線で結ぶ千と一夜の物語   作:七草青菜

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元は“災厄の忌み子”という作品だったものを短編集にしました。


一人目 災厄を(いだ)く者

 □最初の<SUBM>

 

 <Infinite Dendrogram>のサービス開始から丁度一年。内部時間では三年が経過した今日、二〇四四年七月十五日。

 

 ドライフ皇国辺境にて一体の<SUBM>が投下された。

 

 其の名も【一騎当千 グレイテスト・ワン】。

 金と銀のどちらとも言えぬ光沢に身を包まれた巨大なガーゴイルである。

 

 【グレイテスト・ワン】は、あらゆる攻撃を受け止める超硬度の超級金属、あらゆる熱変化を遮断する熱量完全耐性、あらゆる攻撃魔法を無効化する魔法攻撃完全耐性を有する。

 そして、ソレを象徴するものはその防御能力だけでは無い。

 重力の枷より解き放たれし飛翔。超振動の尾による粉砕。口腔より放たれるは分子振動熱線砲(メーサーキャノン)

 

 まさに最高にして『最硬』。

 

 今、ドライフ帝国は未曾有の危機に侵されようとしている。

 

 はずだった(・・・・・)

 

 その脅威のステータスから“物理最強”、「“獣戦士ガードナー理論”の完成系」とまで謳われる【獣王】。

 死者と道を共にし、その圧倒的なまでの力を我がものとした【冥王】。

 

 偶然居合わせた二人の<超級>の手によって、史上初の<SUBM>投下は、呆気なく終わりを告げる事となった。

 

 ──が、しかし(・・・・)

 

 この物語にはドライフの危機も史上初の<SUBM>投下も全く関係ない(・・・・・・)

 

「アレを超えれば、俺は“最硬”になれる。……一緒に来てくれるか?」

「うん。こなたはどんなときも、ますたぁと一緒にいるから」

 

 これより紡がれし物語は、史上「最硬」の<SUBM>を打ち倒した「最強」に挑まんとする、一人の<マスター>と<エンブリオ>の話である。

 

 ◇

 

 ドライフ皇国辺境。一体の<SUBM>と二人の<超級>による熾烈を極める争いの最中。

 

 一人の<マスター>はその戦い──否、圧倒的なまでの蹂躙を眺めていた。

 

 その<マスター>は身体を覆い隠せるほどの大きさの外套をその身に纏い、外套の中には服を着込んでいた。そこまでなら何らおかしい所はない。

 だが、彼の外套の中には服の他に、齢五にも満たないであろう少女が、抱っこ紐によって抱えられていた。

 

 その少女こそが彼の相棒。第六形態に至ったTYPEメイデンの<上級エンブリオ>である。

 

「すごいね、ますたぁ」

「ああ、これが<超級>の戦いか。しかし、あの【冥王】に必殺スキルまで使わせるあいつはいったい何なんだ?」

 

 見た目からガーゴイルだということは察することが出来る。だが、あのように硬い金属を、その<マスター>は見た事が無かった。もしもENDに換算したとしたら恐ろしい数字を叩き出す事になるだろう。

 

 そして、そのガーゴイルに大立ち回りをしているのが【冥王】の必殺スキルにより呼び出された【■■】である。

 【■■】は、【グレイテスト・ワン】の熱線を防ぎきり、その体躯を地に縛り付けてみせた。

 

「あ、ますたぁ、【獣王】が動き出したよ」

 

 そして、そのスキを逃さず、【獣王】とその<エンブリオ>は駆け出した。

 

「《■■■■■(レヴィアタン)》」

 

 彼は見る事となる。

 

 全てを壊し、蹂躙し尽くす、『最硬』を超えた『最強』の怪獣の姿を。

 

 ◇

 

「出てきなさい、臆病者」

 

 【グレイテスト・ワン】との戦闘を終え、【冥王】も居なくなった地にて、レビィアタンはこの戦闘中ずっと遠い物陰に隠れ潜んでいた<マスター>に声をかけた。

 

 しばらく待つと、やがて勘弁したのか、物陰から、外套を着込み、腹部が異様に盛り上がった<マスター>が現れる。

 レヴィアタンの自身の察知能力によると、その膨らみは<エンブリオ>、それもメイデンに違いなかった。

 

