線で結ぶ千と一夜の物語   作:七草青菜

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(∪^ω^) <昨日、キャラ紹介と<UBM>閑話を追加したので良かったらどうぞ


七人目 遥か彼方のその先へ

 □???

 

 どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがる。俺を軽蔑の目で見るほかの教授共、まるで珍獣に出会ったかのようにいじってくる学生共。全員死んじまえ。くそっ。

 

「えひひっ、せんせーってほんとにばかだよねー」

 

 ああ、こいつもか、こいつも俺を馬鹿にするのか。

 

 こんなくだらない奴は無視だ。俺は車椅子に前進するように口頭で指示を出す。

 しかし車椅子はびくともしない。

 なんでだよ! 充電切れか?

 

『くそっ、前だよ、前に進めって……」

 

 合成音声発生装置(SSG)を通して俺の脳から直接言葉が出力される。しかし、車椅子はビクともしない。

 

 その時、俺の願いが通じたのか車椅子は前に進み出した。いや違う、これは後ろから押されている?

 

「しょーがないなーせんせーは」

 

 くそ、なんだよお前は。俺を馬鹿にしやがるくせに俺の役に立つな。

 車椅子を止めるように呼びかけるも、コイツが歩みを止める事は無かった。

 

「ねーせんせー、教えてよー」

『その話は何度もしただろ! いいからほっといてくれ!」

 

 俺の必死の願いにコイツは耳を傾けようともしない。

 

「まーまー、充電出来るとこまでは連れてってあげるってー」

 

 何を言っても聞き入れてくれなさそうなので、仕方なくなすがままにされる。そうだ、どうせ俺は誰にも逆らえない。この全身不随の身体じゃ誰かに異議を唱えることすら出来ない。

 

「あたしはさー、せんせーに教えて欲しいって言ってんじゃーん、陸上」

 

 ……うるさい。

 

「知ってるよー? せんせーが何人ものアスリートを生み出したすごい人だってー」

『どうせ……」

「ん?」

 

 ……ダメだ。

 

『どうせお前も捨てるんだろ! 俺が一から十まで教えてやったのに、有名になったその日の内に俺を捨てやがったあのクズ共みたいに!」

「え……」

『もうほっといてくれよ! 俺はもう誰かを育てるとかはしないって決めたんだ!」

 

 感情が爆発するのを抑えられない。

 

 この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。これが普通のドラマなんかだったら俺が走って去っていく場面だろう。だが、俺にその選択肢は取れない。

 

 この世界は理不尽だ。個性なんてものを掲げて、普通のやつとダメなやつとの区別をしようとしない。

 

「せんせー、あたしは、そんなことしないよ?」

『……」

「覚えてる? あたしがまだ小学生だったころ、せんせーはわたしの小学校に一日講師として来てくれたよね」

 

 たしかに、一度だけ近くの小学校から頼まれて身体障害者として、そしてスポーツ研究者として一日講師をした事がある。だが、その時にも俺は何も知らないガキ共にいいように遊ばれるだけだった。

 ……だが、その中にずっと俺に憧れを持って接してくれた奴が居たな。

 

「あたしはせんせーを凄い人だと思ったんだ。だって生まれた時から身体が全然動かないのに、あんなにスポーツに熱くなって、なんか凄かったもん!」

 

 あの時と同じような、キラキラと輝く瞳で語る彼女は、俺には眩し過ぎて見ていられなかった。

 

 結果として、俺は彼女に絆されてしまった。俺の指示を素直に受け入れ、メキメキと上達していくその様を眺めるのも、存外悪くない気分だった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 □2043年7月 ???

 

「せんせー、昨日の見た!?」

『昨日の……? お前には何度も言ってるが話す時は主語を交えないとわからんぞ」

「もう! インフィニット・デンドログラムだよ! ゲームの!」

 

 インフィニット・デンドログラム? なんだそれは。こいつは俺がゲームの情報を逐一確認する奴に見えるのだろうか。

 

『ゲーム? 知らんな」

「えー知らないのー? 遅れてるなーせんせーは。えひひっ」

 

 少しイラついたが、それを態度に出すほど子供でもない。

 その後、こいつ──照夜(てるよ)の分かりにくい説明を俺が噛み砕きながら理解するというめんどくさい手順を踏みつつデンドロというゲームの概要を聞いていき、その胡散臭さにこいつの将来に不安を覚える。

