Infinite Stratos~蒼騎士の軌跡~   作:ミリオンゴッド

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兆候

 千冬との鬼ごっこから数日、俺は彼女から呼び出しを受けていた。

 

「よっ、来たぜ千冬ちゃん」

 

「ああ、クロウ。わざわざ来てもらって済まない」

 

「別に構わねえさ。んで今日はどした?」

 

「ああ、実はこれから一年間ドイツ軍で教官をすることになってな。まあ一夏救出に協力してもらった義理を果たすためだ」

 

「なるほど、それで?」

 

「私達には両親が居ない。一年間、アイツは一人になってしまう。それが申し訳無くてな。それでクロウ、できれば私がいない間一夏と一緒に住んでやってくれないか?もちろん生活費は私が出そう。その間に仕事を探すなりして自分の生活を築く資金を貯めるなりしてくれればいい」

 

 悪くない提案だ。俺にはほぼメリットだらけ、資金には困らず、衣食住は確保、おまけにここ数日で分かったことだが一夏のメシはかなり美味い。強いて言えばデメリットは千冬の家に住んでいることが変に広まると騒ぎになってマズいというくらいか?だがそれも千冬がいない間の一夏の護衛と言えば説明が付く。

 

(普通に考えればすぐに飛びつきてぇ提案だ、だが……)

 

「どーして俺なんだ?自分で言うのも何だが、俺は身元不明の不審者だぜ?しかも初対面で自分の眉間に拳銃突き付けてきた危険人物だ。そんな奴とどーして自分の大事な大事な弟を一緒に住まわせようと思う?」

 

 俺の問いに対して、千冬は真面目な表情を作り答える。

 

「多かれ少なかれ、他の者は一夏をブリュンヒルデの弟として見る。意識せずともな。それではダメだ、一夏に息苦しい思いをさせてしまう。その点お前ならば私の事など知らないのだから、偏見の目で一夏を見ないだろう?一夏自身もお前には心を開いているようだからな。我ながら悪い人選ではないと思うが。そ、それにな……私も、お前のことは、その……多少は信頼している……つもりだ……」

 

 言い終わる頃には真面目な雰囲気は完全に崩れ、恥ずかしそうな、バツの悪そうな表情を浮かべていた。

 

「おーおー、つまり身元不明無職透明な俺をメチャクチャ信頼してくれているってことでいーのかねぇ?」

 

「うるさい黙れ受けるのか受けないのかハッキリしろ!!」

 

 顔を赤くして一気に捲し立てる様子は正直言ってかなり笑える。多少タイプは違うが、仮面を剥いでしまえばあのツンデレ金髪社長令嬢と似たところがあるかもしれないと感じた。

 

「分かった、受けるぜ」

 

「そ、そうか……感謝する、だがなぜ受けようと決めたんだ?」

 

 まぁ、答えに関しては初めから決まっていたのだが。

 

「なんでって言われてもなぁ……俺にはメリットだらけで一夏もお前も嫌いじゃないからな。断る理由は特にないぜ」

 

「なら初めから断りそうな雰囲気を出すな!!」

 

「悪い悪い、んで俺はいつから一夏と暮らせばいいんだ?」

 

「三日後だ。問題は?」

 

「いんや問題ねぇ。元々私物も特に無いしな」

 

「そうだ、私物といえば一夏が誘拐されていた建物を調べていた時に見つけたんだが……このピアス、お前のものではないか?」

 

 千冬がポケットから取り出したのは、俺がいつも左耳につけていた蒼いピアスだった。ふと鏡を見ると、確かにそこにあるはずのものは無く、千冬の持つピアスが自分のものであると確信する。

 

「あぁ、確かにそいつは俺のモンだ。拾ってくれてありがとよ……ッ!?」

 

 ピアスを受け取った瞬間、不思議な感覚が俺を襲う。まるで何かと自分が重なっていくような感覚。悪いものではないようだが、というか、俺はこの感覚を知っているような気がする。

 

「……どうかしたか?」

 

 千冬が怪訝な顔をして問いかけてくる。その声で俺は現実に引き戻された。

 

「いや、なんでもないぜ」

 

「ならばいいが……まあいい、一夏には私から言っておくからクロウも一応準備をしておけ」

 

「了解だ」

 

 こうして、ピアスを受け取った後千冬の部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 三日後、俺と一夏は千冬やドイツ軍の見送りを受け日本行きの飛行機に乗りこんでいた。

 

「しかし、まさかクロウと一緒に暮らすことになるなんてなー」

 

「そりゃこっちのセリフだっての。お前の姉ちゃん、いきなり言いだすもんだからビックリしたぜ。なぁ、二ホンってのはどんなとこなんだ?とりあえず今んとこ二ホンのメシは美味いって認識しかないんだがよ」

 

「ああ、俺が言うのも何だけど、いい所だよ。クロウの言うようにメシは美味いし街も綺麗だ。それに温泉とかレジャー施設とか、観光するとこはたくさんあるぜ」

 

「温泉ねェ……いいじゃねーか、楽しみになってきたあ!!」

 

「クロウは温泉好きなのか?なら、落ち着いたら一緒に行かないか?俺の友達なんかも誘って、皆でさ」

 

「ああ、いいと思うぜ。きっと楽しくなる」

 

「じゃあ、決まりだな!!」

 

 予定が一つ増え、一夏は隣の席で嬉しそうに無邪気に笑っている。当初はぎこちない敬語を使っていたが、俺が敬語をやめてくれと言うとすぐに敬語は消え、フランクに接するようになった。会ってから二週間が経った今では、完全に気を許して話すようになっていた。

 

 一夏には、風貌や声、性格含めどこかアイツと重なるところがある。だからどうしても気に掛けてしまう自分がいた。

 

 だが、あくまで一夏は一夏、他の誰でもない一人の人間だ。そして、今いる世界の知り合いに預けられた大切な弟でもある。

 

(ま、せめて俺の手が届くうちは先輩面させてもらいますかね)

 

 自分の手が届く限りは導いてやろうと心に決め、眠りについた。

 

 


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