線で結ぶ千と一夜の物語   作:七草青菜

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またいつの日か(明日じゃないとは言ってない)


四人目 極光と冥闇

 □どっちつかずな話

 

 そこは暗かった。

 

 何も、何にも見えなかった。

 

 故に光を欲した。

 

 追い求めて、追い縋って、やがて極光を手に入れた。

 

 だけど、そこは眩しすぎて、やっぱり闇が恋しくなった。

 

 

 

 だけど、そこは暗すぎて、やっぱり光が恋しくなった。

 

 ◇◇◇

 

 □【暗黒騎士】カノッピ

 

 インフィニット・デンドログラムに、そしてアルター王国に降りたって早半年。ここに来て俺は最大の壁にぶち当たっていた。

 

「【聖騎士】取れねえ……」

 

 そう、騎士系統上級職である【聖騎士】に就けないのである。

 

 

 そもそも【聖騎士】に転職するには条件が三つある。

 

 一つ目が“亜竜級以上のボスモンスターを自分で50%以上のHPを削って討伐する”こと。

 

 二つ目が“教会に20万リル寄付する”こと。

 

 そして三つ目が“騎士団関連の主要人物の推薦を受ける”ことだ。

 

 この三つのうち一つ目と二つ目は既に達成している。どちらの条件も上級<エンブリオ>と上級職を持つ俺にとって簡単な作業だった。

 強いていえば、教会に赴いた際に附属されている孤児院の子供達に懐かれた時は中々大変だったくらいかな。

 

 だが、三つ目の条件、これがなかなかに厳しいものだった。

 

 まず、<マスター>である俺に騎士団の主要人物、つまり貴族とのコネなどあるはずもない。

 ゲーム開始初日に近衛騎士団副団長にぶつかってしまい高難易度クエストに巻き込まれる事など、有り得ないのだ。

 だから貴族に取り入るために騎士団の詰所まで訪れてもみたが、軽く門前払いをされてしまった。

 

 というのも、教会に20万リルを突っ込んだことでお金が殆ど無くなってしまい、騎士としての正装でもある鎧を買うことが出来なかったのだ。

 

 ん? 仮にも騎士職である【暗黒騎士】なんだから鎧くらい持ってるだろって? 

 そう、何を隠そう、それこそが俺が【聖騎士】に就けない最大の理由なのだ。

 

 曰く、【暗黒騎士】に就いている者に【聖騎士】に就かせる訳にはいかない、と。

 

 どんな罠だよとは思ったが、言われてみれば当たり前で、呪術師(物理)な【暗黒騎士】が【聖騎士】という真逆とも言えるジョブに就けるわけがなかった。

 ゲームなら何とかしてくれとは思ったがここはリアルさを極限まで追求してるデンドロ。その程度の制限はあって当然だったのかもしれない。

 

 と、言うわけで、俺が普段使ってる呪われた鎧を装備していく訳にもいかず、泣く泣く普段着で向かった訳だ。まあ、仮に鎧が買えていたとしても【暗黒騎士】だとバレたら元も子も無かったのだが。

 

 という事で、俺が【聖騎士】になるのはほぼ不可能になった。

 

 だが、だがしかし、【暗黒騎士】と【聖騎士】という二つのジョブの両立はやはり捨て難い。俺の中の厨二心が囁くのだ。光と闇が合わさったらわりと最強だぜ、と。

 

 ……気ままに探すかぁ。

 

 ◇

 

 狩りに出る。討伐よりは決闘の方が好きだし自信があるんだが、いかんせん俺の<エンブリオ>は観戦者達に評判が悪い。俺が本気を出せば上位ランカー入りなんて楽勝なのに。多分。

 

 む、《危機感知》に反応あり。

 

「おっと、《カースド・アッド》」

 

 スキルにより呪いの出力を上げた剣で振り返りざまに切りつける。

 敵の正体はゾンビ。正式名称は【リフレッシュ・ゾンビ】というらしい。人型アンデッドとかおおよそ森に出るモンスターじゃないと思うんだが……ティアンでも死んだか?

