妖精と呼ばれた傭兵   作:vitman

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伝説のレイヴン視点です。

彼の強さは、みなさんの思うドミナントより、一回り弱い程度としておきましょう。
AC乗りの強さの基準は、一つではないのですから。


孔雀に対する模範解答

 二機の動きが変わった。

 あの時のネクストのように、瞬間移動染みた加速力で移動し、ミサイルを避け、ライフルの弾をバリアで防ぐ。

 何故ただのACのフリをしていたのかは分からないが、相変わらず反則級の性能だと、素直に思う。

 その性能に少し震えながら、それでも口はニヤリと笑う。

 

『面白い相手』

 

 それが彼が、目の前のAC二機に下した結論だった。

 あの緑色の粒子が機体を侵食し、表面装甲をドロドロに溶かす。それと同時に耐久値が継続して減っているという警告が、アラート音が機体内を圧迫する。

 こんな化け物の相手は、あまり好きではないのだが...と、彼は呟く。だが、それは苦々しい呟きではなく、むしろ楽しんでいる、そんな声である。

 

 二分経過した。未だ彼のACが、敵機に有効弾を与える事はできていない。ダメージを与えようとしても、あのバリアが邪魔をするのだ。

 だが、そんな彼はとある思い付きをした。それは、ゲームをヒントにしたものだった。

 

(バリアは無敵だが…大抵そのバリアがかぶさってない部分が少しだけあるとか、バリアにも有効時間とか耐久力があるのが常だ。なら、剥がしてやろうじゃないか)

 

 そして、ACの左背中に装備させているチェインガンを起動させ、右手に持つライフルとセットで、片方の機体―中量機であるML1―に攻撃を集中させた。

 最初は黙って攻撃を受けていたML1だったが、徐々に焦ったように回避運動をし始め、ML2が盾になるように出てくるようになった。どうやら自分の勘は当たっていたらしい。

 

 盾になるように割り込んでくる重量機を無視するよう、いつもより若干高い位置までジャンプする。

 やはりそうすると、相手は馬鹿みたいに、バーニアから炎を噴かして反復横跳びを行う。

 まるで対AC戦闘の初心者みたいな動き。それは、彼がいかに焦っているかを表すものだった。

 

 《あの鴉、この機体の弱点を知っているというのか!?》

 

 射撃を頭部に直撃した時の衝撃で、スピーカー機能でも壊れたのだろうか。敵部隊のリーダーらしいパイロットの声が聞こえた。

 レイヴンの耳は、彼の言葉の中にあった、『弱点』という単語を聞き逃さなかった。

 そして、追い討ちをかけるように、レイヴン自身のACの拡声機能もオンにして、まるで追い討ちをかけるように、相手に言葉をかけた。

 

「そうだ。俺は知っている。その機体の欠点も、弱点もね。そして、お前らがここに来る事だって、知っていたんだ」

 

 《なっ、本社の連中、そこまで我々を侮辱するか!》

 

 それを聞いてレイヴンは理解した。

 この依頼、敵味方両方が、お互いの上の連中に騙されたのだと。

 鴉は敵に情報を流され、待ち伏せを喰らった。孔雀は相手の強さについて、嘘の情報を掴まされた。

 長く傭兵稼業を続けてきたが、両方ともが騙されているというのは、中々ない事だ。

 その事実がおかしくって、レイヴンは笑ってしまった。

 

「ははは、なんだ、そういう事か!」

 

 《何を笑っているんだ、貴様…!》

 

 察しが悪い敵の隊長は、まだ何がなんなのか分かっていないらしい。

 だから、鴉は孔雀に丁寧に教えてあげる事にした。

 

「だからさ、騙されたんだよ。君達も、そして、俺達も。どっちもこの任務は騙されたのさ」

 

 《...!》

 

 やっと理解したのか、隊長機の動きが鈍る。そうしている間にも、レイヴンの機体の武装は薬莢を排出し、ML1に攻撃を浴びせ続ける。そして、ついにML1の機体に搭載されているコジマ粒子発生装置では、供給が追い付かなくなり、機体が纏うPA(バリア)が消失する。

