線で結ぶ千と一夜の物語   作:七草青菜

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三人目 超級勧誘してみた

 □ドライフ帝国 バルバロス辺境伯領

 

 機械と鋼鉄の国ドライフ帝国。上空には常に黒煙が立ち上り、それはまさに天におわす神を汚しているかのようだった。

 

「えーっと、今この辺りに居るのは……」

 

 男は闘技場への道を歩きながら、小型のデバイスをいじっている。傍からみれば一昔社会問題にもなった歩きスマホをしているようであり、大変危険な行為なのは明白だが、不思議と男は目を前に向けることなくスルスルと人混みをすり抜けていった。

 

「【紅将軍(ゴア・ジェネラル)】……は会いたくないな、【操将軍(ギア・ジェネラル)】……は使えないし。てか寝てんなこいつ」

 

 男がブツブツと呟くのはどれも先着一名のみにしか許されない到達点である超級職の名。それを次々と酷評していく彼の身分に気づくものは誰もいない。

 

 男の名は権兵衛・ドウ。

 傍から見ればかなりの異質な名であると言えるが、本人自身もこれは変な名にしたと後悔しているというので世話はない。

 

 ゲームでの名前をあえて名無しやジョン・ドウなどにする時期というものは誰にも存在するだろう。彼は今がその時期なのだ。

 ただちょっと捻りたい時期でもあるのだ。まさに中二病と高二病のダブルブッキングのようなものだ。権兵衛は今年でアラサーのくたびれたおっさんだが。

 

 ともあれ、一通りの確認を終えた権兵衛はデバイスから顔を上げ、首の筋肉をほぐすように一回転させた。

 

「はぁ……いつも通り一人で行くかぁ」

 

 どうやら彼のお眼鏡に叶う人物は今この場には居なかったようだ。

 

 再びデバイスに向き直った権兵衛は画面を指でタッチし横にスライドさせることで別の表示を呼び出す。

 そこには、今回権兵衛がここバルバロス辺境伯領へとやってきた理由、つまりスカウト対象(・・・・・・)の情報が細かく記されていた。

 

(今回の目的人物(ターゲット)は……ローガン・ゴッドハルト。【将軍】系の超級職に就いていながら闘技場に入り浸っている変わり者……か)

 

 もちろん、権兵衛は事前にその情報の全てを確認していたのだが、見落としが無いかの確認の意も込めて改めてしっかりと目を通す。

 

(性格は傲慢で自分の強さに誇りを持っている。だが、その戦闘スタイルから観戦者達からは嫌われており、陰ではローガンがランキング一位から外れるのを望まれている……やっぱなんか可哀想だな)

 

 そう、ドライフ帝国決闘一位、“矛盾数式”ローガン・ゴッドハルトの戦闘スタイルは至極シンプルなものだ。

 その戦闘スタイルとは、ローガン自らが就く【魔将軍】という超級職。その特性である悪魔召喚を用いたゴリ押し戦法。どのような敵と闘おうともローガンの取る行動は奥義を利用した【ゼロオーバー(神話級悪魔)】による蹂躙の一点のみ。

 その代わり映えしない戦闘は刺激を求めてやってくる観戦者達に不評であり、事実ローガンは決闘王者でありながらまるでヒールの様な扱いを受けている。

 

 そんなローガンの現状を知り、権兵衛は若干の同情の念を胸に抱いた。

 

(まあでも、そこを点けば勧誘も不可能ではないかな)

 

 そう結論づけた権兵衛は、デバイスをポケットへとしまい、一般前を向いて歩きだした。

 

「全く、<超級(・・)>の勧誘なんて俺に任せるなよ。そういうやべえ奴はゲイジーか空に任せりゃいいのに……」

 

 日は傾き、辺りはすっかり薄暗くなっていた。

 

 ◇

 

「おっと、着いたか」

 

 辿り着いた先は闘技場。

 ちょうど本日のメインイベントである決闘一位のローガンの決闘が終わった後であり、そこは少数ではあるが、ローガンのファンが興奮仕切った様子で先程の決闘について語っており、周りの者達はそんなファン達を冷めた目で眺めていた。

 彼らもまたローガンの試合を観戦した者達である。だが、彼等は蹂躙を見たいファン達とは違い、ローガンが対戦相手により倒されるという一縷の可能性を見に来たアンチ達である。

