妖精と呼ばれた傭兵   作:vitman

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この話だけ、異様に書き直してました。主にアマジークさん関連

あと、フィオナさんの年齢は24歳位らしいですね。私はてっきり21だと思ってました。
やっぱりガバガバなssだけど、フィオナさんは21という事でお願いします。そうじゃなきゃ、シャルル君が一番下の子になっちゃうからね
いや、それでもいいけど


信念は潰えず

 俺の依頼は、イレギュラーネクストの排除。

 アマジークをどうにかして倒せば、依頼は無事達成だ。だが、どうも依頼主は俺の事をあまり信用していないようで、アマジークを正攻法ではなく、奇襲によって起動前に破壊する事を推奨してきた。

 確かに、起動までに十数秒を要するネクストに対して、それはかなり有効な戦術になるだろう。だが、それを私は良いものだとは到底思えない。

 

 戦闘する相手には、必要最低限の敬意を払う

 

 それが、俺の流儀であった。

 たとえ相手が、テロリストだろうが、反体制勢力だろうが、同じ傭兵だろうが、企業からの差し金だろうが構わない。俺と戦闘する相手かどうかが問題なのだから。

 

 

 

 

 ____________

 

 

 

 

 

 オーエンの機体が、輸送中の敵ネクスト、アマジークの駆るバルバロイに向かって一直線に進む。さすがサラーフベースの機体だけあって、かなりの速度である。

 そして、バルバロイをグレイゴーストが視認し、右手のライフルで射撃を開始した。そして、初弾がバルバロイに迫り、起動すらしていない筈のバルバロイに命中、しなかった。

 見事にライフル弾は輸送トラックに命中し、あたかも元からバルバロイがいなかったかのようだった。

 何故そうなったのか、すぐにオーエンは答えが分かった。

 

 バルバロイが起動し、動き始めたのだ

 

 まるで、来るのが分かっていたとでも言わんばかりに、バルバロイは輸送トラックから勢いよく飛び出し、すぐに上空に舞い上がった。メインブースターの性能をフルに使った跳躍で、見ただけでアマジークの腕が分かるものだった。

 オーエンは、それだけで理解した。アマジークが、ただやられるだけの存在ではない事を。そして、自分を消しにきている存在だと。それだけで彼が戦闘する意味は十分だった。手抜きをする必要性が無くなったのだから。

 

 だが、フィオナはそうでもなかった。

 アマジークの動きからして、これは彼の勘が良かったからという訳でもないだろう。ともなれば、オーエンがアマジークを襲撃するという情報が、どこかしらから漏れていたという事だ。それが企業側の思惑ならまだいいのだが―断じて良い訳ではないけれど―アナトリア内部から漏れたなら問題である。

 アナトリアで傭兵稼業について知っている人物は限られているため、そのメンバーを疑う必要性が出てくるのは、純粋な彼女にとってはとても難しい事だからだ。

 

 それでも、それについて考えている時間は今はない。アマジークとの戦闘になってしまったオーエンが、少しでも有利に戦闘を行えるように、オペレートをしなければならないのだから。

 お互い似たよった機体構成の二機は、接近戦に持ち込もうとするグレイゴーストと、それを避け、絶妙な距離を保ちたいと考えるバルバロイの動きによって均衡状態であった。

 しかし、それは普通に考えたらおかしい事だった。

 メインブースターを吹かして接近するグレイゴーストと、バックブースターで後退するバルバロイでは、速度が大きく差があるはずなのだ。勿論、ブーストする回数でゴリ押しするという事も可能だが、それでは如何に燃費の良いサラーフベースだとしても当然持たない。が、バルバロイに止まる兆候は一切見られない。

 ということは、アマジークにはブースターの性能を底上げできる裏技があるか、特殊なパーツを持っているという可能性があるのだった。

 

 しかし、オーエンはアマジークが特殊なパーツを持っているとは思えなかった。企業がバックにいるであろう組織とはいえ、所詮はそれ止まり。実際に企業が最新パーツを渡すかどうかと言われれば、“それはない”というのが普通だろう。

