みんな腹黒だとか、へんたいだ!とか言うけど、かっこいい事だってするんだよ!
……きっと
GAのビックボックスにオーエンはいた。何故GAの本拠地にオーエンがいるのかと言えば、簡単な話で、今回の任務はここからネクストを発進させて行うからだ。
そんなわけで、わざわざアナトリアから遥々8時間程かけ、輸送機でフィオナとオーエンの二人はアメリカ大陸まで赴き、GA本社にまで足を運んでいた。まぁ、わざわざと言っても、向こうがスポンサーのようなものなのでこちら側から行くのは当然と言えば当然ではあるのだが。
「お待たせしました。こちらです」
到着して数分待っていたら、如何にも役人という風貌の男がやってきて、案内をしてくれた。だが、少し歩いてオーエンは気づいた。どうも、向かっている方向にあるのは格納庫だ。作戦会議などでおなじみの会議室には招待されていないらしい。
だが、オーエンが本当に気になっていたのはそんな事ではない。彼が真に気づいていたのは、排気口や、通路の脇道、物陰、ゴミ箱の中……その他色々な所に潜んでいるだろう『見張り』であった。おそらく怪しい動きをしたら拘束でも殺害でも平気で行えるようにしたのだろう。輸送機から降りた時にやけに丁寧に行われた検査も、今思えば武器を奪うためだったのだろう。
(思ったより、こちらを警戒しているのか?……まぁ、当たり前と言えば当たり前か)
オーエンは、自分達が十分強い事を自覚していた。強い事を誇示するような人物では彼は無かったが、謙遜ばかりしまくるような性格という事は更になかった。強い奴は強いと……弱い奴は弱い事を分かるようにすればいいというのが、彼の考え方だった。
自分のグレイゴーストに加え、アナトリアにはシャルルのロレーヌもある。彼らそれぞれと互角に渡り合うリンクス、ジョシュア・オブライエンが一人いるアスピナ機関ですら企業から恐ろしいと思われているのだ。二機いるアナトリアが警戒されるのは当然だというのがオーエンの考えだった。
(大方、俺たちの事をこのいざこざの間に消したいのというのが本音なのだろう……アナトリアを去る事も考えなければな)
歩く事約10分、とある倉庫にたどり着く。結局、隠れていただろう刺客は手を出してこなかった。この分だと仲間でいる限りは何もしてこないだろう。そうオーエンは確信を得る。そういえばと思い、彼がフィオナを見ると彼女は見るからに緊張している様子だった。幸い漂う妙な殺気には気づいていなかったようだが、悪い事をしてしまったと思った。
「さて、私はここまでです。ここから先はお二人だけでお願いします」
「本当にこの倉庫の中なんですか?」
案内役の男の言葉に、フィオナが思わず不安そうな声を漏らす。自分達をここまで案内した者がここから先は二人で行けなんて、中世ヨーロッパの騎士じゃあるまいし、現代じゃ罠くらいにしか使われないシチュエーションだ。
「えぇ、私にはそう伝えられています……安心してください、取って食おうって訳じゃありません」
「成程、では、フィオナ、行こうか」
「え!?あ……いいえ、分かりましたオーエン、行きましょう」
せめて心配さえまいと怯える事なく行く事を決意したオーエンに、フィオナも着いていく事を決めた。
二人は並んで前に進む。自動ドアのロックが解かれ、その眼前にただただ広い空間が広がる。奥の方は暗くて見えないから全体像が掴めないとはいえ、それにしても相当な広さであることは明らかだ。ノーマルACがざっと100機以上は整備ができる広さがあるだろう。そんな中にポツンといるのはなんとも言えない感覚だろうに、オーエンはただただその闇の奥を見つめていた。
『やっと来たか、アナトリアの傭兵……いや、こう呼んだ方が正しいか?