 だが、決闘は今日もローガンの快勝に終わりアンチの気分は最悪であった。

 

 ──だから付け込まれた。

 

 ◇

 

 所変わらず闘技場内。権兵衛が向かった先は受付。どうやら彼はここで決闘王者であるローガンとの交渉のアポを取ろうとしているらしい。アホである。

 

「すいません、ちょっとお話よろしいですか?」

「はい、いかが致しましたか?」

「実はですね──」

 

 が、彼にはそのアホな行動を成功に収めるだけのスキルがあった。

 

 権兵衛は《説得》、《演説》、《煽動》などのセンススキルの赴くままに口を回し続ける。もはや自分自身何を喋っているかよく分かってないが、とにかく喋り続ける事であとはスキルがカバーしてくれる。大事な事は自信満々なスタイルを崩さない事だ。

 

「それでは、ローガン様の下にご案内しますね」

「よろしくお願いします」

 

 やがて受付嬢、そして受付嬢から通された先に居たお偉いさんへの【洗脳】を終えた権兵衛は無事ローガンにアポを取ってもらえる事になった。

 

 ◇

 

 闘技場の控え室の一室。そこには今しがたランク争奪ではない普通の決闘を終えたローガンが居た。

 

 ローガンは自身の専用らしい豪華な椅子に深く座り込み、こちらをじっと見据えていた。

 

「貴方が、かの【魔将軍】ローガン・ゴッドハルト閣下で相違ないでしょうか?」

「……ふむ、まず貴様から名乗るのが礼儀ではないか?」

 

 こちらの問いに不遜な態度でそう返してくるローガンに若干のイラつきを覚えながらも、権兵衛は腰を低くして謝る。

 

「おっと、これはとんだ失礼を……私は権兵衛、クラン<アーミー・コー>のサブオーナー、権兵衛・ドウと申します」

「ふん、滑稽な名だ。<アーミー・コー>も知らんな。……まあいいだろう。いかにも、私がローガンだ」

 

 ──笑顔だ、《ポーカーフェイス》を解くな。

 

 若干沸点の低い権兵衛であったが、何とか持ちこたえると、笑みを継続する。

 

「して、貴様はこの私に一体何用か?」

 

 さて、権兵衛が先程使ったスキルの数々はどれもプレイヤー保護の観点から<マスター>にはあまり効果が無い。

 もちろん言語の補助は変わらず続くが、【洗脳】などの、“精神を弄って自分の思い通りにする”という状態異常に掛かることは無くなる。

 つまり、ここからが権兵衛の腕の見せどころという訳だ。

 

「実は、ローガン様に耳寄りの情報を持ってきまして、それをご清聴いただければ、と」

「ふん、信用ならんな」

「まあまあ、そう言わずに話だけでも、決して悪くは無い話です」

 

 権兵衛は語った。

 クラン<アーミー・コー>への勧誘。

 そのメリット。

 そして、<アーミー・コー>の説明。もちろんクランメンバーの詳細は避けつつである。

 そして、ローガンが入る事によりクランがどう変わっていくのか。

 

 もちろん、その提案は《演説》のセンススキルをフル稼働させてのものであり、誰もが魅力的な提案に感じるようになっていた。

 

 して、その返答は……。

 

 

 

「──話にならんな」

 

 明確な拒絶であった。

 

「この私に貴様等の弱小クランに入れとは。頭でも沸いてるのか?」

 

 罵倒。それがローガンの答え。

 いくら《演説》が上手くても、最初から否定してかかっている物を惹かせることなど土台無理な話であった。

 

「……闘技場での仮初の栄光よりも、こちらの方が圧倒的に充実した生活を送れると思いますが?」

 

 悪足掻きのようにそう口走る権兵衛。

 何のスキルも介していないその言葉は、ローガンの地雷を的確に踏み抜いた。

 

「……なんだと?」

 

 ローガンは激昴した。

 

 当然である。

 自身があれ程に入れ込んでいる決闘。その決闘者としての誇りをを土足で踏みにじった権兵衛に怒りを覚えるのは当然である。

 

「失せろ。さもなければ殺す」

 

 ローガンは最後の警告を発する。

 それは言わば慈悲の様なものであり、ここで引き下がるのなら、あるいは逃げ出す権兵衛のその憐れな背中に溜飲を下げていたのやもしれない。

 

