(はぁ~……どうしちゃったんだろ?)
執務室へと続く廊下を歩きながら、秘書艦であるサラトガは心中で呟く。
(前までは全然へーきだったのになぁ……。)
サラトガの悩みとは、これからまさに会おうとしている指揮官との関係についてである。
といっても不仲になった訳では無い。
ただ――
(「ダイスキだよ」なんて、挨拶みたいなモンなのに。)
以前ならば、冗談で言えたその言葉が、今のサラトガには言えないのだ。
この前"強化"を行って貰った際に、いつものように言おうとしたその言葉が――言えなかった。
否、言うことを躊躇ってしまった。
どちらかと言えば躊躇った自分自身に対して、サラトガは思い悩んでいた。
(サラトガちゃんの理想は……もっと高かったと思うんだけどなー。)
他の子には高身長なイケメンがタイプであると公言していた。
それが何故、あの"彼"相手に緊張せねばならないのか。
(ホンっトに、冴えないんだから……)
サラトガは彼について考える。
顔は普通。身長も普通。
性格は――まぁ優しいけど。
見た目頼りないし――でも困ったときには意外と頼りになる。
普段ぼぉっとしてるし――でもココ一番ってトコでは信じられないくらいカッコ良く見えて……
「……あ。」
気付いてしまった。
サラトガは彼を――とっくに"好き"になっていたことに。
「あぁ~……もうっ!」
サラトガはその結論を掻き消すようにカツカツと音を立てて廊下を歩く。
程無くして、執務室の前に辿り着いた。
――コンコン。
「……指揮官~、サラトガちゃんだよ~?」
扉に向かって呼びかけるが、返事は無い。
「入るよ~?」
執務室の扉を開け、入室する。
「……あ。」
彼は居た。
――机の上にうつ伏せになって。
「寝ちゃってるの…?」
起こそうかと考えたサラトガは、しかし思い留まった。
彼も日頃、艦隊の指揮に忙しい。
疲れているのなら、休ませてやるのも秘書艦の務めだろう。
幸い、要件は書類を届けに来ただけ――起きた時に机を見れば気付く筈だ。
サラトガは執務室を出ようと彼に背を向け――
ふと思い付き、立ち止まった。
(今なら……言ってもいいよね?)
言えない事がストレスになっていたサラトガは、眠っている指揮官に背を向けたまま――
呟くように、言った。
「指揮官。サラトガちゃんね……アナタがダイスキだよ?」
いつもよりも控えめに、しかし久しぶりに声に出したその言葉は――
静寂の満ちた執務室に響いた。
よし!とそのまま部屋を出ようとしたサラトガは――
直後、固まった。
「サラトガ……?」
バッ!と振り返るサラトガ。
見れば、彼が机から身を起こしていた。
(~~~ッ!!?)
聞かれた!?聞かれた!?聞かれた!?
混乱と羞恥で顔を真っ赤にするサラトガ。
二人の間に無言の静寂が満ちる。
(やだ!……やだやだ!!どーしよー!!?)
その場の緊張に、ついに耐えられなくなったサラトガは――
「な、なぁんちゃって☆ビックリした?本気にした?も~!指揮官ってば~!冗談だよ~♪」
笑ってそう誤魔化す事を選んだ。
そう。これでいいのだ。
冗談として煙に巻くのが一番だ。
そうすれば彼と――"今まで通りの関係"でいられるんだから。
だが――
「あぁ。本気にした。」
「えっ?」
彼は真剣な表情で告げる。
「本気にしたし、俺は本気だ。サラトガの事が……好きだ。」
ド直球の――告白。
その言葉で、サラトガはもはや逃げ場を失った。
(う、うぅ……!)
どう対応するべきか悩んでいたサラトガは――ふと彼の視線に気付く。
真剣な彼の目――
その眼差しには、一切の"嘘"が無かった。
自分の"冗談"を、真剣に受け止めてくれた彼。
そして自身の"真っ直ぐな気持ち"を返してくれた彼。
(あ、そっか……。)
そこでサラトガは遅ればせながら気付く。
サラトガが日頃イタズラっぽく口にしていた「ダイスキ」は――
決して"冗談"や"からかい"の類のものでは無かった。
ただ、彼のように"真っ直ぐな気持ち"を伝えるのが――怖かったのだ。
もし百パーセントの「ダイスキ」を、拒まれてしまったらどうしようかと――。
だから冗談を交えて伝える他無かったのだ。
臆病な――「ダイスキ」。
それでも彼は、真っ直ぐに「好き」を返してくれた。
「はぁ…。」
サラトガはため息を一つ吐き出す。
こんなに真剣に想いを伝えてくれた彼に、もはや"冗談"は返せない。
ならば覚悟を決めなければ。
だが――
(でもサラトガちゃんは、不器用なんだよね…。)
自身の気持ちを、彼のように直球では伝えられない。
だから――
(ちょっと変化球だけど……ちゃんと受け取ってね。)
そしてサラトガは口を開いた。
「もぉ~。指揮官ってば、ホンっトに乙女心がわかってないなぁ~。」
呆れたような表情を作り彼を見る。
そして――
「さっきのは……"冗談"って言ったのが"冗談"だよ♪ だから……」
サラトガの顔はもはや耳まで真っ赤だ。
それでも――どんなに不器用でも伝えたい。
伝えなければいけない。
今度こそ百パーセントの気持ちを込めて――
サラトガは彼に、想いを伝えた。
「サラトガちゃんはアナタの事が、ホントにホントにダイスキだよっ♪」