闇の方から声が響く。なんとも芝居がかった声で、語りかける年を取った男の声だ。しかし、オーエンはその声を知っている。この場にシャルルが居れば、自分と同様の反応をしただろう。
「私はもう既に鴉でなく山猫だよ。あなたこそ、こんな所で何をしているんです?」
「クレイトン……」
その名を呼ぶと暗闇の中から一人の男が姿を現す。それは、フィオナが知らないころの二人のリンクスの戦友。時代の流れに対し、最後に反逆した鴉の一人。BFFの女王に対峙し、敗北し、死んだと思われていたあのタンク型ACのレイヴン。
シャルルのいた場所からそう離れていなかったオーエンと違い、彼はそこそこ離れた場所で戦闘をしていた。しかも、シャルルが彼の事を回収しようと接近してもあきらめていた事だろう。彼ら二人のACと異なり、クレイトンの機体は損傷が激しく、今ここに彼がいて生きている事すら奇跡に等しい事なのだから。
「しぶとく生きとったみたいだな……それと、お前と同じように俺も名を改めたんだ」
「へぇ……どんな名前にしたんだい?」
「俺はお前らと違って大した戦果は挙げられてないし、そもそも適正も低いからなぁ…聞いたこともないだろうが……ローディーと今は名乗ってる」
フィオナは知っていた。シミュレーターに登録されている、GAのリンクスだ。だが、ローディーというリンクスの評判はお世辞にも良いものではなかった。AMS適正は最低限程度しかない上、火力と装甲に頼った戦い方のため、ネクストとの戦闘は不可能で、せいぜいがノーマルの相手で精一杯だろうとのことだ。
「へぇ、シミュレーターでは見たことあるけど、戦場なんかでは聞かないなぁ」
「ま、そうだろうよ。だが、今に見とけよ……GAの連中をぎゃふんと言わせてやるからな。AMS適正だけが全てじゃない事を思い知らせてやるわ!」
かつて鴉が最後の時を迎えようとしていた時よりも、オーエンの目には彼が生き生きしているように見えた。実は、元レイヴンがリンクスになろうとする事はあまり珍しい訳でもないようだが、如何せん適正という問題が立ちはばかるために、そうそうなれるものではない。
その点で言えば、自分はまだ恵まれている方だ。ともローディーはこぼしていた。
「フフフ……あんたが無事だって事、シャルルにも伝えておくよ」
「シャルル……あぁ、やっぱりあのリンクスはあの時の青年だったのか……頼むよ、あいつとも話したい事が沢山あるしな」
ローディーはもうかなりの高齢のはずだが、それを感じさせない活力があった。そして、そんな彼とオーエンが対等に話しているのを見て、フィオナはGAの評価が……いや、企業のリンクスに対する評価が必ずしも合っているものではないと悟った。
そもそも企業は適正値ばかりを重視しているが、オーエンや限界時間を過ぎたシャルルの戦闘から分かる通り、別にAMS適正値だけが操縦に関わっているわけではないのだ。つまり、ローディーが弱いとは一概に言い切れない。
「ところでローディー、まさかわざわざ昔話をするためにここへ呼んだわけではないだろう?」
「あぁ……俺はGAからお前さんへの依頼の説明に立候補しただけだからな。本題に移るとするか。今回の作戦目標は、クィーンズランス。聞いたこと位はあるだろ?」
依頼の話に移ったローディーに対し、フィオナが待ったをかけた。それもそのはず、クィーンズランスと言えばBFFの半本拠点である。水上を移動する戦艦という特徴もあり、国家解体戦争でもノーマルAC相手に苦戦すらしなかった。
また、クィーンズランスはただ一隻で浮いているのならただの水上要塞で済むが、問題はBFFの第八艦隊が護衛に付いている事だ。これだけで二個艦隊分の戦力があるというのだから性質が悪い。こうなってしまうともはや、水上要塞どころか水上万里の長城だ。突破など不可能に等しい。
