さて、今回は説明回+戦闘回ですが、やっぱり私は戦闘シーンが苦手みたいですね。
騙して悪いが、国家解体戦争編の山場ではなかったんだ。悪いな。
あの作戦の後の事か?その後は大した話じゃないんだが...それでもいい?変わった奴だなお前は。
じゃあ、話すとしようか。
山猫は鴉を狩り続けた。それはもう、惨い位に。
鴉は絶滅してしまうと思われる、そんなペースで翼を生やした恐ろしい山猫に噛み殺されていったのさ。
そんな中、私達は幸運だった。
ネクスト機に作戦中に出会ったのは二度や三度ではすまされない。だが、それでもいつでも私と彼は帰ってこれたのだ。
ただ、それがただの運なのか、仕組まれた事なのか、それとも国家のお偉いさん達の保身のためなのかは分からないがね。
○
『ネクストAC』
それは、企業が鴉を狩るために用意した兵器である。
アクアビット社が保有する研究者、コジマ博士により発見された、コジマ粒子―名称は発見者であるコジマ博士より―は非常に軍事転用するのに好都合なものであった。
この戦争が始まるまで、国家がネクストに気づくことができなかったのは、企業側があらゆる手を使って隠匿し続けたからで、ネクストを企業が持っているという事実は、世界にとっては想定外で、計算外というものだった。
国家は企業に裏切られ、利用されたに過ぎなかった。
○
~7日後~
『作戦概要を説明します』
そう告げたオペレーターの無機質な言葉と共に、搭乗するACのコックピット内に用意されているスクリーンに光が灯る。
たいして美味くもない、どちらかというと無理矢理その味を濃くしたような、合成食糧を口に含み、それをミネラルウォーターで流し込みながらそれを見る。
ここ数日、私や彼は機体から外に出れていなかった。
『今回のミッションは、東ヨーロッパに展開するレオーネメカニカ社と交戦している、国家軍の支援です』
またか、という言葉を言わずに飲み込む。その地域の支援は、実はこれでもう4回目なのだ。さすがにウンザリする。
ただ、その地域はまだネクストが戦場に出ていないからか、戦線をかろうじて維持できている、数少ない地域で、国家がそれを死に物狂いで保たせようとしているのは目に明らかであった。
だが、そこは傭兵にとっては死地にちかい。
フランス、イギリスと大西洋を基点とする企業、『BFF』。ドイツに本社を置き、東ヨーロッパへと進出している企業『ローゼンタール』がある上、アフリカには『イクバール』、ロシアには『テクノクラート』まであるのだ。
そこに行けばいつネクストから襲われても文句は言えない。そもそも、ローゼンタールは自分の陣地が攻められているのだから、いつ怪物を放ってきてもおかしくないのだ。
だが、そんな事を思ってウンザリしていた次の瞬間、二人にかけられたのは、思いもよらない言葉であった。
『ですが、今回あなた方は前線に出ていく必要はありません』
前線に出る必要がない。その言葉は二羽の鴉を驚かせるに十二分に足りていた。このご時世だ。自分達傭兵は、いつも通り、消耗品のように前線に引っ張られるかと思っていた。
だが、これはどういう事だ?前線に出る必要がない?
