妖精と呼ばれた傭兵   作:vitman

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というわけで、AC4編始まりです!

今回で登場機体は決まります。賛否両論あると思うけど…



第1章 Que protéger avec ce pouvoir -その力で何を守るか-
羽根を捨て、翼を得る


 私達は数か月ほど、久しぶりの平和を楽しんだ。

 ごく普通に食事をして、運動をして、テレビを見て、時間がなだらかに過ぎるのを楽しんだ。

 

 だけど、お前も知っているだろう?山猫が喰い合った、あの戦争を。醜い企業の連中に利用され、争い合った山猫の戦争。

 リンクス戦争とも呼ばれているな。

 それを終わらせた二人の山猫、その話をしよう。...懐かしいな。もう、何年も前になる。

 

 

 

 ____________

 

 

 

 

 ある日の事だ。私とオーエンは、二人してエミールに呼び出された。何かあったっけ?と、お互いに顔を見合わせたが、なにかやらかした訳でもないため、興味津々で部屋へと入った。

 すると、いつもと違う雰囲気のエミールが、椅子に座り、事務机に肘を立てていた。

 穏やかじゃない彼の様子に、私達はどうしようか一瞬迷ったが、こっちに来いと言われてしまったので、ドアを閉めて机の前まで来た。

 

「さて、二人共。フィオナ嬢の父親が鬼籍に入っているのはご存知かな」

 

 いきなり物騒な話だった。彼はフィオナの後見人らしい事も、フィオナさんからは聞いていた。

 

「ええ、彼女本人から聞きました」

 

「では、ネクストとAMSの研究をここでやっていたことは?」

 

「知っています。イェルネフェルト教授が開発主任だったとか」

 

「そこまで知っているなら、話は早い。実は、このアナトリアは、経済的な危機にあるのだ」

 

 それからエミールは、私達に次の事を話した。

 国家解体戦争以前、企業から、国家に極秘でAMSを使った兵器開発を依頼され、ネクスト研究をしていたこと。

 AMSのもたらす医療的利益と、ネクスト技術による収入によって、アナトリアは全コロニー中最も繁栄しているコロニーとなっていた。が、それは突然に終わる事になる。

 

 ある昼下がり、アナトリアの研究施設をレイヴンが襲撃した。それも、一機ではなく、様々な場所で同時に起こった。合計四機のそれは、瞬く間にアナトリアに存在する研究所をそれと共に、イェルネフェルト教授も死亡した。

 彼は、研究途中であった、技術試験用試作ネクストに乗り込み、破壊されなかった研究所の副所長であったエミールに、データの収集を頼み、フィオナへ遺言を託した後に、アナトリアを救うために出撃した。

 不完全だとしても、その力は凄まじいものだった。

 目にもとまらぬ速さで移動し、軽量級ACをも翻弄し、重装備のACの火力でかすり傷も負わない。そして、AMSによる人間により近い動き、コジマ技術を利用した圧倒的な火力。

 それら全てを用いて、教授はアナトリアを救い、そして、ネクストの有用性を自らの手で実証した。

 

 だが、彼は死んだ。

 レイヴンにやられた訳ではない。そう、ネクストを使う負担によって死んだのだ。

 殺人的な高速戦闘を行う事による、高いGの負荷。ネクストのシステム側から送られてくる、非常に多い情報量を処理するためのAMSによる精神負荷。そして何より、搭乗者の身体をも蝕むコジマ粒子による汚染。それによって、教授は、ネクストの危険性も示し、この世を去った。

 

 こうして、一時は危機を逃れたアナトリアだったが、更に立て続けに問題は起こる。

 イェルネフェルト教授がこの世を去った後、研究所に勤めていた研究員が、逃げるようにアナトリアを去り、殆どがアスピナやアクアビット、レイレナード社に流れていったのだ。

 そして、その研究員たちが持って行ったネクスト技術により、各企業はネクストの開発が進むことになり、アナトリアは『用済み』となってしまい、技術的アドバンテージを失い、経済面を支えるものがなくなってしまったのだ。

 

「なるほど、そして今に至る、と」

 

「そういう訳だ。そこで君達二人に話がある」

 

 大体予想はできる。ごく短時間で大金を手にする方法は、本当に限られているが、私とオーエンはそれができる職業を知っている。

 

「君達に、企業を依頼主とする傭兵をしてもらいたい」

 

 ほらきた。

 

「我々に拒否権は?」

 

「実質的にはないな。それしか我々には手がないのだから、口減らしのためにもこの地を去ってもらうしかなくなる」

 

