妖精と呼ばれた傭兵   作:vitman

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襲撃するは狩人か、それとも生贄か

 さて、昨日の話の続きを聞きにきたんだね?

 気になるから早く話せって?そう老人を急かさないでおくれ。

 

 …どこまで話したっけか?あぁ!あの降下作戦だったね。

 全く馬鹿げた作戦だったさ。対空設備を破壊する任務なのに、降下による強襲なのだから、全くもって馬鹿げた作戦だね。

 

 さて、伝説のレイヴンだが…彼は凄かった。いつも私の前にいたんだ。人生でも、強さでも、戦場でもね。あの作戦も例外じゃなかった。

 彼は下から降ってくるレーザーに当たらない、安全なルートを私に示すように降下していったんだ。私はその道しるべを辿るのが精一杯だったのさ。全く…情けない話だね。

 

 

 

 

 

 _________________________________

 

 

 

 

 

 降下していく最中、彼から通信が入った。

 

「敵のレーザー砲台が撃ってくる。俺の通るルートを進め」

 

 その言葉の数瞬後、遥か遠くの地上に青い点がいくつも見えると、僅か数秒で光が下から降ってきた。

 まさしく雨のようなレーザーの砲火は、暗視モードにしていたカメラを光で埋め尽くした。仕方なく暗視を解き、素の状態で彼が通るルートを必死で追いかけた。

 彼はレーザーが見えているかのように、また、彼らが狙っている場所が全て分かっているかのように、綺麗に、巧みに避けていた。

 私は彼のおかげで無事だが、他はそうでないのも多い。

 

 すぐ横で轟音が響いた。ランク12のレイヴン『アンドレイ』だった。彼の機体は、運悪く背中に装備していたASミサイルにレーザーが直撃してしまったらしく、誘爆により赤い炎が上がっていた。それを目印にレーザーが立て続けに降り注いでいるのだった。

 

「くそっ、くそっ、こんな所でぇぇ!」

 

 その言葉を最後に、彼の機体は空中で四散し、パーツすら燃え、灰になりながら地へと落ちていった。

 すぐ横にいた味方の凄惨な最期を見て、私は先程よりも一層彼の機体を必死に追った。

 スラスターで細かく姿勢制御を行い、被弾面積を少しでも減らすために頭部を地に向けてまっ逆さまに落ちる。

 他のレイヴンが精神を磨り減らして移動してるのと比べれば、私はかなり楽に降りていけた。

 

 超高高度よりの降下作戦であるため、機体の脚部が破損しないよう、AC用パラシュートが各機に装備されていた。だが、こんな状況でパラシュートを開けるかと言われれば、答えは"no"である。

 判断を誤り、教科書通りの高度でパラシュートを開いた味方機が、今までの機動ができなくなり撃破される。

 これを見て、まだ生き残っているレイヴン達は、パラシュートが役立たずであることを悟った。こうなると、着地までにできるだけバーニアを噴かして速度を減らし、脚部が破損しないギリギリのラインで着地するほかない。

 

 だが、それまでにも私の機体であればできる事はあった。そう、グレネードランチャーの使用である。

 背中武装のグレネードランチャーは、着弾時に爆発する弾薬である。それを利用すれば、この状況なら疑似的な爆撃ができるはずだ。私は余りノーロック射撃は得意ではないのだが、この際言っても仕方がない。

 ロックオンモードを解除し、マニュアル照準へと切り替える。ほぼ真下に撃つのだから、あまり弾道落下は気にしないでいいだろう。自分に可能な範囲でレーザー砲台を狙い、引き金を引く。

 

 ここで余談だが、グレネードランチャーは構え武器という、通常空中で使用する事を想定されていない装備である。これは、機体にかかる衝撃を搭載しているCPUが、自動で姿勢制御する事ができる限界が、地上での計算までだからである。空中における使用は、CPUの性能により断念せざるを得なかったのだ。

 ところが、とある変態企業が頭部に搭載する特殊装備として、マニュアル照準可能パーツを販売したのだ。これは、モードを切り替える事によって、およそ攻撃における全てを人の手によって制御するためのパーツであった。ブレードと同時に起動するスラスターも、ライフルの反動制御も、ロックオンだってそうだ。

 つまり、姿勢制御を自分で管理する事になるため、パイロットへの負荷は相応にかかるが、上手く使いこなせば予想外の一撃を与えられるものとなっていた。要するにドミナントやニュータイプ御用達パーツであった。

 