レイヴンとしての勘が、これはきな臭いと告げていた。こういった依頼は、大抵変な事か、それとも途轍もなく面倒で嫌な事が起こるのだ。
とはいえ、この依頼を受けない訳にもいかない。
ネクストという、ACを上回る性能を持つ戦力を保持している企業からは、依頼は絶対といっていいほど来ない。だとすると、この崩壊しかけている国家のお偉いさん達の思惑に乗ってやるしかなかったのだ。
『主目的としては、旧ロシア方面より東ヨーロッパ方面へと輸送される、企業のAC部隊の排除です。3機編成であるその部隊は、地の利を生かした戦闘が得意のロシア軍を壊滅させた要因の一つです。起動前に破壊する事を推奨します』
輸送部隊の撃破。あまりにテンプレートだ。だが、確かに普通ならこれは間違いなく安全な任務だ。最前線に出ずに、最大の戦果が期待できる。
それでも、この依頼には裏がある。そう思わずにはいられないのだ。
「あまり釈然としないな。お前も、そう思うだろ?」
もう一人の鴉から、声をかけられ、音声通信では分からないだろうに、苦笑いをしながら返事をした。
「これはもう、『騙して悪いが』の予感しかしないね」
いつしか傭兵の間で広まった、『騙して悪いが』という言葉。
報酬前払い、一生遊んで暮らせる程の金額、細かい事を伝えずにこちら任せ、敵の数が異様に少ない。そういった依頼には絶対に裏がある。その依頼を受ける奴を消そうとする、そんな黒いものが後ろにいる。
そんな任務を総じて『騙して悪いが』といつしか言うようになり、更にはその任務に参加した者を抹殺する側として雇われた傭兵が、その言葉を言って襲い掛かるようになった。
そんな依頼の予感がしたのだ。
⑨
降りしきる雪、いや、吹雪。それが視界をかなり狭め、150m先でさえよく見えない始末である。明らかに不味いものだった。
まぁ、その代わりにジェネレーターの熱量に気を使わなくて良いのは救いだった。OB等で発熱したジェネレーターも、このまさに凍るほどの寒さによって冷却されるみたいで、機体が燃える事はなさそうだった。
「さて、そろそろ予定時刻だが…」
蛇が出るか山猫が出るか…と、彼は続ける。
どちらが出ても最悪なのは明らかだが、せめて蛇までで勘弁してくれと、密に祈る。
『レーダーに反応。目標の輸送部隊。想定よりも少ないですね…分けられましたか。とりあえず、接近する輸送部隊を撃破してください』
どうやら出てくるのはどちらでもなく、悪魔か鬼らしい。
露骨に嫌だという顔をしながら、右腕のレーザーライフルを見る。そして、これは取っておこうと思い、背中の武器を起動させる。
最大8つの目標をロックオンできるそのミサイルは、二次ロックを終えると同時にトリガーが引かれ、轟音を響かせながらコンテナから射出された。
彼の機体は、俗に垂直ミサイルと呼ばれるものを発射した。これは、機体から見て殆ど真上に発射され、敵機から見て降り注ぐように攻撃が行われるタイプのミサイルだ。ASミサイルや分裂ミサイルと並んで、避けにくいミサイルの一つであり、一回の射出量も結構多めなため、対AC戦ではかなり重宝する武装だ。
爆発の炎があがり、前方は激しい吹雪にも関わらず、激しい焔がメラメラと揺れていた。
しかし、これで終わる任務ではない事は誰もが理解していた。
『敵輸送部隊の中に、ACとみられるものはありません。別ルートを走行している敵輸送部隊を排除して…いえ、前言撤回します。高エネルギー反応多数接近。これは…ノーマルです』
レーダーを確認すると、なるほど確かに敵機がいた。しかも、3機だ。私の機体はわざわざ高性能なレーダーを積んできたというのに、発見できなかったことを考えると、(この吹雪でレーダーの精度が下がっていたとしても)敵はECMを装備している事が容易に想像できた。
「ご丁寧に包囲陣とはな。...こいつら、まさか俺達がここに来ることを前もって知っていたのか?」
輸送部隊の中から飛び出してくるとか、一方向から3機が襲い掛かってくるならまだ分かるが、このAC二機を囲むように来ているという事実は、情報がどこからか漏れていて、元からもぬけの殻の輸送部隊を囮としている、としか思えなかった。
