妖精と呼ばれた傭兵   作:vitman

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やっと国家解体戦争編ラストです

そして皆さん(たぶん)待望のフィオナさん登場です!台詞少ないけどね!

あと、妖精さん(仮)のリンクスネームが発表だよ!どうでもいいね!




身体は此処に、心は其処に

 目が覚めた私の目の前には、見慣れたACのコックピットではなく、白い天井。汗と油の匂いではなく、嗅ぎ慣れない消毒液の匂いのような、特徴的な香りがする。

 

「うっ」

 

 起き上がろうとすると、身体中から猛烈な痛みを感じ、思わず声をあげてしまった。

 腕や脚などには、チューブが付けられ、胸には検査に使うような、変な磁石のようなものがくっ付いている。それを無理矢理外し、ベットの端に付いている手すりを頼りに、起き上がる。

 服は、やはりパイロットスーツや、ジャケットなんかではなく、薄い医療用の服になっていた。とはいえ、外の様子が一つの小さな窓からしか見えないこの部屋では、ここがただの病院なのか、それとも、どこかの企業の研究所なのかまでは分からない。

 ただ一つ確実に言えるのは、私と彼が気を失っている間に何者かに回収されたという事だ。

 問題はその『何者か』が誰かということだ。

 

 考えられる中で最も最悪なのは、企業に回収されているという事。

 私達鴉に対して、彼らは相当に恨みもあるだろうし、実験体にされるか、殺されるかのどちらかだろう。戦力には決してならない鴉をわざわざ生かしておく必要もない。

 

 二番目にマズいのは、どこぞの街に保護された事だろう。

 どうせ、戦争も終わっているだろうし、そこら辺の街はじきに企業の支配下に入る。そうすれば、私達の存在など一瞬にして明らかになるだろう。ACの残骸をどう説明するのか、分かったものではない。

 

 この二つ以外だと、考えられるのは幾つかあるが、個人に匿われたというのは、この整った施設からしてまずないだろう。そうなると、あとはどこかのコロニーにいる位しか考えられない。

 そこらへんの村レベルの場所だと期待できないが、アスピナやアナトリア等であれば、私達を匿えるだけの立場だろう。ACだって、戦場跡地にあったものを回収し、技術研究のために使っていると言えば済む。

 そこなら大変嬉しいのだが、そうそう現実はいいものでもないだろう。

 

 

 

 兎に角、私が考えられる事には限界がある。なにより情報が足りないのだ。小窓から見えるのは、向かい側の病棟と、中庭のようになっている広場だけ。外に人がいるわけでもないので、判断のしようがない。 

 そう思い、今までずっと寝ていたというのに、もう一眠りしようとした時。その時だった。

 自分よりも少し年下の少女と、スーツ姿の男の二人が、この部屋に入ってきた。

 私は医療機器を剥がし、座っている状態。この状態から、二人を無視して「おやすみなさーい」と意識を手放す。…そんな勇気と度胸は、私にはなかったため、一人と二人がお互いに顔を見合わせている状態になっていた。

 

「あ、あのっ」

 

 固まる三人の中で、決心したように少女が口を開いた。

 

「わ、私、あなた達が、ACで、ここの近くで来てて、怪我していたからっ」

 

 とても緊張した様子で、少女は私に事の顛末を話してくれた。

 あの戦闘後、なんとかやっと動くACを使って、気を失った彼を回収した私は、意識が朦朧としながらも、戦場から遠ざかるように移動し続けていた。

 一週間ほど経ち、なんとスウェーデンからアナトリア半島まで移動したところで、とうとうACが動かなくなり、私の記憶もそこから先はない。

 

 ところがその後、少女がこのアナトリアコロニーのはずれに位置する、この施設の付近で、ボロボロのACと、まだ生きている私と彼を見つけたらしい。

 もし彼女がいなかったら、私達の命は無かったに違いない。

 彼女に深く礼をすると、やはり少し焦った様子で、困ったときはお互い様だと言った。

 

 人の温かみに触れたところで、横の男が口を開いた。

 

「彼女が助けた怪我人に、こんなことを聞くのは少々心が痛むが…ここに何をしに来た?場合によっては、話も変わるのだ」

 

 それは最もだと思う。ネクストという、更に恐ろしい兵器が現れたとはいえ、通常兵器にとってはACも大して変わらないのだ。そんなACがある日突然現れたらどうだろうか。壊れているとはいえ、警戒するのは当たり前だろう。

 

「襲おうとなんて、思っていない。私としては、こうして治療までしてくれて、感謝もしきれないところだ」

 

