品定めするような目で見られることは慣れていた。
仕方ないことであることも判っていた。俺がしまキングの孫であるから。其のことを何時からか不快感も苦しさも感じなくなった。慣れ過ぎたのだろうか、良くわからない。でも良い。俺がどう見られたって、俺自身がどうにかなるわけではないのだ。俺が強くないことも、爺ちゃんが手加減していることも、何も変わらない。期待を失った顔をされたって、仕方ない。たくさんの言い訳も、全部真実だから。どうにもならない。知らない。
俺が辛いのは。
11歳の誕生日を迎えた。ポケモンが、パートナーができる年だった。誰にしようかまだ決まらず、旅のイメージも上手く湧かないまま。そんな時、アローラに同い年の男の子が引越してくると聞いた。ハウオリの外れで、近くに来ると。せっかくだからポケモンたちはその子と一緒に選ぼうとククイ博士と話した。コウという名前の、とてもいい子らしい。仲良くなれたらいいな。仲間はいた方が楽しいに決まってる。ライバル、と謂うのに、成れたりするのだろうか。楽しみであった。
今までのあの目が頭を過った。何も知らない彼は俺を、どう見るのだろうか。
いよいよ今日あの子が来る日だった。アローラはどうだろう、気に入ってくれただろうか。
ポケモンはどうしよう、あの子は誰を選ぶのだろう。ククイ博士は未だだろうか。まちきれなくて、リリィタウンを出る階段を駆け下りる。もう来てるだろうか、そう思い辺りを少し見渡すと―――自分と同い年くらいの、見知らぬシルエットを遠くに発見した。あの子だ!シルエットまで走る。渡る。近くまで来ると、彼も此方を向いていたことに気付いた。さらに近づき風貌がはっきり見え始め―――
一瞬、息が止まった。
全身が静止し、転んでしまいそうになった。酸素が入り込んできて、反射で足を前に出し止まる。
アローラの人ではないと直ぐわかる真っ白な肌、真っ黒な髪、そして―――真っ黒な、目。
俺を捉えた目は力強く、静かだった。静かさは自身に留まった瞬間体を貫く冷たさを走らせ、次の瞬間には春の僅かな寒さを連想させる心地よさで支配される。彼の纏う空気は…愁いを帯びている、と云えばいいのだろうか。使えもしない言葉は形の合わないパズルのピースを無理やりはめ込んだような感覚で、どうにも納得できない。彼は大人びていた。見ただけであるのに、そう感じた。それは俺を真っ直ぐ見つめた。良い気持ちも悪い気持ちもなかった。否、解らなかった。
その闇色の瞳に、温かい光色を錯覚した。
♦♦♦♦♦
でたー前作サンムーンで無駄に黒幕臭出してた辛辣ライバル、その名もハウ。
最初は何やねん此奴と思ってたけど最終的にめっちゃ好きなキャラになったんだよな。ウルトラサンでは世界線がどうなってんのかいまいち良く分からないけどキャラ変してたりすんのかな。俺ポケモンもらうとこまでしかウルトラサン進めてねぇんだよ。
「あれー?もう選んでるー?」
「ああ、モクローのコガラシ」
「もふもふ!もふぅ!」
「あははー、かっこいいね」
矢張り初めのうちはキャラが掴みづらいな。キャラ分からないアンド何言えばいいか分からないアンドコミュ障にはきつすぎるね!何言えばいいか内心かなり焦っていると、お気楽な救世主が来た。
「おーい!ハウ!もうコウと会ってたんだな!」
「あー、ククイ博士ー!そうだよー!」
「博士、ハウにも」
短く云う。こんな言葉でも分かってくれたのか、お!そうだな!とハウにポケモンを見せ始めた。ハウは名前呼んでくれたねーと眩しい笑顔を向けてくる。やめてくれ。二人のコミュ力カンストしててついていけない。
「んーそうだなあ…」
ハウの目が輝いていた。小さいころからポケモンを見ていたってやっぱりいいもんだよな。それに、自分だけの初めてのパートナーだ。暫く考えたハウは、微笑みながら頷いた。決まったようだ。
「…うん、君に決めたー、アシマリ!」
「あしゃま!!」
ハウがアシマリの方を向くとアシマリは嬉しそうに海色の目を輝かせた。ニャビーは少し、否大分悲しそう。すまんな。良いなら俺がもらってやりたい。主人公のポケモンに相性の悪いポケモンを選ぶのはまあシナリオ通りだな。よろしくーとハウたちは手を合わせていた。何あれいいな。俺もコガラシとなんかやりたい。