ネクストを相手取るよりかは余程気が楽であったが、この依頼主を殴りつけたいという思いに駆られるのは変わらなかった。
3機のACは、その特徴的な見た目から一瞬でローゼンタール社製のものだと理解できた。特徴的な、といっても悪い意味ではなく、どこか気品を感じる見た目である。このような見た目に拘った製品を作るのは、ローゼンタール位しかないのだから間違いない。
だが、どことなくあのACはおかしい。『動き』がではなく、『装備』がどことなくおかしいのだ。
新型のエクステンションだろうか?外付けでシールドのようなものが、左右の肩部どちらにもつけられ、ただでさえ見た目のいいローゼンタール製ACが、更に騎士のような見た目に変わっている。
また、その左腕に装備されているブレードは大型で、シールドとしても利用できそうだ。三機いずれも『軽量』
『中量』『重量』タイプと揃ってはいなかったものの、そのどれもが、謎の装備を付けていた。
ともなれば、あのACは企業の新型だ。実験部隊か何かだろう。
その場のAC全てが動いていなかった。いや、動けなかったのだろう。
だが、それも企業側のACのうちの一機。『中量』タイプのACに乗っているパイロットが、通信を
《
《各機散開!一気に叩き潰すぞ!》
その言葉と共に
一方、ML3からすれば、これほどまでにやりやすい相手はいないと言えた。なにせ、相手はレーザーライフルとレーザーブレードが主兵装。動いて、動いて、レーザーライフルさえ避ければ、あとはEN切れした相手を蜂の巣にしてしまえばいい。
しかも、ML部隊からすれば被弾はさほど怖いものではなかった。
さて、ML1とML2が向かった、レイヴンの方は一筋縄ではいかないようだった。近づけば恐れずにブレード、離れれば慌てずにライフル。二機でかかれば回避に専念、そして予備動作の少ないミサイルで攻撃。隊長は苦虫を噛み潰したような顔をした。これはとんでもないクジを引いたようだ、と。
本社には伝えていないが、ここでやられるわけにはいかない。そう判断した彼は、鴉を狩るためのコードを入力する。
《各員、コードの使用を許可する》
《コード『
そのコードを機体のパネルで入力した次の瞬間。ML1の機体のインサイド装備が起動した。しかし、それは武装ではなかった。その代わり、明るい緑色をした粒子が肩から漏れ出した。そして、それは、肩のシールド部分、左腕のシールド兼ブレードの部分からも漏れ出し、辺りに粒子を蔓延させた。
「これは…まさか、ネクスト…!」
レイヴンは驚いた。孔雀達の動きがまるで変った。自分がミサイルを放てば、あの時見たあの機動性でミサイルを振り切る。ライフルを撃てば、孔雀は盾を構え、弾はそこに至るまでに消える。
そして、何よりもだが、レイヴンの機体の表面が徐々にだが溶け、APが減少しているのが見えた。これでは、あのネクストを相手しているのと変わらなかった。しかも、この前はアンジェという山猫が、たまたま武士道精神を持ち合わせ、接近戦でしか戦闘をしようとせず、尚且つ二対一だったからこそ生き残れた。
だが今回はどうだ?向こうは一対一。自分も二対一であった。アリーナランクで確かに1位の座を持っていた自分だが、このような化け物は苦手だ。
○
鴉達は騙された。だが、騙されたのは孔雀も同じだった。鴉は依頼主に、孔雀達は身内に騙されたのだった。
もとより孔雀達は、AZシリーズの試験部隊である、サフィラスフォースのオマケ、もしくは予備にすぎない。ローゼンタール社としては、少しでも戦力になるならと、イクバールの殆ど子会社である、テクノクラートへの援軍として送った、所謂
コジマ技術である
それでも尚、この哀れな孔雀達が作られたのは、彼らにはネクストACを使いこなすだけのAMS適正が足りず、もし乗れたとしても、すぐに廃人化するであろう
研究所でそう評された彼らは、仕方なしとも言わんばかりにこの実験ACに乗せられた。
彼らからしてみれば、孔雀達は面倒の素で、ネクストに乗れないのならいらないものと同程度であった。それが戦果を上げれば万々歳と、ロシアの最前線に送り出した。そしたらどうだ?大戦果を上げて帰ってくるという。
戦果を上げたのは確かに喜ばしいが、いつ自分達に牙を剥くか分からない実験体。それをホイホイと巣に返す程企業の老人たちは人が良くなかった。