 

 攻撃の方は思いの外当たりどころが良かった様で、肉の切れる鈍い音と共に返り血と肉の破片がこちらまで飛び散った。

 戦闘終了だ。

 

「おぉ……グロい」

 

 生暖かい体組織の感触が非常に気持ち悪い。しかも経験値は入ってこない。【暗黒騎士】のレベルは既にカンストしているからだ。スキルレベルを上げるため、そして金を稼ぐ為にも戦闘を行う必要はあるが、出来ればアンデッドとは戦いたくないもんだな。

 何のために【墓標迷宮】を避けたのか分かりゃしない。

 

「うへぇ……気持ち悪いなぁ」

 

 軽く落胆しつつも、とりあえずは一息ついた俺は先程の戦闘開始時にズレたサングラスを定位置の額に掛け直す。手鏡で確認。よし、イケてる。

 

 意気揚々と森の奥へと進んで行った。

 

 ◇

 

「ん、悲鳴か?」

 

 道無き道を、抑え目にした光源を頼りに進んでいると、何処かから甲高い悲鳴が聞こえてきた。

 

 こんな夜遅い時間にこんな森の奥深くに来る命知らずなティアンは居ないだろうし、<マスター>か?

 でも<マスター>があんな真に迫った悲鳴上げるかな? 肝試しでもしてんだろうか……。

 

「……まさかな」

 

 一応見に行ってみるか。万が一取り返しのつかない事になったら寝覚めが悪いし。

 たとえ何も無かったとしても笑い話になるしあわよくば悲鳴の主とお近づきになれるやもしれぬしな……うむ。

 

 スピード上げてこう。

 

 まるで誘蛾灯に群がる害虫の様に俺の抑え目の光源へとやって来るモンスター共を《告別の黒闇》を用いてバッサバッサとなぎ倒し、悲鳴の元へと急ぐ。

 

 そして全力で走り続けること早数分。

 元々森の奥ということもあり、薄暗かった景色がより一層暗くなってきた。

 日が落ちただとかそういうことじゃあない。悲鳴の元に近づくに連れて禍々しい闇が深くなっていく。

 十中八九この先に闇の大元がいる。悲鳴の主の安否が心配だ。

 

 頼むから、最悪の結末にはなってくれるなよ……。

 

 ◇

 

 ──はたして、そこには闇があった。深淵の底よりもなお暗いその闇は、光というものを置き去りにしたかのように、はたまた漆黒の絵の具を空にベタ塗りしたかのようにそこに存在していた。

 

 そして、その黒い塊のそばには一人の少女がいた。

 少女は膝を抱えてうずくまり、自らの最期を思いガタガタと震えていた。

 

「──《逸灯星(トップ・スター)》!」

 

 脊椎反射で身体と口が動く。

 まず初めに今まさに少女に襲いかかろうとしている黒い塊に向け、剣を構えて飛びかかる。

 次に俺の<エンブリオ>のスキルによって俺と黒い塊の前にいい具合の光源を出現させる。

 

 すると、黒い塊は俺が出したいい具合の光源に反応してその動きを止めた。

 

 よし、誘いにはちゃんと乗るな。やりやすい。

 そしてもちろん隙は逃さない。

 

 教えてやろう、俺の得意なことは不意を打っての最大火力ぶっぱだ!

 

「《ダーク・エンチャント》、《リバース・クルセイド》!」

 

 地獄より迸る致命の漆黒により、黒い塊が闇に呑まれる。

 なんの予備動作も無く唐突に現れたそれに黒い塊は囚われ、逃げ出そうともがきだす。

 逃がさない。

 

 ──かーらーのー、

 

「《告別の黒闇》、《カースド・アッド》、《アビス・セイバー》!!」

 

 《リバース・クルセイド》により生命エネルギーを削りつつ逃げないように地面に縫い付けたソレにやっと身体が追いつく。

 俺は剣を大きく振り被り、自分の【暗黒騎士】特有のHP減少によるバフをHPを削り過ぎないように調整しつつ行い、もがき続ける黒い塊を呪いを纏った剣で切りつける。

 

