本編 その幻想の先に   作:月陰 甕

6 / 12
第四話 人里にて からの続きです。


第五話 人里講師

翌日。

銀髪の女性との待ち合わせの時間に間に合うように、準備を終えた姉妹はとある場所へと向かっていた。それは、銀髪の女性が務める寺子屋だった。昼四つ時前後ということであったが、思いの外早く到着した姉妹は銀髪の女性が到着するのを待つ。

と、四半刻ほどして慌てた様子で件の女性が姿を見せた。両手には、寺子屋にて使うものであろう紙や書類の束がぎっしり詰め込まれていた。

「遅れてすまない、準備に戸惑ってしまってね。すまないが、手を貸してもらえないか?」

その申し出に笑顔で答えると、三人は今日の段取りについて歩きながら話をする。

「流れを言えば、私が講師として君たちを紹介し、その流れに沿って君たちが自己紹介、そして実際の私の業務を手伝ってもらおうかと考えている。簡単に言えば、私のお手伝いという感じにはなるが、大丈夫だろうか?」

「大丈夫です」

「了解です、先生!」

姉妹の元気な明るい了承の声を聞き、銀髪の女性も思わず笑顔を作る。

教材の準備をし、そして姉妹と一緒に教室へと向かう。

「ガラッ」と引き戸を開けて教室の中に入ると、ざっと三十人くらいの子供たちが席についていた。

教壇に銀髪の女性が足を進めると同時に、誰かの声が「起立」と声をかける。それに伴い、皆一様に席から腰を上げる。そして「礼」の合図とともに、全員がお辞儀をする。銀髪の女性もそれに倣って、お辞儀をする。私たちもその異様な光景に目を奪われながら、慌ててそれに倣う。「着席」と先ほどの子と同じ声が聞こえ、皆がまた一様に座る。その一連の訓練された動きに私たちは目を白黒させていた。

と、同時に銀髪の女性は教室の皆を見回して一人一人の顔をチェックしていく。まるで、それが出席簿であるかのように一通りの生徒の顔を見回した後、

「よし、みんな元気だな」と応える。そして、こう続けた。

「さて、今日の授業についてだが、いつもとは違った授業内容にしようと思う。皆は「妖怪」についてどれくらい知っているかな?」

その言葉に生徒が反応を示す。

「怖いもの~」

「えっと、人を食べちゃうんでしたっけ?」

「『博麗の巫女』によく退治させられてるのを見る」

「夜に活動する夜行性の生き物だったような…?」

皆ががやがやと自分の思っている妖怪のイメージ像を色々と述べていく。その様子に銀髪の女性は、

「はい、皆そこまで!」と静止をかける。と同時に、先ほどまでの騒ぎがピタッと収まる。

「皆のイメージ像は分かった。大まかな感じだと『怖い』『人ではない別の生き物』というイメージが近いということが分かった。だが、果たして『妖怪』は本当に『怖い』イメージなのだろうか?『怖い』と決めつけているのは、自分たちの方でその先行する想像だけで『妖怪』を判断しているのではないか? 皆には、今日『妖怪』に対して新たな見解を持ってもらいたい。そのために、今日は講師の二人に来ていただいた。ささ、前にどうぞ。」

銀髪の女性に促され私たちは、ゆっくりと壇上へ上がる。人前に上がるのはだいぶ久しぶりのことなので、かなり緊張してしまっており、私は右手と右足が同時に動いていることに気付いた。慌てて直そうとすると、その仕草に足をもつれさせ、派手に転んでしまった。「痛たたた」と腰を上げ後ろの方を振り向くと、後ろからついてきたこいしが同じ体制で倒れていた。

その姿に、どこかでよく見る漫才芸のワンシーンが頭の中で連想され、私は顔を赤面させる。そして、一瞬の沈黙の後、教室内が笑いに包まれる。

幾ばくか和やかになったその雰囲気に私は負けじと後ろのこいしを抱えて壇上に立つ。

「初めまして、講師としてここに来ました古明地さとりと言います。これから皆と一緒に勉強していけたらなと思いますのでよろしくお願いします。」

そう言って、私は壇上よりぺこりと頭を下げる。対してこいしの方は、

「初めまして!古明地こいしと言います!お姉ちゃんと一緒に講師として頑張っていく所存でありますので、皆よろしく!」

と、手を振って軽く目をつぶって見せる。相変わらずのマイペースな我が妹は講師の意味を分かっているのだろうかと疑問に思ったが、私たちの自己紹介が終わると同時に、生徒たちから盛大な拍手を受け取った。中には、景気よくピューっと口笛を吹く者もいた。

