本編 その幻想の先に   作:月陰 甕

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古明地姉妹は「とある妖怪」のツテにより幻想入りを果たす。だが、下車した先は…見知らぬ土地であった。仕方なく彼女たちは「切符」にある「とある場所」へと向かうが…。


第一話 幻想郷入りのさとり妖怪

私は気が付くと暗闇の中にいた。周囲には闇が広がり、装飾品はない。まるで、真っ黒な世界に私が放り出されてような…そんな錯覚を覚える。

私は、ゆっくりと歩みだす。その先に光を求めるように。…だがその先に光は見えない。只々当てもなく、暗闇の中を歩いていると私の「目」に何者かが映る。その何者かは…何処かしら悲しい表情をしていた。私はその少女に惹きつけられるように歩みを進める。

だが…、黒髪長髪のその少女は悲しい表情のままこう告げた。

「来ちゃ…だめ」

 

「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!着いたよ! 起きて!!」

私はその声に起こされる。目の前には、不安げな表情でこちらをのぞき込む妹の姿があった。ふらついた頭をもう一度横に振って思い出す。

周囲を見渡すと、中世ヨーロッパの列車内の装飾風景が飛び込む。きらびやかな内装が施され高級感を漂わせるシートや窓に取り付けられたレースカーテン等は立派なものである。

そして、各々の妖怪が乗り合わせているその空間内で私と妹は対面で座席に座っていた。カタンコトンと優しく列車の振動が伝わってくる。

そうだ、私たちは「幻想郷」へと向かう電車に乗っていたのだった。以前、住んでいた外の世界では私たちの居場所はなく「とある出来事」により、私たちは「幻想郷」へ移住することを決めた。

「お姉ちゃん、切符持ってる?」「ええ、ちゃんと持ってるわ」

「幻想郷」を紹介してきたのは「とある妖怪」づてによるものだが、この「切符」はその妖怪のツテ?で『八雲紫』という妖怪から送られてきたものらしい。

「切符」というには派手すぎで招待状といった方がよいかもしれない。装飾はなく一通の赤色の招待状の表紙には「幻想郷へようこそ」という一文が綴られ、その中には、「幻想郷でのルール」が書かれていた。端的に言えば、「幻想郷」は「妖怪と人間との共存」を目指す世界であり、その理念に則った行動をせよとのことであった。

あまりに抽象的すぎる一文に、則った行動がどのようなものか想像がつきにくかったが、人間と仲良く暮らせということなのであろう。私に…できるだろうか。

「お姉ちゃん…大丈夫?」

私の不安な表情を見てか、妹がそう尋ねる。

「ええ、大丈夫よ」

私は不安を吹っ切るように妹に笑顔を向ける。その表情を見て、安心したのか妹にも笑顔が戻る。そうだ、私たちは「幻想郷」に来て新しい生活を始める。

そこには不安ばかりじゃなく、きっと私たちにとって楽しいこともきっとあるはずなのだ。それが私たちにとっての希望であり、幸せとなるように。

列車は、カタンコトンと揺れながら目的地を目指していたが、ゆっくりとその速度を落とし始めた。そして、列車の角に設置してあるスピーカーよりアナウンスが聞こえた。

『まもなく「幻想郷」へ到着いたします。下車の用意をしてお待ちください。また「切符」の確認をいたします。「切符」の確認が終わり次第、随時下車となりますので

列車が完全に止まるまで今しばらくお待ちください』

アナウンス後、乗り合わせた各々は下車の用意を始め、私たちもそれに倣う。持ってきた荷物を確認し、座席で車掌の「確認」を待っていると、

車掌と思われる妖怪がこちらに向かってきた。そして私たちの隣の席の「確認」を行う。私はふとその車掌に目をやる。狐の妖怪?にしては珍しく尻尾が多い。頭には呪符の張ってある帽子と中に入っているだろう際立った獣の耳、白と青の道化服、そして服の前には特殊な模様が施されていた。見たところ格式の高い妖怪であることはわかった。

「「切符」を拝見いたします。」気付けば私たちのところにもう一人の車掌が来ていた。妹と一緒に一瞬目を丸くしていると、車掌は

「ああ、すみません、驚かせてしまいましたね。この「確認」作業は一人で行うと時間がかかるもので、この時だけ『複数』になれるように許可を頂いているのです。」

言われてまた車内に目を向けると他の妖怪のところでも同じような光景が目に留まった。このような妖怪がいるのが幻想郷…。噂に聞いた妖怪の楽園とは聞いていたが、かなり

高レベルの妖怪が住んでいるようだと警戒を新たにする。その意図を汲んでか車掌は

「警戒せずとも大丈夫です。私は管理者『八雲紫』の式ですから少しばかり特別な力を与えられているだけなので。幻想郷の妖怪は外の妖怪と比べて気性が荒いと思いますが、うまくやっていけると思いますのでご安心を」

そう言うと車掌は笑顔をこちらに向けた。と同時に切符の確認を行う。私たちは突然の笑顔に半ば、ホッと胸をなでおろす。そして、一つ引っかかった言葉を確認する。『八雲紫』の式…?

