本編とは別視点のアナザーストーリー。
流血表現注意。
俺は…走っていた。宛もなく、ただただ。捕まったら殺される。妖怪となってから未だ人間に恐怖したことなかった俺が初めて感じた恐怖心。
その恐怖の対象が背後に迫っている。
俺は、八雲紫の「切符」で幻想郷に来た。電車から下車するとそこには辺り一面に真っ赤な赤い花が咲いていた。彼岸花というのだろうか。
そこに一人の人間の女が歩いてきた。手にはお供え物(?)を持ち、外の世界にはまずいない昔の着物を着ている。聞いた話だが、こちらの世界は昔の次元で文明が止まっているらしい。なるほど、それで昔の風貌の人間がいるということか。
納得したところで腹が減ってきた。そういえば、電車内から何も食べていないな。幸い、目の前の食事はこちらにまだ気づいていない。
それも一人というなら好都合だ。周囲に気付かれないうちにご相伴に預かろうか。周囲の草むらに身を隠し、それが歩いて来るのを待つ。
一歩、一歩、そしてもう一歩。奇襲の準備は万端だ。そして、その瞬間に俺は草むらから飛び出て、その女の喉笛を掴んで草むらに引き込む…はずだった。
俺が伸ばしたその手を道化衣装の女が掴んでいた。驚き、目を丸くした俺にその女はこちらを一瞥した後に冷たい声でこう言った。
「残念、あなたは不合格よ」
その瞬間にその女は俺を突き放すように掴んでいた手を放した。よろめく俺は体勢を立て直すように地面に足をついた…が、そこは地面ではなかった。
正確には大地の感覚がない。まるで、沼に自分の足がつかるように俺を飲み込んでいく。ハッとして、下を見る。そこに地面はなく、こちらを見つめる無数の目が向こう側にあった。悪寒が全身に走る。その間に俺の身体はその空間にすべて飲み込まれた。無数の目が見る空間に引き込まれたのだと理解した瞬間、俺が居た空間が残酷にも閉じられる。
気が付くと俺は暗闇の中にいた。先ほどの無数の目の空間がないことを視認し、心を落ち着ける。そして現在の状況を確認し、ここが洞窟であることを知る。
あの道化服は…妖怪だろうか。空間を操る。そんな妖怪は今まで見たことも聞いたこともない。見たところあの場所とは違う場所に飛ばされたようだが…。
先の状況整理に頭を働かせていると、洞窟の先から「ウオオオオオオオオ!!」と何かの叫び声が聞こえた。周囲に反響するその声に身を強張らせる。
何かがいる…その得体のしれない恐怖がさらに恐怖心を掻き立てる。ここは洞窟の先、行き止まりだ。一刻も早くここから抜け出さなければ。
その思いで俺は洞窟の先へと向かう。向かいは分かれ道になっており、どちらが入り口にたどり着くかもわからない。とりあえず、何かから逃げなければという思いで必死にその先へ先へと足を走らせる。
もう何回洞窟を這いまわっただろうか。同じところを延々と走っているような感覚に囚われながら、俺は走っていた。そして目の前に異形の者がいることに驚いた。と同時に同胞であることが一目でわかり、安堵のため息をつく。そちらの妖怪もこちらに気が付いたようで見たところどうやら同じ状況らしい。お互い言葉は交わさずとも今が危険な状態とは分かったうえで尋ねる。
「何に追われている?」
「わからん、だが先の叫び声は間違いなく俺の仲間の者であった」その妖怪は続ける。
「俺たちは感覚を共有できる能力を持っているのだが、確実に仲間は何者かに殺された」「その殺した相手は?」
「『目』の感覚共有で一度しか見ていないがあれは…」
「見つけた」
その言葉が聞こえた瞬間、俺と話していた妖怪の脳天から体半分が真っ二つになる。そして体が二つに分かれたところから覗いたのは、冷酷にこちらを見つめる
紅白衣装に身を包んだ黒髪の女だった。
目の前の惨劇にも目もくれず、俺は必死で逃げていた。死と隣り合わせの鬼ごっこを目の前で見せつけられ、頭がどうにかなりそうだったが体は瞬時にあの人間から逃げていた。
幸い、足の方は俺の方が早いらしくこのまま逃げ続けていれば何とかなりそうだ。目の前の曲がり角を曲がる、とその先に出口と思われる白い明かりが見えた。
やっとこれで出られる。希望の光が差し込んだと思った直後、背後からあの声が聞こえた。
「…逃げられないわ」
背後から聞こえたと思えたそれは、目の前から現れる。紅白の巫女衣装に身を包んだそれは、手にした祈祷用の棒をこちらに向ける。それには、ところどころ生々しい血の跡が
あった。
「なんで…」
今まで後ろにいただろというその言葉を飲み込む。それが前から現れたところの洞窟の先、その四隅に白地の符に赤で書かれた「博麗」の文字の符が貼られていた。
まるでそこに獲物を逃がさないように結界が張ってあるように。それを見て俺は瞬時に理解する。この洞窟には逃げ場がなかったことを。
