これは人外ですか?いいえ、自称一般人です 作:爆走ボンバー人間
ぐつぐつと煮えたぎる出し汁
金属の器に囲まれ火によって煮えたぎる煙からは香ばしい香りを漂わせる
多種多様の野菜に豆腐、椎茸、そして……肉!
普段、食べる事は叶わなく数少ない機会にのみ与えられる至福の一時
それと同時に始まる略奪という名の無慈悲な戦いを強いるバトルロワイヤル
そう……すなわち、ス・キ・ヤ・キ
しかも今日使っている肉はタイムセールで手に入れた国産和牛。これをみすみす見逃すわけにはいかない。今この鍋を囲んでいるのは、俺・ユー・ジャック・フラン・リィエル・オーフィス・黒歌の七人。この大乱戦の中で
他を出し抜き、鍋にもっとも多く手をつけ、どれだけの肉を食べれるかが勝利のカギを握る。
ぶっちゃけ俺は肉が大好きだ。メッチャ好きだ。他の奴より多く、好きなだけ食べたい。だからこそ負けるわけにはいかない。だが、事はそう上手く進まない。ここにはフランやジャックといった幼い奴らもいるのだ。そいつらを差し置いて一人だけガツガツ食べるなんてそんな大人げない事は出来ない。というかそんなみっともない真似恥ずかしくて出来ない。それに一番の問題は…
ちらり、と横目に無表情大食い三人娘を観る
三人はいつものように無表情のように見えるが、俺には分かる。
いつもに比べ口角が上がり眼は肉をガン見していて、今か今かと鍋が出来上がるのを待っている。何らかの対策をとらなければ肉は全て奴らの胃という名のブラックホールへと吸い込まれてしまうだろう。それだけは避けねばならない。下手をすれば一口も肉を食べる事はなく、すき焼きが終わることになる。何か…何か良い案はないのか……!
「そろそろ鍋が出来上がるにゃ。よそってあげるからお椀貸してにゃ」
「ん。わかった」
「我も」
「フランも!」
黒歌の手にリィエルとオーフィス、フランのお椀が渡される
(何?黒歌なら率先して肉を奪いに来るはずなのに、なぜ…まさか!)
ある考えにたどり着きそれを裏付けるように黒歌の口角が上がるのが見えた
(気づいたようだけど遅いにゃ。リィエルやオーフィスの食欲は止める事は出来ない。だけど、その手綱を握る方法はある!)
(自らが他の者の面倒を見ると言う鍋をよそう役…一見損な役割だが、この場においてその立場は鍋の主導権を握る立場になると言う事…黒歌も狙っていたと言うのか!)
((鍋を統べる支配者…すなわち、鍋将軍!!))
(しかもお椀にはそれとなく肉や野菜よりも、白滝を多く入れてやがる…!)
リィエルとオーフィスは白滝をしゃくしゃくと何回も噛んでおり癖になっていた
(リィエルとオーフィスは白滝の食感の虜…フランは背伸びをするところがあるから肉をがつがつと食べる事は出来ないにゃ。後は、ユーをどうにかすれば私が鍋将軍にゃ!)
黒歌は勝利を確信しにやける。だが、鍋将軍とはそう簡単になれるものではない
「黒歌、次お願い」
「我もお願い」
「わ、分かったにゃ」
黒歌は先程からリィエルとオーフィスの分をよそうだけで自分のお椀に手をつけられないでいた。リィエルとオーフィスは白滝の食感にも飽き、次々と食べていくのに合わせてよそわなければならないからだ
(あいつらの食への欲求を見誤ったな黒歌、貴様は鍋にロクに手をつけることも出来ず一生奴らの腹を満たすためによそってろ)
(そんな、バカ…にゃ……)
黒歌は絶望のあまり戦意喪失してしまう
(これで一人消えたな、だが勝負はここからだ。リィエルとオーフィスの抑制役だった黒歌が消え、先程から黙々と食べ続けるユーも加えてさらに肉は激減するだろう。だが、
それからすき焼きは続き時間は過ぎていき…
「我、お肉いっぱい食べて、満足」
「私も。クロノ、苺タルトは?」
『ごちそうさまでした』
「はいはい、今から持ってきてやるから待ってろ」
席から立ち冷蔵庫から苺タルトとあるものを持ってくる
「ほらリィエル、苺タルト」
「ん、ありがとう。はむっ」
「それじゃあ、俺はまだ食べ足りないから追加するか。この牛肉をな」
「にゃ、にゃんですって!?」
俺は手にある牛肉を見せびらかすように見せる
(こいつらの食を抑制する事もコントロールも出来ないのならいっそ満足するまで食べさせればいいんだ。
こいつらがさっきまで食べていたのは安い豚肉!これからがメインディッシュだ…!)
