英語?日本語?それとも未知の言語?
4系列に限っては、国が滅んでも言語は滅ばず、翻訳技術が発達しただけだと想像してます
爆発音が幾つも響き渡る施設の通路では、まさに死屍累々という表現が相応しい惨状が広がっていた。とはいっても、その惨状を引き起こした本人である私は、殆ど無傷であったが。
私とロレーヌがこの下層にやってきた事を知ったGAEのノーマル部隊が、迎撃にやってきてから約20秒。なんだかんだあって16機の撃破に成功したが、その分オーエンよりも遅れてしまっただろう。その分の埋め合わせをすべく、通路をOBを使って移動する。
《奴らを通させるな!》
《PAだけでも、剥がすんだ!》
途中戦車が数両、バリケードを作るように並んでいるが、当然ネクストに対してそんなものが意味ある訳もなく、私は速度を落とさずに直進し、脚部で轢いてしまった。バラバラの部品とオイルと混ざった赤い液体だけが、私の目に映る。現実は非情なのだ。
再び、GAE社のノーマルが現れる。しかし、先ほどまでの防衛向きなGA社製のものではなく、ローゼンタール製のバランス型のもの。それならば、プラズマキャノンを命中させれば楽勝である。
相手もこちらを目視するなり、徐々に後退しながらレーザーライフルを撃ってはくるが、そもそもの速度が違い過ぎるがために引き撃ちが通用しないのがネクストである。そう、意味がないのだ。ノーマル程度では。
撃ってくるレーザーを全く気にせず突っ込み、三機のノーマルの目の前まで接近する。そして、QBを応用したターン技術と共に月光を起動し、満月を描くように回転する。そのたった一振りで、三機のノーマルは全て胴体の上と下とが別けられてしまい、中にいるパイロットごと機能を停止してしまった。
さて、その間にも恐らくオーエンと比べて差が開いてしまっているはずなので、さっさと格納庫まで突っ走る。迎撃するのにエネルギーが足りなければ、多少の装甲を引き換えに、壁にぶつかりながら敵を避け、それが無理なら質量と速度にものを言わせた蹴りを見舞う。GA社製の頑丈なものならいざ知らず、バランス型の中量二脚タイプのローゼンタール製ノーマルでは、ネクストの質量と速度が加わった凶悪な蹴りは防げないようで、蹴りあげたコア部分がバラバラになってしまった。
以前、レイヴンとしてアンジェと一騎討ちをした時、彼女のネクストからの蹴りを食らった覚えがあるが、それは至近距離からのもので、速度がそこまで乗っていなかったからこそ、致命傷で済んだのだろう。もし自分がOBしているネクストに蹴られようものなら、汚染の可能性があったとしても、まず間違いなくさっさと脱出してしまうだろう。
そういう意味では、社員とはいえ企業に命まで捧げる彼らのことが尊敬できる。なにしろ、ネクストというのは、ハイエンドノーマルですら相手をするのがやっとだというのに、彼らはそれより遥かに性能面で劣る只のノーマルACでネクストにすら立ち向かうのだ。正気の沙汰ではない。
とはいえ、こちらも依頼でやっているのだから手は抜けない。なにより自分が死ぬのはごめんである。申し訳なく思いつつも、前に立つ者はなんであろうと排除し、更に奥へ奥へと進んでいく。
奥へ進む事に何となくではあるが、敵にエンカウントするまでのインターバルが短くなっている…ような気がする。それがターゲットを守るためであるなら、恐らくもう少しで着くだろう。
限界活動時間まで、あと11分
まだ余裕がある事を確認し、少しリラックスしてみることにする。どうも、戦闘中はいつも極度の緊張状態になってしまう。
本当なら、オーエンのようにリラックスした方が冷静な判断を下しやすい。でも戦場でできる事は限られてるから、中々実践できずにいたのだ。
…そうだ。音楽を流すなんてどうだろうか?もしくは、鼻歌でも歌ってみようか?中々いいアイデアだと思う。音楽にはリラックス効果があるなんていうし。
流石に今から音楽を流すのは無理だ。データをネクストにインストールしてないから。でも、鼻歌ならそんなものは必要ない。なにしろ、自分で歌うのだからな。
どうせだからとネクストの拡声機能を無駄に使い、周りにも声が届くようにする。自分が来ている事を相手が知り、逃げてくれれば儲け物だ。勿論、集まってくれても一網打尽にできるのだから損はない。
「さて、何を歌うかなと」