「……えぇ、ちょっと待ってくださいよぉ」

 

 しかし、権兵衛が選んだのは引き伸ばし。

 相手が明確な拒絶を示しているというのに、彼は今一度のチャンスを掴みにかかったのである。

 

 愚か。愚かとしかいいようがない救いようのない行為だった。

 

「失せろと言ったのが聞こえなかったのか?」

「いや、だってこのスカウト成功させないと俺これなんすよ?」

 

 権兵衛が親指で首を切る動作をした。

 嘘である。

 

「そんな事俺が知るかっ!! いいから失せろ!」

 

 権兵衛のその神経を逆撫でさせるような物言いに、ついにローガンは声を荒らげた。

 

「えぇー……」

「……は、どうやら貴様は私を本気で怒らせたらしい。勧誘、いいだろう。ならば実力で示せ。返り討ちにしてくれる」

 

 「あれ、これなんか不味いことになったんじゃ……」などとアホな事を考えているうちに、権兵衛はローガンに引きずられるようにまだ整備中の闘技場へと入っていった。

 

 ◇

 

 闘技場は、ローガンの悪魔によって出来た地面の抉れ等を補修するべく、闘技場専属の【黒土術士】や【土木操縦士】がせっせこ働いていた。

 

「あれ、ローガンさんだ」

「いったいどうしたんですか? 闘技場は今整備中ですけど……」

 

 彼等は、ローガンが派手に闘技場をぶっ壊してくれるおかげで仕事を貰えている。故に彼等はローガンに対して感謝こそすれど、悪感情抱く事など微塵も無かった。

 

「どけ」

「……え?」

「どけと言っている。三度はない」

 

 今日までは。

 

「は、はいぃぃ!」

 

 恐怖を植え付けられた作業者達はそそくさと闘技場を去っていく。

 

 そして、体良く作業者を追い出したローガンはアイテムボックスから剣を取り出し、権兵衛の目の前に放った。

 剣は闘技場の床に突き刺さる。

 

「うおぅ!」

 

 権兵衛はビビった。一部始終をばっちり見ていたのにビビった。

 

「取れ。塵すら残さず焼き尽くしてやる」

「いや、俺戦闘はちょっと……」

「黙れ痴れ者が! 馬鹿にするのもいい加減にしろ! 僕を虚仮にしてタダで済むと思うなよ!」

 

 その権兵衛の情けない物言いに、ついにローガンがキレた。ロールプレイではなく本当にキレた。

 

「えー……」

 

(なるほど、今の奴が素だな。で、周りに見せたいのはいつもの奴、と。ていうかこの人結構幼いな、成人もして無さそうな感じある)

 

 コロコロ変わる一人称や口調から生粋のロールプレイヤーだと察した権兵衛は、激昴するローガンに対して冷静な分析をした。

 

 余裕であった。

 当然である。権兵衛は自身が死ぬなどとは欠片も思っていない。なぜか……アホだからだ。

 

(さーてどうやって逃げ帰ろうか……)

 

 その証拠に、結界に囲われた闘技場の中に入った今でさえ逃げる算段を整えているという始末。

 

「来ないならこちらから行くぞ! 《コール・デビィル──」

「あー、いやーその、そう! 闘技場に入らないんすよ! 俺の<エンブリオ>!」

「──なんだと?」

 

 そもそも、今権兵衛の<エンブリオ>はここ(・・)には無いのだが。ともあれ権兵衛は<エンブリオ>を用いた戦闘を行えない。

 

 どころか、権兵衛は戦闘が出来るようなジョブを、技術を、ましてやスキルさえ持ち合わせていない。

 

「俺の<エンブリオ>デカいんすよ。だから<エンブリオ>が使えない訳でして……これって公平って言えませんよね? ね?」

 

 故に、口八丁で何とかその場を乗り切ろうとする。

 

「はぁ? 臆したか、ザコが。なら俺も<エンブリオ>無しで戦ってやろう」

 

 ローガンの<エンブリオ>、【技巧改竄 ルンペルシュティルツヒェン】は自身のジョブスキルの数値を同時に十箇所まで十倍化させるという破格のスキルを持ち、そのスキルを使う事でこれまでの数々の決闘を勝ち進んできた。

 

 だが、今回の決闘でならそんなもの使わずとも、特典武具を生贄にして適当に伝説級悪魔でも放れば余裕だろうと考えていた。

 