「本気で言ってるんですか!?そんなの……無茶です」
「そうだな。ローディー、もちろん策はあるんだろうな?」
聞くと、ローディーは待ってましたとでも言うように、ニヤリと口を曲げた。ポケットに右手を突っ込み、一つの小さなリモコンを取り出した。そして勿体ぶった動作でそれについているボタンを押した。すると、手前の方から順に大体10m間隔で照明が点き、倉庫は白い光でいっぱいになる。
しかし、ただ明かりが点いただけではなかった。明かりがついても倉庫の一番奥が見えるようになったわけではない。
「これは……」
「巨大なスラスター……?」
そこにあったのは、ネクストと同じくらいのサイズの巨大な外付け式の追加ブースターだった。
《》
液体コジマをプラズマ化し、粒子として噴射する事で推進力を得ている。空力等は全く考えられておらず、莫大な推進力とネクストの持つPAによる、空気抵抗の軽減だけを頼りにネクストを飛ばす代物である。
特筆すべきはその速度。巡航速度ですら2000km/hを超えるのだ。
GAは子会社と共に敵対企業の本社にまで急接近し、強襲を行うために開発を行ったのだが、それを使う事はできなかった。その理由は大きく三つだ。
一つ目に、この試作兵器はテストする事が非常に困難だったため。性能からして馬鹿げているものだから、自社のリンクスに行わせるのはリスクが高い。かといってシミュレーターでやるのは正確性に欠ける。更に言ってしまえば、こんなものをテストしようものなら他社に即座にバレるだろう。
二つ目は非常に簡単な話で、これを使いこなせるであろうリンクスが既にこのGAにいないのだ。ローディー曰く、このVOBが開発完了したのがGA最高戦力であったメノが解雇された後だったという。残された自分とユナイト・モスでは、企業は期待すらしていないのだという。
三つ目の理由は、聞いてオーエンが呆れるレベルだった。なんと開発したはいいが、GAのネクストのPAでは空気抵抗の軽減が十分にできず、スペック通りの速度が出せないという。
よって、GAはこの試作兵器を使うためには、自社でも他社のリンクスでもなく、そこそこ以上の腕前で、更にPA性能が良いネクストの持ち主でないといけないのだった。
(だからって、これは、中々、身体に応えるな)
カタパルトによってGA本社から射出されたオーエンとグレイゴーストは、VOBの圧倒的な速度を持って大西洋を横断している最中だった。ローディーの話通り、巡行速度でさえ2000km/hを超えている。寧ろ下手したら3000km/hに到達しそうな勢いだ。
しかしそれは良い事ばかりな訳もない。それだけの速度が出るという事は、それだけのGがかかるという事であり、それはパイロットにかなりの負荷をかける。事実、オーエンは身体が押しつぶされるような感覚に襲われていた。
『レーダーで敵影をキャッチしました。第八艦隊です!』
「あぁ、こちらでも視認した」
大西洋の東、ケルト海に近い場所で確認したそれは、学校で教えられた古代の大名行列を思い出させる。数え切れない程大量の艦艇がいるせいで、クィーンズランスの姿が見えないのだ。
「どれ、ちょっとばかりお邪魔するとするかね」
空になったコジマ増槽タンクを投棄し、更に軽くなったグレイゴーストが風をも置いてけぼりにする勢いで駆け抜けていく。
ミサイルは追いつかず、ロックオンすらさせてもらえない対空砲やノーマルACの攻撃が後方にあるのが見えて、ほんの少しばかりオーエンの口元が湾曲を描いた。
そうして数十秒の間に幾つもの護衛艦を飛び越していったグレイゴーストだが、ここでオーエンが異変を感じた。先程よりも目に見えて相手の狙いが良くなっている。統率も遥かにとれている。
(敵の司令官が本気出したってのか?いや、待てよ……クィーンズランスが相手なんだぞ?……!)
