VD廃人inマブラヴ 作:重カラサワカラサワ8スナCE盾増弾アウト
UNACシステム。
突然だが、お前がやっていたACVDというゲームには上記のシステム要素が実装されている。
UNmanned Armored Core。
無人AC機の略語だ。
このシステムは要は、プレイヤー自身が自分の味方となる僚機を造り、共に戦うというものとなっている。
要はお前が機体からその思考に至るまでの全てをカスタマイズ出来るCPU僚機という訳だ。
やろうと思えば人間プレイヤーよりも強いAIを造れるこのシステムは、実際にUNACシステムを動かしたことのある者を魅了する。
さて、それではUNACとは実際の所、どんなものなのだろうか。
確かに戦闘スタイルなどを調整できるものの、戦闘時に実際に思考するように動くそれらは果たして、ただの機械でしかないのだろうか。
いや、違う。
ACVDストーリーで登場するAC機の幾つかには、無人ACが存在する。そいつらは実際に言葉を喋り、考え、共闘をしてくる。
UNACも似たようなものだとは思わないだろうか。
彼らも、流石に考えて喋りはしないものの、敵が何なのかを認識し、知識さえ入れてやれば自分で武器を使って攻撃する。
そこでお前は考えた。
UNACとはもしや、電子化されたパイロットから性格や人格など戦闘に関わらない全てをそぎ落とした兵器なのではと。
その前例は前作ACVに存在する。
謎の戦闘集団、【ゾディアック】
彼らは元々特別に戦闘適正が高いパイロットであり、自らの意思を電子化する事で戦闘能力を強化した、所謂【強化人間】だ。
ただの肉体の改造ではなく、普通の生活にはなくてはならなく、戦闘には
人格を消すと戦闘能力が下がるために戦闘メンバーは通常の会話が出来る程度には人格が残されていたが、彼らの指揮官たる人物は僅かな名残を残して人格を消されている。
ただただ状況を分析する、ヒトならざる機械のような印象だった。
恐らくだが、これの、状況を冷静に素早く判断する機械の特性と、人格を消しても戦闘力が減らないように改良されたものがUNACと考えられる。
見れば、UNACの戦闘スタイルを決める『オペレーションチップ』には人名だと思われる名称のものがいくつかある。
過去のパイロットのデータ、人格などを記したのがチップなのだろうと考えられる。
と、するのならば。
目の前に存在する状況にもある程度理解する事が可能だ。
《貴様がこの私の
なぜかキザったらしい捨て台詞を吐いてお前に話しかける、机上にあるディスプレイ奥の住人。
顔は映っておらず、画面中央には遮光の盾のエンブレムが映っている。
画面右下にある文字列、『CRUELTY』を見るにどうやら名前は、【クルーティ】というらしい。
彼女はお前に再度、話しかける。
《まさか私を目覚めさせる者が現れるとは思っていなかったが、これも天祐か。貴様が、マスターが私をどう思っているか知らないが、私は私でマスターを支援させて貰う。以降、よろしく頼むぞ、マスター》
「……」
お前はその現実を見て思考停止、無言になるが数瞬後に機能復旧し、ああ、とだけ返事を返す。
が、それでもお前は未だにこれについて、意識を背ける事は出来なかった。
事の発端は先日の、ドイツ軍基地強襲だ。
あの日、お前はイングヒルトと二人でドイツ軍基地を襲撃してきたが、その過程結果には不満を抱いている。
要は数が足りないのだ。
あの時、確かに相手兵装をほぼ無力化し、優勢ではあったのが、此方の火力が高すぎるせいで撃破対象外機体の追い払いが出来なかった。
その結果があの、撤退だ。
一人が殿を務め片方の離脱の時間を稼ぎ、もう一方は相方が離脱した後全力疾走で現地から離れ、別地点で離脱。
確かにACと戦術機の機体性能差ならば引き離しは楽なのだが、これがAC機と同等の機体が相手となると通用しない。
撃破対象外機体を相手出来る性能を所持した追い払い機と、周囲警戒要員など、様々な特化機が欲しくなる匂いを醸し出している。
実際にACVDオンライン時にもそれはあり、遠距離からチクチク攻撃して確実にダメージを蓄積させながらも味方に近付かせないアウトレンジ機と、味方に急接近する敵を高DPS機でドカドカ殴って追い払うインファイント機のタッグ編成。
通称インファ2アウト2がACVDオンラインプレイ時のスタンダートであった。
役割分担をはっきりさせた連携が、強いという証拠である。
これを踏まえてもチーム隊員増員は必要どころか必須であり、至急増員が必要である。
が、この世界でお前はどうやら異端の存在であり、この世界に存在する知り合いはいない。
更に兵器関連の知識がある人間が必要となると、イングヒルトのように軍から拉致って来るしかない。
しかも拉致ったら拉致ったらでAC操縦の育成しないといけないし、協力するように説得しなければいけない。
面倒極まりないのだ。
そこでお前が思いついたのが、冒頭である。
無人AI機なら、解決するではないか、と。
これならば人員の確保は楽だし、AC技術を教え込む必要もない。
正に問題解決の理想形と言える。
言えるのだが……想定より少しいや、180°近い異常が発生している為、困惑している。
「(なんで機械人形でしかないUNACが喋り掛けてくるんだよ、作中ではなかったろが)」
何の拍子にフロム脳が解放されたか知らないが、流石に驚かざるを得ない。
与えられたオペレーションをただただ実行するでしかない機械が自我を持っているなど、にわかに信じられようか。
確か元の世界の日本でもまだ台本喋りしか出来ない人工知能しか存在しないはずだとお前は困惑を更に混乱させる。