「はは、随分な熱気だな、先生よりも若い子たちが見れて皆はしゃいでいるようだが、先生もまだまだ負けていないぞ!」

と、胸を張って見せるが、生徒はシラーッとした顔で教師を見つめる。その視線に少し悲しくなったのか、銀髪の女性は少し声のトーンを変えて、

「冗談だ」と半ば落ち込み気味につぶやく。その姿に、私たちも生徒たちに同情せざるを得なかったが…、あえて何も言わないことにした。

「…話を戻そう。さて、彼女たちは講師として呼んだわけだが、皆には彼女たちはどう見える?」

「…人?だけど、目のような飾り物をつけてますね?」

「…三つ目の人間?」

「ばっか、三つも目を持っている人間なんかいるかよ」

「…それじゃ、何??」

皆がまたがやがやと私たちのことについて詮索し始めたころ、銀髪の女性は、

「静かに~!」と声を出す。皆がまた静かになったころ、銀髪の女性がそれに応える。

「…勘のいいやつなら察したと思うが、彼女たちは『妖怪』だ。だが、人に害を及ぼすような妖怪じゃない。彼女たちもこの寺子屋に『人間』を学びに来ているんだ。いわば講師という立場でありながら君たちを教師として習う生徒でもある。是非、いろいろと話をして『人間』とは何か『妖怪』とは何かについて見解を深めていってもらいたい。皆、わかったな?」

「「はーい」」

皆は口をそろえて、そう答える。その口ぶりには、久しぶりに新しい何かを見つけたような期待感が混じっていた。

「よし、みんないい子だ。それじゃ、今日の授業の本題に入ろう。今から、用紙を配るから各自そこ書かれた人間や妖怪の情景や感情について…」

銀髪の女性のその声と同時に、私たちは用紙を配り始める。生徒全員に配り終えた後、皆が真剣に授業に取り組むさまを見ていると、本当に銀髪の女性の授業を真剣に受け止めているのだなと感じる。なるほど、「人間」と「妖怪」についての共生を考える幻想郷ならではのその授業体系に私は舌を巻いていた。

そして…、授業が良い感じに盛り上がってきたところで、授業終了となった。

「はい、今日の授業はここまでだ。各自、今日考えた、学んだところを明日までに私のところにまとめてくるように」

そう言うと、始業前の生徒の合図とともに再び、「起立」「礼」「着席」を行う。

そして…、授業が良い感じに盛り上がってきたところで、授業終了となった。そして、いつもの姿であろうがやがやとした雰囲気の教室へと戻っていく。

けじめのとれたその授業体制にも私は、銀髪の女性の統率感を感じていた。

「…初の授業、お疲れ様だったな。どうだった?」

「少し、緊張しましたが…、楽しかったです」

「私もー!ものすごく楽しかったよ~! みんな真剣に取り組んでて驚いた~!」

「そうか、それは良かった」

そう言うと、銀髪の女性は笑顔を見せる。用意してきた教材等もうまく使い、生徒への問題提起から自分の意見を持てるまでの過程を私は「第三の目」から見ていたが、この教師はそれが見えるかのように、誘導、考えさせているのがわかる。

加えて、生徒の方もまじめに取り組む様は、きっとこの人を心の底から信頼しているからなのであろう。流石は教師であると私は感嘆していた。

そう思っていると、私たちのところに一人の生徒が駆け寄ってくる。前髪で顔が隠れたその可愛らしい女の子は、ふと私たちの目に来て立ち止まると、「えと…」と少々口ごもった声で、話した。

「先生! 今日の授業、本当に面白かったです! それと…、お昼休みにこの妖怪さんたちと一緒に遊んでいいですか…?」

突拍子もない、その口から出た提案に私たちも含めた銀髪の女性も一瞬、目を点にする。だが、少女の真剣なまなざしに応えるように銀髪の女性は応える。

「ああ…!、大丈夫だよ。君たちもそれで大丈夫かい?」

と、半ば嬉しそうな声で私たちに視線を送る。

私は、その少女の心を瞬時に読んだが、彼女は純粋に私たちと遊びたいと願っている。まるで、友達との待ち合わせの時間を決めるかのようなその純粋な心に私は一瞬返事が遅れてしまう。