「オラァ、くたばれやぁ!!」

 

 血こそ吹きでないものの、確かな手応えを感じた。

 

 おそらくスライム系統のモンスターか、もしくは実体のあるエレメンタルか。どちらにせよ核は潰せてないしドロップアイテムも落ちてない。

 まだ油断は出来ないな。

 

 綺麗に着地を決めた俺は少女を避難させるべく手を差し出す。

 

「おい、ここは危険だ、ひな──」

「──いやぁ! 新たな敵襲ですわ!?」

「それは酷くね!?」

 

 確かに【暗黒騎士】のスキル特有の闇的なエフェクト纏ってるけど! ここに来る途中に斬り伏せたモンスターの血とか肉片が身体中についてるけど!

 ちなみに血とか肉片が消えずに残ってるのは俺が装備してる呪われた鎧のスキル、《血肉を糧に》の効果であり、時間経過で勝手に吸収されるのだが。

 

「って、人……ですわ?」

「そうそう、今【リフレッシュ・ゾンビ】と格好あんま変わらない自信あるけどこの知能と簡易ステータスで信じてくれ」

 

 【リフレッシュ・ゾンビ】っていうモンスターは名前の通り生前とあんまり変わらない姿形をしていて、斬るのにすごい抵抗があった。まあ、仲間のなのか自分のなのか知らんがすごい血まみれだったけど。

 

「ごめんなさい、わたくし気が動転していて……助けていただきありがとうですわ」

 

 このお嬢様口調、姫騎士を彷彿とさせる装備……貴族の娘か何かか?

 いや、だとしたら、何でこんな森の奥に……。

 

 ってそんなこと考えてる場合じゃねえか。

 

「ああ、礼もいいが……」

 

 奴の切られた箇所がくっついて、徐々に再生していく。

 

「まだ戦いは終わってないぞ」

 

 俺は少女を自分の後ろに庇い、剣を構えた。

 

「え、生き返ったですわ!?」

「いや違う、おそらく敵の種族はスライムかエレメンタル。身体をくっつけて再生くらいならするだろう……ん?」

 

 だが、それにしては再生が速いような……それに何だか奴の身体が膨張して……ってまさか!

 

「あ、もしかしてコイツ闇属性吸収系かっ!?」

 

 やっべ、迂闊だった。

 これまでの俺の攻撃は全部ヤツにとって何の驚異でも無かったって事かよ。てか明らかに闇そのものっぽい時点で気づくべきだった!!

 

 そして、闇属性吸収系の敵だという事で、俺の戦闘系スキルのほぼ全てが使い物にならなくなった。

 

 NPC(ティアン)を庇いながら自分の不利な敵と、か。これはキツい戦いになるな……。

 

 と、そこで、分かたれていた二つの身体を再生させ、そして膨張させた黒い塊は、大きく()を広げた。

 

「あ、悪魔ですわ!?」

 

 いや、違う。あれは……、

 

「……鳥だ」

「と、鳥って、そんなわけ……」

 

 先程までは暗すぎて見えなかったが、《逸灯星》の光に照らされその輪郭が朧気ながら見えてきた。

 【獄落鳥 ベンタブラック】。それが奴の名前らしい。

 

 そして、こいつはスライムでもエレメンタルでも、ましてや悪魔でもない。

 

「──こいつは怪鳥だ。ほら、翼以外にもどことなく鳥の形をしている」

 

 《逸灯星》を【ベンタブラック】の顔へと近づけると、そこには鳥としての特徴であるクチバシや、羽毛の形のみが、凹凸の感じさせないベタ塗りの輪郭から見て取れるだろう。

 

「ん?」

 

 俺の《逸灯星》に【ベンタブラック】が大きく反応し、避けるように更に上へと飛び上がった。

 

HOAAAAAAA(暗黒侵食)!!」

 

 【ベンタブラック】は、戦闘が始まって初めて鳴いた。

 まるで、今この瞬間、俺達を敵と認めたかのように。

 