「そこで何をしていたのですか? そして貴方は何者ですか? 返答によっては殺します」

「……あー、あれだ。PKってやつ」

 

 そのマスターはまるで今考えついたかのようにPKと名乗り、一歩、また一歩と近づいてくる。

 

「見てたよ。必殺スキル使ったんだろ? もうお前に戦う力なんて残って無いだろ、【レヴィアタン】」

「……私が、必殺スキルを失った程度で貴方達に負けるとでも?」

 

 自身を、そして【獣王】を最強と信じて疑わないレヴィアタンに対し、その<マスター>が放った言葉は、レヴィアタンの怒りをいとも容易く頂点まで引き上げた。

 

「いや、ちょっと違うな。お前らは負けはしない。ただ勝てないだけだ」

 

 レヴィアタンの理性がもったのはそこまでだった。

 

 ──レヴィ、状態異常にかけられてる。

 

 自らの装備の能力により、状態異常を防いだ【獣王】はレヴィアタンに思考を飛ばす。

 

 だが、その忠告はレヴィアタンには届かない。

 

 単独全力戦闘形態(ソロ・フルパワーバトルモード)へと至らない(・・・・)怪獣女王は、地を駆ける。

 

 ◇

 

 レヴィアタンは、彼の<エンブリオ>の能力、《災厄の忌み子》の影響下にあった。

 

 その能力とは、周りの生物へ段階的に上がっていく精神系状態異常を無差別(・・・)にかけるというもの。

 

 【嫌悪】より始まり、時間経過で徐々に段階が上がっていくその状態異常の最終系は【憎悪】。

 

 【グレイテスト・ワン】との戦闘中は、そちらに意識を向けていた事と段階が低かった事もあり、こちらに関心が向かなかった。

 【冥王】は、状態異常が【憎悪】に至るその前に、その場を離れる事を選択した。

 しかし、今のレヴィアタンは完全にこちらを意識してしまっている。

 

 【憎悪】の影響により、形態を変化するという思考を放棄し、相対する<マスター>、正確にはその<エンブリオ>へと一直線に襲いかかるレヴィアタン。

 彼女の全力には程遠い、しかしSTR数万にも至る一撃が<マスター>の身へ襲いかかる。

 

 それに対する彼が取った行動は“防御”、それも地に伏し蹲うずくまる、言わば土下座の構え。

 彼が普通の人間であれば、それは自殺行為に等しい行動。その身に護られた<エンブリオ>ごと粉砕される運命だったであろう。

 だが、その<マスター>は違った。

 

 彼は、レヴィアタンの、「最強」の一端の拳を弾いてみせたのだ。

 

 何故防げたのか。

 特典武具であるその装備の力か、はたまた<エンブリオ>の能力によるものか。

 

 否、そのどちらでもない。

 

 ただ硬かった(・・・・・・)のである。

 

 【僧兵】の《五体投地結界》、【獣拳士】の《甲亀の構え》。

 

 地に伏し蹲るという共通の動作が条件の防御力数倍化スキル。

 

 そして彼が就く【壁】系統超級職【鉄塊王】、その奥義《フェイト・リジェクション》。

 

 “他者を守る”という行動をした時のみ発動するその奥義は、自らの素のENDを十倍化するという効果がある。

 

 数々の防御力、END増強スキルにより強化された彼のENDは、純粋な防御力で言えば、先の【グレイテスト・ワン】に勝るとも劣らない。

 

 その代償に地面に半分程埋まってしまったが、彼にとっては些細な事である。

 

 何故なら、彼の戦闘の全てはこれ(・・)で行われるからだ。

 

 自らの<エンブリオ>を護りつつ相手の攻撃を防御スキルによって防ぎ切る。

 それが彼の戦い、否、これでは戦いですらない。

 相手に諦めてもらうために、ひたすらに攻撃を耐え続ける。

 いわば、始まる以前から負けているのである。

 

 では、如何にして攻撃を行うのかと言うと──。

 

 ◆

 

 怒涛の猛撃に耐え続ける<マスター>を、【獣王】は警戒し続けていた。

 