 それを見たレイヴンは、ここだ!と言わんばかりに、自機のOBを起動させる。ML2からの攻撃を幾つか貰うが、それは必要経費だと割り切る。

 ブースターへの電力供給が完了し、一気に時速700㎞/hまで加速する。その殺人的な加速力で、身体がシートベルトに食い込むが、息を吐き出さないように歯を食いしばって耐える。そうして、ML1の機体が次第に近づいていき...。

 

 ブレードMOONLIGHTを展開、切り裂く。が

 

 《ははは、PAの弱点を突いたまでは良かったぞ、鴉!だがな!》

 

 孔雀の長は、横への緊急回避でそのブレードを避けていた。すんでの所で回避が間に合い、被害は装甲表面だけで済んだのだ。

 そのまま、硬直時間を貰っていたレイヴンは、逆に自分に向けて降られるブレードを目にした。

 

 《これが、鴉と孔雀の違いだ!消えろ!》

 

 前と後ろ、その両方から敵機が迫り、このタイミングでの回避はもはや無理であった。しかし、レイヴンは諦めない。

 相手の使っているのは、ブレードレンジが長いタイプだと、一瞬で見抜いたレイヴンは、瞬時に姿勢制御システムをマニュアルに移し、機体のバランスを()()()崩した。

 わざと操縦者によってバランスを崩された機体は、ステーンと転び、地面に背中を付けた。

 普通であれば、致命的な隙となってしまい、そのまま攻撃されて撃破されてしまうところだが、今回はこれでよかった。

 ブレードを起動した相手の機体は、ロックオンをしての攻撃だったのだろう。レーザーの刃を展開すると同時にブースターまで起動し、勢い良く、まっすぐにレイヴンの機体まで接近していたのだ。

 そして、ブレードをなんのコマンド入力も行わずに振ればどうなるか。それはレイヴンが熟知していることであった。そう、真横に振るだけである。四脚やタンク型はその限りでもないが、孔雀はいずれも二脚型のAC。絶対に横に振ってくると確信していた。

 

 《は!バランスを崩すとはな!貰った...!?》

 

 確信したと言わんばかりの、自信を持った声。だがしかし、その言葉は途中から急激にそのトーンを落としていく。

 孔雀の長が見たのは、倒れていく敵機。そして、自分のACと同じようにレーザーブレードを振りかぶるML2の機体で、スローモーションのようにゆっくりと時間が進んでいるように見え、次の瞬間には横に振られたブレードが、もはや殆ど無いに等しいPAを一息に消し去り、コアを溶かし、コックピットを溶かし、孔雀の長を溶かした。

 

 《た、隊長ぉぉぉおおおお!》

 

 ML2の叫ぶ声を受け取る者はもういない。いるとすれば、彼の目の前にいる鴉だけだ。

 鴉は、事が終わるのをじっと見ていた。そして、その全てが終わると同時に機体を立て直し、何事もなかったかのように直立した。

 

「あーあ、これじゃあもう、助かりっこないか」

 

 レイヴンが見た先にあるのは、ACの命であるコア部分が頭部ユニットとの接続部近くまで溶かされ、パイロットどころか、コックピットの原型すら残っていない、ただのガラクタに成り果てた"元"ACの残骸。

 ML2の機体は、レイヴンから殆ど攻撃を受けていなかったため、PAがかなり残っており、レーザーブレードの刃を減衰させることができたため、PAを消失させるだけで済んだ。だが、その減衰させるためのPAすら残っていなかった隊長機は、レーザーブレードをもろに喰らいその命を散らした。

 もとより、ただのACにコジマ技術とAMS技術を加えただけの機体だったため、装甲はレイヴンのACと大して差がなかったのだ。いや、むしろPAに頼っていたために、中量機の中でもかなり装甲は薄かった方かもしれない。

 

 《貴様…貴様貴様貴様ぁ!》

 

 壊れてしまったかのように、ML3が叫ぶ。彼の機体は、緑色の粒子を辺り一面に放出して、再びPAを展開させていた。

 そして、怒りに身を任せ、その機体が出せる全ての力、限界性能を引き出すため、AMSから機体に対しリミッターを解除するよう命令を送る。

 彼の機体内部に、アラートが鳴り響く。それは、機体への負荷によるものと、彼の脳にかかる負荷が異常な数値になっているというのを表す為のもので、これが鳴ったという事は必ずローゼンタール本社へと通達される。だがそれも、今の彼にとっては知った事ではなかった。

 

