妖精と呼ばれた傭兵   作:vitman

29 / 30
left alive楽しみすぎて今から辛い!


糸遣い

 量というものが恐ろしいと知ったのは、レイヴンとして七回目の依頼を受けた時だ。

 その時私は、他の兵器と比べ物にならない位の力を持った、アーマードコアに乗っている自分を過信していた。ある意味で言えば、その兵器の力に酔っていた。

 だけどその任務で思い知った。私は驕っていただけなのだと。

 

 弱いと思っていたMTの群れ、戦車大隊、ヘリ部隊が山ほど増援として出現したのだ。弾薬は底を尽き、残った一本のブレードだけで命を繋ぐのだ。

 当然、そんな事が続けられる筈もなく、じわじわとAPが減らされていき、もう死ぬのかと自分で自分に問いかけていたその時だ。オーエンが私の前に現れたのは。

 彼は広範囲攻撃兵装……グレネードランチャーやバズーカで敵を吹き飛ばし、助け出してくれたのだ。彼はその時から上位ランカーであり、私からすれば、担当のオペレーターが同じとはいえ、雲の上のような存在であった。そんな私を彼は、どういう風の吹き回しかしらないが依頼のパートナーとして度々選ぶようになり、仕事上だけの仲とはいえ、互いに信頼するようになっていった。

 

 だが、今この場にそんな最強のレイヴンだった彼はいない。私と相棒のロレーヌでこいつらを倒さねばならない。

 無人機といえどネクストはネクストだ。PAはあるし、機動力もそこそこにはあるだろう。量より質とは言ったが、4機を相手にするのは中々に骨が折れる作業だろう。

 

「兎に角、まずは一機叩き潰すか」

 

 一対多数戦において最も重要なのは、全ての敵を一度に倒すことではなく、いかに相手の頭数を減らしていけるかなのだ。

 だから私は本気でかかる。月光を構え、地面を蹴り、ブースターから火を吹かして突撃する。ライフルを構える敵機だが、その長砲身は接近戦ではかえって不利になる。取り回しが悪い事が原因で、近距離が狙えないのだ。

 周りの他の機体は旋回が追い付いていないようで、こちらに砲身を向けてすらいない。

 

「もらった!」

 

 紫の光を放ち、無人ネクストに斬りかかる……が、すぐに方向転換し、離脱する。

 駄目だ。あれは。

 ライフルをもっていない方の腕。つまりは左腕。敵機のそれには、なんと大型のブレードが装備されていたのだ。余りに大型だったので、初めはシールドか何かだと思っていたのだが、接近して分かった。あれはレーザーブレードだと。

 私が接近した時、あれは微かだが光った。それは、光の反射等では決してない。ブレードが起動するときの刀身を造り出す時の光だ。

 

 急ぎ後方へ下がった私は、すぐに自分の直感に感謝することになった。

 無人ネクストの左腕の兵装から、月光の刀身がまるでナイフに見えてしまうほど、恐ろしい程に巨大な刀身が現れたのだ。それはまさに大剣というべき代物で、生半可な装甲はチーズ……いや、バターのように溶かし斬ってしまうだろう。

 だからといって、射撃戦に向いていないこの機体では、4機相手にブレード無しで挑むのは無理だ。

 

「厳しいが、やるしかない、か」

 

 QBを多用して、4機のネクストからの射撃を回避する。あの長砲身のライフルは、俗に言うコジマライフル。コジマ粒子を圧縮し放つ超兵器。既にアクアビット社は実用化に成功していると聞いた事はあるが、まさか同盟先に提供しているとは思わなかった。

 あれの火力は桁違いで、その気になればクィーンズランスすら一撃で吹き飛ばせるという話だ。そんなものを喰らえば、いくらネクストでも耐えられる訳が無い。

 一撃でも喰らえば、死を意味する。だからこそ、あの4機の自律ネクストは恐ろしいのだ。通常のネクストと同じレベルの武装であったなら、どんなに楽だっただろうか。多少の被弾を気にせず斬り伏せたというのに、こんな超火力相手ではそんなの到底不可能だ。

 再び迫り来る敵弾を辛うじて避け、コジマライフルだけでも先にやるべきだと判断した。あれだけの重装備である。恐らく腕の可動範囲には制限がある筈だ。だとすれば、コジマライフルだけなら斬る事は可能だろう。

 

「とりあえずやってみよう。それで無理なら、その時はその時だ」

 