(そんな、私が今まで欲しがってたのがただの豚肉!?でもあれは確かに牛肉だったはず!牛丼とか焼き肉とかよく食べるあの牛肉だったはずにゃ!それが豚肉!?なら、私が追い求めていたのは…)
(初めからお前に牛肉を食べることも鍋将軍にもなれる事はなかった。つまり…負け犬、いや負け猫ってことだ)
そこまで理解が追いついた黒歌は気絶してしまう。それを気にかける事もなく鍋に肉を投入し焼きあがるのを待つ
(俺は鍋将軍などに最初から興味などなかったのさ。最後に残った至高の肉、それさえ手に入るのなら有象無象の肉などいくらでもくれてやるさ!俺は鍋将軍などというちんけなものではなく、至高の素材だけを使った最高のすき焼きを統べる者…皇帝ナベレオンになるんだ!)
勝利を確信しこれから食べる肉に思いを馳せながら笑みがこぼれる。すき焼きという名の戦いに勝ったのだから!だが、現実というのはいつも理不尽なものだ
「うわあ、凄く美味しそうな臭いがするねお母さん!」
「お肉まだあったんだね!全然お肉食べれてないからよかったー!」
(な…!?し、しまった!こいつらがまだ残っていたのか!?完全にノーマークだった!だがしかし、これぐらいの障害なら修正が効く!)
「な、なんだそんなに食べてないのか?よそってやる。【来い】」
ジャックとフランのお椀を白魔【サイ・テレキネシス】を使って自分の手元に引き寄せよそう
鍋に二つの箸がはいり具をとっていく
(ん?二つ?)
クロノはふと横を見るとユーが肉や豆腐などを食べている姿を見て、頬を引きつらせる
「ゆ、ユーさん?さっき食べ終わったのでは?」
『牛肉があるのなら別腹』
そこは普通デザートなのでは!?と思ってしまうクロノだが、ユーは気にせず黙々と食べ続ける。
その後フランやジャックよりも肉をがつがつ食べる醜態を見せるわけにもいかず肉に手をほとんどつけることも出来ず、食材も尽きてしまい今度こそすき焼きはお開きとなってしまった
「結局肉を全然食べる事も出来ずすき焼きが終わってしまった」
あの後片づけをしてからフランやジャック、オーフィスを寝かしつけてからクロノは工房に入る
この工房はクロノの研究室であり何らかの血液や体液等のサンプルや宝石や金属などの鉱物、生物の牙や皮など数え切れないほどの素材や触媒、それを調べる機械や工具などが数え切れないほど並べられていた。クロノはこの工房に籠もっては様々な研究をしていた。新しい魔術や化学兵器を開発、試行錯誤しており日々研鑽を積んではいるが、それらはすべてクロノにとってはただちょっと興味があったとか、適当に思いついたからとか、暇つぶしの感覚でやっている事がほとんどなのだが。世の魔術師や科学者からしたらそれこそ一生をかけた研究対象だったりするものを暇つぶしで作っているのである。それを知れば世界中の魔術師や科学者は直ぐにでも自信をなくしてハローワークに向かってしまっても不思議ではないほどに。まぁ、本人にとっては大抵のものはガラクタになってしまうのだが、それは全ての科学者が知らない方が幸せだろう。
クロノは今とりかかっている研究に早速取り掛かる。サンプルのはいった試験管を数本取り出し、装置にセットして投薬し操作する。クロノの前には培養液がはいったカプセルがあり、中には一体の獣が静かに眠りながら浮いている。
「こいつの完成におよそ200年もかかったが、なんとか完成率六割に到達、七割を切ったら実証実験を開始するか…お前が目覚めるまであと少しだ。お前が出来ればこの世界は変わる…それがどういった結果をもたらすす事になるのか楽しみだ…」
クロノはカプセルを撫でながら楽しそうな顔をする。その夜もクロノは研究室で過ごした