あの噂の『八雲紫』の式が彼女だとするのならば、『八雲紫』とは一体どんな妖怪なのだろう。

「「切符」の確認が終了しました。それではあなたに良い幻想が訪れますことを!」車掌は笑顔で私たちを見送る。

妹と一緒に車掌に会釈し、『幻想郷』に少しの不安を抱きながら、またまだ見ぬ『出会い』に心躍らせながら、私たちは新たな新天地へと踏みこむ。

 

 

「お姉ちゃん…、まだ~~??」

「もう少しで着くと思うから…頑張ろ!!」私は精一杯の笑顔で妹に振りかえる。

「…お姉ちゃん、顔が死んでるんだけど」

心では精一杯の笑顔を作ったつもりだが、体にまで反映されていなかったらしい。確かに歩き続けてかれこれ、1,2時間は歩いているのだろうか。

私たちはある場所を目指していた。元々降ろされた場所に何かあるもの(居住区等)があるとばかり思っていたので、降ろされた場所がただの草原であったことには驚いた。

そして、先に降りたと思われる乗客たちの姿がないのも疑問であった。とりあえず、寝食する場所を確保しなくてはならないと思い、私たちは荷物を抱えて歩いている。

とはいうものの「切符」もとい招待状には「困ったときにはここに行きなさい♪」との簡易的な地図しか書かれていなかったため、私は自分の能力を使って方角を集めていた。

私の「さとり」としての能力は「目」を用いることにより、生けるものの「波長」と同調することにより、相手の思っていること、考えていることを読む能力である。

つまりこの能力で私は「波長」を合わせている間のみ、その対象の心の「声」を聞くことができ、その対象に動物をとることにより、現在の位置を知りそしてこれから進む場所に何が

あるのかを知ることができた。ただし、能力の行使と体に重くのしかかってくる荷物の重労働のWパンチを食らうことになったため、徐々に心身共に疲労が見え始めていた。

「あ、あれじゃない??」ふと妹が向こうに見えるものを指さす。そこには、赤い鳥居が居を構えていた。その場所については周囲の動物たちの「声」から察するに

幻想郷の「神社」というものらしい。外の世界でも似たようなものを見たことがあるが、この神社の鳥居はしっかりとした朱色で塗りが施されているようだ。

私たちはその鳥居まで足を運び、改めて見渡す。鳥居の向こう側には石の階段が見上げるように連なっている。とてもじゃないが、この石段を登っていく気力はなかった。

妹も元気にしているがお互いに疲弊してきているため、私たちはその石段で休憩をすることにした。

「でも、この神社に来てなにがあるんだろう?」ふと思った私の疑問を妹が口にする。

「うーん、…神社に妖怪を呼ぶ理由が確かに無いのよね…」

そう口にして、私はその神社から感じられる「力」について考察する。この神社からは何かしらの強い力が感じられるが、それが何なのかは

分からない。圧倒的な神気のようなものも感じるのだが、それとは別にどこか懐かしいような…そんな感じも混じっていた。

「…もしかして場所を間違えているのかな…?」

妹がそう言い、もう一度招待状に書かれている地図に目を向けた瞬間、私たちの背後から声が聞こえた。

「あら、正解ですわ♪」

驚いて振り向くと、そこには…空間の境目から上半身だけを乗り出させた女性がいた。頭には白色の帽子をかぶり、おそらく長髪の金髪をそこにまとめているのがわかる。

そして、体には特殊な白い衣装を纏っている。急に出てきたその女性に驚きを隠せないでいると、その女性は続ける。

「あなたたち、幻想郷に初めて来た妖怪よね?初めてでいながらここにたどり着くとは流石ですわ。でも、この神社の上にはこわーい巫女様がいるから登っちゃだめよ。と言っても、いまは別件で仕事中なんだけどね♪」

金髪の女性はそう言うと、にこっと笑って見せる。…ポカンとしていた私たちは一連の出来事に頭がついていかなかったが、まず状況整理をと私はその女性に確認する。

「…すみません、まず確認したいのですが…貴女は…?」

「あら、これは失礼したわ。私は八雲紫。この「幻想郷」の管理者の一人ですわ♪」

八雲紫。その言葉に私たちは緊張を走らせる。こちらに来る前の世界である一人の妖怪からその妖怪の存在は聞いてはいたが、まさかこんなに早く遭遇することになるなんて…。

「境界」を操る能力。その未知数の能力を用いてあらゆる空間に境界を作ることができる大妖怪の一人であり、幻想郷の創始者である…、とその妖怪からは聞いていた。

緊張し、警戒し始めた言動を読み取ってか八雲紫は落ち着いた声で言う。

「警戒しなくても、とって食べたりはしませんわ。それよりも…貴女達「目」を持っているのね。」

八雲紫は物珍しそうに私たちの「目」を見る。その仕草に警戒を残したまま、私は応える。

「…申し遅れました。お察しのとおり、私たちは「さとり妖怪」です。私は古明地さとり、こちらは妹のこいしです。加えて、こちらの幻想郷へ招待頂きましてありがとうございます」