 次に撃ってきたのは、真後ろの奴だった。屈むことでそれを避けると、立ち上がる時の反動を活かして勢いよく地を蹴り跳躍する。

 機体をローリングさせて他の敵機のも回避するが、そのうち1発が右背中を掠る。掠っただけでその場所にあったスタビライザーが跡形もなく溶け、それの威力が今一度理解出来た。やはりあれを直撃させられる訳にはいけない。

 

「まずは一つ!」

 

 ローリングを続けたまま敵ネクストに肉薄し、それの頭上で回転斬りをお見舞いしてやった。案の定可動域が狭いらしいその腕では、真上にブレードを振ることは不可能らしい。

 ライフリングを手巻き寿司の作成工程のように真っ二つにされた敵ネクストは、いつ暴発するか分からないそれを躊躇なくパージして放棄。AI(恐らくは)だからこそできる素早い判断は、流石と言わざるを得ない。普通人間であれば、一瞬でも躊躇してしまい、それが命取りになるのだから。

 だが、敵ネクストに接近してしまったことに変わりはない。あいつにはブレードがあるのだから、危険な事に変わりはないのだから。しかしこれはチャンスでもある。

 今から数瞬の間だけ私は、あいつの背中を取れている事になる。そして他の敵機は、誤射を恐れ攻撃をしてこないタイミングでもある。今やらずして何時やる。ブレードを再び展開しながらQTを行い、その勢いのままスラスターに一突きする。見事に刀身は相手の背中から頭部まで貫通し、無人ネクストをたった一撃で機能停止にまで追い込んだ。

 

 QTを使ってこないのか?

 

 そんな疑問が浮かんだが、それを考える暇は与えられなかった。私が至近距離にいたために他の3機は攻撃をしてこなかったのだが、味方機の反応が消滅しただろうその瞬間、何の躊躇いもなく撃ってくる。

 

「こいつらっ」

 

 当たり前と言えば当たり前だが、それにしたって腹が立つのに変わりはない。機械ならではの動きや思考はもちろんだが、何よりムカつくのはアレの見た目がアリーヤそっくりな事だ。大方ベルリオーズを模倣しているか、自社ネクストベースかなんかだろうが、それにしてもあの見た目で、あのブレードは、彼女……アンジェに対する冒涜に他ならない。

 動きは3流以下。やる事もだ。考えることも。全てが3流以下のAI風情が、アンジェの真似をする。それが戦闘データによるものによってだとしても、私はソレを許せない。

 

「いちいちムカつくんだよっ!所々アンジェに似た動きしやがって!」

 

 腹が立った私は、身体への負担を忘れて連続でQBを行った。合計5回に及ぶソレは、対Gスーツでも吸収しきれない程のGを生み出した。そして、それと同時に2機目のネクストの真横を取ることができた。

 真横に振った月光の光によって、敵ネクストは腰から上と下で分断されてしまった。当然通常であれば、それで撃破判定がCPU内でされる事で、貴重なリンクスを生かすためにもネクストは機能を停止する。だがそれは、通常のネクストであれば、だ。

 

「……っ!こいつ、まだ動くのか」

 

 真っ二つにしたはずのネクストの頭部は、まだ光っている。睨むように私を見つめ、まるで自我があるかのようにゆっくりと軋む右手を持ち上げる。

 慌てた私は、そいつの頭部に月光を突き刺す。接触するかしないか分からない位の所で、そのヘッドパーツの装甲はドロドロに溶け、私を睨んでいたその目は消え失せる。気味が悪いほどに人間地味た視線は消え失せたが、それでもソレは動き続ける。

 まるでゾンビの様なそれからは、執念のようなものが感じられる。丁度、人形遣いが糸で操るような、それに近いものを感じられる。勝手に動いているように見えるのに、本当は人の手が加えられている。

 ネクストの形を保っていたものは、コアである胴体を破壊する事でようやく動かなくなった。ACのコアというのは、ジェネレーター等が搭載され、パイロットもそこに入っているという意味の心臓部としてのコアであった。だが、あれに関しては違うと断言できる。あれのコアは文字通りの心臓なのだ。

 ますます人間らしいそれを私は、なお一層の事忌々しいものを見る目で見つめた。彼らはやはり、仲間が「死んだ」と判断すると銃口をこちらに向ける。

 

「いくら人間に近づいても機械は機械というわけか」

 

 

 私は再び狭いこの空間を壁を蹴り、残骸を蹴り、時折QBを吹かす事で縦横無尽に飛び回った。いい案がないだろうかと探っていたのだ。だが、その時間は思ったよりも短くしないといけないらしかった。

 どうも、あいつらのライフルが強力すぎて、この施設が先に壊れそうなのだ。流石のPAでも物理で機体が押しつぶされるのは避けられない。それに、私の活動限界もあと半分程しかない。あいつらを倒すのに時間をかけ過ぎたのだ。