野生の勘か、虫の知らせか、はたまた只の偶然か。超人的な反射で真横にQBをしたオーエンは、息を呑む事になる。先程までいた軸に見るからにヤバそうな砲弾が通ったからだ。だがそれは護衛艦から撃たれるものとしては小さすぎるし、ノーマルのものとしては規格外だ。要するに
『敵ネクスト反応確認しました……これは!?No.8 ストリクス・クアドロです!』
《やらせはしないさ……レイヴン》
王の本領は裏舞台での仕事にあるが、その実スナイピングだけはリンクスの中でも指折りの腕前で、メアリー・シェリーには遠く及ばずとも、BFFの中でもリンクス全体で見ても二番手の正確さだ。そんな彼のネクストであるストリクス・クアドロは、スナイパーライフルとカノン砲のいいとこどりをしたような武装、スナイパーキャノンを装備している。弾速を犠牲にし、威力と衝撃力を底上げしたスナイパーライフルのようなものだ。
VOBはその速力のせいで方向転換をするのはほぼ不可能、急速回避もネクストのQBに頼りきりで、王のように真正面から正確に狙えるスナイパーからしてみれば良い的だ。おまけに、避けれるとはいえその速度が大きく落ちる事を悟った王は、当てる事より「避けさせる」のを目的に撃っている。
(くそっ、これじゃアイツの餌だ)
「フィオナ、こいつのパージはできるか?」
撃たれてネクストとしての仕事ができないよりは、近づく時のリスクを取ったオーエンは、緊急パージを要請する。VOBのパージは時限式と手動の緊急パージの二種類があり、その後者を行おうというのだ。
『分かりました、5カウントでパージします!』
フィオナがそう返事した次の瞬間、全てを回避するだけの余裕がないオーエンは、一発だが被弾してしまう。空気抵抗の軽減のために前面に集中していたPAも、ここまで高火力のものには非力なもので、簡単に貫通してしまった。幸運だったのは、被弾したのが機体そのものではなくVOBの一部分だった事だ。
ただ、時間は無くなった。すぐに燃料に引火してコジマ爆発を起こすだろう。
「だめだ!今すぐにパージしろ!」
『!!……分かったわ!パージ!』
強い衝撃と共にVOBとネクストの接続部が離れ、それはバラバラに崩れながら機体から離れていく。慣性に従って落下していくように見えたパーツ達は、水面に触れるよりも早くコジマ爆発によって消滅してしまった。
オーエンはGに耐えながらすぐさまグレイゴーストを戦闘モードに切り替え、OBを使ってクィーンズランスに接近を試みる。彼は早いとこ追いつかないとクィーンズランスが戦闘予想地域を離脱してしまい、自分が戦闘地域から脱出するのが困難になると察していたのだ。
そうなると、まともに王の相手をしている余裕はなくなる。
「押し通らせてもらうぞ」
《近づくつもりか!?来させるかぁ!》
近づくオーエンを引き離そうとストリクス・クアドロは両手のライフルで弾幕を張り出す。が、それも殆ど意味をなさない。もはやそれで抑えられるラインを超えているのだ。小刻みなQBによって巧みにライフル弾を避けながら、射程圏内に入ったストリクス・クアドロをグレイゴーストのマシンガンが蜂の巣にする。グレイゴーストには敵の攻撃を避ける機動性も、それができるだけのパイロットもいるが、重量4脚は機動性に欠けるし、王は狙撃以外は並のリンクス程度もあるかどうか怪しいところ。
つまりは、OBで接近されたところで決着は決まっているのだ。
《っ……!化け物がぁ!》
「何だと!?」
頭脳では負けていない王は、射撃武器しか装備していないというのにまさかのグレイゴーストへの突撃を敢行した。流石にそんな事を予想できるはずもなく、オーエンの動きが一瞬だが鈍る。だが、ネクスト戦で相手を圧倒するには一瞬で十分……いや、一瞬は多過ぎる程だ。
左腕の武装を捨ててコアを掴み、右腕のライフルはグレイゴーストの左肩へと突き刺す。組み伏せられた形になったグレイゴーストは、手持ちの武装は近すぎて使えなくなってしまった。
《この老人と我慢比べでもしてもらおうか!》
水面に叩き付けようとでも言うのか、王はネクストのスラスターを最大出力で吹かしまくる。逆にオーエンの方もやられまいとブーストするが、元の重量の差と馬力の差で少しづつ高度が下がっていく。そんな状況の中、彼は手負いの狼が最も怖い事を思い出す。
うっかりしていたなぁ。そう思いながら、マシンガンとショットガンを投棄する。背中にあった散布ミサイルもだ。
『オーエン!?そんな、だめよ!諦めないで!』