 特別な機体を与えられ、他の企業の援軍という、重要な任務すら与えられ、そして『凱旋を待つ』と本社の重鎮から連絡が来る。

 何が気に入らないのか、隊長は渋い顔をしていたという記憶があるが、それでも彼にとってはそれは自慢で、自分達が特別だと思うに足りるものがあった。

 

 そんな自分が、数段劣る性能の機体に搭乗する、時代遅れの鴉に、今や絶滅危惧種となってしまった鴉に遊ばれ、自らの手で仲間の、しかも隊長の命を奪う。そんな事は信じられなかったし、信じたくもなかった。

 

「何を怒っている?君が、その手で、殺したんじゃないか」

 

 レイヴンは気にせず彼に対して挑発を続ける。

 ML2の機体のブースターが炎を灯す。粒子が舞う量が増加する。機体の性能が、限界を超える。パイロットの精神は、機体に飲み込まれ、そしてAMSを介して意思が飲み込まれる。

 

 《黙れ》

 

 ノイズの走った声が、レイヴンを刺す。ML2の機体は右手のライフル、左背中のレールガンを展開し、射撃体勢に移行する。

 

 《黙れ黙れ黙れっ!》

 

 先程までとはまるで違う出力のQBを使用し、常にロックオンされないように動き回る。

 左、左、右、後ろ、左…ランダムな動きで常に動き続けるそれは、さっきまでの敵機とはまるで違うものだった。

 やっと楽しめそうだ。と、レイヴンは密かに笑う。

 そして、ライフルの射程ギリギリまで敵機との間を放し、小ジャンプと空中でフラフラ移動するという、独特な回避運動をしながら、つかず離れずの絶妙なバランスを保った射撃を行う。

 俗に言う『引き撃ち』という技術だ。

 

 《何故、何故当たる…何故、何故当たらん》

 

 ロックオンが前方にしかできないという、ACのその特異なFCSの機能を用いて考案された、熟練レイヴンの戦闘技能の一つが、その引き撃ちであった。

 相手を最大限視界内に入れられるよう、自機と敵機の間の距離は自分の持つ兵装の射程ギリギリに。そして、離れすぎないよう、近づかないよう、ブースター等で距離調整をしつつ射撃を行うそれを使用し、いくら横に動かれても、機体を少し左右に向きを変えるだけでロックオンを継続できる。そんな状況をレイヴンは作り上げていたのだ。

 そして、敵の機体の攻撃はこのフラフラとした動きで、弾を避けるのだ。いかに二次ロックをしたとしても、撃った後の弾は誘導できないのだ。

 

 《くっ、うぅっ、ゲホッゴホッ》

 

 低いAMS適正の為、限界性能を引き出し続けたML2の脳はもう焼けきれそうな状態であった。彼は刺し違えてでも殺すという、そんな意味を込めて、短期決戦の為リミッター解除に踏み切ったのだが、レイヴンはそれを知っているかのように、わざとこの戦闘を長引かせるように逃げながら射撃を継続していた。

 身体の内部の血管が破れ、息ができなくなることを防ぐために咳をすれば、その喉から血が吐き出され、機体内部を汚す。モニターや計器に血がかかり、目という感覚器で受け取る分の視界は悪くなった。

 だが、もう精神の殆どを機体に託した孔雀は、機体のメインカメラと脳の視覚がリンクし、外が見えるようになっていた。

 

 《貴様だけでも…道連れにしてやる…》

 

 呪いともとれるようなその言葉は、レイヴンを震え上がらせるには全くもって足りなかった。もし、レイヴンが今の言葉でビビっているようならば、これまでの戦闘を生き残る事ができなかっただろうから。

 

 撃ち続けた結果、やっとの思いでPAを剥がしたレイヴンは、それに合わせてQBの回数が目に見えて増やしてきた孔雀を見て、確信を得た。

 バリアは剥がす事ができ、射撃によってそれはできる、と。

 すぐさまレイヴンは、ライフルを誘導性の高い垂直ミサイルに変更し、二次ロックを完了させて発射させると、残弾僅かになったチェインガンと、撃ちっ放しであったライフルをパージした。そしてパージした右腕武装の代わりに、非常に連射がきく、イクバール製ハンドガンを格納スペースから取り出す。

 

