今回で登場機体は決まります。賛否両論あると思うけど…
羽根を捨て、翼を得る
私達は数か月ほど、久しぶりの平和を楽しんだ。
ごく普通に食事をして、運動をして、テレビを見て、時間がなだらかに過ぎるのを楽しんだ。
だけど、お前も知っているだろう?山猫が喰い合った、あの戦争を。醜い企業の連中に利用され、争い合った山猫の戦争。
リンクス戦争とも呼ばれているな。
それを終わらせた二人の山猫、その話をしよう。...懐かしいな。もう、何年も前になる。
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ある日の事だ。私とオーエンは、二人してエミールに呼び出された。何かあったっけ?と、お互いに顔を見合わせたが、なにかやらかした訳でもないため、興味津々で部屋へと入った。
すると、いつもと違う雰囲気のエミールが、椅子に座り、事務机に肘を立てていた。
穏やかじゃない彼の様子に、私達はどうしようか一瞬迷ったが、こっちに来いと言われてしまったので、ドアを閉めて机の前まで来た。
「さて、二人共。フィオナ嬢の父親が鬼籍に入っているのはご存知かな」
いきなり物騒な話だった。彼はフィオナの後見人らしい事も、フィオナさんからは聞いていた。
「ええ、彼女本人から聞きました」
「では、ネクストとAMSの研究をここでやっていたことは?」
「知っています。イェルネフェルト教授が開発主任だったとか」
「そこまで知っているなら、話は早い。実は、このアナトリアは、経済的な危機にあるのだ」
それからエミールは、私達に次の事を話した。
国家解体戦争以前、企業から、国家に極秘でAMSを使った兵器開発を依頼され、ネクスト研究をしていたこと。
AMSのもたらす医療的利益と、ネクスト技術による収入によって、アナトリアは全コロニー中最も繁栄しているコロニーとなっていた。が、それは突然に終わる事になる。
ある昼下がり、アナトリアの研究施設をレイヴンが襲撃した。それも、一機ではなく、様々な場所で同時に起こった。合計四機のそれは、瞬く間にアナトリアに存在する研究所をそれと共に、イェルネフェルト教授も死亡した。
彼は、研究途中であった、技術試験用試作ネクストに乗り込み、破壊されなかった研究所の副所長であったエミールに、データの収集を頼み、フィオナへ遺言を託した後に、アナトリアを救うために出撃した。
不完全だとしても、その力は凄まじいものだった。
目にもとまらぬ速さで移動し、軽量級ACをも翻弄し、重装備のACの火力でかすり傷も負わない。そして、AMSによる人間により近い動き、コジマ技術を利用した圧倒的な火力。
それら全てを用いて、教授はアナトリアを救い、そして、ネクストの有用性を自らの手で実証した。
だが、彼は死んだ。
レイヴンにやられた訳ではない。そう、ネクストを使う負担によって死んだのだ。
殺人的な高速戦闘を行う事による、高いGの負荷。ネクストのシステム側から送られてくる、非常に多い情報量を処理するためのAMSによる精神負荷。そして何より、搭乗者の身体をも蝕むコジマ粒子による汚染。それによって、教授は、ネクストの危険性も示し、この世を去った。
こうして、一時は危機を逃れたアナトリアだったが、更に立て続けに問題は起こる。
イェルネフェルト教授がこの世を去った後、研究所に勤めていた研究員が、逃げるようにアナトリアを去り、殆どがアスピナやアクアビット、レイレナード社に流れていったのだ。
そして、その研究員たちが持って行ったネクスト技術により、各企業はネクストの開発が進むことになり、アナトリアは『用済み』となってしまい、技術的アドバンテージを失い、経済面を支えるものがなくなってしまったのだ。
「なるほど、そして今に至る、と」
「そういう訳だ。そこで君達二人に話がある」
大体予想はできる。ごく短時間で大金を手にする方法は、本当に限られているが、私とオーエンはそれができる職業を知っている。
「君達に、企業を依頼主とする傭兵をしてもらいたい」
ほらきた。
「我々に拒否権は?」
「実質的にはないな。それしか我々には手がないのだから、口減らしのためにもこの地を去ってもらうしかなくなる」
