私は少し戸惑った。そもそも”鎮守府”自体がよく分からない単語だった上、そこに所属せよとの言葉である。
思い返すと、このケルンという女は”提督”付の秘書であると言った。”提督”などという役職があるのは海軍ぐらいのものだろう。つまりは、海軍所属になれという訳か?
「ちょっと待ってくれ、どういう事なんだ!?」
「そのままの意味です。‥我らが国のため、尽くしてもらいます。」
国のために尽くす。前世で何度も聞いたこの言葉。ああ、生まれ変わっても変わらないのか。
「戦争中‥という事か。」
「そうです。丁度見えてきました、あれを見てください。」
走る車内からケルンの指さす方向を見て、私は愕然とした。
ねじ曲がり、所々吹き飛んでいるパイプの絡み合った建造物。まるで狂った金属細工師の作を炉に投げ込んだようだ。しかし細工というような大きさではない。私自身が前世の半分ほどの大きさになっているとはいえ、それが巨大という事は一目瞭然であった。その巨大な建造物が見るも無惨に破壊されているのである。
「な、何だ、あれは‥。」
余りの光景に、そう言うのが精一杯だった。そもあれが元々何だったかを予想できる情報は私の脳内には無かった上、何故あれが破壊されているかなど、想像も付かなかったのだ。
「旧
口をぽかんと開けたまま固まっていた私に、ケルンはそう言った。”深海棲艦”?また意味の分からない単語だ。
「深海棲艦とは、何だ‥?」
疑問を重ねる私に、ケルンが答える。
「深き海に棲まう艦。彼らは5年前突如出現し、人類へ牙をむきました。当時の人類の兵器では彼らに傷を負わせる事はできず、制海権、制空権を完全に喪失しました。さらに砲撃や強襲揚陸などにより沿岸部に集中していた工業地帯は占領、破壊され、復旧しようにも無差別爆撃によりインフラすらままならなかったと聞いています。」
・・・何という事だろう。そのような絶望的な敵を相手に戦争をしているとは。だが、分かる範囲の事からも、現状はそこまで酷くはなくなっていると分かる。
「ままならなかった、と言うことは、今は違うのだろう?」
半分確信していることを口に出す。
「はい。
そう答えるケルンの目には確固たる使命感が見えた。彼女は人類を脅かす深海棲艦に立ち向かう”艦娘”とやらの一人であるらしい。
「失礼、”艦娘”とは・・?」
ぼんやりと話の流れから分かりはするのだが、イメージが沸かないので尋ねる。
「乙女の姿をした軍艦。深海棲艦の裏返し。その中でも私はケーニヒスベルク級軽巡洋艦三番艦、ケルンです。」
答えはすぐに返ってきた。よもや、隣に座って車を運転しているこの女が軽巡洋艦だとは!何かの冗談だろうと思ってしまう反面、先ほどからの自分が人間でない様な口ぶりや、高等学校の生徒ほどに見えるが5年前の事を知らないかのような様子等、腑に落ちる箇所もあった。
さらに彼女は続ける。
「軍艦には乗組員が、航空機や戦車には搭乗員が必要です。それと同じように、深海棲艦に通用する兵器には貴方たち妖精の力が必要不可欠なのです。」
「なるほど‥。」
私が”鎮守府”とやらに勤めなければならない理由まで答えられた。おそらく、妖精は数が少ないのであろう。だから、私のような漂流者までを捕まえて戦いに投入されるに違いない。
「着きました、降りてください。」
いつの間にか、車は赤煉瓦の大きな建物の前に停まっていた。小さくなった体を伸ばしてドアを開け、地面に降りる。そして同じく短くなった足をめいっぱいに広げ目の前の階段を上ろうとすると。
ひょいっ。
車に乗せられた時と同じように、まるで猫のように掴まれた。やめろ、と言いたくなったものの階段をよじ登るのも大変そうだという結論に達し、そのまま連れて行かれる事にした。
IGファルベンは実在した企業(ナチス・ドイツ)だけど、解体されてるからいいよね・・?