「…ええ、大丈夫よ。」私はぎこちない笑顔でそれに応える。

「うん、私も大丈夫!!一緒に遊ぼう!!」

対するこいしは、いつものマイペース能天気な口調で笑顔で答える。こういう時の元気な対応は本当に我が妹は素晴らしいと素直に思った。

「…ありがとうございます!! それじゃ、昼九つ時でご飯食べたら、玄関でお待ちしてます!!」

そう言い残すと、少女はぺこりと頭を下げてまた仲間の元へと戻っていく。

その純粋で子供らしい姿に私は、かつての外の世界での出来事を重ね合わせていた。あの頃は…、いや何がきっかけでああなってしまったのだろう…。そんなことを思っていると、不意に「お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」と心配そうな顔をしてこちらを覗きこむこいしの姿があった。

「大丈夫…?」

「…ええ、大丈夫。」

私は、精一杯の笑顔で応える、「第三の目」を行使する私の心の負担を心配してくれているのだろう。妹の心遣いに感謝しながら、私は気持ちを切り替える。その様子を見ていた銀髪の女性は、私にそっと耳打ちする。

「…もし、負担になるのだったら言ってくれ。その時は、私の方から彼女らに伝えておくよ」

憧れを抱く教師からのその言葉に私も心が軽くなる。

「…と、次の授業が始まるな、私たちもそろそろ退散するとしよう」

銀髪の女性のその言葉で私たちもその場を後にする。過去からの人に対する私の心持ちはまだ晴れない、だが少なくとも支えてくれる人がいるなら…頑張ってみよう、そう思った。

 

           ◇          ◇

 

 

「…お姉ちゃん、生きてるぅ…??」

「…なんとかね…」

私たちは今にも消えそうな声を掛け合いながら、お互いの生存を確認する。

時間は夕七つ。夕暮れ時となり、私たちは教師たちが集う一室で机に突っ伏していた。昼九つを過ぎてから件の女の子と私たちは遊ぶことになったが、そこまでは問題なかった。

ただ、長年遊んでなかったせいか、子供と遊べるだけの体力が…単純に無かったのである。妖怪といえど、基礎体力はつけていかねばならないと思いつつ、私たちは講師という立場もあり、生徒には負けてはいられず根性でその場を終えた。そしてお昼時が終わり、銀髪の女性が、「大丈夫か!?」と声をかけるほどに私たちはクタクタになっていた。

その後も、銀髪の女性の授業の手伝い、事務作業等を一通り終えてから現在に至るという感じである。

現在までの経緯を振り返っていると、タイミングよく戸があけ放され、三人分のお茶を持った銀髪の女性が姿を見せた。

「お~い、生きてるか~?」

と、陽気な声に私たちはゆっくりと頭を起こす。満身創痍な頭を整理しつつ、一言お礼を言ってそのお茶を手に取る。

「…で、どうだった?? 初めての講師は?」

「…中々、大変なお仕事でしたね。本当に教師のお仕事って座学だけじゃないんだなと思いました…。」

「結構、体力使うから私たちにはきつかったよ…」

二人で今日の出来事について語っているとやはり体力勝負という結論になる。そりゃぁ、人間の年齢で言えばおばあちゃんくらいの年齢になっているのだから、当然と言えば当然ではあるが…。

「まあ、確かに体力勝負の面はあるな…。かくいう私も最初の内はそんな感じだったからな。だが、生徒たちの笑顔が見られるのなら安い方さ」

そう言って、お茶をすする。今日一日の仕事をマルチにこなしてきているこの女性は、本当に体力…というよりもその信念で体が動いているように見える。

生徒と共に生き、学ぶという信念のもとに教師を務めているからこそ、生徒にもおのずと慕われているのだろう。納得といったような感じで私は頷いていると、急に腹の虫が鳴った。慌ててお腹を押さえると、銀髪の女性はフフッと笑って見せる。

「今日一日、目新しいことの連続で疲れたから、腹も鳴るだろうさ。ささ、昨日の店にでも行って飯を食べてくるといい。」

そう言うと、銀髪の女性は戸を開ける。

「え…と、貴女は?」

「私は、まだ残作業が残っていてね。もうしばらくしたら、向かうから先に行っててくれないか」

そう言うと、「お疲れ様」との言葉を残してその場を後にした。

取り残された私とこいしは出されたお茶を飲み干し、今日の夕食にありつくべく、例の飲食店へと向かった。

 

           ◇          ◇

 

お店に入って店主に挨拶をすると、店主は「昨日の」と言って空いているテーブル席に通してくれた。そして、無言で夕食を作り始める。本当に不器用な方だなと私はフフッと思っていると、こいしは我慢の限界なのか机に突っ伏し始めた。