(完全に耐える事のみのビルド構成。確かに防ぐだけだったらそれは最適解)

 

 END特化。

 それはデンドロにおいてもAGI特化に次ぐ人気のビルド構成である。

 

 しかし、それはパーティにおいてタンク役をする者が至るビルドである。

 戦場の最前線に立ち、敵のヘイトを稼ぎつつその攻撃を受け、味方に戦ってもらう。

 まさにチームで戦闘する前提の者が構成するビルドと言えよう。

 

(──でも、彼はソロだ。あの<エンブリオ>はおそらく無差別に状態異常をばら撒くタイプの能力。たまたま仲間が居ないというのはありえないはず)

 

 そもそも仲間が居るのなら、最初から全員で来てるだろう。こんなセーブポイントからも離れた辺境に一人で来ているという事は、ソロ以外に考えられない。

 

 仲間が隠蔽特化の<エンブリオ>を持っていて、状態異常も克服している、そもそも状態異常は敵にしか掛からないという可能性もあるが、自ら(<超級>)が気づかない程に隠蔽にリソースをつぎ込んだ<エンブリオ>相手なら、【獣王】たる自分が負ける訳が無い、負ける訳にはいかない。

 

 そして、予想通りソロ専のEND特化なら──

 

(絶対に何か(・・)あるはず)

 

 彼がソロでありながら、その土下座スタイルでレベルを上げていくための戦闘手段が。

 

 <エンブリオ>の未だ見ぬ第二の能力か、はたまた特典武具によるものか。

 

 ──否、そのどちらでもない。

 

(……? ……なんの音?)

 

 【獣王】の自身の記憶によると、それは翼をはためかせる音。主に翼竜種等が起こす音である。

 彼女が辺りを見回すと、なるほどそこには、百体を優に超えるモンスターが(ひし)めきあっていた。

 

(そういう事か! だから彼は自身をPKと言った)

 

 PKはプレイヤーキルの略称であり、その名の通りプレイヤーを殺すという所謂悪役(ヒール)プレイを行う者達の総称である。

 

 両者の合意を得てから正々堂々と戦う者、対象を<マスター>のみに絞り、<監獄>行きを回避しつつ悪役プレイを楽しむ者、ティアンも<マスター>も関係なく殺す外道なプレイをする者など、様々なPKが居るが、皆共通しているのは“自らの手によって”PKを行うということ。

 

 だが、PKには、直接手を下す以外の殺し方もある。

 

MPK(モンスタープレイヤーキル)

 

 それはトレイン等とも呼ばれる、自らがヘイトを稼いだモンスターを、他のプレイヤーになすりつける事によってプレイヤーをキルする方法である。

 

 《災厄の忌み子》は周りの生物(・・)へ無差別に状態異常をばら撒くもの。その効果範囲は、丁度隣の山を半分程覆い尽くしてしまうほど(・・・・・・・・・・・)

 

 翼竜種だけではない。時間経過によって【憎悪】の状態異常がかけられた様々なモンスターが、発生源の<エンブリオ>に向けて一直線に迫ってくる。

 

 そしてそれは、今もその<エンブリオ>を殴ろうとしているレヴィアタンに迫っているのと同義である。

 

 モンスターは多数、だが狙うはたった一人。

 必然、その場は大渋滞となり、「俺が先に殺るからどけ」と言わんばかりにモンスター達は同士討ちを始めた。

 

(これが彼の戦い方(・・・)

 

 周り全てを敵に回し、自分という小さな一点を狙わせる事によりモンスターを同士討ちさせる。

 

 それがその<マスター>、【鉄塊王】不撓不屈の戦闘回避法(・・・・・)である。

 

 ◇

 

「ますたぁ、大丈夫?」

「……ん? ああ、平気だ、これくらい」

 

 戦闘とも呼べぬものが始まって早一時間。

 なんて事の無いように言う不撓不屈だったが、その実もう限界に近かった。

 

 HPは三分の一を切り、痛覚設定をOFFにしていなければ痛みに耐え切る事も出来なかったであろう。

 

 自らが所有する古代伝説級特典武具、【転嫁揺籃 マースピアル】が無ければその余波で自らの<エンブリオ>も危なかった。

 