 放していた距離を一気に取り戻すため、OBを起動させ、インサイド装備でECMを展開、相手のロックオンを阻害する。

 そうして、相手がロックオンできずに慌てている間に接近する。

 

 《来るなっ、来るな!化け物め!》

 

 そう叫んだ孔雀は、苦し紛れにレーザーブレードを展開しようとする。が、その展開しようとした瞬間。レイヴンの機体の左腕武装MOONLIGHTが高出力のレーザーを吐き出し、孔雀の左腕を奪った。

 機体の左腕を奪われた孔雀は、AMSを通して、そのダメージ、喪失したパーツ、攻撃手段、相手の攻撃の威力などなど、数々の情報が一気に押し寄せた事からの負荷としての痛み。そして、機体に近づきすぎた結果、AMSにより痛覚までもが機体と一体化し、あたかも自分の左腕が本当になくなったかのような、そんな痛みを味わっていた。

 痛みによって発狂寸前だった彼は、目の前にいる鴉に対し、ライフルを乱射する。AMSによる恩恵は、今となってはただの地獄、もしくは拷問と化していた。

 

 《グハッ。まだだ…まだ死ぬわけには...》

 

 再び血を吐き、痛みと脳への負荷により衰弱してしまった彼は、ACの操縦桿から手を放し、朦朧とした意識の中でレイヴンの機体へと、スクリーンに映るレイヴンに、ACのメインカメラを通じて映るレイヴンに手を伸ばす。

 彼が動けと命令しても、逃げろと言っても、なんとかしろと叫んでも、もう孔雀は、孔雀石は動かない。

 

 レイヴンは孔雀の脚部をブレードで切り裂くと、地面に仰向けになって倒れた孔雀に向け、ハンドガンを構える。

 先程のアレを見るに、時間経過で回復するあのバリア。それが再展開する前に、この機体を潰す必要がある。

 そう判断したレイヴンは、なんの躊躇いもなく、引き金を引いた。

 

 ガガガガガ

 

 30発入っているそのハンドガンを撃ちきると、そこにあるのは穴だらけになったコアから、油とも血とも判別のつかない、赤いような、橙色とも言えるような、そんな液体を流す鉄屑だった。

 

 冷えた目でそれを眺めていた彼を現実に呼び戻したのは、パートナーからの通信だった。

 

「こっちは終わった。そっちの援護に向かう。待っていてくれ。」

 

 彼の機体構成と、敵のACの装備の相性は最悪とも言える。

 じゃんけんで表すなら、パーに対してグーで挑むようなそれを撃破したという彼は、急激に成長していると見て間違いなかった。

 流石に疲れたレイヴンは、せっかくの彼からの通信に、思わず素っ気ない態度を取ってしまう。

 

「いや、こっちは心配いらない。大丈夫だ」

 

 これほどまでに疲れたのはいつぶりか。そう考えているうちに、レイヴンはシートに身を委ね、居眠りをしてしまった。

 

 

 

 ⑨

 

 

 

 私が彼のいた戦場について目にしたのは思いがけない光景であった。

 

 ブレードによりコアが溶かされたACが一機。左腕が切断された上で、コックピットが穴だらけにされてしまったACが一機、そこに転がっていた。

 そして、何より目を引くのは、停止して動かない彼のACだった。

 装甲で阻んではいるものの、度重なる攻撃で傷だらけになったその機体は、見た目は無事でも、中身(パイロット)まで無事とは言えなかった。

 

「起きろ!起きろよ!」

 

 今来たと伝えても、返事がない事に心配になった私は、いよいよ通信機に向かって怒鳴りだした。流石に彼がたまらず起きて返事をし、私はホッと息をついた。

 

「うぅん?あぁ、君か。申し訳ないが、君の分の敵はいないぞ」

 

 別にいらない。と、苦笑しながら返し、迎えの輸送部隊が来るまで寝てろと言っておいた。

 そして、AC運搬車輌が来るまでの間、私はゴミ拾いという名の、宝探しという名の、パーツ漁りをすることにした。

 

 

 

 そして、この日拾うパーツこそが、私が『鴉』ではなく『妖精』と呼ばれるようになる原因であった。




感想くれる人がいて、お気に入りが二桁になって、嬉しくて完成させちゃった。
後悔はしてない。反省はしてる。

アンジェを早く書きたい(切実)
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