(そろそろかにゃ?)
昼下がりの購買部。
いつものように店番をする明石は、先程からそわそわと落ち着かない気持ちでいた。
明石にとって、一日のうちで最も楽しみな時間――。
"彼"が店に顔を出す時間だ。
――ピクン!
明石の頭に付いた耳が、来客の足音を察する。
きっと"彼"だろう。
明石が見つめるショップのドアが、キィ、と音を立てて開いた。
「いらっしゃいませ、にゃ!」
明石はいつものように挨拶する。
"彼"だ。
明石にとっては馴染みの顔――。
彼が指揮官に就任した時から、毎日この店に来てくれる常連客だ。
「あぁ。こんにちわ。」
彼が挨拶を返す。
常連といっても毎日何かを買っていくわけではない。
挨拶をした後、世間話をして帰ることもよくある。
だが、明石はそんな彼を気に入っていた。
誠実で優しい彼の目は、人を安心させる。
――正直に言えば、明石は彼に惹かれていた。
だが――
「今日は何か買っていくかにゃ?」
「あぁ。今日は……"これ"を貰うよ。」
(……あ。)
彼の指した"それ"を見て、明石は悟る。
それは――"誓いの指輪"。
愛する者に、永遠の愛を誓う指輪。
明石の小さな胸がズキリと痛む。
覚悟していなかった訳ではない。
優しい彼の事だ。
いつか明石の知らない"誰かさん"に、その愛を伝える日が来るだろうとは思っていた。
だが、こうも唐突にその時を迎えるとは……。
(い、いけないにゃ!)
内心で天地を覆される程に動揺しながらも、明石はその思いを必死に押し殺す。
今は仕事中で、自分は店員だ。
"いつもどおりの明石"でいなければ……。
「お?ついに指揮官も"ケッコン"ですかにゃ?」
お道化た調子でそう彼に問う。
そうだ。
これが"いつもどおりの明石"だ。
「いや、まだオーケーは貰ってないんだけどね。」
照れながらそう答える彼。
胸がまた、ズキリと痛む。
「俺にいつも笑顔を向けてくれる子でさ」
「俺、その子のお陰で頑張れるんだ。」
「だからこれから先も、ずっと一緒にいて欲しいって思ってる。」
彼の言葉のひとつひとつに刻まれた"誰かさん"への愛情が――
刃のように、明石の心に突き刺さる。
「にゃぁ。その子は幸せ者ですにゃ。」
"いつもどおりの明石"を演じる明石は、胸の内からこみ上げる涙を無理やりに押し留める。
叶う事ならば――売りたくない。
こんな"誓いの指輪"なんて……。
(ダメにゃ……!)
されども明石は商売人である。
客が買い求めたのなら、例え涙を堪えていようとも売らねばならない。
それが"好きな相手"であれば――尚の事。
「まいどありだにゃ~。」
代金のダイヤと引き換えに、指輪を手渡す。
彼が帰ったら、今日は早めに店じまいにしよう。
そして――店の奥で一人で泣こう。
明石はそう心に決め、彼を送り出そうとする。
しかし――
買い物の後、いつもならば背を向け「じゃあまた。」とでも告げて店を後にする彼が――
今日はなかなか店を出ようとしない。
「にゃ?お買い忘れかにゃ?」
明石の問いに、彼は答える。
「あぁ、実はもう一つあるんだ。」
彼が手を差し出す。
代金かと思い、受け取ろうと差し出した明石の手に…
「にゃ……?」
先程買ったばかりの"誓いの指輪"が置かれる。
その意図が分からず、彼の顔を見上げた明石は――
瞬間、動けなくなった。
(にゃ……!)
彼の――優しくも誠実な瞳。
明石の大好きなその目が――真っ直ぐに明石を見つめていたのだ。
彼は呼吸を整えるように一拍置いた後――
「明石。君が好きだ。」
そう告げた。
(にゃ!?にゃにゃにゃ……!?!?)
考えもしなかったその言葉に、再度天地が逆転する程動揺する明石。
だが彼は、尚も言葉を続ける。
「君にずっと傍に居て欲しい。だから……君の人生を、俺に売ってくれないか?」
その言葉で明石は――
先程彼の言葉に感じた"誰かさん"への愛情が――
丸々、自身へのものであることを知る。
「にゃ……!?」
気付けば明石は、その両目から涙を流していた。
先程堪えた涙とは別種の――暖かい涙。
(~~~ッ!!)
心の中を暴風の如く巡る感情の渦に、呼吸さえ忘れそうになる。
(だ…ダメにゃ……!!)
されども明石は商売人である。
客が買い求めたのなら、例え嬉し涙が止まらなくとも売らねばならない。
それが"好きな相手"であれば――尚の事。
ぐしぐしと、長い袖で涙を拭う明石。
「……この商品は……返品できないにゃ。」
「あぁ。一生大切にする。」
「……クレームは、言ってもいいけど……優しく言ってほしいにゃ。」
「あぁ。明石の良いとこも悪いとこも、全部まとめて愛すると誓うよ。」
「~~~っ!!」
いつもの言葉を、いつものように――
否、今までで一番の喜びの感情を込めて告げながら――
明石は――彼の胸に飛び込んだ。
「まいどありだにゃあ~~♪♪」