VD廃人inマブラヴ 作:重カラサワカラサワ8スナCE盾増弾アウト
その日、イングヒルト・ブロニコフスキーは後悔した。
度重なる連戦、隊員の死亡。
自分とも、彼女とも親しかった友人の死によって彼女がどれだけ苦しんだのかは、想像に容易かった。
自分も同じだからだ。
自分も苦しみ、抑え込むことでしか、目を背ける事でしか、乗り越えられなった。
彼女もそうだ。
”BETA”を殺すという方法でしか、友人の死を乗り越えられていない。
もっと気を配るべきだった。
そうしていればあそこで彼女は混乱せず、命令に従って撤退してくれたかもしれない。
無理なカバーなど、必要なかったかもしれない。
彼女が混乱することも、命令を守ることも……自分が周りをしっかり見る事も。
突撃級と要撃級による徹底攻撃。
その中でイングヒルトは恐怖し、血反吐を吐き、機体を破壊された。
今も機体はボロボロだ。
網膜ディスプレイに投影されるはずの映像はブラックアウトを継続しており、コックピット内も暗闇。
電気が通ってないようで、形を保っているのが一杯一杯というのが現状だろう。
「……でも、それは、私も同じ……よね……」
目に垂れる血を中には入れまいと右目を強く塞ぐイングヒルトは弱々しく呟いた。
コックピットブロックを殴られたのだ。
精密機器は勿論の事、彼女の身体自体にも相当のダメージが入った。
身体中に刺さった破片が未だに血肉を貪っている。
正直言って喋る事すら、辛かった。
--バギッ
コックピットの装甲が強引に外された。
だが不思議と、恐怖はなかった。
この暗闇に居座ってから、暫くの時が過ぎた。BETAならばもっと早く殻を開け、自分を食していることだろう。
ならば誰が開けたのか。
その答えは明白だった。
「……ファ、ム…さん……」
開けた曇り空をバックに目の前に立っていたのは部隊の副隊長であるファム・ティ・ラン。
普段は優しく柔らかい表情をしている彼女が今は厳しく、暗い表情で見ている。
恐らく、そういう事なのだろう。
「ーー手の施しようが、ありません。持って後、一時間程度かと……」
ああ、やはりなのか。
イングヒルトはクスリと笑った。
分かっていた。
この怪我では治る事は愚か、生きる事すら叶わないと。
もはや彼女の、アネット・ホーゼンフェルトの傍に居続けるのは無理だと。
「--そうか。分かった」
冷淡な女性の応答が静かな空気の中響いた。
それと同時にファムと入れ替わって、一人の金髪の女性が前に出てくる。
アイリスディーナ・ベルンハルト。
この中隊の、部隊長を務める女性だ。
「総員傾注。イングヒルト・ブロニコフスキー少尉は余命幾ばくもない」
アイリスディーナが呟いたのを聞いてイングヒルトは、確信した。
今までに何度も聞いたセリフだ。
この後、彼女はこう言うのだろう。
慈悲の一撃を与える、と。
「よってここで彼女に、|慈悲の一撃を与えーー」
突如、雪煙が舞った。
ズシリ、という重圧感。
その場の一同はハッとなって後ろを振り向き、驚愕した。
そこには一体の、”黒い死神”がいたから。
《なっ! こ、コイツいつの間にこんなに近くまで……!?》
グレーテル・イェッケルンの驚きの声が響く。
突如戦場に現れ、単騎で行動する小型の超兵器。
先ほどの、コイツが戦闘していた地点での味方は誰一人として居なかったはず。
砲撃命令によって戦術機部隊は全て撤退していたのだ。
あの戦場には少なくとも、50の中型BETAがいたはず。
しかも奴の機体の倍はある大きさのBETAが。
まさか。
部隊の中で驚きの想像が生まれる。
コイツはたった一機で、たったあれだけの時間で、あれだけの戦力を相手に帰還したというのか。
死神の目が紅く光った。
その4つ目は真っ直ぐ、イングヒルトを見ていた。
--シュバッ
死神の首が前に倒れ、本来頭があった場所に空洞が出来る。
その空洞の中には、茶色の何かが見える。
いや。
死神、ACのパイロットがそこにはいた。
「………」
茶色の宇宙服のようなものに身を包み、左右に巨大な筒のようなものを展開しているソイツは先ほどのACと同じように、その無機質な紫のバイザーをイングヒルトの方へと向けている。
何か、するつもりのようだ。
「--!! エーベルバッハ少尉!!」
《了解!!》
だが遅い。
アイリスディーナが指示を出すより前に、テオドール・エーベルバッハが戦術機のマシンガンを構えるよりも前にソイツは両方の筒から爆炎を噴出。
勢い良く前方に突き進んだソイツは重力落下によってじわじわと下りながらコックピットを目指す。
それを鋭い目で見つめたアイリスディーナは今手に持っている拳銃を前に向けて牽制いや、殺すつもりで心臓目掛けて放つ。
--バンッ!