 そして、その瞬間【ベンタブラック】がその身をより一層膨張させる。

 

「大きくなったですわ!?」

「くっ、《鳥獣切り》!」

 

 俺が横凪に振るった剣は【ベンタブラック】を深く切り込むが、奴はすぐさま損傷箇所を闇で覆うことで再生した。

 

「全然通らねえ……」

 

 おそらく奴は条件特化型、闇の中でのみその力を発揮するタイプ。更には自身の手によっても闇を生み出すことが可能。

 と、いったところだろうか。

 

 更に付け加えれば今は真夜中であり、奴のコンディションはバッチリか、もしくはそれ以上。

 

 俺も闇属性に分類されない【騎士】などのジョブスキルを使い応戦するが、全くと言っていい程手応えは無かった。

 

「HOAAAAA!!」

「うるせえ! ここで起死回生の【ジェム-《セイント・ブロウ》】を喰らえ!!」

 

 ガチャで当ててからアイテムボックス内に死蔵しといて更にそのまま忘れかけていた聖属性の上級攻撃魔法である【ジェム】を取り出し、奴に投げつける。

 

 爆音と共に聖属性の衝撃が降り注ぎ、奴に直撃する。

 

「やったですわ!?」

 

 あ、それ言っちゃダメなやつ。

 最近はフラグを立てると逆にへし折れる事もあるらしいけどそれに限っては不動のやつだから。絶対不朽のやつだから。

 

「HOAA?」

 

 効い……て、無いな。若干の硬直を見せた後、輪郭が若干朧気になった【ベンタブラック】だったが、すぐに元のベタ塗りに戻ってしまった。

 

「HOAAAAAAA……」

 

 【ベンタブラック】が迫る。

 奴は自身の絶対的な有利が分かっている様で、じっくりと嬲るように迫る。

 

「も、もうおしまいでずわぁ!! お父様、お母様、勝手に抜け出してごめんなさい! いい子にするから助けてえ!」

 

 あまりの恐怖に若干幼児退行している少女に、俺はそっと語りかける。

 

「落ち着け、俺が着いてるだろ?」

「落ち着けるわけないですわ!! 貴方の攻撃は先程全部吸収されたでしょう!?」

 

 いやいや、

 

「【暗黒騎士】としての俺が対処されたくらいで終わりだと思ってるなんて、そんなんじゃ<マスター>理解検定三級にも及ばないぞ」

「そ、そんなのあるのですわ?」

「ないけど」

「ですわっ!?」

 

 君結構余裕あるね。

 

「大丈夫、大丈夫だ。こういうの(絶望の状況)を何とか出来るのが、<マスター>って奴らなんだぜ?」

 

 少なくとも、俺は何度も覆してきたし、覆したやつを見てきた。

 

「そういや、君名前は?」

「……フランソワ、フランソワ・リュミエールですわ」

 

 ……へえ、そりゃあすごい偶然もあったもんだな。

 

「そうか。じゃあ、フラン」

「……なんですわ」

「──俺がお前を守ってやる。だから安心しろ」

 

 我ながら臭いセリフだよ。まあ、ティアン向けならクサイ位がちょうどいいかな。

 

「そ、そんなこと言ってる場合じゃないですわ! 後ろ!」

「おっと、《逸灯星》」

 

 フランの首をぐりんと180度回転させ、背後にわりと本気の光源を出現させる。

 フランの小さな背中から抗議の念が放たれるが危なかったので勘弁して欲しい。

 

 そして【ベンタブラック】の方はというと、光をモロに受けてしまったのか、翼の部分が丸く抉れていた。

 

 ◇

 

 ここでこれまでの戦闘を少しおさらいしようかと思う。

 

 俺はこの戦闘を継続する上で、奴のおかしな行動を度々目にした。

 

 まずは最初の奇襲のとき。俺は抑え目の《逸灯星》を奴の背後に出現させた。

 すると、奴はその身を硬直させた。

 

 これだけならば普通に奴が新たな敵に反応しただけだと思っていた。

 