 

 《悪いが、死ねんのだ 貴様らの所為でな!》

 

 アマジークは見事な引き撃ちで距離を放していく。その手際の良さには、流石のオーエンも舌を巻いた。だが、同時に不思議にも思った。あまりにもアマジークが接近戦を嫌い過ぎてるのだ。

 機体の武器構成を見れば、明らかにバルバロイの方が接近した時強いはずだ。マシンガンの命中率を高めたいがだけに接近するグレイゴーストとは明らかに違い、バルバロイはショットガンを持っているのだから。

 それが、オーエンのやろうとしている事を感づいているからなのか…それともただ何かを恐れているのか…オーエンには、どうも後者に思えた。

 

 《足掻くな…運命を受け入れろ!》

 

「なんの手品か分からんが、接近させないつもりなら無駄だ 押し通る!」

 

 グレイゴーストの背部から、大型のブースターが剥き出しになり、エネルギーがそこに集中する。コジマ粒子をプラズマに変換し、それを燃料として、超加速が行われる。

 まさに、猪突猛進というに相応しい、真っ直ぐな動きでグレイゴーストはバルバロイへ直進し、マシンガンとライフルの銃弾の雨を降らす。これがノーマルAC同士の戦闘なら、これで決着がついたようなものだが、ネクスト戦ではそうもいかないらしい。

 アマジークはQBを左右に揺れるように使い、被弾を最小限にとどめている。それは全てPAで吸収できる程度のダメージのようで、全く本体には傷ができていなかった。そして、彼は反撃とばかりに散布ミサイルを発射し、牽制するが、それもまたオーエンはQBで避けてしまったために、有効打にすらならない。

 

 お互いの腕は互角、いや、腕は圧倒的にオーエンが勝っていたが、劣悪なAMS適正―とはいえオーエンと変わらない程のだが―を補うナニカ。それがアマジークにはあり、それによって機体の追従性はアマジークの方が上だった。

 その機体の追従性だけでアマジークがオーエンと渡りあえているのは、ひとえに特異なQBがあるからに他ならない。が、その絶妙な均衡もついに破られようとしていた。オーエンが、QBのトリックに気づいたからだ。

 

 横QBにて、オーエンはバルバロイのQBで、一瞬ではあるが、自分の機体のQBと比べて溜めのようなものが発生しているのに気づいたのだ。QBをする体勢にバルバロイがなってからQBが発動するまで、微妙な時間ではあるものの、タイムラグのようなものが発生していて、それがあのQBに繋がっているのではと考えたのだ。

 なら、自分も真似をすればできるはずだ。オーエンの辞書に、『できない』という言葉はなかった。

 QBを管理する右足のペダルを見ながら、頭の中でイメージを膨らます。

 

「エネルギーを…一瞬溜めて、放つ」

 

 すぐさま行動に移したオーエンは、驚愕した。(戦闘中に)数回試し、やっと成功させたソレは、明らかに普通のものとはスピードが異なるのだ。

 例えるなら、今までのはただ地面を蹴りあげるだけだったのに、この特殊なQBはまるで、スタートダッシュがあるように加速する。

 今まで時速800kmだったのが、四桁までになり、移動距離も明らかに伸びた。

 

 そうなれば、そのQBの特異さでなんとか不利を補っていたアマジークが負け始めるのは、赤子でも分かることだった。

 

 通常のQBを引き離すバックブーストも、コツを掴んだオーエンに対しては何の役にも立たず、マシンガンによって常にバルバロイのPAは無い状態なので、OBによって逃げることも叶わない。

 既に負け戦であった。

 

 《押されている…?侮れんな…レイヴン…だが、負けられん》

 

 自らが大きな精神負荷を背負い、戦闘を続け、なんとか習得した技を一瞬で見破り、更には瞬間的に実践までして見せたオーエンに、アマジークはもはや絶望まで感じていた。

 正義は自分達にあると思い戦い、信仰する神に誓って故郷を取り返そうとしている彼にとっては、それはもはや神の裏切りのようにも思えた。

 