 ──しかし、その認識は甘かったと言わざるを得ない。

 

「い、いやー、えっとぉ……あ! それに俺戦闘に関するスキルとか持ち合わせてませんし! これもアレじゃないっすか? 不公平ってやつじゃ!」

 

 互いの<エンブリオ>の使用禁止。そんな事で権兵衛が止まるはずが無い。どうにか戦闘を中止させようと、必死に言葉を並べていく。

 

 言い訳に言い訳を重ねる愚行。

 そんな余りにも無様な権兵衛の様に、ローガンの興はみるみる削がれていった。

 

「はぁぁ……もういい、ザコに用はない。ここから立ち去れ」

 

 こんな奴倒す価値すらない。ローガンは冷めた目でそう告げた。

 

「あ、ほんとっすか! じゃ、失礼しましたー」

 

 そんなローガンに構わず、権兵衛はそそくさとその場を後にした。

 

 こんな大人にだけはなるまい、ローガンはそう決意した。

 

 ◇

 

「はぁ……どうして俺って奴はこうなのかねぇ」

 

 権兵衛は自嘲の溜息を零す。

 

 今日も失敗した。

 今までに一度でも成功したことがあっただろうか。

 いや、無い。

 権兵衛はただの一度も成功したことが無い。

 

「はぁ……」

 

 失敗はしたが、報告はしなければならない。

 

 報告、連絡、相談とは社会における三要素であるが、権兵衛の最も嫌う行為は報告である。

 理由は明快。

 報告を行うときは、決まって失敗しているから。

 

【あ、オーナー、報告します】

【おお、権兵衛くんか! どうだったか!? 勧誘出来たか!?】

 

 通信機器の向こうからは可愛らしい女性の声が聞こえる。

 

【いやー、無理でしたわー】

【またか! 君って奴はまたなのか!】

【そうなんすよ、俺って奴はまたなんすよ】

【……君がこのクランに入ってからの勧誘成功率を言ってみなさい】

【…………0っす】

【0だろう! 一体全体どうなってるんだよ! 君のそのジョブ群は飾りか!?】

 

 飾りでは無い。権兵衛はこのジョブ群が無いと、文字通りただのおっさんに成り下がる。

 権兵衛がここ(・・)まで上り詰めることが出来たのも、一重にセンススキルの扱い方が、いや、センススキルからの扱われ方が上手かったからだ。

 

【まったく、ぷんぷんだぞ?】

【すいません……】

【まぁ、<超級>の勧誘なんてそんなに期待して無かったけどねー】

【あーそうなん……え?】

 

 衝撃のカミングアウトであった。権兵衛動揺を隠しきれない。

 が、オーナー話を逸らす。

 

【それより、今回もちゃんとがんばった(・・・・・)?】

【それはもちろん】

【ならよし! ゆっくり休むんだぞ!】

【……あざっす】

 

 通信を切る。

 相変わらずうちのオーナーはあざと可愛いなぁなどと思いながら、権兵衛は酒の飲める施設へと足を進めた。

 衝撃のカミングアウトは忘れた。

 

 ◇

 

「エールお待ちっ!」

「あざーす」

 

 元気のいいウェイトレスから酒を受け取り、一気に呷る。氷魔法によって冷やされたジョッキに注がれたエールは、癖こそ強いものの、喉に抜ける爽快感は確かにあった。

 

「あー、成果を出さずに飲む酒は上手いなーマジで」

 

 この男、やはりクズである。

 

「現実だとこうはいかねえからなー」

 

 出された料理を食べつつ、酒を飲み、周りの酔っ払い共と歓談を楽しんでいたまさにその時、事件は起きた。

 

 突然空中に現れたホログラム。酒場の中だけでなく、このバルバロス辺境伯の全ての人の前に映し出されたその《犯行声明(フラグメント・ホロウ)》。そこには大勢の者達が映っており、その中には先程決闘場にいたローガンアンチの者達も居た。

 そこで、一歩前に出たリーダーらしき男はにこやかに手を振り語り出す。

 

「皆さん、こんにちは。【反将軍(テロ・ジェネラル)】です。これより、ここバルバロス辺境伯は私が乗っ取りました。皆々様に置かれましては、早々に別の街へ避難する事をおすすめします。さもないと──」

 

