――鎮守府近海
「諸君、傾注!これより訓練飛行を開始する。本日は、軽巡洋艦エムデン以下3隻が対空回避演習を行うので、我々はそれに便乗し雷撃の訓練を行う。以上だ。」
『了解!』
小隊長の命令で、我々新編第4小隊は飛び立った。エンジンは快調。気持ち良い爆音を響き渡らせながらだんだんと高度を上げていく。
‥少し左右のロールに差があるな。トルクが強すぎる?しかも両翼内の20mm機銃のせいで機体がそもそも重い。する必要がある時はあるか分からないが、急旋回はほとんど無理そうだ。しかし、速度に関しては例の新型エンジンのおかげか、重量増加分があまり気にならない。ヘルミーナ技師長の調整の賜物だろうか。
つい、いつもの癖で機体をいろいろと評論していると、小隊長から通信が入った。
「4番、いいか?急降下爆撃は敵にどこまで近づけるかのいわば度胸勝負だが、雷撃は違う。むやみに近づきすぎてもかえって当たりづらいし、落とされる危険も増える。相手の針路を見極めて、最高の角度、場所、時間を狙うのが雷撃だ。分かったか?」
「は、はい。」
何やら深い事を言われたような気がする。流石は長い間雷撃機に乗っていたらしいベテラン妖精だ。と思っていると。
「あ、隊長のアレ、昔技術交流で来た外国のパイロットの受け売りっスからね。」
2番機があっという間に秘密をばらした。無線内にドッと笑いが起こる。
「ええい五月蠅い!それより前方を見ろ!目標発見だ。先頭の軽巡は‥あれは、エムデンさんか。その後ろに駆逐艦が2隻、単縦陣で航行中だな。」
「隊長さんよ、どうする?いつもの通りか?」
3番機がそう質問する。
「ああ、そうしよう。だが今日は新入りもいるし、一度確認するぞ。
まずは、横一列の陣形を作って、なるべく崩れないようにできるだけ速く飛ぶ。
次に、私が「用意」と言うから、フラップを開いて時速250キロ以下を目安に
減速。そうしないと上手く魚雷が動かないからだ。
そして、「今だ」といったら投下する。
解ったか?」
「りょ、了解!」
用意で減速、今だで投下。用意で減速、今だで投下‥。そう頭のなかで繰り返す。
そして、小隊の皆が高度を下げるのに合わせ、恐る恐る私も高度を下げ、エンジンを噴かす。
一段と高くなる爆音。波が目に追えない程速く過ぎていく。前に見える艦娘達が迫ってくる――
『用意!』
「ッ!」
フラップを展開すると、機体がガタガタと震え始めた。しかし、それほど速度は落ちてくれない。今や、目の前の3隻が飛沫を上げて急速に回避している姿がはっきりと見える。
バガンッ!!
エンジンの爆音に紛れて、近くでそんな音がした。
『い、今だ、今だッ!』
隊長が慌てふためいた声で叫ぶ。私はほぼ反射的に魚雷を落とした。艦娘はもう目と鼻の先・・・。
「!!」
私は思いきり操縦桿を引いた。機は急上昇し、すんでのところで激突は回避された。
『おい、どうした?何か不具合でも起こったか?』
通信に女性の声が入り込んできた。エムデンさんだろう。その直後に隊長が確認をとる。
『各機、状況知らせ!』
「3番、問題ないぜ。」「4番、問題なし。」
「えー、2番‥どうもフラップが吹き飛んだみたいっス‥サーセン。」
どうやら、先ほどの何かが壊れたような音は2番機の物だったようだ。
『了解した。2番機、飛行は可能か?』
「あ、ちょっと着陸は難しくなりそうっスけど、なんとか大丈夫っス。」
その帰りは、行きとは真逆にほとんど会話がなかった。
――その後 ガレージ
ヘルミーナ技師長に壊してしまった旨を伝えると、彼女は何やら微妙な顔をし、
「あーそっかー‥。貴方達今まで複葉機に乗ってたんだっけ。言うの忘れてた‥。」
と言った。
実は、彼女の設計ではフラップではなくエアブレーキを使って減速するようになっていたらしい。そんな重要な事は先に言えと小隊長達が抗議していたが、彼女は「高速域でフラップを全開にするような運用を、スツーカは考えていない」と反論した。
結局の所、機体はすぐに修理されたものの、隊の皆はどことなく気分が優れない様子だった。
ところで、一連の話の中でヘルミーナ技師長が言った一言が私は気になった。
「まー。別の所が研究してるタイプ91が完成すれば、そもそも減速しなくても良いかもしれないんだけどねー。」
タイプ91というのは、おそらくは新型の魚雷だろう。しかし、このドイツらしくないネーミングは何なのだろうか‥?
もう少し進んだら、纏めたものを別に出すかな‥?