今回は準備回。戦闘ないけど、次がガッツリ戦闘になるから!
それから三日間は、途轍もなく忙しかった。
企業は取り合ってくれないのは承知の上だったので、裏ルートを使い、武器商人を使ってACのパーツを調達した。ついでに、使わないパーツを保管できる、倉庫も借りておいた。ここまでで二日間丸々使った。
次に、別の傭兵にも連絡を取ろうとした。が、どいつもこいつも、戦闘中なのか、それとも死んじまったのか、通話に出る事はついになかった。
後から知った話だが、そもそもその時生き残っているレイヴンに、私の顔馴染みはいなかったらしい。要するに、先にぽっくりと死んじまったって事だ。
つまり、ネクストに対して、ちゃんと連絡を取り合い、連携して戦闘に望めるのは、この人数以上はいないという事だ。厳しい以上だというのがこの状況なのだが、それでも、生きるためにはやるしかないのだ。
3日目である今日は、対ネクスト戦闘に関して、知っていることを共有し合うというものだった。
「俺達が遭遇したやつは、プライマルアーマーというバリアを張っていて、それがある間、全く射撃武装が役に立たなかった」
「ふむ、それはわしの戦場のネクストも同じだな。有効打にならず、なにか、プラズマ波のようなもので阻まれるようだったが...それがPAというものか」
感心したように、クレイトンは頷いた。存在自体は知っていたが、流石に名前までは知らなかったらしい。そして、別に名前を知っているだけではないだろう?と、ニヤリと笑いながらこっちを見てきた。
「ああ。勿論、対策だって探した。だけど、魔法みたいなバリアを魔法のように、即
「ACや、戦車などの戦力でも、持っている攻撃手段を使い続け、当て続ければ、あのバリアは剥がれる。剥がせば、ネクストの装甲に攻撃が当たる事は確認済みだし、同時に、ネクストのパイロット『
「なるほど、連続攻撃が鍵だったか」
そこまで聞いて、少し疑問に思った事ができた。私達は幸いにも、機動戦重視の機体だったために、瞬間火力重視の武装を選んでいた。それ故に、マシンガン等の継続して攻撃を当て続ける事ができ、PAを剥がす事が可能だった。
だが、クレイトンの機体はバズーカ等の単発重視の武装で構成されている。しかも、私達とは異なり、相手の攻撃を避ける事はできない。では、どうやって生き残ってきたのか。
「クレイトン、あなたは、どうやってネクストとの戦闘を乗り切ったんですか?」
私がした質問に、クレイトンは苦笑交じりに話し始める。
「ふむ、それなんだが...相手が自ら撤退した。というのが一番正しいのだろうな」
「は?自ら撤退したのか?」
「おう。どうも、弾切れでもしたのだろうな。わしの機体じゃあ、避ける事はできないから、できる限り回り込まれないようにして、バズーカとかで、爆風によるダメージを狙ったよ」
「ん?爆風?ダメージは与えられたか分かるか?」
彼はどうも、クレイトンの機体が、ネクストに対して有効打を与えたかどうかが気になるようだった。まぁ、それも仕方ないだろう。私達とは全く異なる方法で、ネクストに有効打を与えられるのなら、そちらに作戦を移してもいいのだから。
クレイトンが言うには、バズーカやグレネードキャノンなら、致命傷にはならなくとも、ダメージなら与えられるとの事だった。
映像で、射撃によって相手のフレームを損傷させた所を見せてもらった。
この映像を見て確信できたのは、ACが一瞬でAPを削られる程のダメージであれば、ネクストのPAを貫通してダメージを与えられるという事である。
つまり、私の機体に装備してある、重レーザーライフル『KARASAWA』なら有効打になるという事だ。そして、クレイトンによれば、スナイパーライフルやプラズマキャノン、レーザー系射撃武装は、PAに阻まれずにダメージを与えられたという報告もあるという。
「山猫退治も夢物語じゃなくなってきたな」
とは、彼の談である。
⑨
~レイレナード社 ネクスト専用輸送機内~
コジマ汚染を引き起こす、ネクストを輸送するためだけに作られた、専用輸送機。その中で、ネクストのコックピット内で食事を取っていた女性がいた。
アンジェである。
本当なら、機体内では食事をしたくないと思っている彼女でも、現在、いつどこで作戦が展開されるか分からない戦争中であるため、下手に完全にネクストを停止させる訳にもいかず、そのせいで、外に出ればコジマ汚染で身体が侵食される。という状況なので、仕方なくサンドイッチを機体内で食べているのであった。
丁度、彼女が食事を終えた時、その時を待っていたと言わんばかりのタイミングで、通信が入った。
連絡主が誰か確認すると、本社の連中だった。定例会議でも開いているのだろう。気分が若干落ち込みながら、通信を開いた。まさか、無視する訳にもいかないのだ。
《もうすぐ、この戦争は終わるだろう。アンジェ、君の戦果は、全企業のリンクス内でも最高だ。戦争が終われば、君の待遇は更に良くなるだろう》
「はい、ありがとうございます。では、次の戦闘はいつどこで行われますか?」
これ以上待遇なんて良くしてどうする。と、アンジェは思いながら返事をした。
ネクストを動かすには、その莫大な情報量を処理するために、機体と脳を接続する
AMSは、脊髄や延髄を通じて脳に直接データを送ったり、その逆も勿論あるのだが、その処理能力は、先天性のもので、鍛えたり習得する事はできないのだ。