そう言い、私はぺこりと頭を下げる。妹も慌てて頭を下げる、その一連の動作に「フフッ」と軽く笑ったのち、八雲紫も応える。

「そこまで畏まらなくても大丈夫ですわ。そうね…さとり妖怪…あの妖怪から聞いていた二人ね…。」

そうして私たちをもう一度まじまじと見つめる。私はその視線に緊張を隠せずにいたが、妹はふと疑問の表情を浮かべていた。

「お姉さん…どこかであったことある?」

「…」

妹の突然の質問に、八雲紫はじっと妹を見据えていたが、フッと表情を緩ませる。

「いいえ…、これが初対面じゃないかしら?」

その答えに妹は「うーん」と何かを思い出すような仕草を見せ、その仕草に八雲紫は微笑む。

私も面識はないので人違いだとは思うが…、論点を戻すため、私は八雲紫に尋ねる。

「八雲紫様。お尋ねしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

「何かしら?」

「まず、私たちがこの神社に来た理由ですが…、列車から下車した際に私たちは…」

「見知らぬ土地に降ろされ、そして「切符」に書かれていた文面を見てここまで辿り着いた…といったところかしら?」

私の心を読み取るように、私の言葉の続きを八雲紫は語る。その紫の目に何もかもが見据えられているような感覚に私は身震いする。

「…そうです、そして私たちが一先ず休憩しているところに貴女が現れたのですが、これはいったいどういう意図があったのかと思いまして…」

その言葉に、八雲紫は満足そうに頷いた後、こう告げる。

「貴女達の勘は中々なものだわ。でも、私がここに現れた時点で気付いているとは思うけど、これはテストよ。まず、「幻想郷」のルールに従って行動できるか、そして、「切符」の文面通りにこの場所にたどり着けるかということのね。実際、貴女達以外にも乗り合わせていた乗客にも似たような感じのことはしていたのだけれど、辿り着いたのは

貴女達が一番ね♪」

その言葉に、私は納得する。やはり、これにはそう言った意図が隠されていたのか。でも、何故神社なのだろう…。

「「幻想郷」には、妖怪の住まう場所や人間が住まう場所があるわ。でもこの神社はそれらとは違う「例外」的な場所、どこにも属さない場所よ。だから、こういったテストにはうってつけの場所なのよね。ま、巫女には内緒の話なんだけどね♪」

私の意図を汲み取ってか、その疑問に八雲紫はお茶らけた声で応える。まるで「さとり」の能力を使っているようなそんな錯覚に陥るが、私は今までの言葉に出てきたある言葉について投げかける。

「…申し訳ありません、「巫女」というのは…?」

「ああ、巫女というのはこの神社に住まう「巫女」のことですわ。彼女も「幻想郷」の管理者の一人で幻想郷の巫女の仕事は…なんと妖怪退治なの。だから、悪いことをしてしまうと痛い目に合うから気をつけなさい♪」

楽しそうな口調で言う八雲紫であったが、端から見れば彼女もその「悪だくみ」をしている一人ではないかと思ってしまう。「巫女」に無断でこの場を使用しているようだし…。

とりあえず、この場所についてと「巫女」、それからテストについては把握したが…、私たちの現在の最初で最後の疑問を口にする。

「ご説明頂きありがとうございます。それで、私たちはこれからどこに…。」

「そういえば、そうね…。うーん、貴女達の能力を鑑みると…、「里」に案内した方がよさそうね。わかったわ、それじゃ「里」まで移動しましょ!」

「?移動?ここから歩いていくのです?」

「いいえ、…ここから移動するんですわ!」

八雲紫がそう言うと同時に、私たちの下の地面がくぱあと口を開ける。いや、私たちの下の空間が割れ、そこに無数の目がある空間が広がる。

私たちはその見知れぬ空間に怖れを抱いた後、叫び声をあげる暇もないまま、空間に落ちるという初めての体験に気を失った。

 




お久しぶりです。
だいぶ投稿ペースが落ちてしまいましてすみません。

今回から本編です!導入部分のみですが、ぼちぼち書いていこうと思います。
またこれから3話ぐらいは導入部分でのお話が多くなると思います。
長い目で見て頂ければ…。

それでは、次話でまたお会いしましょう!
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