俺が通るよ。   作:775

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第3話

ククイは思わず「どうしたの?」と聞きたくなった。そんな彼の見つめる先には一人の少年とポケモンが三匹。ククイが物申したくなった原因はこれである。

 

先程まで黒曜石のような瞳をきらきらと輝かせながらポケモンたちを見ていた少年――コウは、唯々真っ黒な視線をポケモンたちにぶつけていた。その場に前屈みで座り込み、至近距離で。よくある火花が散る様子には形容しがたい。どちらかと云えば目からビームという一方的な感じである。コウが見つめ、ポケモンたちが訳も分からず顔を青くしながら耐えている光景がもう十数分繰り広げられている。

 

最初の方はククイも好きなだけ迷うんだぞ!や皆いい子だもんな!とか笑って話しかけていたのだが、ずっと無視された儘なのでとうとう黙ってしまった。するとポケモンたちも余りに静かなプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。ていうかどうしたのって今言っても意味ないかな、と彼は察した。

 

「...」

「もふぅ?」

 

その時、移されたコウの目線の先にはモクローだけが居た。モクローは今までコウの視線から目を逸らしていない。自分だけに絞られた的から逃げず、負けじと見つめ返した。

 

―――負けず嫌いは良いことだ。それに。

 

何と美しい目をしているのだろう、コウは感じた。ゲームでは黒で塗りつぶされる目の前のポケモンの目はとても深い緑色をしていた。新緑のようなのに、それでいて夜の森のような暗い青。好奇心を露わにする、力強さ。

二人だけで睨みあう(?)こと数分。不意にコウは両手を伸ばし―――モクローの頬をむぎゅっ!と挟んだ。

 

「!?」

 

急な事に驚いたモクローだったが、挟まれた頬をむぎゅむぎゅとされるのが面白く目を細めて喜んだ。闇夜がまた、星空になる。

 

「もふ!」

「...どうやら、決まりみたいだな!」

 

ククイは納得したように一人頷く。コウの手は相変わらずモクローの頬を挟んでいた。ニャビーやアシマリもふわっと笑い、幸せそうな一匹を見やる。手をするりと解いて最後に羽を優しくなでたコウはにやりと笑い、云った。

 

「よろしくな、モクロー」

「もっふう!」

「ぅお」

 

モクローは初めての相棒(パートナー)の顔目掛けて飛びつく。驚いて姿勢が安定しないまま立ち上がったが、左足を後ろに引いてバランスをとる。そしてモクローを、お腹のあたりで受け止めた。あは、と笑みが零れる。一連の流れを見ていたククイは良い相棒になりそうだなと破顔した。

 

「モクローにニックネームはつけるかい?」

「...ああ、そうですね」

 

そういえば居たなこの人、という態度をまるで隠さず次の思考に移る。

モクローはくさタイプである。それにちなんだ名前にしたい。きっと強くなる、すぐにでも。だから好い名前が付けたかった。

木々の芽生え。太陽のエネルギーに水の循環、生い茂る草。それだけではない。枯れ葉も、それこそアローラ以外でだって自然は強い。富んだ緑を、全てを支配する、嵐。コウはモクローを真っ直ぐ見つめた。モクローは名前が決まったのかとワクワクとコウを見る。その薄い唇から放たれた言葉を聞いた、主にククイは固まった。

 

「お前の名前は―――木枯らし(コガラシ)だ」

 

大事な事なので二回言う。モクローはくさタイプである。

 

 

 

♦♦♦♦♦

 

 

「よし!じゃあ今から、しまキングに会いにリリィタウンにいこうぜ!」

「しまキング?」

「ああ、ポケモンたちはしまキングからのプレゼントだからね」

 

しまキングって何みたいに聞いたのに的外れな答えありがとうございます。まあ既にサンムーンでやって知ってるからいいんだけど。

博士からコガラシのモンスターボールを受け取り、ふわふわの彼の額にボールを押しつけ中へ納めた。アニメ特有のこういう演出が出来るのは本当にいいと思う。悩みに悩んだけど、矢張り彼にしてよかった。本当にかわいい。

この道を其の侭だということでリリィタウンへ一人で向かう。博士はきっといつでも研究とポケモンに打ち込んでるからゆっくり来るつもりなのだろう。お礼を言ってからその場を後にした。お礼を云った時博士が一瞬活動停止したが、自分はこの数十分でどれだけ失礼な人間だと思われてるんだ、心外すぎるわ。

