□畦道遊歩
旅がしたい。ただそれだけだよ。
◇
□【超旅人】アッチュン
「あいたっ!」
“道”に反応あり。
ぶつけた? 頭かな?
いや、ここ大海原のド真ん中なんだけど。
「いったー……浮き島?」
「いや、どっちかというと浮き道かな?」
「うわ……え、人?」
うわ、か。
心に傷がつくな。
罅が入るかもしれない。
嘘だよ。
僕の心は鋼だからね。
いや、比喩だよ。
「え、船とか無いよね? え、道? 何で?」
混乱してる。
同じ立場だったら僕も混乱しそう。
するかは分からないけど。
「って、人!?」
あ、気づかれた。
自分から名乗るのは得意じゃないな。
それなら聴けばいい。
僕はそれに合わせるだけだ。
「君は?」
「え……わたしはシャボン! 【
消えそうな名前。
今にも消え入りそうな名前じゃないか。
名前だけ。
「僕はアッチュン。【
「よろしく! ねー、アッチュンはどうしてこんな海のど真ん中に立ってるの? その道ってなあに? ジョブスキル? それとも<エンブリオ>?」
元気。
少しうるさい。
……少しだけね。
「……内緒」
「そっかー、そうだよね! ごめんね、わたしゲームのマナーとかよく分かんなくて」
「なるほど」
確かにマナーが悪いと言われればそうかもしれない。
たった今出会ったばかりの人にスキルについて質問するのは。
でも、僕はただめんどくさかっただけだよ。
言わないけど。
「まあ、いいと思うよ。君なら」
彼女にならどんな人だって何だかんだで許してくれそうだ。
そんな気がする。
「ありがとう! で、アッチュンは何でこんなところにいるの?」
何でって、そりゃあ。
決まってるでしょ。
「旅をしてるんだよ」
旅人だからね。
旅人は大概旅をするものなんだ。
普通なら旅できないような所でも、僕は出来るんだ。
「そうなんだー」
「そうなんだよ」
……あ、話題が尽きる音がした。
いや、比喩だよ。
「……えーっと、この辺に休憩出来るとことかない?」
ここ靄が多くて先が見えないんだよね。
灯台とかもないし。
あるわけないし。
決めつけは良くないかな。
でも、無いな。
じゃあ決めつけても問題ないか。
「休憩かー……あ、そうだ! 《水脈感知》使えばいいんだ!」
なぜ水脈?
地と水は真逆だと思うけど。
あ、だからか。
水が無いところはすなわち地上だね。
どうやら彼女は頭がいいらしい。
少なくとも、僕よりは。
「むー……あ、見つけた! あっちだよ! 案内したげる!」
「おお、ありがたい」
どうやら彼女はいたく親切らしい。
少なくとも、僕よりは。
◇
「ねー、それって、道が伸びてるよね? 物理的に」
「そうだね」
「で、後ろの道は消えて言ってるよね?」
「そうだよ」
「……どうなってるの?」
好奇心。
さっき内緒にしたのに。
まあ、いいか。
案内して貰ってるし。
親切は回さないとね。
……ちょっとちがうか。
「これはね、僕の<エンブリオ>。道型のTYPE:チャリオッツだよ」
「へー! 道かぁ……すごく面白いね!」
そう、ユニークなんだ。僕の<エンブリオ>。
乗るためのものじゃなくて、乗られるためのもの。だからギアやアドバンスに派生しないでずっとチャリオッツのまま。
これがちょっと自慢だったりする。
アームズやキャッスルなんかと違って、チャリオッツは大体どっちかに派生してしまうからね。
人と違うというのは気分がいいよ。
「でもね、わたしの<エンブリオ>も凄いよ!」
「ほぉ」
興味がある。
ちょっとやそっとじゃ驚かないよ僕は。
色々見てきたからね。
土地置換とか寿司ネタ。幽霊なんかもいたなぁ。
全て旅の思い出だね。
「わたしのはこれ! お水だよ!」
紋章から出たのは水。
どばどば出ている。止まる気配はない。
そのまま海に溶け込んでいく。
……水?
「TYPE:エレメンタルアームズ! 超々純水の【原水源 オケアノス】です!」
それのなにが……いやまてよ?
なんの効果も無いただの水であるだけの<エンブリオ>?