恥ずかしながら、私が知っている曲は少ない。というのも、傭兵として過ごした年月の方が、それ以外であった年月よりも長いのが災いして、あまり流行のものや趣向品などに疎かったのだ。レイヴンである時の趣向品なんて、土地によって異なるおいしい名物料理とか、酒などに絞られていた。
という事で、私が知る数少ない曲というのは必然的に、最近アナトリアで聞いたラジオで流れる曲になる。その中で特に頭に残った曲であれば…そう、あの曲しかない。
「ふんふふんふん~ふんふふんふふ~♪」
「Agitator」つまりは煽動家というタイトルのこの曲は、何故だか良く耳に残る曲だった。この曲の作曲を担当していたのは、意外にも私をよく知る人物であることが明らかになった。
レイヴンとして最後に世話になった運び屋、チコニアである。気づいたのは、この曲が流れたラジオ番組のラスト。ラストに流れたこの曲には、『アナトリアにいる二人のリンクスに捧げる』というメッセージがついていたそうだ。あるいは、そのラジオ番組自体が彼らが立ち上げたものかもしれない。
今度、この曲を作った意味でも考えてみるとしよう。昔の私達を知る、数少ない人物からのメッセージなのだ。
少しの間、その曲を口ずさみながら気分良く戦闘していたのだが、突然心配そうな声で話しかけてくる人物がいた。フィオナさんだった。
『シャルル、どうしたの?いきなり鼻歌なんて歌って』
そりゃ心配するだろう。普段無口で淡々と依頼をこなす私が、話すどころか、突然歌いだしたのだから。しかし、フィオナさんには悪いけどこれはやめない。気分良く戦闘はしたいのだ。
だから、本当に心配してくれるのは嬉しいけど、これだけはやめない意を示す。
「大丈夫」
「ただ、今は歌っていたい気分なんだ」
そんな私の答えに、『そう』と少し悲しそうにフィオナさんは呟くだけで、私の行いを咎めようとも肯定しようともしなかった。
何となくそれが私も悲しかったが、それでも歌うのはやめない。歌っている間は寂しさは薄れるし、なによりリラックスができるのだから。
歌に釣られ、向かってくるノーマルACが四機。普段なら面倒に感じるが、今は、今この瞬間は違う。
手始めに左腕のレーザーライフルを2発撃つ。もちろん、これで倒されてくれるほど甘い装甲ではないのは知っている。だから、足下を狙った。
予想通り、先行していた機体二機はそれぞれ片足を破損し転ぶ。それに動揺したのか、続く二機は立ち止まってしまう。
その隙を見逃す筈もなく、右肩のプラズマキャノンを連射し、立ち止まった方のコアに穴を開ける。そうしたら、脚部を損傷しているのは無視して先を急ぐ。道さえ塞がないのなら、ネクストに追いつけないノーマルをわざわざ律儀に撃破する義理もない。
鼻歌をしていれば、敵は続々とやってくる。それらを全て狩りつくし、通路を鉄屑だらけになってしまっている。それがあたかも帰り道を示しているようで、童話ヘンゼルとグレーテルを思い出させる。確か、あの話ではパンの切れ端を置いていったのだったか?だとすれば、この残骸も鳥に食われるのだろうか?そこまで考えて、自嘲気味に笑う。もう猫になったというのに何を考えているんだ、と。
「見えた」
正直何のためにここまで長いのか分からない道を進み、やっと開けた場所に出られた。それはもう、通路への出入り口がネズミの穴みたいに見えるほどで、巨大な人型兵器のはずのネクストがまるでオモチャに思える程にこの空間は巨大であった。そして、この空間に相応しいものが、目の前にはいた。そう、ターゲットである。
ターゲットはこれまた巨大で、全高だけでもネクスト10機分くらいはある。全長などは想像すらできない。しかも、数十にもなるノーマルの群れがターゲットの巨大兵器を守るように布陣している。
だというのに私は、どうしようかと悩むどころか相変わらず鼻歌を続けながら―しかも今までよりもよっぽど調子良く-その群れのど真ん中へ機体を進ませていた。
⑨
私だって、どういう事なのか分からない。でも、上からの命令なのだからきっと必要な事。だからここに来た。
なのに
「なのに、これは一体…?」
先程からやけにおかしかった。GAE社から、「他企業の部隊がこの工場を襲撃するらしいから、本社のリンクスに防衛を頼みたい」という話をされ、しかもそれが今日中だというから、本社に話をする暇もなく駆けつけた。