「ねえねえコウ、記念だし、バトルしよーよ!」
ハウは此方に目を向けた。
でもはっきり言って、今は嫌だった。何故かってのは、まあ後で分かる。とりあえず話題を逸らす。
「また後でな。しまキングにご挨拶してからじゃねえと」
「えー?んー、そっかー!」
不満な顔こそしたが、直ぐに明るい顔を向けてくれる。悪い奴じゃないことは分かるよ。大丈夫。そういえば、ハウのおじいちゃんがしまキングだってのはまだ言われてないな。知らない振りしといた方が良いだろうか。じゃあさがそっか!とハウが少し遠くまで走り、立ち止まって手を振る。
「こっちがリリィタウンだよ!」
ようこそ俺。
♦♦♦♦♦
バッグの中のあの子は遺跡が好きなようだった。私はこの子のことをあまり知らなくて、でも、知らないとこの子を守れないと思った。逃げられない、と。少しでもこの子を知りたくて、この子が導くまま遺跡を訪れることにした。メレメレ島にある遺跡は、守り神であるカプ・コケコが祭られている。
「待ってください、そんなに引っ張らなくても行きますから…」
「ぴゅう!」
急な土の段を上がり、橋の前の崖に付いた。橋を渡った先には、直ぐに遺跡が見えている。しかしその橋はどう見てもボロボロで、今にも崩れそうだった。すると、バッグからあの子は飛び出し、先に行ってしまう。
「あ、駄目です!待ってください!」
もし誰かに見られたら。そう思い叫ぶも届かない。其処に―――あの子目掛けて、数匹のポケモンが襲い掛かってきた。オニスズメだ。橋の真ん中あたりで、あの子に攻撃を仕掛けた。痛がっている。やめて。助けないと。
なのに。
ポケモンが怖い私の体はしっかりと脳から恐怖が伝えられ―――全身が震え、前に進めなかった。何故。どうして自分はこんなに弱いのだろう。悲しそうに鳴くあの子の声が耳に入ってくるのに。
「ぅあ…、っ…」
「何してるんですか」
後ろから、声がした。男の子の声。昔聞いた兄の声変わりする前の声に似た、少し高めの音。それなのに――低く感じる、大人らしさが窺えるようなハスキーボイス。
その声と今の状況に恐怖で支配される。体が硬直して、まるで云うことを聞いてくれない。自分を助けてくれたあの子が、目の前で危険な目に合っているというのに。あの、あの日々が、あの光景が目に浮かぶ。恐い。でも、動け、動け!
「…ゃめ、」
温和。
その声に不相応な華奢な体、男の子が自身の横を通り過ぎた。
まだ自分よりも背が低い男の子。跳ねた黒い髪。肌は日焼けを許さないと訴えるような苦手な自分の皮膚と同じぐらいの白さ。そして、何故だか圧倒される背中。
黒い髪に太陽の光が透けて溶ける。金の糸より柔らかい。美しい母と同じ色の自身の髪より輝かしい。美しくない私に怒りの目を向ける母は、この人を見てどう思うだろうか―――場違いなことが、彼女の意志と関係なく思考を創り上げる。彼は止まらずに此方を向いた。彼の目は闇色だった。太陽のような彼の本質と炎を灯す理性、そして世界を映しだした彼の感情。光を詰め込んだ、深い闇色だった。薄い唇が空気を乗せた。音には成らなかった。
『待ってね』
彼が前を向いたのは一瞬に見えたというのに、言葉を紡いだ唇の動きはスローモーションだった。指先にまで光は走り、輪郭が濃く朱に染まった。彼自身が太陽を纏っているのか、太陽が彼を敬愛でもしているのか、分らなかった。眩しいのに、目を閉じることも出来なかった。
リーリエは動けなかった。困惑、唖然―――感動。
足の力が抜け、ゆっくりとその場に座り込んでしまった。それでも彼から目が離せなかった。少年は小さなポケモンを繰り出し、闘っていた。その足元には、大切なあの子。嗚呼。なんにもないのに、涙が目に溜まる。眺める。自分が何を云っているのか解らない。何を云いたいのかも判らない。位置的に逆光になり、彼の姿は微かに暗くなる。それでも。
真っ青な大空と対等な、光色だった。
今年の書き納め。更新が本気で亀ですみません。
先に云ってしまうんですけど、作者はリーリエのお相手はサンムーンのミヅキだと心から思ってるのでコウとリーリエのラブロマンスは多分ないです。ごめんなさい(土下座)