――鎮守府 執務室
扉が開くと、そこには一人の男性がいた。見たところ30代近くではないだろうか。しかし肩には上級大将の肩章が、首には騎士鉄十字章が鈍く輝いている。髪は銀髪かとも思ったが、白いようだ。肌は少し青白く、目は蜂蜜の様な飴色である。
「お連れしました。」
ケルンが報告する。状況から見るに目の前の少し人間離れした風貌の男が”提督”なのだろう。ケルンが私を応接椅子に座らせると、その男は向かい側にゆっくりと腰掛けた。
「我が鎮守府へようこそ。私が提督のアルフレートだ。」
といいながら手を伸ばしてきたので、こちらもそれに応え握手をする。しかし、ようこそと言われても私からしてみれば無理矢理連れてこられたような物なのだが。
「おや、余り嬉しくはないようだね。でも、君がここにいなければならないのは規則なんだ。悪く思わないでくれ。それと、君には得意分野や、できそうな事はあるかな?あれば自由に言ってくれ。配慮はしよう。」
規則、か。この質問も、総動員体制でもある程度”志願した”部分を作るための茶番なのかも知れない。妖精は数少ない深海棲艦へ対する戦力。つまりはどこで戦うかを聞いているのだ。
「・・・飛行機を飛ばすことなら。」
前線には立ちたくないという気持ちを抑えながら、ゆっくりとそう答えた。ちなみにこれは嘘ではない。前世では航空機の技術者だったが、戦局の悪化によるパイロットの払底、研究所の極端な秘密主義などにより一度空軍に志願し落ちたという経歴を持った私がテストパイロットを務めていたのだ。
提督はじっとこちらを見た。
「分かった。エアハルト少将に連絡を頼む。」
提督がそう言うと、ケルンは執務机の上の電話をかけた。‥ダイヤルを回す様子が無かったが、内線電話だからだろうか?
「はい‥ええ。分かりました。提督、迎えを寄越すそうです。」
「そうか。ではそれまでコーヒーでもどうだね?ケルン、淹れてきてくれ。」
待っている間に飲んだコーヒーは、いつもより苦いように思えた。
――鎮守府
「初めまして。私がここ、鎮守府展開空軍司令部の指揮官です。エアハルトと呼ばれています。」
ぴったりと合った軍服を着た、私より少し大柄の妖精がそう自己紹介した。ちなみに妖精に名前は無いらしいが、指揮官等の位の高い妖精、エースなどには特別に名前を付けられることがあるらしい。要は”ネームド”である。
「よ、よろしくお願いします。」
前世ではほとんどやる機会の無かった軍式の敬礼をする。
「そう固くならなくていいですよ。妖精らしくないですね。すぐに任務がある訳ではないので、今日は各所を見回った後休んでください。案内と部屋は用意しました。」
そう言うと、エアハルト少将は机の上のベルをチリンチリンと鳴らした。
「よびましたか、しょうしょうかっか?」
すぐに部屋の扉が開き、少将の知的さを感じさせる声とは真逆の力の抜けるような声の妖精が入ってきた。飛行士の格好をしている。
「来ましたか。この方が先ほど伝えた新人です。一通り鎮守府を案内してあげてください。」
「りょうかいしました!さあ、ついてきて!」
その妖精は私の腕を掴み、ぐいと引っ張る。
「し、失礼します!」
引きずられるようにその部屋を出て行く私にはそう言うのが精一杯だった。
あんまりそういう要素ないけど一応設定は未来です