 

『なるほど、そりゃあすごいな。まあ、本物だったらの話だが」

「で、買ってきました!」

『……は?」

 

 やたら大きい袋を地面におき、ジャジャーンと照夜が取り出したのは大きめの箱二つ。

 

『……まさか、買ったのか?」

「うん! 善は急げってせんせーに教わったし。……せんせーの分もちゃんと買ったよ? もうすぐ誕生日でしょ?」

『ああ、もう、お前ってやつは……」

「……ダメだった?」

 

 照夜は純粋無垢な瞳でこちらを覗いてくる。やめろ、そんな目を俺に向けるな。吸い込まれそうだ。

 

『くそっ、だめじゃねえよ。まあ、ありがとな」

「えひひっ! よかったー」

 

 まぁ、勝手に俺の金で買ったわけでも無い。こいつが俺の誕生日を覚えてくれていたことも素直に嬉しい。

 このゲームがダメだったとしても、まぁ礼としてなにか買うくらいはしてやるか。

 

「さっそくやろー! せんせーもいっしょに!」

『お前は馬鹿か。ここは学校敷地内だ。帰ってからやれ」

「えー、じゃあせんせーも一緒にやろーね! わたし待ってるから!」

『…………はぁ、わかった、わかったからそんな目で俺を見るな」

「えひひっ、約束だよ!」

 

 指切りげんまんと言い、照夜は自身と俺の小指を絡める。

 まぁ、そんなことをしようと感覚は無いから無意味だろう。

 

 それは少し、寂しい。

 

 ◇

 

「あ、せんせーだ! あたしだよ! てるよ!」

 

 チュートリアルを終えてすぐ、上空からのダイビングは、なるほど悪くない。風を感じるという初めての感覚には気分が高揚した。

 そして、そこには当たり前のように照夜が居た。

 

「おんなじ国選べたんだね! えひひっ、これって運命かなー?」

 

 ……ただの偶然か趣味が合っただけだろ

 

「……せんせー?」

 

 ん? どうした……って、そうか。今は合成音声発生装置が無いから思考から発言領域のものだけを切り取って音として発生させることが出来ないのか。

 

「ぉああぎ、でゅ」

 

 あーだめだ。舌は動くようになったが、やっぱり喋り方がわからん。

「あ、そうか……せんせー」

 

 くそっ、ゲームの中ですらまともに動かせないのかよ。

 そんな俺の苛立ちを感じ取ったのか、照夜が申し訳なさそうに縮こまる。

 

「せんせー……ごめん」

 

 あ? ちがう、お前が悪い訳じゃない。喋りはともかく、身体だけでも動かせば安心してくれるだろうか。

 身体の動かし方なら熟知している。思考通りならちゃんと動くはずなんだ、ここの筋肉を動かせば……。

 

 腕の筋肉に力を入れる。すると、腕が出鱈目な方向へと動いた。

 違う、違うんだよ、俺はそんなふうに動きたいわけじゃないんだよ。

 

 くっそ、動かし方は誰より分かってるはずなのに、筋繊維一本一本まで意識しねえと。

 

「あの、せんせー、そんなに力入れなくてもいいと思うよ?」

 

 まあ、お前らはそうなんだろうがな、俺は生まれた時から今の今まで動かしたことが無いもんを動かしてんだよ。

 

 そうだ、俺は結局こうだ。どこに行っても、やっと“普通”になれたってのに、このザマ。

 

 あーくそ、自分が考えた通りに身体が動けば……。

 

 そう考えたその時だった。俺の左手の甲が僅かに光った。かと思うと、くっついてた卵の様な宝石が無くなり、そこには“思考吹き出しの中にある複雑な幾何学模様”の描かれた紋章があった。

 

「……なんだ?」

「せんせー、これって<エンブリオ>のふか(・・)ってやつじゃない!?」

 

 照夜の言葉になるほどと思い、ヘルプを呼び出す。そこには<エンブリオ>の項目と、自身の<エンブリオ>についてのジョブがあった。

 

「【酷使夢想 オモイカネ】……TYPEテリトリーか」

「テリトリーって確か見えないやつだよねー?」

「……そうだな。説明を見る限り俺のやつは結界という感じはしないが」

「なーんだつまんないの」

「…………とにかく、ほれ」

 