 撃った衝撃でひっくり返りそうになる機体を必死のバーニア管理で戻し、再度照準作業へと移る。一射目は命中、レーザー砲台を一つ破壊した。

 

「ははは、まさかノーロックか?やっぱり君とタッグを組んで正解だった!」

 

 私の行動を見て、彼は笑った。戦場で笑うなんて、常識からすれば少しおかしいが、それだけ彼には余裕がある、ということなのだろう。

 

「二射目もいけるか?」

 

「ああ、撃てる」

 

「なら、ルート管理は任せておけ。しっかりついてこい」

 

 二射目、着弾、命中。三射目、同じく命中、撃破。四射目、横に逸れ地面をえぐる。右に3度修正。五射目、命中。

 こんな調子で、30秒の間にレーザー砲台は半減していた。私のグレネードランチャーの残弾も半減したのだが、これで比較的安全に降りられるはずだ。何故半減で止めたのかというと、もうそろそろ高度が800になる。そうなれば、着地に対しての(心の)準備が必要になる。それに、FCSによるロックオンも可能な範囲になるため、もはやマニュアル照準をする意味もないのだ。しかも、半分も潰せばさすがに一流のレイヴン達だ。大きな被弾もなく降下できるだろう。

 ほっと一息つこうとした私の機体に通信が入った。

 

「流石だな。これで楽に降りることができる。」

 

「いや、君の誘導のお陰だ。あれがなかったら落ち着いて照準なんかできなかった」

 

「謙遜はよせ。・・・さぁ、着地だ。やっと戦闘だ、行くぞ」

 

「分かってる、好きに動いてくれ。援護する」

 

 そういっている間にも地は近づいてくる。高度が500を切り、各機がバーニアを吹かして姿勢を着地体制にまで移行し、速度を無理やり相殺する。敵のMT部隊が近づき、着地の瞬間をまだかまだかと待ち構えているのが、カメラに写っている。なんとか速度を落とし切った私や彼などの大多数は、スラスターを利用して、エネルギーが半分を切るまでにMTをできる限り潰す気である。

 しかしながら、少数はそうではなかった。それは、運悪くレーザーに当たってしまったために計器やレーダーが損傷したり、メインカメラが破損してサブカメラを使用せざるを得なくなった機体だった。彼らは高度計が破損したり、不明瞭な映像で外を確認していたために、MT部隊に気づくのが遅れていたのだ。結果、取り敢えず着地しようという気持ちが仇となり、着地した瞬間 パララララ という、小気味よい音を出しながら6機のMTがマシンガンを斉射した。ガガガガガという装甲が削られる音と共に、不幸なAC達のコア部分は穴あきチーズとなってしまった。

 私達がMTを倒し終わったのは、丁度、着地してしまった2機のACのパイロットがこと切れたのと全く同じ時であった。

 

 出撃したAC、合計15機のうち、もう既に7機が失われ、今や8機のみになっていた。ほぼ半数が撃破されている事に気づいた私は、改めて安全なルートを示してくれた彼に心の内で礼を述べた。

 だが、地上に降りたレイヴンは、相手の好きにさせる事はない。先ほどのMT部隊どころか、そこら辺の戦車部隊は既に壊滅していた。それらはまるで溶けるように破壊されていったのだ。

 

「他の機体はポイントの高いMT部隊を撃破しに行くみたいだな。私と君はレーザー砲台の破壊に向かおう」

 

「それでいいのか?」

 

 てっきり彼の事だから、敵のACでも破壊しにいくかと思っていたのだが、今回は読みが外れたらしい。どうも、私のACが撃破しやすいレーザー砲台の殲滅、それに付き合ってくれるらしい。

 

「グレネードランチャーは威力は高いが構え武器だ。射撃中の隙は無くしたいだろう?それに、大事なレーザー砲台を撃破しにくる機体を敵は相手しない訳がない。その方がいいさ」

 

 なんと彼は、私の事を気遣うだけでなく、自分が稼ぐ算段まで同時に考えていたらしい。さすがの私も、そこまで言われたら言い返せなかった。

 途中に邪魔してくるMT部隊を蹴散らしながら、機動力で勝る彼のACが先導し、空中からの疑似爆撃で破壊できなかった、砲台陣地へ向かう。戦車部隊はマシンガンで、MTはミサイルでまとめて破壊する。彼の乗るACは、弾薬の節約なのか、ブレードを多用してMTを一撃で破壊している。

 

「・・・見えたぞ。あれだ!」

 