つまり、アナトリア以外に行くあてがない私達は、この話を受け入れるしかないというわけだ。まぁ、本業に戻るだけだから、全くもって抵抗はない。が、私はこの案に少しばかり不安点がある。
オーエンと顔を見合わせたが、彼も全くもって傭兵として金を稼ぐのは構わないようで、むしろ恩を返したいとも言っている。しかし、やはり彼も私と同じ不安材料があるらしい。
それは、やはりネクストの存在だ。鴉よりも強大な力を持つ彼らがいる限り、戦力として完全な下位互換の鴉を誰が雇うだろうか。
そんな事を言った私達に対し、エミールは余裕を崩さずにこんなことを言ってのけた。
「心配ない。そして、問題ない」
流石に私も意味が分からなかった。鴉は山猫に敵わない。それを私は、確実にエミールよりかは良く知っていると思うからだ。
それなのに、問題ないと言われれば、質問の一つや二つ出てくるというものだ。
「なんでそう言い切れる。私が乗っていたACを見ただろうが、あれはネクストとの戦闘でああなったんだが…それを知っていて言ったのか?」
「勿論だ。今回売り込むのは、鴉ではなく山猫だからな」
「「は?」」
細かく聞けば、アナトリアには、技術実験用のネクストと、先の戦争でとあるネクストが受けた損傷を解析するため、送られてきたものの二機があるらしい。
それを私達二人が使い、傭兵稼業をするというのだ。
「なるほど…いや待て、ネクストを動かすのはAMS適性というものが必要なのではなかったか?」
「あぁ、それについては、君達が先週受けた検査で判明している。奇跡的にも、君達二人にはAMS適性がほんの少しながら存在する」
つまり、ネクストを動かす資格はあるということだ。だが、聞き捨てならなかったのは、『ほんの少し』という点だ。
その『ほんの少し』が戦場で、どの程度のリスクになるのかがわからないというのは、非常に重要だ。
「AMS適性の高さは、何に繋がる?機体の操作性か?」
その問いにエミールは首を振った。
AMSの研究に携わっていた彼曰く、AMS適性は、精神負荷の度合いに繋がるだけらしく、適性が低くても、長時間の運用に難が出るだけのようだ。
そうでなくても、運用自体に負荷が相当にかかるため、ACのような作戦は難しいだろうとの事だ。
「ふむ、それぐらいなら、少し工夫すれば大丈夫だろう」
そう言って、私達が正式にこの話を承諾しようとした、その瞬間、この事務室の部屋の扉が開かれ、肩で呼吸をしているフィオナが勢いよく入ってきた。
「待って、二人とも。…ネクストに乗るという意味が分かってるの!?」
彼女は、私達が再び傭兵となり、戦場に赴く事に強く反対していた。
わざわざ命の危険を侵してまでして、ネクストに乗る必要はない、そう言った。私達がやっと手にいれた、平穏な時間を奪うのは間違っているとも話した。
「だが、そうしなければ、アナトリアは終わりだ。私は、教授から、君のお父様から、このアナトリアと、君を託されたのだ。そのためには、手段は選ばない。どんな手段もだ」
エミールのその言葉に、思わず言葉が返せなくなったフィオナに、オーエンが更に追い打ちをかける。
「いいんだ、フィオナ。俺は、このアナトリアと、何より君に恩を返したい。このアナトリアが無ければ、俺達は死んでいたかもしれないんだから」
「けど...」
煮え切らないフィオナに、私は一つ提案をしてみた。元々、誰かにやってもらわないといけない仕事で、やってもらうなら、ぶっちゃけエミールなんかより、フィオナみたいな人の方がいい。声とか、ビジュアル的にも。
「じゃあ、一つ、フィオナさんにやってもらいたいことがあるんだ」
「な、なんでしょうか?私は、できる事なら協力したいですが…」
身構えるフィオナを見て、オーエンはクスリと笑った。私の考えが正しいなら、フィオナはすこーしばかり、何か勘違いをしているみたいだ。専門知識とかそういう意味ではなくて…いやいや、私は純粋だから何の事か分からないけどね。
「そう身構えないでほしい。...君に、私達のオペレーターをやってもらいたいんだ」
「お、オペレーター...です...か?」