フィオナの悲痛な叫びがオーエンの頭に木霊する中、もうグレイゴーストと海との距離はあと少ししかなくなっている。重量機の重さを軽量機が押しのける事は不可能なのだ。だが、それで死ぬような男なら彼はレイヴンの王になどなっていない。
むしろ、彼はこの状況を有利と考えてすらいた。
「諦める?……フフフ、舐められたものだな。俺も、グレイゴーストも」
確かに計画とは途中が全く違うが、結果は変わらない。『接近する』という目標が達成できた事だけは全く変わらないのだ。密着状態にあるのも、全装備をパージするのも元々の予定通り。誤算だったのは、王小龍が自ら突撃してきたことと左腕のライフルを捨てられた事だ。
ストリクス・クアドロは両腕のライフルと背中のスナイパーキャノン以外に武装はないが、グレイゴーストは違う。ネクストには予備兵装を格納しておける空間があるのだ。
そして、オーエンは海との距離が数メートルになったところで、AMSを通して両腕に命令を下す。ブレードを装備せよ、と。
「この瞬間を待っていたんだぁぁ!」
《格納ブレードだと!?おのれレイヴゥゥゥン!!》
AMS適正が低いからと言って、ネクストは搭乗者の命令を拒否する事は決してない。グレイゴーストは命令通り、忠実に、レーザーブレードを両腕に装備して、その瞬間に刀身を露にしてストリクス・クアドロの両腕を溶かし斬った。
完全に拘束が解かれたグレイゴーストは、そのまま王の事を海に蹴り落してしまう。続いて、右腕で左肩に刺さったライフルを引っこ抜いてそのままデータを合わせ、装備してしまった。
「このライフルは貰っていくとしようか」
《待て!レイヴン、行かせはせんぞ!》
王は両腕が無くなっても使えるスナイパーキャノンでグレイゴーストに向けて発砲するが、接近戦の時か、それとも海に蹴り落とされた時か分からないが、銃身が曲がってしまったらしく、見当違いな方向に弾が飛んでいくだけだった。
《くそっ、くそっ!》
邪魔者も何もいなくなった事を確認したオーエンは、真っ直ぐクィーンズランスに直行し、機関部と燃料タンク、操舵室を正確に壊したあと、船体に穴を開けるために適当にバイタルパートであろう場所へとあるだけの弾を撃ちこんだ。ブレードでも幾らか斬りつけた。
攻撃中に王のスナイパーキャノンであろう弾が幾つか飛んできたが、明らかにクィーンズランスに当たらないように気を使っている砲撃など、オーエンにとっては全く怖いものでもなく、破壊の限りを尽くし、それが終わると瞬く間に離脱ポイントまでOBで駆け抜けていってしまった。
「リリウム!リリウム居ないのか!?どこだ!いるなら返事をしてくれ!」
王小龍は、半壊状態であと10分としない間に沈むだろうクィーンズランスにネクストを近づけ、自ら乗り込んでリリウム・ウォルコットの捜索を単独で行っていた。
船内は酷いもので、いくつもの弾痕が残っているばかりか、どこもかしこも火事のせいで燃え盛り、足の踏み場を見つけながら歩いていくのがやっとの惨状だ。死体の種類も豊富で、焼死体に胴体が離れ離れになったものや、木っ端微塵で何が何だか分からないものまで様々だ。
それでも王は捜索をやめない。
「どこだぁ!私だ!王小龍だ!生きているのなら、返事をしてくれ!」
自分が怪我をする事も、ネクスト同士の戦闘の後のためのコジマ汚染もどうでもよいのだろう。それ位必死になって走り回って探した。そして、やっとの思いで見つけ出した。
見つけたのは、最後に王が居たあの宴会場だ。避難指示だってあったはずなのに、彼女はそこにいた。数人(本当に数人か分からない程にバラバラ)の死体の前で、しゃがみ込んで泣き崩れていたのだ。リリウムが何故そこに居るのかなんとなく王には分かったような気がした。
きっと彼女は、待っていたのだ。王の事を。
「リリウム……良かった。生きていて本当に、本当に良かった……さぁ、ここは危ない「
王は異変に気付いた。彼がリリウムに近づく間、彼女は音という音にビクビクしていたように見えたし、彼が声を出すまで相当怯えていたようにも思える。
まさか。最悪の考えが王の頭を過ぎり、そして全力で否定したい思いでいっぱいになりながら、その度に間違いないと彼の脳は判断した。彼は自分のそういうところで無駄に鋭い事を今、生まれて初めて呪った。
「私、目が、光が、見えないの」
クィーンズランスが脆すぎという意見については、まぁ、その……大人の都合と返しておきます
クレイトンさんが分からない人は、六話と七話を読めば大体わかるよ!