「本当にそうだという事を信じたいね。で、君は何者だ?」

 

 信用という者が宿っていない目で、男は私に自己紹介を求める。機体は彼らの手元にあるし、私はこう言ってはなんだが、そこそこ名の売れたレイヴンだったので、恐らく身元は知られているのだろう。

 

「知っているんだろ。どうせ」

 

「だとしても、君自身の口で言うからこそ、意味があるのだ」

 

 溜息を一つ吐き、決心をし、口を開く。

 

八咫烏(ヤタガラス)。レイヴンとしては、そう名乗っている」

 

 三本足の鴉。東洋では、神聖なものとして扱われている、由緒ある鴉だ。一部地方では、今だに神や太陽の化身とされている。その名を傭兵である(レイヴン)が、そんな神聖な名を語る。なんとも滑稽だった。

 レイヴンとしての名。それを今語っていいのか分からない。だが、私の名前は既にそれだけと決めている。

 

「なるほど、確かに本物のようだ。…で、本名はどうだ?」

 

 だから、こうやって聞かれても、答える事はない。いや、答えられない。

 

「...」

 

「だんまりか。...まぁいい。そんな事だろうと思ってはいたからな」

 

 そう、彼の言う通り、この世界の傭兵にとって、本名を言うことは禁じられている。

 別にそういうルールが存在する訳ではないが、知られてしまえば、幾らでも利用されるからだ。ネクストが出現し、レイヴンの時代が終わったとしても、それは変わらない。私の唯一の肉親にも迷惑がかかる。

 ああは言ったものの、彼もその事は分かっているのだろう。深くは追及してこなかった。

 しかし、そんな事を知らない少女は、隣の男のその態度に声を荒げた。

 

「エミール、やめて。そんな言い方、良くないと思う」

 

 それは、戦争というものを知らないからこそ、世界の裏を知らないからこそ言える言葉だった。まぁ、むしろ彼女位の歳の子であれば、普通は戦争になんて関わらないのだ。この反応も納得のものだろう。

 

「君がいう事も分かる。だが、これは、アナトリア全体に関わる事なんだ」

 

「それはっ...分かりますが」

 

 微妙な雰囲気になったところで、閉まっていた部屋のドアが再び開いた。

 今度来たのは、共に戦場で戦った鴉。そう、UnKnown(U.N.オーエン)だった。

 

「フィオナ、彼が起きたのか?」

 

 通路にまで声が響いたのだろう。心配そうな、そして若干何かを期待しているような声を出しながら、ドアを開いてきた。

 まだ20代前半の若い鴉の王が、部屋に入ってきた。心なしか、前見た時よりも痩せている。

 そんな彼は、フィオナ―恐らくは少女の名前―の返事を待たず、私を見るなり近づき、私の手を取った。

 

「ありがとう。君がいたから、俺は生きている。大丈夫だ。ここは安全だ。」

 

 その言葉に、私の目から自然と涙が出てきてしまった。止めようと思っても、止められない。それが、ここが安全だという安堵からなのか、彼が生きていたことの嬉しさなのか、それとも別の何かだったのかは分からない。

 だが、歳下の少女とよく分からないスーツの男、そして、鴉の王である彼の前で、情けなくも泣いてしまっているのが、別に悪い事ではない事は分かった。

 彼らはそれを咎めず、むしろ、私が起きたことに安心し、喜んでくれたのだから。

 

 

 

 ____________

 

 

 

 

 あれから、二週間経った。アナトリアでの暮らしにも慣れ、私は仮初の平和を楽しんでいた。

 私達を助けてくれた少女は、フィオナ・イェルネフェルト(とてもファミリーネームの発音が難しい)といい、私より4つ歳下で、私とオーエンは妹ができた気分であった。

 そんな彼女は、つい3年前に唯一の家族であった父親を亡くし、あのスーツの男、エミール・グスタフが後見人となっているようだった。

 

 だが、彼女とエミールから話を聞いているうちに、中々面白い情報が手に入ってきた。

 ネクストを開発したのが、このアナトリアだという話だ。

 

 元々、医療技術が発達していたこのアナトリアは、イェルネフェルト教授の手によって、高性能な義体の開発に着手することとなった。

 神経と直結させ、脳からの情報を義体に送る事で、今までのものよりも繊細な動きができる義体の開発が、その計画の主軸で、これが成功すれば、事故等の被害者の社会復帰が一気に楽になるはずだった。

 そしてそれは、一部分のみ成功する。

 