「おお」
それはすごいな。
面白くもある。
一体どんなパーソナルならただの水なんていうエンブリオが発現されるんだろうか。
興味があるね、とても。
「あ、もうすぐ着くよ! あそこなら休めるよね!」
シャボンがひれをばしゃばしゃとさせている。
指さす先には小さな、それこそ人が五人も立てばぎゅうぎゅうになるような浮島があった。
「なるほど、そうだね」
ちょっと狭いけど、大丈夫だね。
旅人は宿を選り好みしないものなんだ。寝られる空間さえ提供してくれれば問題無い。ゆっくり休むのは、僕の仕事だからね。
と、着いた。
足を下ろす。
なるほど、しっかりとした島だね。揺れなければもっと良かったかもしれないけど。
「まとまれー! “水牢”」
シャボンはというと、何やら大きな水の球体を空中に作り出し、そこに飛び込んだ。
そしてその珠の淵に黄河でお馴染みの符を貼り付けると、さっきまで浮いているだけだった水球が、すいすいと泳ぐシャボンを中心にして、連動して動くようになった。
「何故水を……?」
「お水が無いと死んじゃうからだよ! カラカラになっちゃう!」
なるほど。
流石【人魚姫】って事か。
ちょっと違うか。
「じゃあ、お話しよ!」
「もちろん、構わないよ」
旅人は旅での出来事を旅先で話すものなんだ。
「君はグランバロア出身かい?」
「いや、わたしは黄河帝国所属だよ!」
「……ここと真逆じゃないかい?」
「そうだよ! 海を歩いてきたんだ!」
.......歩く? 足が見当たらないんだけど、比喩かな?
まぁいいか。僕は自分の話をしたいだけだからね。旅人は独りよがりでも許されるんだよ。
「なら、君は七大国家以外の国を知っているかい?」
「……七大国家?」
そこからなんだ。まぁ、教えてあげるよ。僕より親切な人なんて、それこそ星の数くらいしか居ないからね。
「七大国家っていうのはセーブポイントがある大きな国の総称だよ。ほら、チュートリアルのときに七つの国を提示されただろう?」
「えーと、いち、に……確かに!」
わざわざ指折り数える程でもないけどね。納得した素振りを見せるよりはいいと思うけどね。
「まぁ、話を戻すけど、このデンドログラムには七大国家以外にも国があるんだよ。俗に小国家なんて呼ばれてるね」
「はえー」
「みんな七大国家の方に目を向けがちだけど、小国家もなかなかユニークで特徴的なところがたくさんあるんだ」
「ほぅほぅ」
適当な相槌かな? いや、いい意味の適当だよ。話を遮られるよりは一言のいいリアクションで締めてくれた方が話しやすいよ。
「<デオドランド>とか<センザンコウ>とか、いろいろな国があったけど、やっぱり一番は<メネオン>かな」
あの国は本当、凄かったな。比喩無しでね。
「どんな感じなの?」
「とても寒かったね。でも暖かかったよ」
「んー? よくわかんないなー」
ああ、だめだな。また分からないように言っちゃったよ。
旅人は状況説明が得意でないといけないんだ。詩的な表現は詩人がすればいいんだ。まぁ、詩人は旅人だけどね。
「<メネオン>は<厳冬山脈>にある国なんだ」
「え、あの寒いところ!? あそこ国とかあるんだ!」
あ、<厳冬山脈>は知ってるんだ。自慢しずらくなったかな? そんなことないか。
「そう、国があるんだ。それも<マスター>が作った国がね」
「えー、国って作れるんだねー」
いや、作れないよ。普通はね。普通じゃない人は作れるけど。
「【スチーム・コア】っていうセーブポイント兼暖房装置が国の中心に備え付けてあって、国内は割と暖かかったな」
さすがは<超級>、“全知”のロードといったところだよね。
とまぁ、そんな感じで、僕と人魚姫はたくさんの話をしたんだ。主に僕が訪れた国の話だったけど、シャボンの言ってた人魚の国ってのは中々興味深かったな。いつか絶対いってみよう。
「じゃあ、そろそろ行くよ。《千里の一歩》」
これは僕の持つ【超旅人】の奥義。
次の街に着くまでの間、旅に関するスキルのコストを街に着いてから纏めて支払うっていうとても便利なスキルだ。
これのいいところはコストとして支払うSPが僕の最大SPを超えた場合は、超過分は払わなくてもいい点だね。長い道のりを旅をする程にその価値は上がっていくんだ。
「次へ続こう、《
そして、こっちは僕の<エンブリオ>の必殺スキル。次の目的地まで道を作り続けてくれるスキルだね。
途中で目的地を変えても、それに合わせて道を作ってくれる。融通も効く素晴らしいスキルだよ。
このふたつを使って僕は旅を続けていくんだ。
「ばいばーい! グランバロアに着いたら、れーちゃんによろしくねー!」
誰だよ。
新情報だよ。
こうして、旅人と人魚のダイアローグは終わりを告げたんだ。
いつか、このデンドロ内を旅し尽くしたら、その時はどうしようか。
……二週目かな。うん。
◇◇◇
その<マスター>、【
旅を愛した彼は、ゲームという手段を見つけた。故に、彼は旅を続ける。
そしてその<エンブリオ>、【開拓歩道 ナイトウホライゾン】。
旅を愛した彼に足りない物、その一つである、通行不可能な場所を通るための道をさずけるべく発現した、乗騎するためのものでなく、乗騎されるためのチャリオッツ。
その本質は、孤島に住み気軽に旅のできない彼の嘆きであり、色んな所に行きたいという本質である。
それはこのインフィニット・デンドログラムにおいて、旅を繰り返すことで自らの旅行欲を抑える旅中毒者である。
〖