 オーエンは、バルバロイからの攻撃が急激に減った事を察した。自分のライフル弾も先程より熱心に避けようとせず、度々発した声も殆ど聞こえなくなった。

 

『戦意を…喪失しているの?』

 

 フィオナがそう発したが、完全にそういう訳でもないのが、ミサイルを撃ち落としたり、死なない程度には回避行動を取っていることから分かる。

 それを見て、オーエンはナニカを思い出した。

 

 《アアアアアァァァァァ》

 

 何か、苦しむような声がバルバロイから発せられる。その声は、間違いなくアマジークのものだったが、その声に込められた憎しみ、怒り等々が混ざりあった、何とも言えない狂気は、通信越しのフィオナを震え上がらせる程のものであった。

 

 そして、フィオナは震えながら、恐怖しながら確信した。

 これが、『AMS』の負の一面を表したものだと。

 

 先程のが嵐の前の静けさというなら、これは間違いなく嵐だろう。命知らずとも思える突撃と攻撃を容赦なく行い、確実にオーエンを殺しにきていた。

 まるで、感情のままに攻撃しているように感じられる動き。

 

 《消えろ 消えろ 消えろ きえろ きえろ きえろ キエロ キエロ キエロ》

 

 いつしかカタコトのように呟くだけになったアマジークは、最早殺戮兵器と化していた。

 それはオーエンも理解しており、より一層早く始末してしまおうと考え、より接近し、的確に攻撃を当てていった。

 散布ミサイルをばら撒いて移動方向を制限し、マシンガンでPAを削り、ライフルで確実に装甲をガリガリと剥がしていく。決してすぐに撃破できる方法ではなかったが、確かに確実であった。

 が、アクシデントは起こる。

 

 《こちら、ホワイトグリント。ジョシュア・オブライエンだ。援軍に向かう。持ちこたえてくれ》

 

 こちらの回線に割って入ってきたのは、別の第三者の言葉。

 増援が来れば、いくらオーエンでも苦戦は必至だし、弾薬も心許ない状態での戦闘になる。より一層、攻撃の手を緩める訳にはいかなくなった。

 

 グレイゴーストを巧に操り、常に相手の右側に位置取り、ショットガンが全弾命中せず、こちら側の弾だけ命中率が高くなる距離にずっといるようにしている。

 それから二分間の間、ずっと射撃をしていたのに、バルバロイは倒れない。機体から火花が上がり、武装は殆ど残っておらず、スラスターは半壊し、フレームが剥きだしになっているというのに、まだ動く。撃ち続ける。戦闘を続ける。まるで、アマジークの意志をバルバロイが反映しているかのように。

 

 マシンガン程度では撃破に至れないと判断し、オーエンは格納されていた小型ブレードを展開する。細身の刀身が顔を出し、バルバロイへ殺意の塊を向ける。

 それでも、バルバロイは、アマジークは止まる気配はない。正気だった時の引き撃ち主体のスタイルは、その場には欠片も残っておらず、ただ敵を殺すために近づこうとしていた。その様はまるで獣である。

 ミサイルとライフルを乱射し、残り僅かなエネルギーと、なけなしのPA用のコジマ粒子を用いてOBを利用してくる。

 

 《終わりだ…これで…コレデ…》

 

 呟くように、呪詛のように呟くアマジークは、無意識のうちに…いや、半ば本能的にネクストを動かしている。

 だが、それでもオーエンは彼を殺す気はなかった。彼の戦う、本当の理由を知りたかったからだ。

 迫るバルバロイを前に、グレイゴーストはただ、ブレードを構えて立つだけだ。一撃で、戦闘不能に追い込む気である。

 

『避けて!オーエン!』

 

「………俺も、か」

 

 アマジークから戦場で教わったQBを使い、バルバロイの正面にまで躍り出たグレイゴーストは、ライフルを捨て、空いた右腕でバルバロイの頭部を鷲掴みにした。

 ミシミシとバルバロイから軋むような音を立てながら、左腕のレーザーブレードで器用にバルバロイの四肢を切り落として、瞬く間に戦闘能力を奪い、頭を掴んだまま右腕で地面に叩き付けてしまった。そこで、とうとうバルバロイの機能が停止した。