 つまり、アナトリア以外に行くあてがない私達は、この話を受け入れるしかないというわけだ。まぁ、本業に戻るだけだから、全くもって抵抗はない。が、私はこの案に少しばかり不安点がある。

 オーエンと顔を見合わせたが、彼も全くもって傭兵として金を稼ぐのは構わないようで、むしろ恩を返したいとも言っている。しかし、やはり彼も私と同じ不安材料があるらしい。

 それは、やはりネクストの存在だ。鴉よりも強大な力を持つ彼らがいる限り、戦力として完全な下位互換の鴉を誰が雇うだろうか。

 そんな事を言った私達に対し、エミールは余裕を崩さずにこんなことを言ってのけた。

 

「心配ない。そして、問題ない」

 

 流石に私も意味が分からなかった。鴉は山猫に敵わない。それを私は、確実にエミールよりかは良く知っていると思うからだ。

 それなのに、問題ないと言われれば、質問の一つや二つ出てくるというものだ。

 

「なんでそう言い切れる。私が乗っていたACを見ただろうが、あれはネクストとの戦闘でああなったんだが…それを知っていて言ったのか?」

 

「勿論だ。今回売り込むのは、鴉ではなく山猫だからな」

 

「「は?」」

 

 細かく聞けば、アナトリアには、技術実験用のネクストと、先の戦争でとあるネクストが受けた損傷を解析するため、送られてきたものの二機があるらしい。

 それを私達二人が使い、傭兵稼業をするというのだ。

 

「なるほど…いや待て、ネクストを動かすのはAMS適性というものが必要なのではなかったか?」

 

「あぁ、それについては、君達が先週受けた検査で判明している。奇跡的にも、君達二人にはAMS適性がほんの少しながら存在する」

 

 つまり、ネクストを動かす資格はあるということだ。だが、聞き捨てならなかったのは、『ほんの少し』という点だ。

 その『ほんの少し』が戦場で、どの程度のリスクになるのかがわからないというのは、非常に重要だ。

 

「AMS適性の高さは、何に繋がる?機体の操作性か?」

 

 その問いにエミールは首を振った。

 AMSの研究に携わっていた彼曰く、AMS適性は、精神負荷の度合いに繋がるだけらしく、適性が低くても、長時間の運用に難が出るだけのようだ。

 そうでなくても、運用自体に負荷が相当にかかるため、ACのような作戦は難しいだろうとの事だ。

 

「ふむ、それぐらいなら、少し工夫すれば大丈夫だろう」

 

 そう言って、私達が正式にこの話を承諾しようとした、その瞬間、この事務室の部屋の扉が開かれ、肩で呼吸をしているフィオナが勢いよく入ってきた。

 

「待って、二人とも。…ネクストに乗るという意味が分かってるの!?」

 

 彼女は、私達が再び傭兵となり、戦場に赴く事に強く反対していた。

 わざわざ命の危険を侵してまでして、ネクストに乗る必要はない、そう言った。私達がやっと手にいれた、平穏な時間を奪うのは間違っているとも話した。

 

「だが、そうしなければ、アナトリアは終わりだ。私は、教授から、君のお父様から、このアナトリアと、君を託されたのだ。そのためには、手段は選ばない。どんな手段もだ」

 

 エミールのその言葉に、思わず言葉が返せなくなったフィオナに、オーエンが更に追い打ちをかける。

 

「いいんだ、フィオナ。俺は、このアナトリアと、何より君に恩を返したい。このアナトリアが無ければ、俺達は死んでいたかもしれないんだから」

 

「けど...」

 

 煮え切らないフィオナに、私は一つ提案をしてみた。元々、誰かにやってもらわないといけない仕事で、やってもらうなら、ぶっちゃけエミールなんかより、フィオナみたいな人の方がいい。声とか、ビジュアル的にも。

 

「じゃあ、一つ、フィオナさんにやってもらいたいことがあるんだ」

 

「な、なんでしょうか?私は、できる事なら協力したいですが…」

 

 身構えるフィオナを見て、オーエンはクスリと笑った。私の考えが正しいなら、フィオナはすこーしばかり、何か勘違いをしているみたいだ。専門知識とかそういう意味ではなくて…いやいや、私は純粋だから何の事か分からないけどね。

 

「そう身構えないでほしい。...君に、私達のオペレーターをやってもらいたいんだ」

 

「お、オペレーター...です...か?」

 

 何も、難しい事ではない。まぁ、いくつかのレーダーを見て、目標の数を教えたり、残敵の確認をしたり、依頼内容の説明をしたり、報酬の確認をしたり...なんとなくマネージャーみたいなものだと思ってるが、オペレーターがいるのといないのとでは、雲泥の差があるのだ。