何も、難しい事ではない。まぁ、いくつかのレーダーを見て、目標の数を教えたり、残敵の確認をしたり、依頼内容の説明をしたり、報酬の確認をしたり...なんとなくマネージャーみたいなものだと思ってるが、オペレーターがいるのといないのとでは、雲泥の差があるのだ。
「そう、オペレーター。元々誰かしらにやってもらいたいとは思っていたし、ならフィオナさんにやってもらおうと思って」
「私でも、できるでしょうか」
納得はしているが、不安が拭えない様子のフィオナに、オーエンがもう一押しをかける。…こいつ、悪魔か。
「あぁ、心配ないフィオナ。君ならできる。それに、帰りを待ってくれる人がいた方が、心強い」
それを聞いて、一度俯き、考えたフィオナだったが、決心がついたのか、すぐに顔を上げ、力強い目と言葉で宣言した。
「わかりました。二人のオペレーターは私が承ります。ですから、絶対に、死なないで」
「分かってる、大丈夫だ。これまでだって、これからだって」
____________
傭兵となるという話は終わったが、私はエミールに別の話があると言われ、まだ事務室に残っていた。実のところ、先ほどフィオナさんがアップルパイを焼いたというので、早く食べたくてしかたない。あぁ、早く話終わってくれないだろうか。
「さて、君に残ってもらったのは、他でもない。君のAMS適正についてだ」
それは困った。さて、エミール君。話とは一体なんだい。
「君のAMS適正は...まぁ、数値で言えば悪くない範囲だ。ちなみに、オーエンのAMS適正よりずっと高い数値だ」
「ほうほう...で、それで何か問題があるのかな?」
彼よりも高い適正というのには驚いたが、それはそれである。別に、それをわざわざ教えるために私を残した訳ではあるまい。
「実は、君の適正はかなり特異で、私達でも見たことがないパターンなんだ。だから、ネクストに君が乗ったとして、何が起こるか分からないという事だけは伝えたかった」
「何が起こるか分からないって」
「つまり、稼働時間や脳にかかる負荷がどの位なのか、想像すらつかないという事だ。君がネクストに乗ったとして、必ず無事でいられるとは限らない」
確かに恐ろしい話だ。もしかしたら非常に長い時間の運用が可能なのかもしれないし、もしかしたらその逆かもしれない。全く分からないからこその恐怖を確かに感じた。
けど、傭兵として生活してきた中で、『絶対』という言葉は殆ど、いや、全くと言っていいほどなかった。別に、この程度のリスクはどうでもいい。そう思えるほど、私は戦場に出たいと思っていた。
フィオナには悪いが、私は戦場を欲しているのだ。
「教えてくれてありがとう、エミール。だけど、私は、アナトリアを守らなきゃいけないんだ。帰る場所を守るためなら、そんなリスクは関係ないさ」
「そうか。なら、いいのだが...医者はいる。何か異常があれば、すぐに言ってくれ」
エミールに背を向け、事務室のドアを開ける。廊下に出て、少しいつもより深く呼吸を行い、アップルパイを頂くため、フィオナの部屋を目指す。
アップルパイを食べたら、まず真っ先に機体を見に行こう。自分の乗る機体を見てみたい。その気持ちで一杯だった。
⑨
大きなアップルパイをフィオナを含め、三人で平らげた私とオーエンは、自分達の機体を拝見すべく、技術研究のために用意されていた、ネクスト用のガレージにやって来ていた。
まず分かったのは、ACのガレージとは全く異なるという点だ。
ノーマルACは、通常兵器と同じガレージに置いてもなんの問題もない。というか、それができるという汎用性がACの売りだった。
が、ネクストは、その人体に有害なコジマ粒子の存在により、厳重に保管され、アセンブルの変更も全て機械によって行われ、人の手でしか弄る事ができない部分は、しっかりと汚染対策がされた状態で、しかもできるだけ短時間で作業を終わらせるそうだ。
そして、今強化ガラス越しに見ているのが、彼の乗る機体。イクバール製の軽量機体だ。マシンガンとライフル、ミサイルとバランスの良い装備を施され、見るからに中距離射撃が得意な機体だ。いざとなれば格納ブレードでの攻撃も容易な辺り、彼との相性はいいかもしれない。
機体名は変えるらしいが、今のところどんな名前にするのかは聞いていない。レイヴンの時のAC名と同じだと、私達が死んでいない事に気づかれてしまうのだ。