「お前は…博麗の巫女…?、なぜ俺を殺す?」
「…知る必要はないわ」
無慈悲な言葉が言い終わった後に俺の脳天を巫女の祈祷棒が貫く。一匹の妖怪の断末魔がまた洞窟内にこだました。
「終わったかしら♪」ふと空間から現れた楽しそうな声をかける妖怪の先には、血まみれになった衣装を直す巫女の姿があった。
「…洞窟内に仕掛けた「符」から探知できる妖怪はすべて確認したわ。おそらくさっきので最後ね。」
「そう、それはお疲れ様ね。今日は酒盛りでもしましょうか♪」
「紫」
「何?」
「これは…必要なこと?」
そう問いかける巫女の目には疲れたような悲しいような目が浮かんでいた。それを一瞥したスキマ妖怪は口調を変え、ゆっくりと諭すような口調で答える。
「…博麗の力はその年を重ねる度に強くなっていく。貴女もその力が強まっていくのは感じているはず。そしてその許容値も。」
スキマ妖怪はどこかしらから取り出した扇子を広げてその口を覆い隠す。
「でも、許容値以上に膨らんでしまった博麗の力は自身をも犯してしまうのよ。その精神を博麗の使命のために塗り替えてしまう。博麗という名の持つものにその使命を準じさせようとするからなのかもしれない、そのためのガス抜きが必要なのよ、博麗の力を異変以外で使用する機会を使って…ね」
言い終わる頃、スキマ妖怪の顔に一瞬、何かを思い出したような憂いが浮かぶ。そしてスキマ妖怪は扇子をとじてその切っ先を巫女に向ける。
「どう納得できた?」
「…一応の説明は納得は言ったわ。つまり、私が私であるために必要なことなのでしょう。でも…」
「あら、妖怪に同情するのなんて貴女らしくないわ。大丈夫、彼らは外の世界から来た妖怪。そして私の忠告を無視し、ルールを破った妖怪たち。ルールを破ればそれなりの罰が必要よね」
残酷に言い放つその言葉には一切の迷いがない。「妖怪は、幻想郷の人間に手を出してはならない」これが妖怪と人間が『共存』するために必要なことであり、ルールでもある。その均衡を保つために、博麗の巫女が存在する。ルールを破ったものには博麗の巫女より、相応の罰を。それが私が「博麗の巫女」になった時に先代から教わったことだった。
思い出したその言葉を反芻し、目の前の妖怪のその言葉に一切の感情が無いことに巫女はため息をつく。
「紫、あなたは幻想郷の管理者として本当にあなたらしいわ」
「お褒め頂き光栄ね、あ、あと後始末はこちらでしていくから大丈夫よ。そろそろ戻って休むと良いわ」
スキマ妖怪の言葉に頷き、巫女はその足を出口へと向ける。
巫女は思う。幻想郷には博麗の巫女が必要だ。それは幻想郷を維持するため、人間と妖怪の均衡を保つためであることはわかっている。そして、博麗の巫女自身が自我を保つために『妖怪狩り』をしなくてはならないこともわかる。だが、それでよいのだろうか。結局、博麗の巫女は誰かのために自分を捧げているようなそんな気がしてならない。
自分はこのままでもよいが、これからの代の博麗の巫女は…。
「ねえ」巫女は振り返らずにスキマ妖怪に問いかける。
「何かしら?」
「これのこと…、私の代までにしてくれない?」
「あら、面白い提案ね。何か代替案でもあるのかしら?」
「…、それは…」
巫女は考え込むように腕を組む。眉間に皺を寄せしばらく考え込んだ結果…、
「思いつかないわ」
きっぱりと言い放つその言葉にスキマ妖怪は笑う。
「でも…きっと変えられるはず。こんな血みどろにならずに、妖怪も人間も「博麗の巫女」も皆笑って暮らせるようなそんな世界ができるはずだわ」
振り返ってスキマ妖怪に向き直り、言い放つその共存という考えが現代の博麗の巫女の口から出たことにスキマ妖怪は目を丸くする。そして、フッと微笑む。「そうね、そんな世界が出来るといいわね」
「出来るわ、きっと次の代の子にはね」博麗の巫女は洞窟の入り口に立ち、その外からの溢れる光を受けて胸を張って宣言する。
「そんな気がするんだ」
こんばんは、月陰甕です。
遅ればせながら半月ぶりの投稿になります。本当は地霊祭前にあげる予定でしたが、遅くなってしまい申し訳ありません…。
今回のお話は、第1話「幻想郷入りのさとり妖怪」のアナザーストーリ-になります。博麗の巫女は第1話では姿を見せていませんでしたが、どこに行っていたのか?という疑問への回答になります。
博麗の巫女に関する設定がここでチラッと出てきますが、後の伏線になる?予定ですので、また楽しみにして頂ければと思います!
それでは、また更新ペースも上げていきたいと思いますのでぜひよろしくお願いいたします。
PS.地霊祭に遊びに来られた方、ご本を手に取って下さった方々本当にありがとうございます!励みになります…!
感想等ありましたら是非こちらかTwitterの方に投稿していただけるとありがたいです。