 そういって、ホログラムは指をパチンと鳴らす。

 

「──こうなってしまいますので、あしからず」

 

 瞬間、酒場の隣、職の斡旋を行うギルド施設となっていた建物が爆発した。

 耳鳴りと共に爆風と熱気が立ち込める。

 隣が爆発したためか、こちらにもパラパラと破片が降ってきた。

 

 誰もが唖然と空中(ホログラム)を眺める。権兵衛を含めた誰もがその異常な状況についていけずにいた。

 

「あー……」

 

 が、数々の修羅場を文字通り潜り抜けてきた権兵衛は、民衆よりも早くに立ち直る事が出来た。

 すぐに先程の通信機器を起動する。

 

【すいませんオーナー】

【なんだね、権兵衛くん、そんなに焦って】

【あー、焦ってる様に見えます? まあ焦ってるんですが】

【君のその回りくどいところはダメダメだぞ、早く要件を言いなさい】

【……【建将軍(ログ・ジェネラル)】、【聖将軍(エル・ジェネラル)】の派遣を頼む】

【うん、了解したぞ】

【あと、あいつ(・・・)叩き起こしといてくれ】

【……理由は後で聞くからなー】

【あざっす】

 

 通信を切る。これで直ぐにでも必要な戦力は揃うだろう。

 

「よし、あとは」

 

 権兵衛は自身の持つ【民将軍(モブ・ジェネラル)】、そのスキル《拡声》LvEXを発動する。

 

『マイクテス、マイクテス。……おほん、時間が無いので要件から。今皆様の元にパーティ申請を送りました。直ぐにでも私のパーティにお入り下さい』

 

 バルバロス辺境伯の全体に時化たおっさんの声が響き渡る。

 人々はその声に疑問を抱く……事は無い。

 

 

「おいおい、何だよ立て続けに……とりあえずパーティに入らないと……」

 

「お母さん、怖い……」

「大丈夫よ、パーティに入りさえすれば安心だから」

 

「テロリストの方はやべえけどあっちは大丈夫そうだ! 皆、あいつのパーティに入ろう!!」

「おう!」

「当たり前だ!」

 

 

 民の元に差し出されたパーティへの勧誘申請。

 バルバロス辺境伯に所在するおよそ全ての民に配られたそれを、民は臆することなく何の疑問を抱くことなく受け入れた。

 

 ──《民心掌握(アンチ・ヘイトスピーチ)》。

 

 それが、【民将軍】である彼が発動したスキルである。

 効果は“範囲内のレベル250以下の者にパーティ申請を送る”というもの。

 

 彼の指示に従い、次々に目の前に現れたパーティ申請に肯定していく。

 彼の《民心掌握》使用時の発言には先程使った《説得》、《演説》、《煽動》などのスキルも織り交ぜられており、本来ならば恐怖や戸惑い、疑いによって起こりうる、長時間の説得を経てパーティに入ってもらうという過程をすっ飛ばして民衆を囲う事に成功した。

 

『おほん、えー、皆さん大変素直で宜しいです。それではこのまま避難を開始致します。道中先程の爆発などが起こる可能性はございますが、皆様は私がお守り致しますので、どうか落ち着いて対処頂きますようお願い致します』

 

 その命令(・・)に、民は迷わず従う。

 まるで彼の言うことに一片の間違いも無いと思っているかのように、彼に従えば万事OKだとでも言うように。

 

 ──あっている。

 

 いや、正確には、“限りなく正解に近い”だろうか。

 

 この局面では、権兵衛に従うことが得策であり、それ以外は愚策に落ちる。

 例えこの場に頂きに立ちしものが、<超級>が居たとしても、権兵衛には適わないだろう。

 何故なら、敵は【反将軍】。つまり相手は《軍団》による大規模構成で攻めてきていると推測できる。そこに<超級>が一人いた所でどうにもならない。

 無論、敵の大将、【反将軍】は討ち取れるかもしれない。敵のほぼ全て、もしかしたら一人残らず殲滅し尽くせるやもしてない。

 

 だが、それでは駄目、愚策も愚策である。

 

 何故なら、その行為は、民衆の安全が考慮されていないから。

 大将を討ち取る間に他の敵によって民衆が危険に晒される。

 敵の全てを討ち取る為に民衆に危険を汲み取らせる。

 