 確かに、そのシステムを作る事には成功し、かなり思いのままに動かすことはできたようだが、そうそう上手い話はないもので、そのシステムは、生まれもって人間が持つ、特異な情報処理能力が要求されるものだった。それがなければ満足に動かす事は不可能で、せいぜい普通の義体に毛が生えたような性能になってしまうのだった。

 これこそが、AMS(アレゴリー・マニピュレート・システム)であり、ネクストがACにはできないような、繊細な動きができる訳だった。

 

 そんな医療機器のシステムとして開発されたAMSだが、技術は常に医療から戦争へ、もしくはその逆に動くもので、AMSもその例外ではなかった。

 ACを更に高性能なものにしようとした企業群により、イェルネフェルト教授は殺されてしまう。それも、レイヴンの乗ったACに。

 フィオナが言うにはその事件があったからこそ、エミールを含め、アナトリアコロニーの住人達はレイヴンを良く思っていないし、私達を保護するという事にも、かなり反対の声があったらしい。

 だが、彼女は父親を殺されたというのに、私達が殺した訳ではないからと、助け、受け入れてくれた。この時代ではなかなか珍しい、綺麗な心を持った子だった。

 

 話がそれたが、そのAMSを使った、高性能ACこそがネクストの正体らしい。そして、レイヴンによる襲撃以前から、企業の援助と依頼を受け、ネクストの開発をしていたコロニーが、このアナトリアコロニー。開発主任があの教授だった。

 

 まだ、アナトリアの住人の大半が私達を快くは思っていないため、あまり行動範囲は広くないが、アナトリアの中で最も大きい病院であり、尚且つあのAMSが開発された研究所でもあるこの施設で、1ヶ月近く寝たままであった私は、失われた筋力などを回復させていた。

 

 ところで、平和という言葉の意味を知っているだろうか。

 確かに、戦争がない世の中という意味もあるだろうが、私はもう一つ別の意味を知っている。

 戦争と戦争の間の期間という意味だ。

 2、3日に一度くらいのペースで、あの彼女と戦った、あの戦場の情景を夢に見る。互いの機体を切り裂き、命を削り合うあの感覚をもう一度、もう一度味わいたいと、私の心は思っている。

 

 私の魂は、まだあの戦場にあるのだ。

 

 

 

 

 ____________

 

 

 

 

 

 私は、何故とどめを刺さなかったのだろうか。

 情けをかけた?違う。

 殺したくなかった?なら最初からあんな戦闘をしない。

 じゃあ、なんだ?

 

 自分を師と呼び、共に訓練を求めてくる後輩のシミュレーター訓練を眺めながら、私はあの時の事を考えていた。

 最後の一合で、私はコアを狙わず、頭部に向けて突きをした。そして蹴りを入れた。レーザーブレードでコアを狙えば一撃で殺せた。追撃をすれば殺せた。なのに、しなかった。

 

 彼は強い。だから殺さなかったわけではない。機体の性能面でも、剣士としての腕でも勝っていた。だが、それでも、彼にはあって、私には足りないものがあった。

 それは、生きるために足掻く力だ。

 

 圧倒的に性能で劣るACで、ネクストの機動に付いていき、腕前で劣る剣技では、相手の動きをその場で真似する事で飛躍的に技術を向上させる。

 まさに、戦うために生き、生きるために戦うかのようなその戦闘技術は、私にはない。それは、企業からネクストという超兵器を渡され、敗北を知らずに戦っているからだろうか。自分も、同じネクスト同士で戦闘すれば、同じ事ができるだろうか。

 いや、不可能だろう。どんなに戦闘を積み重ねても、私に『諦めない』という事はできない。強すぎる相手と対峙すれば、諦めながら戦い、負ければしょうがないと自分を正当化するだろう。

 彼は、きっと今も、どうすれば勝てたかを考えている事だろう。

 ネクストとAC。自分と相手。その差を埋めるためにどうすればいいかを考えているだろう。

 

 そこまで考え、ふと目を上にあげる。私の同胞である、真改がシミュレーター訓練をちょうど終えたところだった。

 訓練内容は、通常戦力の地上部隊と、ノーマルACが数機。どれも企業が戦争で得た情報を元に作られたものだ。ACだって、鴉ではなく、国家側のAC部隊のもので、正直言って弱い。

 それでも、まだネクストの操縦に慣れておらず、しかもAMS適正が私よりかなり下回っている彼では、かなりきつかったらしい。肩で呼吸をし、精神的にもかなり参っている状態だった。

 しかし、乗機の損傷は少なく、特段目立って悪い点があったわけでもなく、今回が初回のシミュレーター訓練としては、良すぎる位に上出来だった。

 