 だが、奴の顔付近に《逸灯星》を近づけたとき。奴はその光に大袈裟な程に反応し、まるで逃げるように上へと飛び立った。

 そして、まるで周りの空間を補完するようにその身()を膨張させた。

 ここで俺は少しの違和感を持った。

 

 

 

 そして今。

 ようやく俺は確信に至ることが出来た。

 

 ──奴は光を嫌う。

 

 俺達が今の今まで死なずに済んでいるのも、俺の《逸灯星》で俺達の周りを囲んでいるからだ。

 その結果により、奴は俺達に近づくことが出来ない。そして俺達は奴にダメージを与えることが出来ない。故に戦闘は膠着状態に陥っている

 

 だが、その丸く抉れてしまった羽根を確認し、こちらも確信に至った。

 やはり、このモンスターは光がダメージになる。

 

 光による熱量(火属性)でも神聖(聖属性)な光でも無い。純粋な光属性の輝きこそ、奴にとってのダメージとなる。

 おそらく、《液状生命体》ならぬ《闇状生命体》の様なスキルでも持っているのだろう。

 

 全く、聖属性が弱点の闇属性とか死属性のモンスターはいくらでも見てきたけど、光属性のみがピンポイントで弱点のモンスターとかデンドロやってて初めて見たわ。

 

 で、

 

「ほう、やっぱお前は光が弱点なのか、そうかそうか、ふーん」

 

 いやぁ、一時はどうなる事かと思ったが、何とかなりそうで本当に良かった。

 

HOAAAAA(冥闇侵食)!!」

 

 【ベンタブラック】はというと、こちらに対抗できる手段があると分かると、すぐさまこちらを打倒しに動きだす。

 相も変わらずその身を膨張させ続ける【ベンタブラック】だったが、奴のひと鳴きと共にその()の性質が変わった。

 奴に呑まれた周りの木々がみるみるうちに枯れていく。おそらく生命エネルギーを吸っているのだろう。

 

 俺は額のサングラスを外す。

 

「なに余裕かましてるですわ! 迫って、迫ってくるですわぁ!!」

「あ、ちょっとこれかけてて」

「これなんですわぁ!?」

「《明視》付きのサングラス。……まあ、かけなかった場合の命の保証は出来ないな」

「ひいっ」

 

 ちなみに《明視》とは《暗視》の光バージョンであり、光に目が慣れる様な感じで極度の明るさから目を保護する効果がある。

 このサングラスはその《明視》をレベル最大の状態で保持している。これを買うために当時の俺は私財の八割を使い切った。

 普段使いの鎧や剣より高いサングラスってどうなんだろとは思うがこれが無いと自滅するので手放せない。

 

 まあ、今から自滅するんだけど。

 

 【ベンタブラック】はその()を膨張させながらゆっくり、ゆっくりと辺りを呑み込み、迫ってくる。

 

 そんなおぞましい光景に、流石に余裕の無くなってきたフランは怯え、丸くなっている。

 俺はそんなフランを庇うように前に立ち、最大威力の光源を呼び出す。

 

「《蒼磨灯(オーバー・スター)》」

 

 六つの《逸灯星(光源)》で囲んだその中央、つまり【ベンタブラック】のちょうど真上に、青い光がポツリと出現する。

 その光は弱く淡いもので、すぐに消えてしまいそうなか弱さがあった。

 なので、こいつを今から磨かないといけない。

 

「《献磨(カット)》」

 

 六つの《逸灯星(強い光)》が《蒼磨灯(弱い光)》の元に集結し、その周りスレスレの所を回り始めた。

 やがて六つの光からその光力が徐々に失われていく。まるで自らの力を託すように萎んでいくその光達、だが、代わりに《蒼磨灯(一つの光)》がその光を受け継がんとばかりに大きく、強くなっていった。

 

「HOAAAAAAAA!!?」

 

 

 ──ナゼダ。

 

 ──ナゼコウモアカルイノダ。

 

 ────マブシイ。マブシイ。

 

 

 そんな【ベンタブラック】の嘆きが聞こえてくる様な気がする。

 