 それでは本末転倒。民衆を守れぬ行為に、罵倒こそされど感謝される謂れは無いだろう。

 

 しかし、権兵衛は違う。

 

 【民将軍】の二つ目のスキル、《生渇保護(コモン・アサイラム)》とは、“自身のパーティ内の合計レベルが250以内の全ての者を、スキルレベル×1000以下のダメージをシャットアウトする結界で覆う”というものである。

 

 その恐るべき効果により、民衆の安全は保たれている。【反将軍】の起こす爆破や、それに伴う瓦礫の飛来程度なら結界によりシャットアウト出来るのだ。

 

 そして、敵を討つのは権兵衛ではない。

 

(……頼むぞ、信じてるからな)

 

 一見すれば、権兵衛が民衆を逃がし、その後【反将軍】を倒しに戻ってくる展開だと推察出来るだろう。

 だが違う。

 

 それはこの戦いが、【反将軍】率いる犯罪集団と【民将軍】権兵衛・ドウの所属する──

 

 将軍限定(・・・・)クラン、<アーミー・コー>の闘いだからである。

 

 ──不意に地面が揺れ、砂煙が立ち始める。

 

『──おぅーい、権兵衛ぇ! いるかー!』

「おっせーよ! ザク!」

 

 【操将軍(ギア・ジェネラル)】ザクⅩ。

 彼こそはあの権兵衛をして交渉事には「使えない」と称される程のバカである。

 

『あぁ? 陛下ちゃんから通信来てすぐ起きたぞ?』

「お前のすぐ(・・)は世間一般的なすぐじゃねえ!! いいからさっさと働け!」

『うぅーい』

 

 ザクのその言葉と共に、吹き出す煙を見に纏った30メテル程もある機体がその体躯を稼働させた。

 

 彼の<エンブリオ>、【灰闘炉膜 グリバウン】はTYPE:アドバンスの超大型パワードスーツであり、その所持スキルである《マーシャル・アジャスター》により量産型の<マーシャルⅡ>に搭乗したまま(・・・・・・)乗り込む事が出来る。

 まさに規格外の<エンブリオ>である。

 

『敵はどこだぁー!』

「知らん! 今は(・・)見えねぇ!」

『了解っ! とりあえず全体攻撃でいいなぁ!』

「民衆は全員囲った! ()も居る! ぶちかませぇ!」

『おっし!』

 

 ザクの操縦する【マーシャルⅡ】の搭乗する【グリバウン】。それが装備する特注品である大型の【ハンドキャノン】を左手で構え、足元周りに居る<ガイスト>や<マーシャル>、<マーシャルⅡ>に乗り込んだ配下へ合図を掛ける。

 

『──全員俺に続けぇ! 《エネミー・ファイア》!!』

 

 彼の絶叫と共に打ち出されるエネルギー弾。

 そして、それに続いて高威力の弾丸が次々に街中に浴びせられた。

 

 街のあちこちから火の手が上がり、逃げ回る敵の悲鳴が(つんざ)く。

 だが、そんなものお構い無しとばかりに第二、第三の弾が炸裂する。

 まさに阿鼻叫喚。

 敵にとってそれは地獄に等しかった。

 

 そして、後に残るは敵の親玉、【反将軍(テロ・ジェネラル)】ただ一人となった。

 

 

 

 ──はたしてこれで良かったのか。

 

 確かに敵は倒せただろう。

 だが、それでは民衆は? 建物は?

 敵同様に死んだのでは? 破片すら粉々に破壊されたのでは?

 

 ──答えはどちらも(NO)

 

 あれだけの絨毯爆撃を行っていながら、民衆にも建物にも傷一つつかず、犯罪を行った者達のみがデスペナルティ、完全死亡へと導かれた。

 それは一重に【民将軍】である権兵衛、そして先程到着した【建将軍】である林坊がそれぞれ民衆、建物を囲ったおかげである。

 ともあれ【反将軍】を残して犯罪集団は壊滅することとなった。

 

 唯一残った【反将軍】。自身のスキル、《アナーキー・ディストピア》によってパーティ内のほぼ全てのHPを自身に振り分ける事によって生き残った彼だったが、【グリバウン】の思わぬ反撃には完全に虚をつかれる形となっていた。

 

「チッ……今、貴方の機体をジャックしました。何かしらの動きを見せた瞬間にその魔力を暴走させて爆破します」

 