「いい調子だ、真改。初のシミュレーターでこれだけやれれば上出来だ」

 

「...良い師がいるから...」

 

 今の会話のように、無口な真改ではあるが、このように時々嬉しい事を言ってくる。

 彼はAMS適正が認められ、テストパイロットとしてリンクスになったようで、上層部は、その教育係…というか、この性格のせいで接しにくい彼を半分私に押し付けることで、リンクスによるリンクスの養成をしていた。

 ちなみに、ベルリオーズにも真改と同じような、テストパイロットの少年が教え子として存在するらしいが、ベルリオーズは一言もそれについて話してはくれない。

 あまり彼とは仲が言い訳でもないからしょうがない。

 

 真改は、休憩を少しすると、私の目の前まで来て、二機目のシミュレーターを指さしてこう言った。

 

「...手合わせ、願えないだろうか」

 

 珍しい彼からの願い。それを私は断らず、パイロットスーツになって、我が身をシミュレーターマシンに放り込んだ。

 目の前に広がるのは雪原地帯。BFF社の戦闘記録が元らしい。吹雪が吹いているのが、あの時の戦闘を思わせた。

 

 機械音声によるカウントダウンが終わると、すぐに戦闘開始。FCSによって、真改の乗機『スプリットムーン』の居場所はすぐに割り出せた。

 あの時の戦闘とは異なり、昼間らしく明るい。

 ぎこちなくQBを使いながら、牽制用のマシンガンを撃ってくる。が、牽制射撃だというのを忘れ、当てようと必死になっているのが見え見えで、背中に装備させてあるプラズマキャノンを使っていないのが、その証拠だった。

 牽制に徹しきれていない射撃は、避けるのに容易く、すぐに懐に潜りこめた。

 紫色の刀身を出し、瞬間的にブースターを発動させ一気に斬りこむ。結果、右手を切り落とし、射撃武装を無くす。

 真改は、それを見て諦めたのか、左腕に装備している高出力ブレード『DRAGONSLAYER』を起動させ、アリーヤの運動性を生かした接近戦に移行した。

 

「判断は早いが、まだ技術が拙いな!」

 

 真改の判断力は確かに素晴らしかった。が、接近戦ともなれば、私の独壇場である。

 AC同士ではできなかった、鍔迫り合いを行い、そして左手でスプリットムーンの右肩を掴む。そうして接近したまま、もう一度今度は至近距離でブレードを展開し、今度は左腕を斬る。

 あまりの状況に、今度は対応できなかった真改は、慌ててプラズマキャノンを起動させる。が、時すでに遅し。撃つ前に私の左腕のブレードが、真改の機体のコアを溶かしてしまい、そこでシミュレーション終了になった。

 

 文字通り瞬殺されてしまい、少ししょんぼりしている真改だが、私としてもプライドがあるため、そう簡単に勝たせてやる気はない。

 

 だが、真改とのこの訓練で、今一つだけ確信をもって分かったことがある。

 それは、勿論あのレイヴンとのことだ。

 何故私が、あの時彼を殺さなかったのか。それの意味がやっと分かった。

 私は、殺したくなかった訳でも、情けをかけたわけでもない。ただ、ひたすらに、彼と本当の意味でフェアな勝負をしたかったのだ。

 ネクストとAC。鴉と山猫。個人と企業。

 なんでも構わない。だが、そんな風にどちらかがハンデを持った戦闘ではなく、本当に平等な状況で、どちらも同じ条件で戦いたかった。

 だから、再戦を望むという意味を込めて、それで彼を殺さなかった。

 

 そして、もう一つ。

 あのシミュレーターは、やはり偽物だった。

 あの時の戦闘のデータも残っており、鴉が三人いる戦場だったが、それはあの時の緊張感はまるで0で、あの時と違い、淡々と鴉を殺せた。どれも弱かった。

 それでは物足りない。彼と命を懸けた戦闘がしたい。

 あの場所で、もう一度だけ会いたい。

 こんな平和な日々を捨てて、あの日にもどりたい。

 

 どうやら、私の魂は、あの場所に閉じ込められているようだ。

 




このペースで書いていくとしたら…AC4編終わるのにどれだけかかるんだか…

イェルネフェルト教授は、国家解体戦争2年前にお亡くなりになった設定になっています。

八咫烏という名前。かなりありきたりになっちゃって、正直、変えようかどうか、この話投稿するまで悩みましたが、自分のネーミングセンスが酷くって、これくらいしか思いつかんかった。
実は三足烏も候補にあった。八咫烏と意味は同じなのにね。不思議だね。
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