 いや、本当に可哀想な奴だよ。おそらく俺以上にお前にぶっ刺さってる奴は世界中どこ探してもいないと思うぞ。

 

 そろそろ決めるか。かっこよく、な。

 

 俺は左手を真っ直ぐ目の前に突き出し、そして強く握り込んだ。

 

「掻き消えろ、──《至琉素(シリウス)》」

 

 

 白に染まって──

 

 

 ◇

 

【<UBM>【獄落鳥 ベンタブラック】が討伐されました】

 

【MVPを選出します】

 

【【カノッピ】がMVPに選出されました】

 

【【カノッピ】にMVP特典【獄落双鏡 ベンタブラック】を贈与します】

 

 ◇

 

「目が、目が痛いですわー!?」

「あーあー、大丈夫か? ちゃんと俺が渡したサングラスかけたか?」

「かけたけどすっごく眩しかったですわ!!」

 無事討伐アナウンスが頭に響いて数分。ようやく極光が収まると、緊張の解けたフランが目の痛みを訴え始めた。

 

 まあ、あのサングラスでも俺の必殺スキルを完全に防ぎきるのは流石に無理だったということかね。《蒼磨灯》まで使って本気で必殺スキルを使用した事が無かったので、あの場面は実は結構ギリギリだったのだ。

 

 ちなみに、俺が必殺スキルを使用するのをあんなにも躊躇ったのにはもちろん理由がある。

 その前に俺が放った《蒼磨灯》はいくつかの条件によりその明るさを限界まで引き上げる事が出来る。

 一つは“《逸灯星》を現在出せる上限、つまり六つまで出現させ、その光量を最大にしておく事”、もう一つは“《研磨》を使用し、《逸灯星》の光で《蒼魔灯》を磨きあげる事”だ。

 他にも色々と条件はあるんだが、ややこしいので省く。

 

 そして必殺スキルである《至琉素》を使い、その光を更に強いものへと変化させた、という訳だ。

 

 普段は《蒼磨灯》なんてめんどくさいスキルは使わないんだが、今回はありったけの光をぶつけないとこちらがやられそうだったのと、ちょうど使用条件を全て満たしていたので本気の光を作り上げたのだ。

 

 っと、

 

「あったあった」

 

 アイテムボックスから手先の感覚だけで目当てのブツを見つけ出す。

 そしてそれを目をくしくししている気配のするフランに手渡しした。

 

「ほい、【劣化万能霊薬(レッサーエリクシル)】。これを目薬代わりに使いなさい」

 

 痛いですわー、じんじんしますわー、と恨み言を呟きながら目薬をさすフラン……え、できないの? しょうがないなぁ、ほら、顔上にむけて、はいポトン。ちゃんと落ちた? ほい、じゃあ目をしぱしぱさせてー。

 

「まだちょっと痛いですわ……」

「ごめんて。流石に<UBM>相手に出し惜しみとか出来ないし。現に俺も今【失明】してるし」

「……え、【失明】?」

 

 そう、フランに渡したのは俺のサングラス。ということは、必然的に俺がかけるサングラスは無いわけで、つまりあの光をモロに受けたわけで、絶賛目が見えませぬ。

 

「んー、ま、問題無い問題無い。【劣化万能霊薬】ではちょっと治りそうに無いけど、伝手はあるから」

 

 【薬学王(キング・オブ・ファーマコロジー)】のあいつとか【聖将軍(エル・ジェネラル)】のあの人とか。

 俺より先に超級職になりやがったあいつらならどうにかしてくれるだろう。てかしてくれないと困る。あの時やあの時の借りを返して貰わねば。

 

「それでは──」

 

 ん?