 苦し紛れに発した言葉。だが、それは決してブラフでは無い。

 

 彼の<エンブリオ>はTYPE:カリキュレーター・ワールドであり、その範囲は約1キロメテル程。

 それは【グリバウン】に乗り込むザクなぞ容易く囲んでしまえるものであり、そのスキルにより、たった今【反将軍】はその機体(グリバウン)の命運を自身の手の内へと収める事に成功した。

 

 が、バカはバカ故に止まらない。止まれない。

 

『うぉぉお!! 暴走がなんぼのもんじゃぁい!!』

 

 確かに彼はバカである。

 だが、バカはバカでも、彼は相当の戦闘バカであった。

 

「あ、バカお前──」

『轟けぇ! 《灰に亡れども(グリバウン)》ンンン!!』

 

 【反将軍】の言葉など意にも介さず、権兵衛の声が届くことも無く、ザクは一切の躊躇無く必殺スキルを使用した。

 

 【グリバウン】からシュウウウ、と何かが溶けだす様な、語弊を恐れずに表現するならお風呂に入れた固形の入浴剤が溶ける様な音が鳴り出す。

 いや、事実【グリバウン】は溶けている。そして溶けた部分からは白色の濃い煙が噴き出している。

 

 【グリバウン】の必殺スキル、《灰に亡れども(グリバウン)》は時間制限付きで自身と、自身の全兵装を超強化するスキルである。

 時間制限とは煙と共に溶け、灰と化してゆく【グリバウン】が完全に消失するまでであり、その時間は極僅かである。故に強い。

 【ハンドキャノン】よりぶっぱなされるエネルギー弾は、自身のパーティ内の配下の<エンブリオ>や【観測操縦士】などのスキルによる精密操作により、正確無比に【反将軍】一点へと集中した。

 

 《アナーキー・ディストピア》により、およそ三百人分の膨大なHPを持つ【反将軍】であったが、その銃撃の前には無力であり、そのHPはまるでじくに油を染み込ませた蝋燭の様に急速に消えていった。

 

「あークソ! 話聞けよダボが!! もう知らねえ! 爆ぜろ!」

 

 人よりは気が長いはずの【反将軍】ではあるが、ここまで自身の思い通りにいかないとは思っていなかった。故にキレた。緒が、堪忍袋の緒が。

 

「《徒に消えゆくもの(ピクシー)》!!」

 

 そして必殺スキルが発動される。

 【グリバウン】に罅が入り、その隙間から閃光が迸る。

 

「間に合えぇ! 《大衆先導》!!」

 

 ──そう、大爆発だ。

 

 ◇

 

 爆心地。

 爆発したのはバルバロス辺境伯の一部分、およそ6%程である。しかし爆発の影響を受けたのは闘技場の近く、つまり都市の中心であり、その被害は甚大に過ぎるものであった。

 

 炎が立ち上り、灰が舞い散る、その地に【反将軍】は居た。

 自身の目に入る範囲に人は一人も居ない。だが遺体すら無いのはおかしい。光の塵になるには早すぎる。経験値も入ってない。逃げられたか。

 

「あー……生きてるわー。死にそう」

お互い(・・・)命拾いしたな、死ね」

 

 背後から聞こえる声。咄嗟に振り向く。

 【マーシャルⅡ】に乗り込んだザクⅩは、普通サイズの【ハンドキャノン】、その筒先を【反将軍】へと向けた。

 

「……はーおもんな」

 

 ──爆音が轟く。

 

 ◇

 

 こうして、【民将軍】率いる<アーミー・コー>の尽力により、バルバロス辺境伯の平和は守られる事となった。

 

 しかし、【反将軍】の起こした【グリバウン】の大爆発により、辺り一面は爆心地と化してしまった。

 それによる被害は甚大であり、建物は言わずもがな、死者こそ出なかったものの、《生渇保護》では守りきれなかった者達が重傷を負う事となった。

 

「…………あー、また失敗した」

 

 権兵衛の一日は、今日も失敗に終わった。

 

 ◇◇◇

 

 □■

 

 その<マスター>、【民将軍(モブ・ジェネラル)】権兵衛・ドウ。中身はただのおっさんだが、そのがわ(・・)には計り知れないほどのポテンシャルを持つ。おおよその普通の者とは真逆の存在であると言えよう。

 