 彼が通信越しに叫んだのと同時刻、私の乗るACに装備されているレーダーも、レーザー砲台を捉えていた。先ほど破壊したのは、およそ半数であろう18基であるため、残りは20基程度だろうと踏んでいたのだが…

 

「これは・・・予想以上に多いな。さっきの対空砲火は、まだ本気ではなかったということか?」

 

 レーザー砲はしっかり数えていなくても40基かそれ以上はあった。しかも、ほとんど等間隔で並んでいるレーザー砲台の間には、それよりも二回り位小さい対空砲が設置してあった。もしも、先ほどの降下で全ての砲台が使われていたのなら、無事に着陸できたACの数はさらに半減していたかもしれない。

 だが、呆気に取られてもいられない。私達は既に敵陣の真っ只中にいるのと同じなのだ。こう話している間にも、彼はライフルとブレードで、私はマシンガンとミサイルでできる限りの敵機を撃破していった。それ相応のAP(装甲耐久値)が失われていくが、まだ80%以上はゆうに越しているため、あまりに油断しなければ大丈夫だろう。

 

「そろそろっ…グレネードランチャーを使用した、砲台の撃破に移るぞ」

 

「ああっ、頼む。さっさとここから離脱したいものだ」

 

 ブレードで敵MTの装甲を溶かしながら、彼にこれからの行動を伝えると、彼も行き絶え絶えに言葉を返してきた。彼は背中武器にチェインガンとスラッグガンを積んでいるようで、継戦能力の無い武装なために、さっさとどうにかしてしまいたいと思っていたのだろう。

 

「よし、まず一基」

 

 大口径のキャノン砲から、有澤重工製のこれまた高火力のグレネード弾が発射される。グレネード弾はレーザー砲台に着弾し、爆発。その爆風で周りのMTや戦車、武装ヘリコプターも巻き添えにし、被害を与える。

「この調子でいけば三分で終わる」そう思った時であった。レーダーに高エネルギー反応確認とオペレーターから告げられた。この反応は

 

「企業のACか」

 

 彼の言う通り、ACの様であった。しかも、ブリーフィングで出ていたあの新型だ。とはいえ、見た感じ普通のACと違った点はない。強いて言えば、内部フレームが見える程にコア部分の装甲が薄いくらいか?

 そのままにしておくわけにはいかないと判断したのだろう。「相手をしておこう。君はそのまま砲台の破壊に専念してくれ」そう彼が言った瞬間であった。

 

「お前らばかりに稼がせてたまるかってんだ」

 

「敵のACですか。見たところ、近接仕様の装備らしいですし、囲んで溶かしますか」

 

 Bランク2、3の二人組。それぞれ、「マッシュ」と「バンブー」という機体名で、「きのこ」「たけのこ」という意味の二機は、どちらも一歩引いた位置からの射撃によって、戦闘の流れを自分達側に引っ張っていく事で中々注目されていた。Bランク帯のレイヴンの中でも、実力と野心の大きさは随一だろう。

 

「オラオラ!てめぇには悪いが、俺達の踏み台になってもらうぜ!」

 

「まぁ、そういう訳です。めんどくさいので、溶けてくださいね」

 

 マッシュは軽量逆関節機。ライフルとロケット弾で順調に攻撃を加える。対してバンブーは四脚の機体で、その安定性を活かして、右腕のバズーカと左腕のスナイパーライフルで重い攻撃を与える。

 この二つを見て分かる通り、この二機は、マッシュの装備するロケット弾の高い衝撃力で敵機の動きを止め、その間にバンブーのバズーカとスナイパーライフルを与える事で継続して敵機を足止め、このコンボで仕留めるというものだった。レイヴンの間ではハメ殺しと呼ばれる技術だ。

 むしろ、私と彼のように二機で出撃するのなら、敵ACが一機だった時に楽に撃破できるようにこのようなコンボを作っておくのが普通であり、「私達のように各々適当に」というタイプは珍しい。

 私は弾薬費節約も兼ねて7発はグレネードを残そうと思い立ち、ブレードとマシンガンで砲台と周りの護衛部隊の殲滅を行っていたのだが、唐突に彼が呟いた。

 

「おかしい…」

 

 どういう事かと思い、マッシュとバンブーの方にカメラを向けた。そこには、確かに、目を疑うような光景が広がっていた。

 

「なんでだ!?なんでやられん!」

 

「くうぅ…そもそも、効いているのですか?」

 