放たれた拳銃弾は真っ直ぐと空気を切り裂きながら空を泳ぎ、茶色の装甲に当たる。
が。
目立った外傷はおろか、弾が当たった痕跡すら見当たらない。
「なッ!」
焦ったアイリスディーナは二度三度と再度弾丸を放つ。
が、その全てが命中はするものの、全て跳ね返され役割を果たせず地に墜ちる。
それを見てソイツは余裕の表情で自然落下してくる。
--だけでなく、ついにはそのゴツゴツした手に持っているライフル銃で反撃してきた。
ダダダンと3連射のバースト射撃。
だが弾速と威力が通常のそれではなく、彼女らの足元に放たれた弾丸は表面部を抉って貫通し、幾つもの大穴を開ける。
これを見て流石に身を隠す二人。
あんなものを装備している空飛ぶ歩兵など、拳銃などで対処できるはずがない。
敵対するのならば一人になった所を戦術機で狙うしかあるまい。
「……ぇ?」
コックピット内に侵入したソイツにイングヒルトは疑問を浮かべた。
先ほど見ていた限りでは、ソイツは自分たちに向けて銃を撃っていたはず。
アイリスディーナ達はそれから避けるため、殺されない為にその場を離れた。
ならば自分はと言うと、動けないので無様に惨殺されるはずなのだが。
なにやらソイツの様子がおかしい。
「……」
彼は何も喋らないまま、イングヒルトを見ている。
何をするまでもなく、ただただ茫然と。
バイザーによって彼の表情は分からない。
普通ならば恐怖以外の何物でもないのだろう。だが不思議な事に瀕死の自分は、彼のバイザーに反射して映っていた自分の表情は、笑っていた。
「なに……を、しにきた…ん…ですか……?」
「……」
意味も理由も分からずに、ソイツに問いかけるイングヒルト。
瀕死故に自棄になっているのかと、自分自身でも分からずに笑顔を含んだ苦笑いで問いかけた。
しかし彼は答えない。だが、彼女の問いかけには応えた。
彼女を機体に括り付けている安全具を器用な手先で外し、彼女の腕を肩に、自分の腕を彼女の脇腹にやって抱える。
その際にソイツは腰のパックから何か、注射のようなものをイングヒルトの首元に押し付けた。
「んっ……!」
すると不思議な事に、痛みがどんどん引いていき、ぼやけていた視界がクリアになっていく。
冷静な思考がだんだんと戻る。痛みがなくなったことによる影響なのだろう。
その時、イングヒルトには紫色の液晶がなんだか、笑っているように見えた。
バシュッ、と彼は急加速する。
外に向けていた筒の噴射口をぐるりと180度回転させ、コックピットに向けて吐いた炎の余熱でパイロットシーツは少しだけ焦げる。
外に瞬時に出た彼はそのまま後ろにさがり、黒色のACの元へと移動する。
その際にアイリスディーナ達が表へ出て、拳銃を構えながら大声を張り上げる。
「止まれ!!」
だが彼は止まらない。
自分に向けられた拳銃など脅威ではないと言うようにするすると地をホバー移動していく。
《行かせるかよ!》
その進路上にテオドールは勢いよく盾を突き立て、その進路を塞いだ。
がその直前に自身の前方に爆炎を吐くことでそれを強引に突破。
かえってアイリスディーナ達の視界を防ぐこととなった。
その間にも彼は両脇の筒を巧みに操って素早くコックピットに乗り込む。
直ぐに頭部ハッチを閉め、システムを再起動させる。
--メインシステム 戦闘モードを起動します
「--!?」
イングヒルトは酷く驚いた。
目の前にある画面はあり得ないほどに画質がよく、かつその中に映っているのは彼と自分が乗る機体の後ろ姿。
周囲に上半身だけのイングヒルトの戦術機やこちらにマシンガンを向けているテオドール機も見える。
みればアイリスディーナやファムの姿も捉えているようだ。
「(自機のメインカメラから来る映像ではなく、自機の真後ろから来る映像!? どんな構造をしているというの!?)」
この異常なディスプレイを前にイングヒルトは急激に頭が痛くなってきた。
大きさといい見た目といいこれといい、明らかに異常だ。
そう思っていたら再度首元に何か刺された。
先ほどとは違う色の注射器だ。
「--rest in peace」
初めて聞いた男の声を最後に、イングヒルトの意識は深い闇に堕ちた。
****
狭いコックピットの中、静かに眠る全身出血の金髪美少女を見てお前は機体をスキャンモードに切り替えつつ、ため息を吐く。
何故自分はこんな無茶をしたのだろうか、と。
ついでになんであんなセリフを呟いたのだろうかと。
「いや、原作キャラかっこ美少女かっことじが瀕死なのを見て身体が勝手に動いたってのはあるけど……それと同時に彼女を助ける方法と自分の基地の場所が分かったってのはあるけれども!!」