 辺りでは、【獣王】がそのAGIを駆使し、文字通り蹂躙の限りを尽くしていた。

 その全てはレヴィアタンに攻撃させないため。事実、レヴィアタンに攻撃が来ることはなく、不撓不屈の唯一の攻撃手段は無くなった。

 

(あー、万策尽きちまった。絶対絶命ってやつ)

 

 レヴィアタンだけならまだどうにか出来た。だが、その<マスター>、【獣王】はどうだろうか。自身が有する状態異常は防がれ、その状態異常の影響で誘い出したモンスター共も、レヴィアタンに届くことなく蹂躙されていった。

 

 彼の状態異常がかかったモンスターを倒していたため、その経験値は【獣王】と自身に折半で入ってきていたのは不幸中の幸いではあったか。

 

(やっぱり、“物理最強”に勝とうなんて無理だったか。そりゃそうだよな、自分の弱点である状態異常、その対策をしてない訳が無い)

 

「……ますたぁ」

「何だ?」

 

 唐突に自らの<エンブリオ>から声がかかる。未だにレヴィアタンからの攻撃は受けていたが、二人が至近距離にいた事もあり何とか会話が出来る状態にあった。

 

「諦めちゃ、だめだよ」

「ヒルコ……」

 

 不撓不屈の内心を読み取り、彼の<エンブリオ>──ヒルコは声を絞る。

 

「“最強”の攻撃を耐えきって、“最硬”になるんでしょ? なら、こんなところで諦めちゃだめ。ますたぁは、そんな事、しないよね?」

 

 ヒルコはじっと自らの<マスター>を見据える。

 

「……ああ、そうだな。そうだよな」

「うん、そうだよ」

「まったく、俺ってやつはまたヒルコに教えられちまった」

「いいんだよますたぁ、一緒にがんばろう。こなたはますたぁの<エンブリオ>だから」

「よし、アレを超えれば、俺は“最硬”になれる。そして、お前をずっと護る。……一緒に来てくれるか?」

「うん。こなたはどんなときも、ずっと、ずぅっとますたぁと一緒にいるから」

 

 掴んでみせる。

 

 ──勝利の可能性ではない、敗北の回避を。

 

 そのとき、彼のウインドウの片隅に赤いウインドウが展開される。

 

「これは……」

「──大丈夫」

 

同調者(マスター)生命危機感知】

【同調者生存意思感知】

【<エンブリオ>TYPE:メイデン【忌子乙女 ヒルコ】の蓄積経験値――グリーン】

【■■■実行可能】

【■■■起動準備中】

【停止する場合はあと20秒以内に停止操作を行ってください】

【停止しますか? Y/N】

 

「これはきっと、こなた達の力」

「そっか。なら拒む必要はないな」

 

【カウント終了】

【■■■による緊急進化プロセス実行の意思を認めます】

【現状蓄積経験より採りうる一三パターンより現状最適解を算出】

【対象<エンブリオ>:【忌子乙女 ヒルコ】に対して■■■による緊急進化を実行します】

 

「こなたは変われない(・・・・・)けど、それでもメイデンだから」

「いや、ヒルコは変わった(・・・・)よ。昔とは比べ物にならないくらいに」

 

【■■■――完了しました】

 

「さあ、行こうか」

「うん」

 

 不撓不屈とヒルコは至った。

 

 【獣王】と同じ高み、第七形態──すなわち<超級>へと。

 

 かくして、【獣王】、【鉄塊王】。ここに<超級>という頂きに立ちしもの者が二人揃う事となった。

 

 果たして勝負の行く末は──。

 

 ◇◆

 

 【憎悪】のかかったレヴィアタンを紋章へと戻す事でフレンドリーファイアを防ぎ、【獣王】は自身の有する【爪拳士】の奥義である《タイガー・スクラッチ》を放つ。

 

 が、対する不撓不屈は【獣王】のその動作の前、それこそ緊急進化が完了した直後にはもう新たに取得したスキルを発動し終えていた。

 

「《我、因果隔てし者(ヒルコ)》!!」

 

 【獣王】の渾身の一撃、そして、その後に追撃する二枚の光刃が不撓不屈に迫る。

 だが、■■■により新たに発現した能力(ちから)必殺スキル(・・・・・)の効果により、彼女の攻撃の全ては防がれた。

 

(ここで必殺スキル! さっきまでのレヴィとは違う、状態異常にかかってないステータス特化の<超級>の本気の一撃。それを防がれたということは、十中八九完全防御系)

 

 【獣王】の予想は的を射ていた。しかし、足りなかった。

 

 再び攻撃を仕掛けた【獣王】だったが、結果は変わらない。【獣王】の拳は防がれる事となる。

 

(また防がれた。これは継続する完全防御?)