 

「改めまして、助けてくれてありがとうございますわ!」

 

 ああ、そうか。人助けしたんだな、俺。

 

「いいよいいよ、結果的にではあるけどこっちにも大きな収穫もあったし」

 

 【獄楽双鏡 ベンタブラック】。

 世界に一体しか存在しないボスモンスター。その魂と概念を具現化させた唯一無二のアイテム。

 特典武具なんてそうそう拝めるものでもないし、それを俺が手に入れたなんて未だにちょっと信じられない。

 

「いいえ! それだけではわたくしの気がすみませんわ!」

 

 ほんとにいいのに。

 逆に感謝したいくらいだ。

 <UBM>に襲われてくれてありがとう……いや絶対違うな。

 

「お礼に何でも仰ってくださいな! リュミエール家の名にかけてどんな願いでも必ず叶えて差し上げますわ!」

 

 おお、この言い方はやはり貴族。

 

 で、言っちゃいましたか……。

 

「……ほう、なんでも、と?」

 

 その言葉は禁句だぜぇ? ほんとになんでもしていいのかぁい?

 

「…………はっ!? も、もしかして、わたくしに、エ、エッチな事を?」

「え、していいの?」

 

 割とするよ? 俺割と普通にするよ? 現実ではしないけど、ゲーム内ならするよ? ましてやティアンとか……うん、する。

 

「ダ、ダメに決まってますわ! そういうのは心に決めた殿方とだけにしなさいとお母様も仰っていましたし……」

「リュミエール家の名にかけてーどんな願いでもーなんちゃらー」

「そ、それは……」

 

 やば、この子からかうの楽しい。

 

「はっは、ごめんごめん冗談だって」

「じょ、冗談!? 酷いですわ! 乙女の心を弄ぶなんて!」

「ごめんて」

 

 フランがポカポカとグーで殴ってくる。全然痛くない。むしろ微笑ましい。

 

 やがて疲れてしまったのか、ようやくフランの猛攻が止む。

 そのタイミングで俺は口を開いた。

 

「あ、そうだ。フランはなんでこんなとこにいたんだ?」

 

 それがずっと引っかかっていた。俺が見る限り(見えない)フランは完全にティアンだろうし、こんな森の奥深くに一人で来るとかすごく危ないことだと思うんだか。

 

「そ、それは……」

 

 フランは口を噤む。

 

「怒んないから、お兄さんに話してご覧?」

「いや貴方、わたくしと歳そんなに変わらないでしょう!」

 

 少し茶化してみたりもしたが、やっぱり言いたく無いようだ。

 これは結構重い話なのだろうか。

 

「まあ、別に、言いたくないなら言わなくてもいいんだぞ?」

「……いえ、命の恩人に対してそんな恥知らずな事……出来ませんわ」

 

 それでもフランは大分言い淀んでいる様で、結局数分程の時間を置いた後、ポツリポツリと語り始めた。

 

「……お父様が言いましたの、お前を【聖騎士】にさせられない。お前はまだ子供なんだって」

 

 ……【聖騎士】。

 

「それでついカッとなって言ってしまったの、お父様なんて大嫌いって」

 

 ああなるほど。親子喧嘩か。

 

 けど、その結果こんな森の奥深くに来たんじゃあ世話ねえな。

 

「それは……いつの間にかこんな所まで来てて」

 

 いつの間にかで来れるほど生易しいフィールドじゃないんですが……。

 

 聞けば、フランは下級職六つを既にカンストさせ、【聖騎士】の転職条件である、“亜竜級以上のボスモンスターを自分で50%以上のHPを削って討伐する”も満たしていると言う。

 

 ティアンで下級職を六つ全て持てるというのはかなりの才能だ(天地を除く)。フランは貴族なだけあってそこいらのティアンよりも大きな才能を保持しているらしい。

 

 その強さと、道中に強力なボスモンスターに遭遇しなかった運のおかげもあって、フランはここまで生き残る事が出来た、という訳だ。

 

「本当は分かってますの……お父様はわたくしに危ない道に進んで欲しくないって」

 

 なんだ、分かってるじゃないか。

 

「でも、わたくしは【聖騎士】として人々の役に経ちたいんですわ!」

 

 それも立派な志じゃないか。

 

 だが、それで父を退けるなんて間違ってると思うぞ。

 これは善意じゃない。ただの経験だ。

 

「……居なくなってからじゃあ、遅いんだぜ?」

「そう、ですわよね……」

 