別に結局はバレる事になるのだろうが、一応念のため、時間稼ぎだけでもしておきたいのだ。
だから、私の機体がどんな機体なのかは見てみなければ分からないが、どちらにせよ、私の聞き慣れた名前ではない、何か別の名前に変わる事は確定している。
「さて、俺の機体はこのくらいでいいだろう。別に、弄くる部分もないしな。今度、シミュレータで動かしてからだな」
そう言い、隣の格納庫にあるという、私の機体を見に行くことになった。
少しばかり、いや、とても気になっていた。こんな気分は中々ない。同じ気分になったのは、レイヴン試験の前、初めて自分のACを見たとき以来だろう。
渡り廊下を歩き、隣の棟へ移動する。外見も中身も同じ造りになっているので、格納庫自体は代わり映えしない。
ところで、私は偶然や運命というものを信じないタイプの人間だ。そんなものを信じるなら、実行する方が容易いと思っていたからだ。
でも、今回ばかりは、この瞬間だけは、運命と神を信じてみたくなった。
「おい、この機体はもしかして…」
「あぁ、間違いない。この機体は」
藍色ベースに、アクセントのように入る、黒のライン。その尖ったフォルムは、どことなく戦闘機を思わせる。
そんな特徴的な機体を私は良く知っている。いや、忘れるはずもない。
あの地で私と死闘を繰り広げた、彼女の機体だ。
エンブレムは肩から消え、 武装も全て無い状態だが、確かに彼女の機体のはずだ。その証拠に、左腕は無くなっている。
「どういうことなんだ…」
そう私が呟いた、丁度その時、整備士らしき人物が、私にアセンブル等を変更する為のタブレット端末を手渡してきた。
そして、画面に映る一つのフォルダー内にあるファイルを指差した。
「あの、この機体用の端末なんですが、このファイルだけロックされていて開けないんです」
「それは困ったな…解除する手掛かりのようなものはないのか?」
「それが、ファイルを開こうとすると、資格があるのは三本足の鴉だけだ。と出てきて…」
私とオーエンは互いに顔を見合せた。間違いない。やはり、このネクストは、彼女のものだったのだ。
「分かった。少しの時間でいい。この端末、貸してくれ」
「は、はい」
速攻で考えられるパスワードを入れていく。そして、とあるワードでそれが解除された。
その言葉は、
使用権が入っていた武装こそが、レーザーブレードの月光であった。
レイヴン時代、オーエンが自分の為だけに発注した、オーダーメイドの高出力レーザーブレード。それが
そして、そのブレードを渡してきたのには、絶対に何か理由があるはずだ。それが、この添付ファイルに書いてある。
『これで次の勝負は平等だ』
まるで、私がここにいるのが分かっているかのような文章に、思わず笑ってしまった。...それにしても、平等な戦いを望むがために、彼女は自分のプライドを捨てた。恐らく、この機体自体は、多大な損傷をノーマルACによって受けたなどという事が、政治的観点からよくないという、そんな理由で送られたのだろうが、それにわざわざ武装を付けたのは、やはり彼女が自分のプライドを犠牲にしたからこそだろう。
この機体の元の名前は『オルレア』、そして彼女の名前は『アンジェ』どちらも、フランス由来のネーミングだ。オルレアというのは、オルレアンの乙女『ジャンヌ・ダルク』を意味するのだ。
それを知り、私はこの機体と、これから山猫としての人生で使う名前を決めた。
「オーエン、決めたぞ」
「この機体の名前をか?八咫烏」
「名前も、機体名もだ」
「...聞いてもいいか?」
私はコクリと頷き、私の傭兵としての第二の名前となるモノと、私のこれからの相棒の名を口にした。彼女に影響されてというのも変だが、私がつけた初めてのフランス由来の名前だった。
「このネクストの名は『ロレーヌ』そして、私の名は『シャルル』だ」
ロレーヌは『ロレーヌ十字』から。フランスではジャンヌダルクを象徴するものだとか。
シャルルは、まぁ、色々ありますね...。シャルル七世とも取れますし、シャルルマーニュから、はたまた、童話『青髭』の作者シャルル・ペローともとれます。
そこは皆さんでご想像して頂ければ嬉しいです。