《ところでマスター、提案があるのだが》
「え、なんですか」
混乱し過ぎて口調がいつの間にやら敬語になっている。
クルーティはそれに困惑しつつも、案を進言した。
《私に生体端末とAC機を授けてはくれないだろうか。折角目覚めたのだから、せめて仕事がしたい。願いできるか?》
「え、あ、はい。分かりました」
口調は戻らずに話は進む。
UNACデータ(謎)に封印されていたくらいだから戦闘が出来るAIだとは予想していたため、実は既に機体を組んである。
まあ、組んであるというよりは流用なのだが。
先日イングヒルト用にと組んだ機体『アーストカーティ』は元々、BETAを相手取る事を目的とした量産機としてアセンブルされた機体だ。
KE装甲で固められたこの機体は元々、人類側の新たな刃として提供するつもりだったため、技術的に未開発だろうCE装甲TE装甲を除きKE装甲フレームのみで構成されている。
そう、お前はACを人類に売ろうとしていたのだ。
まあ、あくまでぼったくりな条件付きでだが。
「(先の基地襲撃はそのデモンストレーションの意味合いもあるしな)」
ACが戦術機よりも優れていると知れば、いくら自分たちを襲撃した相手とはいえ、その機体が欲しくなるだろう。
そうしてACを流通させ、此方からの支援なしでは生きれないからだにすることで、実質的な支配を図る。
AC4の企業達が国家に対して行ったものの猿真似だが、その威力は絶大だろう。
お前の敵はBETAであり、人類なのだから。
話を戻そう。
つまり、彼女にはその量産機を与えれば万事休すと言う訳だ。
機体に関しては。
だが、お前は少し考え、困惑する。
生体端末とは、何ぞ?
「(いや、分かるには分かる。要は生身の身体という事だよな)」
UNACはACとは独立した思考であるため、思考自体、機体を渡り歩くことが出来る。
それを基に考えるとその機体を『
が、作中にはそんな描写無かったし、そんなフロム脳が存在していたという記憶もない。
確かに製造ラインには生体パーツのものがあったが……本当にそんな事が可能なのかどうか。
怪しいラインではある。
「……」
《ああ、マスター。この艦に私の生体データが残っているはずだ。それを基に造ってくれればいい》
「……!?」
生体データ!?
個人レベルの生体データだと!?
そもそも生体データがどういうものか分からないが、お前は彼女の言葉に驚愕する。
恐らくの推測でしかないが、生体データとは生前生きていた時の身体の情報の事だ。
この艦に存在する生体パーツ製造ラインには人間の身体が最も潤っている時期のものが製造される。
10代のつるつるお肌が量産できるのだ。
そんな製造機に、個人の身体について調べ上げたデータ読み込ませて作らせたらどうなるか。
もはやそれは人口の身体とは呼べないモノができるだろう。
「……」
お前は再度この世界にお前を送り込んだ者について思考する。
このAF以上のスペックを持つ艦に、ACパーツ、生体パーツが製造可能なライン、更には別世界の人間を時空を超えて送り込む謎の力量。
果たしてその人物とはいったい何者なのか。
謎に包まれ、ある一種の恐怖を生み出すその思考にお前は凍りつく。
そして思う。
考えるのはやめよう、と。
「生体データ……クルーティのでいいんだな」
《ああ。よろしく頼む》
「了解。暫く待っていろ」
いつしか口調は戻り、冷静な思考も戻っている。
この救世主的思考が邪魔をしてはいるが、なにやら不可解な事が多すぎる。
行動は少し慎重にすべきだろう。
片隅にそう考えつつ、お前はガレージを出た。
****
夜、艦内食堂にて。
お前は二人の美女に囲まれてうどんを目の前にしていた。
「お初にお目に掛かる。本日付けで本隊に入隊した、クルーティだ。以前知り合いからはルーティなどと呼ばれていた。好きなよう、気軽に呼んでもらって構わない」
「え、あ、どうも。イングヒルト・ブロニコフスキーです。よろしくお願いしますね」
金髪の美少女と、黒髪ストレートの女性は互いに挨拶を交わし、次第にガールズトークを始めていく。
この中で唯一の男であるお前は完全に蚊帳の外だ。
「あ、ああー。お楽しみの所すまないが」
「ん、どうしたマスター」
「マスター……?」
「そのことは気にするな、イングヒルト」
とりあえずの注目が集まったところでお前は懐から手のひら大の小型端末を取り出し、食堂のテーブルに置き、スイッチを入れる。
端末右上に設けられたカメラから光が発せられ、平面のオーロラのようなものが形成される。
見ればそこには何か書いてあるようだ。
「これは………」
クルーティは顎に手を置き、何かを考え込む。
イングヒルトの方はこの情報が一体何を示しているか理解できずに、首を傾げている。
お前はこれらの情報を人差し指で指しながら彼らに話す。
「こいつらは今度、私たちの隊へと編入する予定の者たちだ。軽く見たところでざっと15人はいる」
「15人も……!?」
「……」
イングヒルトは口を塞いで驚き、お前の瞳を見ている。
今端末が投影している情報は、名簿だ。
それはお前は数時間前にこの艦のデータサーバーからサルベージしたUNACデータ。
その中でもクルーティと同様の処理が施された者たちのデータだ。
似たようなデータ構造のものは他にもあったが、何やらロックが掛かっており、サルベージ出来なかった。
記憶には全データの管理が出来るはずだとあったが、とんだ偽造情報だったらしい。
この世は常々理不尽だと再認識した。
「……すまないマスター、一ついいだろうか」
「ん、なんだ。何かあるのか」
「ああ……マスターには悪いが、私はこの者たちの本隊編入は反対だ」
なに……?