 

アローラの景色を見回しながらも足早に道を行く。ゲーム補正すごいよ。先刻までいたあの草むらの前に行くまで尋常じゃないくらい歩いたもん。ゆっくりしてたら日が暮れる。

 

ザクザクと云うのが正しいであろう音を鳴らしながら未だに続く草むらをかき分ける。ようやく視界に土の道が入り、今まさに抜けようとした瞬間。

 

「ヤンガ!」

 

またお前か。

 

 

 

「コガラシ、ファイト」

「もふ!」

 

飛び出してきたのはヤングース。俺はコガラシをボールから出し、声をかける。

初めての、ポケモンバトルだ。これ以上ないくらい緊張してるし、興奮してる。コガラシは強気な顔でこちらに振り向いた。

 

「コガラシ、無理はするな。俺の指示に付いてこれなくてもいい。少しづつ慣れていけばいいからな。頼んだ」

「もふっふ!」

 

コガラシがヤングースに向き直ると、相手は飛び掛かってきていた。息を吸い込み、目をしっかり開いた。

 

「右に避けろ!」

 

なるべく方向も云うように意識する。コガラシは素早く避け、其の侭軽く飛び上がった。ヤングースは受け身が取れず地面に落ちる。

 

「『たいあたり』!」

 

地面目掛けて思いっきり体を落としヤングースにぶつかる。いや、潰してる。そしてそれは体当たりじゃない、フライングプレスだ。

余計な突っ込みを入れる頭を叱責し、集中しなおす。コガラシは未だヤングースに乗りかかったままだった。

 

「その場で『このは』!」

「もふうぅ!!」

 

細かい葉があたりに舞い散る。太陽の光が透け、金色に成っていた。

 

 

♦♦♦♦♦

 

 

「お疲れ、コガラシ」

「もふぅ!」

 

戦闘不能になったヤングースは小さく鳴いてから奥の方へと帰っていった。めでたく初勝利したコガラシの頬を挟んで押す。汚れてこそいるものの無傷なうえ、どや顔を決めていた。いいだろう許す。かわいい。軽くタオルで拭くととてもうれしそうな顔をした。

 

「コガラシ。今考えたんだけど、バトルが終わったらこうして反省会しない?」

「もふ?」

「ああ。学んだこととか感じたことを再考するんだ。例えば今回...はあんまねぇけど、そうだな。相手から目を離さないことだな。飛んだときとかは特に。衝撃が大きいときは難しいかもしれないが、それはおいおい慣れてくれればいい」

「もふもふ!もっふう!」

 

コガラシはビシッと直立した。その様子に少し噴き出す。どうやら想像以上に、此奴は頭がいいみたいだ。

 

「頑張ろうな」

「もふう!」

 

コガラシが飛び上がり、頭の上に留まる。暫く帽子の中に入ったり回ったりしていた。以外にも重いのは耐えるが、頭が大きく見えるから帽子に潜るのはやめてくれ。何ならあげるから。

今度はボールに入れず、二人で歩き出した。その途中でもバトルが勃発。其の度に実感するのが、コガラシつぉぃ。本当に、マジで強い。段々一撃で倒すようになってきた。はやいはやい。強くなりすぎ!最高!

道端で見つけたキズぐすりを使った時には、もう十匹は軽く倒していた。どんだけ体力あんだ。今も変わらず隣を(俺と同じ速さで)ご機嫌に歩くコガラシ。こわ...。

 

道具などが落ちていなさそうなのでもう草むらは通らなかった。変わらず速めに歩いていると、遠くだが前方に階段が見えた。リリィタウンの入口だ。

其処から、小さな人影が下りてきた。其の人は俺の方を見て――俺の姿を確認すると、此方に駆けてきた。

緑がかった黒髪、同じ色の大きな瞳。少し焼けた肌。真っ黒なTシャツとのコントラストが眩しい山吹色のハーフパンツ。そして

 

「なーなー、君どんなポケモンパートナーに選ぶのー?」

 

間延びした明るい声。

 

「...初めまして。俺はコウ」

「あー!いきなりごめんねー」

 

真っ直ぐ見据えた。

 

「俺ねー、ハウ!」

 

ライバルとの邂逅だった。

 

 

 

 

 

 

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