「こら、お行儀が悪い」

「えー…」と子供なことを言いつつ、私の袖をつかんでくる。

と、私たちのことを見ていたのか、店主はスッと手に小鉢を持ってきた。

「…サービス」

そう言って私たちの目の前に簡単な和え物を出していくと、また奥の厨房へと引っ込んでいった。

「…あ、ありがとうございます」消えていくその背中に向かって私は声を投げかける。ちゃんと周りを気遣ってくれている、その優しさが身にしみて感じられた。

さて、私も出されたものを頂こうとすると…、中身が消えていた。

「ごちそうさま~」そう言いつつ、こいしは満足そうな笑顔を浮かべていた。この子は…、と笑顔でこめかみに血管を浮かべていると、ちょうど銀髪の女性が入ってきた。

「いや~、遅くなってすまん」

そう言って謝りつつ、私たちの席へと腰掛ける。そして私たちの顔と小鉢を見定めると、厨房に向かって、

「すまん、小鉢をまた三つほど頼む」と、注文する。

私は、銀髪の女性に平謝りをしつつ、家に帰ったらまたこいしへの叱責を考えなくてはと固く誓う。

そんなこんなで今日の反省会兼夕食会が始まった。とりあえず、体力面に関してはその都度つけていくということにして、無理はしないこと。また、子供たちへの要望は可能な限り聞くが、聞きすぎてもダメなこと。必要があれば叱っても良いこと。などの講師としてのルール決めをし、大まかなこれからの方針を決める。

その結果、寺子屋がある日は可能な限り参加、講師として学んだことがあれば随時、また日誌等につけていくことということで決まった。

「中々、難しいことになってしまってすまないな、私も講師を受け入れるというのは初めてなもので、不手際が多く済まない」

「いえいえ、私の方こそ今日一日本当に勉強になりました。是非、また講師としてお邪魔させて頂ければ幸いです」

「私も、頑張ってみようと思う。言い出しっぺだしね。とりあえず、体力つけないとな~…」

お互いが今日のことについてそれぞれ反省点、改善点を出し合っていると、ちょうど料理ができたらしく、店主がお盆を持ってきていた。

「…どうぞ」

「ありがとうございます。先ほどの小鉢、美味しかったです」

「やっぱり、お兄さんの料理は一級品だね!」

先ほどの料理の感想を伝えると、店主は「お粗末様でした」と一言残し、また厨房へと戻る。

もう、慣れてきているとはいえ、やはり不器用だなと感じずにはいられない。これは私が「さとり」でなくても同じことを感じるのだろうな、と思いつつ、私は「いただきます」と、目の前の料理に手を付ける。同様に、こいしも「いただきます!」と笑顔を作り、料理に手を伸ばす。そんなやり取りをみつつ、銀髪の女性はクシャっと明るい笑顔で料理に箸をつけ始めた。

 

           ◇          ◇

 

 

料理を食べ終え、銀髪の女性と別れ、帰路に着こうとしたその時、私は住宅街に消えていこうとする黒いものを見た。遠目でしか見えなかったが、長い尻尾を生やした猫であったと思う。

「ねぇ、こいし。今の見た?」

「え??何々??」

「いや、さっきそこの家の角の所に猫がいたと思うんだけど…」

そう言いつつ、消えた猫の付近を指さす。こいしは、うーんと目を凝らしては見たが、諦めたように首を横に振る。

「ごめん、もう暗いし、よくわからないや」

「そう…。」

「でも、猫ぐらいこっちの世界にはいるんじゃない?別段、珍しいものでもないと思うけど…、それに猫は夜行性だったりもするし」

「そうね…」

こいしのその言葉に、私も納得したように会話を終わらせる。ただ、一つ腑に落ちない点、その猫の尻尾は二本生えていたと思うのだが…。

私は、一人どこか心落ち着かない胸騒ぎを覚えながら、帰路に着いた。

 




こんばんは、月陰甕です。

第5話更新になります。イベ前の更新は、これで最後になります。
今回は古明地姉妹の講師にスポットを当ててみました。実際のところの授業風景も書いてみたかったのですが、字数の関係と時間の関係から割愛…。
さて、話は変わりますが自分も教育実習等で教壇に立ったことがある人間ですが、子供たちのパワーは本当にすごい。こちらの体力が持っていかれるくらい、パワフルな子たちが多いですね(笑)その描写も入れてみたりしたので、書いていて楽しかったです。

因みに、これからはちょいシリアスな展開になっていきます。
イベに来られる方は是非お手にとっていただければ幸いです。なお、実際の本では第11話まで収録しています。
それでは、また次のお話でお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。