 

 必殺スキル、《我、因果隔てし者》は【盾巨人(シールド・ジャイアント)】の奥義、《サウザンド・シャッター》に酷似している。

 

 しかし、《サウザンド・シャッター》が1000以下のダメージを全て遮断するものなら、《隔てし者》は実質無制限にダメージをシャットアウトする。

 

 その効果とは、“スキルを使用した後の五秒間に受けたダメージを全て合計し、以降それ以下のダメージをシャットアウトする”というもの。

 

 そして、スキルを使用した後五秒間に受けたものは、【獣王】の渾身の三撃。

 

 それ以降の攻撃が通らないのも必然であった。

 

 そして、数巡の間に似たような答えに辿り着いた【獣王】は、自身の別のスキルの使用によって初撃以上の一撃を繰り出そうとした。

 

(身体が動かない?)

 

 正確には、身体が思うように動かせなくなっていた。

 

(まさか、今になって状態異常が通った? 時間経過で段階だけじゃ無く、状態異常そのものの威力も上がる?)

 

 不撓不屈が今第七形態に至ったことを知らない、そして状態異常の効果によりウインドウを見る事が出来ない【獣王】はそう結論に至ったが、それは間違いである。

 

 状態異常が通った、その点については的を射ている。だが、それは状態異常の威力が上がったからでは無い。

 

 《災厄の忌み子》、その効果である“段階的に上がっていく状態異常”、その最終系【憎悪】。

 第七形態へ到達したことによってその更に上が発現した。その名も、【嫌忌】。

 

 それは自身より弱い者を遠ざけ、強い者は全ての思考を放棄して襲いかかるというもの。

 

 全ての思考を放棄というのは、スキルの使用や装備の変更が出来ないだけではない。呼吸や筋出力の抑制(・・・・・・・・・)などの生きていく上で必要なものも行使出来なくなるのである。

 

 長時間の戦闘によりすでに【嫌忌】に至るまでの条件を満たしていた【獣王】は、その装備している状態異常耐性装備を貫通してヒルコの最大の状態異常である【嫌忌】に侵される事となった。

 

(これは、ちょっと不味いかも)

 

 【嫌忌】の効果により息ができない状態、それに日常生活では無くてはならない筋出力の抑制ができないので、肉体の崩壊を止められない。

 

 端的に言っても状況は覆されていた。

 

(なんとかしないと)

 

 【獣王】は焦っていた。

 

 しかしそこはゲーマー。直ぐに対処法を見つける。

 

(<エンブリオ>目掛けての攻撃なら多少の融通がきく。なら、上から攻撃するんじゃなくて……)

 

 【獣王】は上からの攻撃を止め、地面に埋まる不撓不屈を下から掬い上げるように蹴り上げた。

 

 すると、【獣王】に比べてSTRの低い不撓不屈はいとも容易く宙に浮くこととなる。

 

(よし、これで<エンブリオ>を狙えば……)

 

 【獣王】打ち出した拳は、ヒルコへと炸裂する。

 が、しかしヒルコは無傷だった。

 

 それは不撓不屈の装備、抱っこ紐の古代伝説級特典武具【転嫁揺籃 マースピアル】のスキル《天使の揺り籃(マースピアル)》によるものである。

 効果は抱っこ紐に包まれた者へのダメージを全て装備者に転嫁するというもの。

 

 その効果によりヒルコに攻撃が通ることはなかった。

 

(無傷か……でも、これで終わりだね)

 

cya(楽しかった、またね)

 

