はいつか剥がれなくなっちまって、いつか本当の自分とすり替わっちまう。まだ間に合うなら引き返すことをオススメするぜ」
千冬は少し考えたあと、泣きそうな顔で顔を上げた。
「やはり私は一夏のために今はブリュンヒルデの肩書きは捨てられない。だが、仮面を外して、私として生きたい気持ちもある。クロウ、私はどうしたらいい……?」
「そうだな……絶対に裏切らない、信頼できるって思える奴を一人見つけるこったな。そいつはきっとアンタの力になってくれる。そいつの前でなら少しずつでも仮面を外せるようになるんじゃないか?」
「そうか……心から信頼できるひと、か……」
「あぁ。いつか、見つかるといいな」
「そうだな……って私はなんて恥ずかしい話をしているんだ!!忘れろ!!」
「あーら赤くなっちゃってまぁ、可愛いトコあるじゃない」
「……殺すッ!!」
千冬が怒りを露わにする。しかし、やはり廃墟で会った時のような雰囲気は感じられず、紅くなった顔で睨みつけられても、俺にとっては何の迫力も感じない。
「今の表情、千冬ちゃんって感じがしてすごくいいと思うぜ。んじゃな~」
「きっ、貴様はあああああッ!!!!」
その後、俺と千冬のリアル鬼ごっこは三十分程続いた。最後は筋骨隆々のドイツ軍人たちに揃って捕まり、なぜか俺だけこってり絞られたが、その間も彼女は最後まで俺のことを睨みつけていた。