 俺は腹、腿、尻の筋肉を動かし膝を曲げ、再び腹筋と下半身全体の筋肉を動かし、つま先を曲げ膝を伸ばした。

 立ってる最中も筋肉、主に下半身の筋肉に軽く力を入れる事で起立を維持する。

 

「すごい! せんせーが立った!」

「おお……これは、感動だな」

 

 右手の五指を曲げて力を入れ、力を抜いて五指を伸ばすという、話に聞く“グーパー”というものをゆっくりと繰り返し、自らの身体の動きに感動する。

 

 【酷使夢想 オモイカネ】、そのスキルはたったひとつだけだった。

 

 そのスキルとは《考動》。パッシブスキルであり、その中でもセンススキルという分類に入るらしい。

 効果は、自分が思った通りに身体を動かす事が出来るというもの。

 

 今は動かしたい筋肉を指定して立ち上がったが、単純な動作なら……例えば歩く、とかなら。

 

 俺が歩け、と念じると、【オモイカネ】はその思いに反応して《考動》を発動させる。俺の足はゆっくりと交互に歩を進めた。

 

「少しぎこちないが、まあ俺のイメージが固まれば最適化されるだろう」

「おー……ってあれ!? せんせー喋ってるじゃん!」

 いや、流石に気づくのが遅すぎないか?

 

「これも《孝動》の効果だな。俺自身は口の動かし方なんて全く分からないが、俺が思った通りに勝手に口を動かしてくれる」

 

 これについてはリアルで合成音声発生装置を使用するのとなんら変わらないため、他の動きよりもスムーズに理解することが出来た。

 

「そっかー。よくわかんないけど、せんせーとお喋り出来て楽しいよ!」

 

 そうか。……まぁ、悪くない。

 

「あ、そういえば、あたしは『てるてる』って言うの、せんせーは?」

「ああ、『メアリー・スータブル』だ」

「え……なあにそれ? 女の子みたいだよ?」

「まあ、確か元ネタは女性だったな……なんだ、そんな目で見るな」

 

 そんな憐れむような……いや、違うな。優しい目を俺に向けるな。

 

「せんせー、あたしはせんせーにどんな趣味があってもせんせーの味方だよ?」

「いやまて、誤解しているぞ。メアリー・スーって知らねえか?」

 

 まぁ、知らんだろうが。

 

「知らない」

「だよな。わかりやすく言うと、「ぼくのかんがえたさいきょうのキャラクター」ってやつだよ」

「ふーん」

「で、スータブルってのは最適な、みたいな意味の英語だ。つまり、メアリー・スータブルってのは、俺の考えた最強で最適なキャラクターって意味だ、どうだ、笑えるだろ」

 

 特に何かを思ったわけでも、考えがあって付けた訳でもない。ただ

 

「何かかっこいーね!」

「……皮肉のつもりで付けたんだがな、まあいいか」

 

 ……結局、<エンブリオ>という便利な能力を自分の動作の補助に使っちまったから、この世界でも俺はハンデを背負ってんだな。

 

 でもって、ここから俺の活動(・・)がようやく始まるって訳か。

 

 まぁ、なんだ。悪くはない。

 いや、違うか。

 

 良いな。すごく。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 その<マスター>、メアリー・スータブル。

 生まれた頃より全身不随である彼は、自らでは決して成しえない“スポーツ”の指導という茨の道へと進んだ。

 全てはいつか自分が動けるようになった時のために。

 

 そしてその<エンブリオ>、【酷使夢想 オモイカネ】。

 そんな彼の願いは思わぬ形で叶えられた。ゲームの中という限られた枠の中ではあったが、彼は確かに動作を手に入れたのだ。

 しかし、そんな彼にのしかかるのはまたも厳しい現実。

 だが、その現実は、遊戯(ゲーム)の中で存在していいものではなかった。

 故に、彼の動きをサポートするべく、【オモイカネ】は産まれたのだ。

 

 それはこのインフィニット・デンドログラムにて、全てを乗り越え、よじ登り、高みへと、人の域へと至る目指すチャンスを与えられた、飽くなき探求者である。

 

 〖現人神(チャレンジャー)〗。メアリー・スータブル。




(∪^ω^) <全身置換しても意味ないので

(∪^ω^) <動作補助

(∪^ω^) <両利きどころか足も手みたいに使えるし早口言葉も完璧だしいい事ずくめですね

[ 'ω' ]<あんまり良さそうじゃない紹介をするな
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