 あの二機が攻撃しているのは、先ほど現れたACである。

 まさか、と思った。何故なら、ACのAPは多くても10000を超す程度。しかもそれは、俗にガチタンと呼ばれる、防御特化のタンク機のみである。普通の二脚型AC、しかも、あのようなフレーム部分が隙間から見える程に軽量化されている機体では、あのハメ殺しをこの時間耐えるのは不可能であり、どう考えても異常だ。

 

「くそっ、くそっ!なんで効かねぇんだよ!」

 

「落ち着きなさい、マッシュ。一旦射撃を中止、パターンBに移行しましょう」

 

 そう言って、バンブーは左腕装備のスナイパーライフルを投棄、格納していたブレードを取り出す。マッシュも左腕のブレードを構える。どうやら、二機による同時ブレード攻撃をしかけるらしい。

 彼が言うには、あれだったら四脚の方はまだ援護に徹して出方を見るべきらしいが、それでも中々楽しそうな声であった。未確認機を横取りされた事よりも、それを相手取るのが見れて面白いのだろうか。

 

「ははは、なます切りにしてやんよ!」

 

 《そうだ、それでこそだ》

 

「・・・なんだ!?」

 

 マッシュが加速力を活かして、敵新型ACに突撃した時、オープンチャンネルで敵ACのパイロットが話してきた。

 落ち着いた雰囲気だが、確かに殺気の篭った鋭い女性の声。そんな第一印象だ。

 

 その敵ACは、()()()レーザーブレードを装備していた。記憶が正しければ、一般に購入できるパーツの中で右腕装備に対応したブレードはなかったはずだ。つまり、その装備はレイレナード社が自社のレイヴンに専用装備として与えたものという事になる。

 右腕装備のブレードから、紫色をした極厚のレーザーが出現した。見ただけでも分かるその高出力は、彼女の機体が格闘戦に特化していることを私達に教えてくれる。

 こんな風におちついて説明してはいるが、景色はこの瞬間にも移り変わっていた。

 

 マッシュが左腕で、右から左へと降る事で一気に敵機を両断しようとするのに対し、敵は半歩後ろに下がり、右腕を上段構えにして、マッシュに向けて振り下ろした。ここで問題だ。ブースターを使ってホバーしながら両断を行うマッシュと、一度半歩後ろに下がってから振り下ろした敵機。どちらが相手を斬れるのだろうか。速度的には、()()()AC戦であればマッシュに軍配が上がっていただろう。

 

 ところが、斬られたのはマッシュであった。しかも、敵機には傷一つない。

 東洋にある島国『日本』。そこで生まれ育った私には分かる事だが、あれは剣道に通じる動きであった。打ち落とし技と呼ばれる技があるのだが、それに似た動きでマッシュの機体の腕を切り落とし、そのまま相手から見て右下から左肩にかけて袈裟に切り上げてしまった。しかも、機体の断面はレーザーブレードで『斬られた』というよりも、強力なレーザーキャノンで『抉られた』と言うべきものであった。当然、レイヴンは即死だろう。

 

「この・・・化け物がぁぁぁ!」

 

「いかん!そいつに手を出すな!」

 

 思わず彼がバンブーに対して叫んだが、相方が死んだことによって取り乱したバンブーは、聞く耳を持たずにバズーカを乱射し、肩装備のミサイルも同時に発射した。一次ロックと呼ばれる、FCSが敵機の移動に対して精度修正をしてくれないロックオンのまま撃ったためか、震える手で撃ったバズーカの弾はあちらこちらへと着弾し、むしろ回避を難しくさせていた。のだが

 

 ドヒャア

 

 という、なんとも特徴的な音をさせ、敵機は目を疑うような機動を見せた。

 敵機はなんと、瞬間移動とも取れるような恐るべき速さでバンブーの真横までブースト移動し、そのまま先ほどのマッシュがしようとした、真一文字斬りで切り伏せてしまった。

 流石の彼も絶句したその機動は、現在私等が乗っているACでは不可能な動きだ。仮にエクステンション装備として、補助ブースターを装備していたとしても、あそこまでの異常な瞬間移動は不可能だ。

 

 呆気にとられ、砲台の破壊すら忘れて敵機を見ている私達に向かって、その新型に乗っている女性は、またしてもオープンチャンネルで通信をしてきた。もはや私達は通信を拒む気すら起きなかった。

 

 《さぁ、前を向け。そして剣を取れ。前を向かぬ者に、未来はない》

 




ヒロインはオルレア(アンジェ)に決定しました。
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