 辺りは沈黙に満たされる。

 きっとフランは苦悩しているのだろう。

 

 やがてフランは決意と共に声を上げる。

 

「決めましたわ! わたくし、お父様に謝る! その上で、もう一度【聖騎士】に推薦して貰えるように頼みますわ!」

 

 あーいい子。すごいいい子。

 

「ほんと可愛いなぁ」

 

 あ、思考が口から出た。まあ、ティアンだしいいか。

 

「な、か、可愛い……!?」

 

 目は見えないけど、フランの顔が赤くなっていくのが何となく分かった。

 

 ◇

 

 帰り道。

 フランと俺はあれから一言も発することなく、黙々と森を抜けていった。

 俺は【失明】により目が見えないので、フランと手を繋ぎ、案内してもらう形になっている。

 

「あ、そういやお願いなんだけどさあ……」

 

 俺は立ち止まり、手を解くと唐突にフランに話しかける。

 これはさっきから言おうと思っていた事だった。

 なんだか変な空気になったのでタイミングを見て言おうと思ったが、そんなタイミングこなかったので今言う。

 

「…………もう、なんですの! 早く言うですわ!」

 

 恐らくは照れから早くと急かす彼女に、俺は気配を頼りに右手を差し出す。握手の為だ。

 

「俺も【聖騎士】に推薦してくれる様に頼んでくんない? 一緒になろうぜ、【聖騎士】」

 

 

 俺の光と闇が合わさり最強生活の幕が今上がった。

 

 

 ◇◇◇

 

 そのマスター、【暗黒騎士】カノッピ。リアルでの本名がカノン・リュミエールなのは偶然かそれとも運命か。

 ともあれ彼は修羅ではない。超絶的な技巧も、狡猾な頭脳も、狂気を孕んだ様な精神性も、彼は持ち合わせていない。故に多種多様なスキルを駆使した戦闘と、数多のゲームで培った経験を武器に彼は戦う(遊ぶ)

 

 そしてその<エンブリオ>、【青天星 シリウス】。

 それは光を生み出し、光を極光に変える。TYPE:エレメンタルワールドたるその<エンブリオ>が高めるものは明るさ。

 まさに光を追い求めた彼らしい<エンブリオ>だろう。

 

 

 それはこのインフィニット・デンドログラムにて、光を求め、闇を恋した遊戯派プレイヤーである。

 

 

救世主(ライト・ソース)〗。カノッピ。

 

 




(U ^ω^)<光と闇が合わさって実際割と最強な人

(U ^ω^)<あとラノベ主人公

(U ^ω^)<六つの《逸灯星》と一つの《蒼磨灯》、あと【獄楽双鏡】で“七輝夜煌”って呼ばれてる


 □<エンブリオ>について

(U ^ω^)<【青天星 シリウス】

(U ^ω^)<彼の<エンブリオ>は純粋な光エネルギーを顕現するものです

(U ^ω^)<故に熱は発生しません

(U ^ω^)<そのことについて何かしらの科学的な矛盾が生じているとしたら……

(U ^ω^)<ごめんちょ!

[ 'ω' ]<TYPE:エレメンタルワールド

[ 'ω' ]<エレメンタル???

(U ^ω^)<オリジナル枕詞です、エルダーじゃないです

(U ^ω^)<エンブリオの保有する属性そのもの、もしくはその性質を大きく引き上げた際に付いたり付かなかったりします

(U ^ω^)<別作のシャボンちゃんとかいつかこれになる可能性を秘めている


 □ちなみに

(U ^ω^)<彼が闘技場で嫌われてるのは

(U ^ω^)<眩し過ぎて何にも見えなくなるから

[ 'ω' ]<俺も嫌われてるぞ、俺以外何にも見えなくなるから(怒り的な意味で)

(U ^ω^)<それ君が悪いよね


 ◇


(U ^ω^)<次回、おみせやさんをしているかわいいおんなのこのおはなしです

(U ^ω^)<※ただしレジェンダリア民

[ 'ω' ]<あっ……

(U ^ω^)<見たり見なかったりしてね
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