 しかし観察した甲斐があったというもので、彼らに対する必勝法にも似たものを思いつく事ができた。まぁ、それをやらせてもらえるかどうかは全くの未知数なわけなのだが、それをやらなきゃ帰れないわけで、それをどうにかして実行するしか道はないのだから死ぬ気でどうにかするしかない。

 

 必要なのはタイミングを読む力。そしてほんの少しの勇気。

 

 両方ないとできないが、私にはそれを用意するだけの力と言葉がある。子供の時から使っている、何もない心から勇気を作り出す言葉。たった三人だけが知っている合言葉。

 

「前を向かぬ者に勝利はない」

 

 そう呟けば、やっぱり、いつもと同じように力が漲ってくる。結局心の奥底にはあった怖いという気持ちは消え失せる。

 勇気を胸に秘めたまま私は、AMSでロレーヌにQBをするよう伝え、自分自身でもペダルでQBの動作を行う。いつになく私の動きに合わせてくれる相棒は、目の前の人形たちを相手にかなりの自信を持っているようだった。その証拠に、いつものじゃじゃ馬気質は若干落ち着いている。

 相手のネクストに向けた真正面からの突撃行為。まさに自殺行為なそれは、通常であれば誰しもが恐れる危険な行いだ。いつもは喰らうダメージと与えるダメージのトレードで勝てるからやっているが、今回は先に喰らった方が負けるのだからやるつもりはなかった。だが、早く終わらせるのに不可欠だったのだから仕方あるまい。

 航空機でいうところのヨー旋回を行い、敵機の弾すれすれを飛んだときには、ロレーヌのPAが一瞬で溶かされたばかりか、装甲が少々剥離するなどのダメージがあった。掠っただけでこれである。

 

「だが、これでチェックだ」

 

 一発撃てばあのコジマライフルはチャージが必要になり、そこそこの時間を要する。高火力の代償はそういった部分で償うものなのだ。

 両方が撃ってしまえばこちらのもの。片方に張り付き、後ろから首を左手で掴んで逃がさないようにし、もう一機の方へと向きを変える。そいつが撃ってこない事を確認した瞬間に、私は今度はOBを使って掴んでいるネクストごともう一機のソレに体当たりを仕掛ける。

 避けようともしないそれに真正面からぶち当たった私は、ロレーヌと二機の敵機のPAが互いに干渉し合う事で起こる耳障りな音を聞きながら、更に前に前にとロレーヌに伝え続ける。そしてこの数の兵器がいるには少々手狭な部屋の壁にぶつかり、その行進が止まったその時、私は再び月光を鞘から抜くのだ。

 

「お前らは、もう、動くなよ」

 

 

 背中に月光本体を当て、刀を差し込む。一機を貫通して余りある程の大きさの刀身は、もう一機すら簡単に溶かしてみせた。

 さっきまで苦戦していた相手が、呆気なく死に絶える。戦闘というのはそういうものだ。

 

 

 

 

 

 _______________________________

 

 

 

 

 

 

「成程、確かにリンクスだ」

 

「あのアンジェがご執心なのも頷ける」

 

 モニターで今までの戦闘の様子を見ていたやつらが、口々に感想を言う。レイレナードの最新鋭兵装を搭載した無人ネクスト四機が撃破されたというのに、あいつらは不平不満や口惜しみを言うどころか、気味が悪い位に機嫌がいい。

 この高官達の機嫌がいいのは、大抵ベルリオーズやアンジェが良い戦果を挙げた時だったり、あの計画に進展が見られた時だけだというのに。

 

(気持ち悪い……まぁ、いつも通りと言えばそれまでだが)

 

 俺は口に出せない分まで心の中で悪態を吐きまくり、一通り言い終わった後、機械のAMS接続をオフにして席を立った。

 すると目敏い1人が話を中断させ、俺の方に注目を集めさせた。

 

「テルミドール、彼はどうだったかね?それと()()の感想も聞きたいのだが」

 

 気づかれた事に関する苛立ちと面倒な事を聞かれた苛立ちで、我慢できなくなった俺はわざと大きめの舌打ちをして、やつら全員を威圧するが、そんなものを意に介さず彼らは俺の言葉を待つ。

 そうまでされてしまえば、流石に何も言わない訳にはいかなくなる。

 

「あいつは、間違いなく化け物だ。こう言うのもなんだが……体感的にアンジェやベルリオーズと同等か、それ以上だ。計画に支障をきたすかもしれん」

 