 

「そう、オペレーター。元々誰かしらにやってもらいたいとは思っていたし、ならフィオナさんにやってもらおうと思って」

 

「私でも、できるでしょうか」

 

 納得はしているが、不安が拭えない様子のフィオナに、オーエンがもう一押しをかける。…こいつ、悪魔か。

 

「あぁ、心配ないフィオナ。君ならできる。それに、帰りを待ってくれる人がいた方が、心強い」

 

 それを聞いて、一度俯き、考えたフィオナだったが、決心がついたのか、すぐに顔を上げ、力強い目と言葉で宣言した。

 

「わかりました。二人のオペレーターは私が承ります。ですから、絶対に、死なないで」

 

「分かってる、大丈夫だ。これまでだって、これからだって」

 

 

 

 

 ____________

 

 

 

 

 

 傭兵となるという話は終わったが、私はエミールに別の話があると言われ、まだ事務室に残っていた。実のところ、先ほどフィオナさんがアップルパイを焼いたというので、早く食べたくてしかたない。あぁ、早く話終わってくれないだろうか。

 

「さて、君に残ってもらったのは、他でもない。君のAMS適正についてだ」

 

 それは困った。さて、エミール君。話とは一体なんだい。

 

「君のAMS適正は...まぁ、数値で言えば悪くない範囲だ。ちなみに、オーエンのAMS適正よりずっと高い数値だ」

 

「ほうほう...で、それで何か問題があるのかな?」

 

 彼よりも高い適正というのには驚いたが、それはそれである。別に、それをわざわざ教えるために私を残した訳ではあるまい。

 

「実は、君の適正はかなり特異で、私達でも見たことがないパターンなんだ。だから、ネクストに君が乗ったとして、何が起こるか分からないという事だけは伝えたかった」

 

「何が起こるか分からないって」

 

「つまり、稼働時間や脳にかかる負荷がどの位なのか、想像すらつかないという事だ。君がネクストに乗ったとして、必ず無事でいられるとは限らない」

 

 確かに恐ろしい話だ。もしかしたら非常に長い時間の運用が可能なのかもしれないし、もしかしたらその逆かもしれない。全く分からないからこその恐怖を確かに感じた。

 けど、傭兵として生活してきた中で、『絶対』という言葉は殆ど、いや、全くと言っていいほどなかった。別に、この程度のリスクはどうでもいい。そう思えるほど、私は戦場に出たいと思っていた。

 フィオナには悪いが、私は戦場を欲しているのだ。

 

「教えてくれてありがとう、エミール。だけど、私は、アナトリアを守らなきゃいけないんだ。帰る場所を守るためなら、そんなリスクは関係ないさ」

 

「そうか。なら、いいのだが...医者はいる。何か異常があれば、すぐに言ってくれ」

 

 エミールに背を向け、事務室のドアを開ける。廊下に出て、少しいつもより深く呼吸を行い、アップルパイを頂くため、フィオナの部屋を目指す。

 アップルパイを食べたら、まず真っ先に機体を見に行こう。自分の乗る機体を見てみたい。その気持ちで一杯だった。

 

 

 

 

 ⑨

 

 

 

 

 大きなアップルパイをフィオナを含め、三人で平らげた私とオーエンは、自分達の機体を拝見すべく、技術研究のために用意されていた、ネクスト用のガレージにやって来ていた。

 まず分かったのは、ACのガレージとは全く異なるという点だ。

 ノーマルACは、通常兵器と同じガレージに置いてもなんの問題もない。というか、それができるという汎用性がACの売りだった。

 が、ネクストは、その人体に有害なコジマ粒子の存在により、厳重に保管され、アセンブルの変更も全て機械によって行われ、人の手でしか弄る事ができない部分は、しっかりと汚染対策がされた状態で、しかもできるだけ短時間で作業を終わらせるそうだ。

 

 そして、今強化ガラス越しに見ているのが、彼の乗る機体。イクバール製の軽量機体だ。マシンガンとライフル、ミサイルとバランスの良い装備を施され、見るからに中距離射撃が得意な機体だ。いざとなれば格納ブレードでの攻撃も容易な辺り、彼との相性はいいかもしれない。

 機体名は変えるらしいが、今のところどんな名前にするのかは聞いていない。レイヴンの時のAC名と同じだと、私達が死んでいない事に気づかれてしまうのだ。

 別に結局はバレる事になるのだろうが、一応念のため、時間稼ぎだけでもしておきたいのだ。

 