着いた時には時既に遅し。工廠の真上に隠蔽されている筈の隠しハッチは抉じ開けられ、地上の防衛設備は壊滅状態である。
敵が通った道を通り、後を追いかけようとしたら、すぐにその異常性に気がつき、今に至る。
ここはGAEの生命線である工廠である。しかも、GA本社からの支援も相まって高い防衛力を持っている。正直言えば、リンクスである私だってここは攻めたくない。物量が異常に多く、PAがあっても撃破される可能性が高いのだ。
だというのに、だ。ここにあるのはGAE社が自分達の拠点防衛用に配備してある、ローゼンタール製のMTの残骸ばかり。敵対しているアクアビットやBFF社製ノーマルの残骸は一機分だって見られない。更に不自然な点と言えば、GAE社のノーマルの残骸以外には、パーツの欠片すら落ちていないところである。
もし仮にネクストが侵入してきたとしても、さすがにこの数のノーマル相手に無傷で突破は不可能なはず。装甲が薄めの機体が多いアクアビット社やレイレナード社のものなら猶更である。
であれば、この施設に侵入してきた敵は、未知の敵か、それともなければ私が勝てないかもしれない相手。それでも私は負けるわけには…死ぬわけにはいけない。私の恩人が設立した、戦争孤児を主な対象とした、孤児院の活動資金のためにも。帰りを待つあの子たちのためにも。
「どうか…神のご加護を…あら?」
祈りを捧げようとしたとき、ふと耳に何かが聞こえる。誰かが歌う声。歌うといっても歌詞はなく、リズムだけを刻む丁寧な、綺麗な鼻歌だ。
若い男が歌っているようだが、声変わりがしきれてないのかそれとも元々そういう声なのか、結構高めの声。テノールとアルトの間くらいではないだろうか。
「綺麗な歌声…まるで…まるで戦場の妖精みたい」
____
だが、彼女は知らない。その妖精が、悪魔であることを。
最後のノーマルから、紫の刀身を引き抜き周りを見る。動く者は自分だけ。他には何もない。さっきまで地上でうろちょろしていた(とはいえ戦闘には巻き込まれていない)整備員達も、撤収を命令するアナウンスの後すぐに居なくなってしまった。
だが、自分で最も衝撃的だったのは、この場をここまで滅茶苦茶にするのにかかった時間である。
いつもならこれをするのに、どれだけ見積もっても3分はかかっている。それが、今回はたったの1分と13秒だけだ。
敵の練度が低かった訳でもなく、単純に自らの動きが良くなっている。
(自覚できていなかっただけで、少しずつ前進できているのか)
レイヴン時代になかった程の急成長に少し驚きながら、同時に高揚感も覚える。自分に力がついてきていて、自分やっていることは無駄ではない。しっかりと結果が出ているという事に自信も湧く。
(さて、あとはアレを破壊して終わりだな。随分とあっけないものだ)
重要施設だというのに、ネクスト対策はされていなかった。そのことに若干がっかりしつつも、依頼を達成するためにレーザーライフルとプラズマキャノンを展開し、射撃を開始する。
この巨体である。破壊するのにどれくらいかかるだろうかと若干焦ったが、それは杞憂であった。それは、想像を遥かに超えて脆く、両方の武装をそれぞれ五連射しただけで破壊できた。
建造途中とはいえこの脆さだ。きっと完成しても、大した事はないだろう。この手のモノは大抵、後方支援用の移動砲台と相場が決まっている。
(帰るか。残り時間は…7分。余裕だな)
出口に機体を向けるため、QTをしたその瞬間、爆音が出口の方から聞こえた。突然の事に驚きつつも、急いで垂直上昇を行い回避行動をとる。判断は正しかったようで、元居た場所にはバズーカ弾が着弾し、大爆発を起こしていた。
『シャルル、相手はGA社のオリジナル、メノ・ルーよ。危ない、逃げて!』
《あなたがアナトリアの…悪いけど、逃がすわけにはいかないの》
一瞬何を血迷ったか、フィオナさんの言うとおり脱出しようとしたが、相手は元から逃がす気は無いようで、出入口に陣取っている。しかもその上で大型ミサイルやらバズーカやらガトリングやら連動ミサイルやらを撃ってくるのだ。たまったものではない。近づけば一瞬で蜂の巣にされるだろう。
しかし幸い、今回の私の装備は射撃武装が豊富だ。しかも、GAの機体に対して強いアドバンテージを持つエネルギー兵装。