 

 《強すぎる… 神よ…神よ…どうして…正義はそれなのに この死など…》

 

 機体が停止したことで、正気に戻った―としても依然こんな調子である―アマジークは、やはり先ほどと同じ事を呟いている。負けても、勝っても、戦闘していても、やはり彼は信仰する神を考えていたのだろう。だからこそ、負けた時に、神に裏切られたと思ってしまうのは当然の事だった。

 半壊したバルバロイは、コックピット部分にまで被害が及んでおり、戦闘区域と自身のネクストから漏れ出すコジマ粒子から、身を守る隔壁はもうなかった。だからきっと、オーエンがここでトドメを刺さなくても、死ぬのは時間の問題であった。それが、リンクスの定めなのだ。

 

 《レイヴン…一つ、答えてくれ》

 

 血を吐きながら、精神負荷と投薬、そしてコジマ粒子による体内汚染で弱りきったアマジークが、オーエンに対して口を開く。

 これが生きている中で最後の会話であろうそれに、オーエンは快く答えた。彼は、自分とまともに戦った戦士には優しかったのだ。

 

 《その力で…貴様は何を守る…?》

 

「…アナトリアを…フィオナを守る…そう、言おう」

 

 《成程…あるいは貴様も…いや、そうか》

 

 何か、思いつめたように溜息をついた。アマジークは、命乞いも、救援要請もしなかった。彼は自分の身体の事を一番分かっていたのだ。そして、自分の乗る兵器の意味も。

 

 《すまない…皆…》

 

 その言葉を遺して、アマジークは息を引き取った。作戦直前にエミールから聞いたが、彼は常に一人で行動していたという。移動も、戦闘も、そして補給も。できる限り、仲間を汚染に巻き込まないように。必要最低限だけに接触を留めていたらしい。

 ネクストにはコジマ粒子の使用という、場合によって利点とも欠点とも為りうるものが存在するから、しょうがないといったらそれまでだ。だが、確実に言える事が一つだけある。

 

 アマジークは、どこの企業のどんなリンクスよりも、ネクストACの持つ力と重要性、そして欠陥を知っていた。

 今にして思えば、最初に感じた違和感-武装は近距離に特化しているというのに、戦闘距離は中距離だったもの-は、それをしている間は、自分が正気である時という時で、それを自覚したかったからであろう。

 

 仲間の為、たった一人でその苦痛と使命に耐え続けた、孤独な戦士。そんなアマジークの事をオーエンはジッと見つめ、忘れぬようにした。

 

 そして、一つ思い出した。確か、『増援が来る』のではなかったのか?

 聞くからにアマジークを支援するようだったが、いつまで経ってもそいつは来ない。マグリブに存在するもう一人のリンクスは、ジョシュアなんていう名前ではなかった筈だから、相手は企業か、自分達と同じ独立傭兵であるはず。なら、空気を読むなんてしない。

 であれば

 

『オーエン、大変!シャルルが!』

 

 フィオナが、通信越しにかなり焦った声色で叫んできた。やはり、オーエンの想像通り敵の増援はシャルルが足止めしていたらしい。

 だが、何故彼が追い詰められているのかが、オーエンには全く分からなかった。

 彼は強い。今まで会った中でも一番だ。もし仮に、敵が強敵だったとしても、それで呆気なく殺される奴ではない。そう思っていたからだ。

 

 なら何故か。その答えは意外なものだった。

 

『AMSから拒絶されて…機体が言うことを聞かないらしいの!急いで!彼が死んでしまう!』

 

「…!?分かった!できる限り急ぐ」

 

 半分ほどのAPと弾薬を確認し、オーエンはOBでグレイゴーストを加速させ、シャルルの下へと駆けた。

 

(生きていてくれ…シャルル…)




ということで、アマジーク戦終了です。二段QBをどうするかで、だいぶ悩んだ
悩んだわりに、こんな出来だけどね

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