なぜこうもラノベの主人公チックな行動を悠々と取れたのか。
一歩間違えば自分も死ぬし相手も死ぬし、間違わなくとも彼らには嫌われる。
アサルトライフルを撃ったのだって正直不安で彼女らに当てたらどうしようとか思っていたし。
正直驚きの連続だよとぐちぐちお前は独り言を言う。
勿論その間にも機体反転+無限GBで目標地点へと向かっているが。
「正直言ってこの記憶蘇りシステムは不便でしかないのだが。この世界に送り込んだ張本人に文句を言ってやりたいぐらいだ」
呟きながらお前は脳内に表示されたマップを頼りに機体制御を行う。
お前は先ほどの、イングヒルトを回収してきた場所で自身に起こった事について思い出す。
あの時、戦術機が上半身の戦術機の胸部装甲を剥がしている時だ。
お前はその情景を見てマブラヴ作品の一部、その一場面を思い出した。
不意の事だった。
正直言ってこの記憶が蘇る前は戦場ではよくある事なのだろうという認識でしか無かったし、どうでもよかった。
けれど、作中の情景と一致しているのを思い出したら、情が湧いてしまった。
……いや、この時に湧いたのは純粋な興味と、性行為の意味を含まない場合の性欲なのだろう。
原作キャラを、しかも美少女を仲間にする事が出来る、その美少女をじろじろと眺める事が出来る、と。
はっきり言って最低の、クズだ。
戦場で必死に生死を掛けている年増も行かない可憐な少女相手にそんな感情を持つなど。
また、それと同時に自分の基地の場所を思い出すのも不思議だ。
いや、この世界にACが搬入してある基地があることにか。
今向かっている基地は先ほど述べた通り、ACパーツが納入されてある。
その他、巨大兵器もいくつかあるようだ。
驚きなのが、その全ての設備がAC世界の技術で構成されているという事。
移動式のステルス移動要塞という、確かどのシリーズのACにも登場しなかった兵器だが、それが積んでいるジェネレータには覚えがあった。
コジマ粒子発電機。
要はネクスト用ジェネレーターだ。要塞が積んでいるのはこれの超巨大版だろう。
とてつもない高出力と引き換えに深刻なコジマ汚染を引き起こしそうだが、何やら特殊なフィルターを使用しているらしく、汚染源はまき散らされていない。
GN粒子の青い奴みたいなものらしい。
「まあそんなものが生まれてしまったらAC世界では戦争が更に盛況することだろうがな」
いや、なくても既に盛況しているかと自傷気味に続けた。
因みにその要塞は此方からの遠隔操作が出来るという情報が脳内にあったので、要塞側でも自機に近付くよう方向転換させた。
これならばイングヒルトの余命、最高一時間程度もクリア出来そうだ。
「後は蘇生法だが……むむむ」
正直言ってお前はこの蘇生法にはいい感情を抱いていない。
なぜならばこの蘇生法はその可憐な身体を人外のものに、お前と同等のものへと変貌させるからだ。
この先長いであろう人生を喰らいの道へと進ませるのは流石に気が進まない。
確かにそれしか、彼女が助かる方法はないのだが。
「……あと数キロか。出来るだけ早くしないとな」
思いつつ、パージは控える。
正直言って速度を求めるならばパージが最適なのだが、それをすると最悪BETAにVAC技術を対策される可能性がある。
何かの記事で見た事がある。BETAが新技術に群がっていくのはそのパーツを回収して解析して、対策を立てるためと。
これを信じるならば、パージした武器をもしもBETAに回収された瞬間、VACの優位性を激しく損なう可能性がある。
パージは絶体絶命の最悪の状況以外は控えた方がいいだろう。
そうした考え事をしている間にもかなりの距離を走っているもので、気が付いた頃には目の前に大きな何かが迫っているのが見えた。
赤色の豪炎を下部四方にまき散らしつつ、かなりのスピードを出して自機に近付く巨大要塞。
前面の円盤の下に直方体の先を取りつけ、直方体の後部上方に逆凹型のブロック、その四隅に巨大な球体とソレの周囲にさらに小さな球体。
逆凹の下部にはなにやら巨大な砲身が一門ずつあり、尊大な存在感を放っている。
お前は円盤下部の直方体、それの横に隣接しているブロックに近付く。
ブロックはエレベーターが下りるようにゆっくりと下がり、自機の高度と丁度合う位置で止まる。
機体が近付くにつれてブロックのハッチがゆっくりと開き、自機は勢いを少しだけ殺して中に飛び込んだ。
ステルス駆動式拠点型戦略兵器【フラキシィ】
お前を包み込んだ兵器はかつてどこかで、
戦術機大きいお(qwq)