 その<エンブリオ>、未だ見えず。

 それは昼にのみ姿を現す。まさに月と対局の存在と言えるだろう。

 

 彼は民の味方であり、民を味方にする完全民主主義者である。

 

 

 〖政治家(デマゴーグ)〗。権兵衛・ドウ。

 

 




 □クランについて

(U ^ω^)<非公式クラン<アーミー・コー>のサブオーナーはみんな変な人です

[ 'ω' ]<非公式なのか……

(U ^ω^)<エンジェルアドバンス、アナザーレギオン、インベイジョンラビリンス、って言えばどのくらい変なのか分かってくれると思う

[ 'ω' ]<変だな

(U ^ω^)<そしてオーナーはもっと変です

(U ^ω^)<でもまあそっちはおいおいね



 □権兵衛の<エンブリオ>について

(U ^ω^)<今回は出ませんでした

[ 'ω' ]<分かっていることと言えば、昼しか姿を現さないって事か

(U ^ω^)<上の3つ(アドバンス、レギオン、ラビリンス)のどれかってのは間違ってないよ

(U ^ω^)<後は……最初のあの歩きスマホデバイスは<エンブリオ>の一部です



 □ジョブについて

民将軍(モブ・ジェネラル)】:民衆指揮特化型超級職
操将軍(ギア・ジェネラル)】:有人兵器指揮特化型超級職
反将軍(テロ・ジェネラル)】:犯罪指揮特化型超級職
建将軍(ログ・ジェネラル)】:建築指揮特化型超級職
聖将軍(エル・ジェネラル)】:聖職者指揮特化型超級職

紅将軍(ゴア・ジェネラル)】:???指揮特化型超級職


【■将軍】:■■指揮特化型超級職

(U ^ω^)<こんな感じ

[ 'ω' ]<将軍職は嫌いだ

(U ^ω^)<なんで?

[ 'ω' ]<蹲ってたら目の前で皆で殺し合いしだすから

[ 'ω' ]<ヒルコの情操教育によろしくない

(U ^ω^)<それ君が悪いよね



 □【反将軍】弱すぎない?

[ 'ω' ]<結果だけ言えば惨敗だな、最後のも言わば自爆だし

(U ^ω^)<だってこんな街中で被害考えずにぶっぱなすと思ってなかったし……

(U ^ω^)<こちらに交渉にやってくるであろう人辺りを脅しつつ時間を引き伸ばし、裏から《軍団》の数の力で着実にバルバロスを乗っ取ろうと思ってた

(U ^ω^)<だけど<アーミー・コー>にやられた

(U ^ω^)<ちゃんとローガンがログアウトしてから事に及んだのに

[ 'ω' ]<あ、ローガン居なかったのか



 □で、あのあとどうなったの?

(U ^ω^)<爆心地になった所その他【反将軍】により爆破された建物は【建将軍】率いる【大工】とか【建築士】とかが1日で何とかしました

(U ^ω^)<最初と最後の爆破で出た少なくない数の怪我人は【聖将軍】率いる【司祭】や【信者】の方達が治しました

[ 'ω' ]<【反将軍】はどうなったんだ

(U ^ω^)<デスペナったけど別の国でもセーブしてたから普通にシャバにいるよ



 □ちなみに

(U ^ω^)<ザクくん達が絨毯爆撃した時に民衆と建物が傷つかなかった理由

(U ^ω^)<作中では説明されていません

[ 'ω' ]<民衆については《生渇保護》のおかげじゃないのか?

(U ^ω^)<うんにゃ、そのスキルではあの絨毯爆撃は普通に耐えられないよ

[ 'ω' ]<ならどうやったんだ?

(U ^ω^)<……いつか出せるといいよね!

(U ^ω^)<多分僕の出番よりさらに後で解明される

[ 'ω' ]<そんなの一体何年かかるんだ……

(U ^ω^)<馬鹿にしてるよね? ねえ馬鹿にしてるよね?

[ 'ω' ]<してる

(U ^ω^)<……まあ、あの時は民衆は【民将軍】が、建物は【建将軍】がパーティに囲ってたからね


 ◇


(U ^ω^)<次回、光と闇が合わさり割と強いあの“七輝夜煌”、“光の御旗”なあの人の原型

[ 'ω' ]<原型どころか完成系を知らないんだが

(U ^ω^)<ではまたいつの日か
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