結果、わざと国家に対して孔雀達が帰るルートを輸送部隊のルートとして流し、鴉が迎え撃つように仕向けた。そして、孔雀には凱旋を待っている、と通信していた。
彼らからすれば、どちらが倒れてもうれしいもの。むしろ、共倒れしてくれればハイタッチであった。
だけど、孔雀の群れのリーダーは賢かった。
最初から企業の上の連中の考えていることは、大体理解できていた。だからこそ、彼らが憎かった。だからこそ、この鴉との戦闘で負ける訳にはいかなかった。
○
前にも言ったかもしれないが、私の機体は中距離で真価を発揮するよう調整されている。以前の教訓を生かし、戦闘には必ず、今も装備している右腕武装『KARASAWA』を装備しており、高い火力の代償としてKARASAWAが持つその重量で、いつもよりも更に機動性が落ちていた。
そんな私のACに、レーザーブレードを展開した孔雀が迫ってくる。避けられない。だが、諦めない。鴉として生きていくのに必要な、足掻く力の強さ。それだけは私は自信があった。
《落ちろ!鴉!貴様らの時代は終わりだ!》
どこのアニメのキャラクターだ。そうツッコミを入れたくなるのを必死に抑えつつ、私はレーザーライフルの照準を合わせる。マニュアル照準にシステムを移行させ、慎重に狙いを定めた。私は、あの肩のシールド状の物体が、スタビライザーの役割をしていると踏んだのだ。ならば、あの脅威的な加速をするとき、その瞬間にあの巨大なシールドを剥がせば、バランスを崩すのではないかと思っていたのだ。
そもそも当たるか分からない上に、あのバリアがKARASAWAのレーザーすら無効化するかもしれないと、最悪のビジョンが脳裏をよぎるのに構わず、その瞬間をじっと待った。
孔雀は、私が殆ど動かないのを見て、観念したと思ったのか、ブーストダッシュを使って前進した。ただ、私が持つレーザーライフルだけは警戒したのか、向かって右側のスラスターに、小さな光が見えた。あの瞬間だと、そう確信した。私の左側に回り込もうとする、その瞬間、死に物狂いでレーザーを放つ。
カァアオッカァアオッ
二発撃った。
その内一発は、狙い通りエクステンション装備接続部に直撃し、相手の左装備を剥がす事に成功した。そして、もう一発は、まるで
QBをする瞬間に、PA発生装置兼大型スタビライザーの役目をしていた、その大型シールドを失ったML3は、その機体バランスが崩れ、まるで人間がこけたかのように地面に激突し、2、3回転横に回って止まった。
機体の肩の装甲が溶かされたこと、PA発生装置が破壊されたこと、そして今の衝撃によるダメージと、一気に大量の情報を脳内に入れたML3は、口から血を吐き出し、意識を朦朧とさせながら、佇む鴉を見てこういった。
《この...化け物め》
その言葉を聞いた私は、転がる敵機をみて、再びKARASAWAを構えた。今度はオート照準だ。機械の行う照準が、冷徹にコックピットが存在するコア部分を狙う。引き金を引いた。それは一回だけでよかった。
「こっちは終わった!そっちを援護する。待っていてくれ」
急いで彼に連絡を送る。私は一対一だからあの狙撃ができた(勿論、相手が舐めて射撃をしてこなかったのもある)。だが、彼は二対一だ。いくら強いといっても、それは勝てるのか。私は恐ろしい事を思ってしまっていた。
そして、それは通信をしてさらに強くなる。
「いや、その心配はいらない。大丈夫だ」
妙に落ち着いた声だった。まるで、全てが終わったと言わんばかりの声。まさか、と思った私は、急いで彼のもとへと機体を向かわせた。
間に合ってくれ。そう願った。
だが、私を待っていたのは信じられない光景。ただそれだけだった。
ここで登場した孔雀達。お分かりの通りオリキャラです。
乗っているACの設定は、知っている方も多いかと思いますが、ローゼンタールの特殊AC部隊「サフィラスフォース」に配備されているAZシリーズを踏襲しています。
簡単に言うと、AZシリーズの改良型で、よりPAを全周囲に近い形で展開する事を目指したものです。
因みに、AZはアズライト。MLはマラカイトの略で、どちらも銅の二次鉱物という共通点があります。