 その言葉が不撓不屈に届くことは無かった。何故なら、彼は空中にて攻撃を受けたことによる衝撃により、慣性に従い飛んでいってしまったからである。

 彼は今山の中心辺りに埋まっている事だろう。

 

 その証拠に、レヴィアタンのウインドウにずっと書かれていた状態異常が無くなっている。

 

 【獣王】は自らの紋章からレヴィアタンを呼び出した。

 

 ◆

 

 紋章より呼び出されたレヴィアタンは口惜しそうに地面を殴りつけた。辺りの地面が大きく揺れる。

 

 状態異常にかかっていた時の記憶は無かったが、紋章に入れられたという事実から危険だと【獣王】に判断されたことはレヴィアタンにも分かった。

 

「……次会った時は殺します」

yup(うん、がんばろうね)

 

 【獣王】ベヘモットと【怪獣女王 レヴィアタン】は自身の親友、クラウディア・L・ドライフの元へと向かって行った。

 

 ◇

 

 戦場の隣にあった山。その中心には、埋まったままの不撓不屈が居た。

 地中故酸素が薄く、このままでは【窒息】になるだろう。

 

「《瞬間装着》」

 

 そのため、いつ【窒息】の状態異常にかかってもいいように常に用意している酸素マスクを自身とヒルコに付けると脱力したようにその場に身を任せた。

 

「……ちゃんと全部防ぎきったね」

「ああ、俺達にしちゃあ、上出来じゃねえか」

 

 不撓不屈とヒルコは戦闘の余韻に浸る様に地中にて眠りについた。

 

 蛇足ではあるが、その影響で、一周年のアニバーサリーモンスターを含めた山の動物、モンスターを全て死滅させてしまいレベルが更に上がることとなった。

 

 ◇◇◇

 

 ここに一人の<超級>が産まれた。

 

 その<マスター>、【鉄塊王】不撓不屈。

 ソロでありながら、攻撃を行うという選択肢を端から捨て防御のみを取ることによりその力は<超級>を見比べても引けを取らない。

 

 そしてその<エンブリオ>、新たな名を【庇保忌童 ヒルコ】。

 生きるにおいておよそ必要な全てを<マスター>に依存しており、<マスター>に庇保される(・・・・・)ことでのみその存在を維持することが出来る。

 TYPEはメイデンwithワールド・ガードナー。彼女は人間型のガードナーであり、その姿は変化することが無い。

 

 それはこのインフィニット・デンドログラムにて人々(ティアン)に忌み嫌われながらも各地を放浪する世界派プレイヤーである。

 

 

 〖庇護者(ア・ガーディアン)〗。不撓不屈。

 

 

 

 “最強”VS“最硬(・・)”。

 

 ──引き分け。




初めに、最後の“最硬”というのは作者がカッコつけたかったがためのフレーバー的なものですので、実際に不撓不屈が最硬なのかは定かではありません。

あと、【獣王】と引き分ける事が出来たのは、最初から潜伏(気づかれてはいる)していたことにより段階的に上がる状態異常を戦闘時には最終系に出来ていたこと、それと【獣王】とレヴィアタンは【グレイテスト・ワン】との戦闘で多少なりとも消耗していたこと、更には■■■による最適化でこの状況を覆しうるスキルが発現したこと。

この三つのおかげです。
普通にやってたら第六形態のまま瞬殺でした。

<物理最強>は変わらず最強です。


因みに、不撓不屈は日本が好きな外人です。


・エンブリオについて

[ 'ω' ]<【鉄塊王】の不撓不屈です

(U ^ω^)<合いの手を入れる他人です

[ 'ω' ]<……うちのヒルコは何故か第七に進化してもガーディアンにハイエンドしなかったんだが

(U ^ω^)<ガーディアン(守護者)ってよりはガードされる方って感じだからじゃね

[ 'ω' ]<まあ、必殺スキルも俺はダメージカットされるけどヒルコは普通にダメージ通るからな

(U ^ω^)<君マースピアル(特典武具)の運用前提で戦ってるし、そこのところが上手くアジャストしたんだろうね

[ 'ω' ]<それもあるだろうが、おそらくヒルコの能力特性的に「自らが守護をする」ってのが選択肢に無いんじゃないかと思う
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