近づかず、少し離れて撃ち合っていれば勝てるだろう。この相手に接近戦を挑むのは悪手であり、危険であり、今はそれを避ける手を持っている。
だけど
『シャルル!?なんでそれを…』
《どういうつもりなの》
ロレーヌの両脇に大きな長細い塊が落ちる。勿論機体のパーツなんかではないし、被弾だってしていない。
落としたのは、レーザーライフルとプラズマキャノンの2つで、誤パージでもなんでもなく、私が『故意』に武装解除したものだ。
左腕の武装は、格納しておいた小型ブレードがレーザーライフルの代わり、背中は幾分か軽くなった。ロレーヌ自身も気分が良いのか、いつもよりAMSの伝わりがいい気がする。
「斬り込む」
さながら豹のように脚力とスラスターを使って加速する。その移動速度は、並のネクストでは絶対に出ない速度。当たり前だ。ロレーヌのメインブースターは元々そういった目的のためにある。
メノ側は当然、バズーカとガトリングによる迎撃を試みる。しかし、ガトリングは小型ブレードで切り払われ、バズーカとミサイルは基本全て避けるその動きによって、常に後手後手の状態にあった。
そして彼女はこう言った。私がこれほどの機動を行いながらも、舌も噛まないでずっと歌い続けているのを見て、思うところがあったのだろう。
《あなたは――まるで妖精ね。戦場で歌に乗って踊る、強い、綺麗な妖精。黒いカラーがもったいないくらい》
それを言い終えたのは、丁度、私のロレーヌがプリミティブライトの目の前まで迫った時であった。
妖精と呼ばれた私は、少しばかり調子に乗っていたのだろう。震える声で自らの信仰する神の名と、呪文のような教えを呟いているメノに対して、珍しく「殺したくない」なんて思ってしまった。
「悪いな」
《…!?》
強張った表情に彼女の顔が変わったのが、機体越しにでも分かる。そういう反応をされると少し意地悪したくなるのは、人の性なのか、それとも私の悪い癖か。
多分、両方だ。
「そういう反応は面白いだけだぞ」
そう言いつつ月光の出力を上げ続ける。ネクストの装甲をPAごと分断するためだ。
実際、私が彼女を殺す理由は殆ど無かった。彼女は依頼主のGA所属のリンクスであるし、オリジナルである彼女の死がアナトリアとGAの関係を悪くする要因に成りうる事は、誰の目にも明らかであるからだ。
しかしそのままにしておく訳にもいかない。彼女だって、誰からの要請かは知らないが、任務でここに来ているはず。そうだとすると死ぬ気で追いかけて来てもおかしくはない。背後を取られるのはまずいし、通路で戦闘になれば不利なのはこっちだ。
だからこそのこの妥協案だ。
4回ブレードを振り、プリミティブライトの四肢を切り落として達磨にする。更には背部のミサイルも、ハンガーユニットを斬ることで無力化する。そうすれば、攻撃はおろか身動きすら困難になり、救援を待つ他無くなる。
《そんな……どうして?》
自分を殺さない事が余程不思議で、奇妙な事だったのだろう。
「利点が、無いからだ」
本当に、それ以上でもそれ以下でもなかった。
でも、本当はそれで良かったと心から思っていたんじゃないか。殺す事に対して、私の中で変化が起きているような、そんな気がする。
《》
私は、殺されるとばかり思っていた。彼が、シャルルが私の事を殺すとばかり。
怖かった。神に祈った。それでも、無理だと思った。自分だったら、間違いなく殺す。いつか自分も殺られるのだろうと思いつつ、今生きることを選んで、孤児院にいる姉弟同然の子供達のためと言い聞かせて、企業の言うとおり、ネクストにとって無害にも近い者をも躊躇わず殺してきた。
だからこそ、次は私の番だと思った。諦めた。受け入れた。でも、情けないことに「生きたい」と思ってしまった。神に祈ったけれど、無理だと思った。
でも、願いは叶った。
黒と赤の禍々しい色の妖精は、殺す理由も利点もないと言って、私を殺さなかった。一応、抵抗されないように機体の四肢を斬られ、武装は全て外されたけど命は奪わず、捕虜にもしなかった。
考えるほどに彼は、妖精は、シャルルというリンクスは不思議な人だ。
「…また、会えるかな?」
こんな感覚を覚えたのは初めてだ。これが、恋、というものなのだろうか。よく分からないけれどまた会いたいと思ってしまう。
「できれば、次は戦場以外で会いたいな…私の妖精さん」
ついに妖精さん解禁