「機体はどうだったかね?個人的には、プロトタイプネクストの量産化をイメージしたのだが」

 

「あれはダメだな……ロジックを変えた方がいいだろう。機動力が足りなさ過ぎる。俺個人からすれば、AMS無しでのCPU機動も、直接乗らない遠隔操作も微妙だ。ダイレクトに情報が届かない」

 

「なるほど」

 

 どれも素直な感想だったのは確かだ。別にここで嘘を言う理由はないし、今後自分が利用する可能性がある兵器が強いに越したことはない。

 ハッキリ言ってAIが動かすにはAMSは複雑すぎるのだ。現在のレイレナードの技術力では、AMSを騙せるだけのロジックは組めないし、そもそもAIの性能が足りないためにネクストの長所を最大限利用した戦闘行動はできないだろう。

 いくら一撃で戦況を変えられる兵器があっても、それが敵に当たらなければ意味は無い。事実、GAの粗製は簡単に撃破できたが、シャルルのロレーヌに対しては至近弾を撃つのが精一杯だ。

 更にいえばフレンドリーファイア防止ロジックも必要ないだろう。あれを利用された戦術をとられたのだから、意味が無いと分かったものは外すべきだ。そもそもデータリンクを使えば、そういった混戦状態でもフレンドリーファイアの可能性は限りなく低くなるのだから。

 

「我が社のリンクスはこう言っているが……同盟先の意見は聞いておきたい。ジョニー研究主任、どうお考えでしょう」

 

 レイレナードのネクスト研究者の1人がそう言うと、人混みの中から異様な雰囲気を纏っている白衣の男が現れる。

 顔つきや肌の色は東洋人に近く、それでいて欧米人らしさのある瞳やほりの深さから東洋と欧米のハーフであると推測できる。だが、その風貌は中々奇怪だった。若干猫背の姿勢はまだいい。眼鏡をしているというのに、片側だけレンズが入っていなかったり、身長に対してかなり腕が長いのだ。

 その奇怪な風貌の持ち主も、アクアビット社のエンブレムが付けられた白衣を着ていると「あぁ、なるほど」となるのだからあの会社はおそろしい。

 

「まず、新型の自律及び遠隔操作式ネクストですが、まぁ実験段階としては上出来なところでしょう。あとは彼の指摘した通り、機動性とロジックの改良をすれば実用範囲内に収まるかと」

 

 その界隈の人間の間では名がしれているのか、ジョニーがそういうと周囲から感嘆の声があがる。そういえば、アクアビット社の研究主任だとか言っていた。かなり高い位置の人間なのか、ジョニーの言葉を周囲の人々は一言一句聞き逃さないように耳を澄ませている。

 少しの間話は自律ネクストの事で持ちきりだったが、やがて相対したアナトリアのリンクス、シャルルの話に移った。

 

「彼は私の想像以上でした。失礼ながら、レイレナードのリンクスのデータを拝見させて頂きました結果、“シャルル”に勝てる確率は、ベルリオーズで42%アンジェで59%でした」

 

 そこまで言って、ジョニーは話を区切った。するとソワソワしながら一人の研究員がこう質問した。

 

「ベルリオーズよりアンジェの方が高い理由は?」

 

 最もな疑問だった。正式記録からもわかる通り、ベルリオーズの方が一対一での戦績は良いしミッション成功率も頭一つ抜けている。だとしたら何故アンジェの方が勝率が高いのか。

 

「問題は戦闘スタイルなのです。彼の戦い方を見ましたね?映像記録も見ましたよね?あれは非常に恐ろしい戦闘スタイルなのです。まさに、肉を切らせて骨を断つという諺通りの」

 

「ベルリオーズは相性が悪い、と?」

 

「残念ながらそうなるでしょう。しかも、彼は私の想像を超えていたと言ったでしょう。この分だと両名共にあと数%程勝率は低くなっていても可笑しくはない……しかもこれから時間が経つ程彼は成長してしまう」

 

 そしてジョニーは、周りをぐるりと見回してから俺の方をじろりと見た。まるで全て分かっていると言わんばかりに見つめ、それから気味が悪い笑みを浮かべて俺たちに……いや、俺にこう言い放った。

 

「彼、取り込むにしろ殺すにしろ、早くしないと手遅れになりますよ?あなた方にとっても、あなたにとってもそれは都合が悪いのではないですか?」

 

 その言葉は、俺の脳内に妙な程に残った。焼き付くようにそれは頭にこびりつき、根拠がない筈の言葉なのにも関わらず強い説得力があったのだ。




そろそろAC4も終盤ですね

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。