お前は呟いて、思考する。
確かに彼女は、このデータを見せてから少し様子がおかしかった。
だが、それが何故なのかは詳しく分からず、お前も片隅で考えてはいたのだが。
まさか彼女の不服のタネが、UNACデータについてだとは思わなかった。
「理由を聞こう」
確かに隊員が多ければ多いほど管理は難しくなるし、部隊内の空気も変わる。
確かに環境は変わってしまうのは間違いないが……それさえ飲み込めば、解決出来れば今まで以上のポテンシャルが発揮できるのだ。
しかも、それが自我を持つAIなのだとしたら。
容易に人員を補給できるため、どうしても使いたく思ってしまう。
なのに、何故彼女は反対するのか。
それはこの、名簿上に上がっている人員の性格に関してだった。
「私は彼らの事をよく、知っている。
機械化され、封印され永久の眠りにつくまでの世界、あの戦争だらけの世界。
その世界で私は、兵士だった。支配者の防衛部隊隊長として戦い続けていた時の事だった。
謎の緑の粒子をばら撒く、超兵器。
そいつに私は負け、身体は溶けて使い物にならなくなった。
私は兵士を辞め、記者として情報を集めた。すると驚くことに、自軍以外の権力者は皆、あのような超兵器を所持していると言う。
超兵器のパイロットは、【サンダーズ】と呼ばれていた。
その名簿に入っているものの中にも、サンダーズが何名かいる」
クルーティの瞳は朧気で、熱気に燃えている。
まるでその記憶は、魂にまで刻み込まれているとでも言うように。
緑の粒子。
超兵器。
固有の兵職名を持つ、パイロット。
お前はコレによく似たものについて見覚えがあった。
アーマードコア ネクストと、そのパイロットであるリンクス。
緑の粒子を活動エネルギーとして使用する、通常兵器とは比べ物にならない超兵器。
単騎で国家と同等の組織を壊滅できるポテンシャルを秘めている、最強最悪の兵器だ。
確かにそれならば少し、彼らの事を使うのをためらう事もない。
超兵器であるネクストと同等の兵器を使っていた者たちだ、戦争ばかりの時代に生きていたという事を考えると、虐殺思考に陥っていてもおかしくはない。
しかも超兵器に乗り慣れた彼らが、並のVACで満足するだろうか。
もしもネクストに乗せろなんて言われたら、救済するべき世界であるこの世界が汚染されるのは間違いない。
「……分かった。ならばその該当者の氏名に印をつけろ。彼らは量産UNACの基本プログラムとして使用する」
「マスター! それでは意味が……!!」
「使える物は何でも使う。この世界に押し寄せる相手が相手だからな、出し渋っては負けてしまうぞ?」
「--了解」
クルーティは渋々と言った様子で端末を弄り、該当者に印を付けていく。
ポチポチ、ポチポチと。
すると驚くことに、該当者は8割を超えた。
特殊兵器のパイロットが13人も居るって、何を封印していたんだろうか、この艦は。
「大分削られたな。まあ、仕方ないとは思うが。それでこの残った二人は大丈夫なんだな、クルーティ?」
「ああ。少なくとも私が知る限り、彼らは特殊兵器のパイロットではない」
ならばこの他二人……男が一人、女が一人がプロテクトを解除する対象か。
データ上では何方も生体データは登録されている。
後は彼らが此方に従うかどうか……だが。
成るように為るしかない、か。
「了解した。ならば明日、彼らを迎えに行って来よう。--悪かったな、食事の邪魔をした」
「ああ、全くだ。なあ? イングヒルト」
「え、いえ。人が増えるのはいい事ですし、仕方ないですよ」
「そう言ってくれると私としても助かる。では、お先失礼させてもらおう」
お前は食器を持って、食堂入口へと歩みを進めた。
後ろでは尚もガールズトークが続いていた。
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