 だから、私の機体がどんな機体なのかは見てみなければ分からないが、どちらにせよ、私の聞き慣れた名前ではない、何か別の名前に変わる事は確定している。

 

「さて、俺の機体はこのくらいでいいだろう。別に、弄くる部分もないしな。今度、シミュレータで動かしてからだな」

 

 そう言い、隣の格納庫にあるという、私の機体を見に行くことになった。

 少しばかり、いや、とても気になっていた。こんな気分は中々ない。同じ気分になったのは、レイヴン試験の前、初めて自分のACを見たとき以来だろう。

 渡り廊下を歩き、隣の棟へ移動する。外見も中身も同じ造りになっているので、格納庫自体は代わり映えしない。

 

 ところで、私は偶然や運命というものを信じないタイプの人間だ。そんなものを信じるなら、実行する方が容易いと思っていたからだ。

 でも、今回ばかりは、この瞬間だけは、運命と神を信じてみたくなった。

 

「おい、この機体はもしかして…」

 

「あぁ、間違いない。この機体は」

 

 藍色ベースに、アクセントのように入る、黒のライン。その尖ったフォルムは、どことなく戦闘機を思わせる。

 そんな特徴的な機体を私は良く知っている。いや、忘れるはずもない。

 あの地で私と死闘を繰り広げた、彼女の機体だ。

 

 エンブレムは肩から消え、 武装も全て無い状態だが、確かに彼女の機体のはずだ。その証拠に、左腕は無くなっている。

 

「どういうことなんだ…」

 

 そう私が呟いた、丁度その時、整備士らしき人物が、私にアセンブル等を変更する為のタブレット端末を手渡してきた。

 そして、画面に映る一つのフォルダー内にあるファイルを指差した。

 

「あの、この機体用の端末なんですが、このファイルだけロックされていて開けないんです」

 

「それは困ったな…解除する手掛かりのようなものはないのか?」

 

「それが、ファイルを開こうとすると、資格があるのは三本足の鴉だけだ。と出てきて…」

 

 私とオーエンは互いに顔を見合せた。間違いない。やはり、このネクストは、彼女のものだったのだ。

 

「分かった。少しの時間でいい。この端末、貸してくれ」

 

「は、はい」

 

 速攻で考えられるパスワードを入れていく。そして、とあるワードでそれが解除された。

 その言葉は、月光(ムーンライト)。近接装備の名前のパスを解くと、そのファイルには、一行のメッセージと、そして、一つの武装の使用権が入っていた。

 使用権が入っていた武装こそが、レーザーブレードの月光であった。

 

 レイヴン時代、オーエンが自分の為だけに発注した、オーダーメイドの高出力レーザーブレード。それが月光(ムーンライト)。それと全く同じ名前のブレードをアンジェは装備していたのだ。もはや運命としか言いようがない。

 そして、そのブレードを渡してきたのには、絶対に何か理由があるはずだ。それが、この添付ファイルに書いてある。

 

『これで次の勝負は平等だ』

 

 まるで、私がここにいるのが分かっているかのような文章に、思わず笑ってしまった。...それにしても、平等な戦いを望むがために、彼女は自分のプライドを捨てた。恐らく、この機体自体は、多大な損傷をノーマルACによって受けたなどという事が、政治的観点からよくないという、そんな理由で送られたのだろうが、それにわざわざ武装を付けたのは、やはり彼女が自分のプライドを犠牲にしたからこそだろう。

 

 この機体の元の名前は『オルレア』、そして彼女の名前は『アンジェ』どちらも、フランス由来のネーミングだ。オルレアというのは、オルレアンの乙女『ジャンヌ・ダルク』を意味するのだ。

 それを知り、私はこの機体と、これから山猫としての人生で使う名前を決めた。

 

「オーエン、決めたぞ」

 

「この機体の名前をか?八咫烏」

 

「名前も、機体名もだ」

 

「...聞いてもいいか?」

 

 私はコクリと頷き、私の傭兵としての第二の名前となるモノと、私のこれからの相棒の名を口にした。彼女に影響されてというのも変だが、私がつけた初めてのフランス由来の名前だった。

 

「このネクストの名は『ロレーヌ』そして、私の名は『シャルル』だ」

 




ロレーヌは『ロレーヌ十字』から。フランスではジャンヌダルクを象徴するものだとか。

シャルルは、まぁ、色々ありますね...。シャルル七世とも取れますし、シャルルマーニュから、はたまた、童話『青髭』の作者シャルル・ペローともとれます。
そこは皆さんでご想像して頂ければ嬉しいです。
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