だから、リンクスになるためには、運や実力ではなく、その適正が必要だという事であり、しかもその適合者はかなり稀な事から、元々リンクスは相当に待遇が良かった。それは、アンジェのように優れたリンクスでも、彼女の弟子のような存在である、真改のようなテストパイロットであってもだ。
その待遇は、軍で言うのなら、上級将校クラスのものであり、割り振られた部屋だって、ホテルのスイートルームの数段階上といえる程だ。
なのに、それ以上なんてどうしろと思うのは、至極当然であった。
《君はもう既に、かなりの数の鴉を殺してきたと思うのだが…まぁいい。次の作戦が、この戦争において君の最後の戦闘になるだろう》
最後の戦闘。その言葉に、アンジェは少し俯いた。
この戦争にてアンジェは、全リンクス中、ノーマルACの撃破数がトップであった。レイヴンとして名を馳せた猛者達をことごとく斬り伏せ、地に叩き落としてきた。
だが、それも全て、あの時のレイヴンに出会うため。
鴉が出るという戦場に迷わず駆けつけ、あのエンブレムを探した。
機体構成が如何に変わっていようと、大抵のレイヴンは、エンブレムだけは変えることはないからだ。
しかし、どんな戦場に向かっても、あのレイヴンはいなかった。
《次の作戦は、残った鴉を殺処分するため、全企業合同の下、全てのレイヴンに対して一斉攻撃を仕掛ける。現在残っているレイヴンは、奇妙な事に、我々の保有しているリンクスと同じ26人だ。つまり、ネクスト一機につき、レイヴン一匹を相手する計算だ》
白々しい。アンジェは心の底で舌打ちをする。
恐らく、レイヴンが26人になっているのは、偶然もあったとしても、どう考えても国家内部と、企業上層部の思惑が絡んでいるとしか思えない。
だとすれば、この戦争の全貌が見えてくるというものだ。恐らくこの戦争は、企業がリンクスを表に出すと同時に、レイヴンという、一定以上の力を持った集団の削除。そして、自分達が生きやすいように国を無くすなんていう意味があるのだろう。
そして、国家の上に立つものは、その権力と金とコネを使って、企業の庇護を受けながら生きながらえる。
(全くもって、馬鹿馬鹿しい)
《君とベルリオーズには、スウェーデンに行ってもらう》
「スウェーデン…ですか?BFFは何も言わなかったのですか?」
スウェーデンと言えば、BFFの本拠地付近だ。しかも、BFF社直轄の工場も数多くあるはず。なら、あちらのネクストが対処するのが普通なはず。
《言っただろう?本作戦は全企業合同でのものだ。こちらの誠意を見せねばならん。それに、相手も相当な強者なのだ。君の望む通りだろう?》
「っ…!」
つまり、上層部が言うには、スウェーデンのとある地に、現状残っている中で一番ランクの高いレイヴンと、それと一緒に行動している奴を呼んでおいたから、確実に仕留めろという事だった。
だが、アンジェが気味悪がったのは、そこではなかった。
彼女は名前も知らない、
それを見破られたという事実こそが、最も気味が悪かった。
しかし、ランクが高いレイヴンと共に行動するというのなら、もしかすれば、アタリなのかもしれない。その考えだけが、アンジェを動かす原動力にはなっていた。
「その…相手のレイヴンの機体は分かるのか?エンブレムだけでもいい」
せめて相手だけでも、知っておきたいというアンジェの思い。その言葉を聞いて、一人の幹部がファイルから二枚の写真を取り出した。
一枚は、レイヴンのトップに立つ男。レイヴン名
だが、アンジェの目当てはそちらではない。
二枚目こそがそのお目当てだった。AランクNo.9のその男こそが...
⑨
「スウェーデン…ねぇ。なんで、BFFの支配領域にわざわざ行かなきゃならないのかね」
「さぁ…。まぁ、所詮は生贄だ。どうだっていいんだろ」
私達は、スウェーデンへと向かうため、民間の輸送船を装って海の上に浮かんでいた。ACは裏ルートの運び屋に頼んで、空の便で送ってもらっていた。
さて、何故スウェーデンに向かわなくちゃいけないのかと言えば、国家から指定された場所がスウェーデンだからだ。
正直言って、わざわざ出向いてやる義務も義理もないのだが、どうせここで向かわなくても、山猫が狩りにやって来るのなら、いっそ自分達から向かって行った方が気持ちがいいという、なんとも馬鹿みたいなものだった。
「しっかし、今ここでも寒いってのに…向こうはもっと寒いんだろうなぁ。なんでいっそのこと、イギリスとかにしてくれなかったんだ」
「あのなぁ、お前さん。イギリスじゃあBFFの本拠地じゃねぇか。そしたら万が一脱出できても死ぬだけだぞ」
「寒くて凍え死ぬのと、射殺されるのと、どっちがいいのかね」
もはや私達はこんな会話をするばかりで、生き残る事は考えていないようだった。
それもそのはず。港で聞いた話では、フランスの方でACとネクストの戦闘らしい話を聞いたのだ。企業側が勝ったという話で、ACに乗っていた傭兵達は死んだらしい。
ともなると、次は自分達だと思うのも仕方がないというものだ。
「向こう着いたら、とりあえず美味いもんでも食って、そしたら次の日に戦闘だな」
クレイトンはかなり落ち着いていた。彼自身、踏ん切りがついているのだろう。もう、いつ死んでも別にいい。そういうものなのだろうか。
死ぬのは怖い。だから死にたくないと思うのが人間だが…クレイトンからは、どちらかと言うと、諦めのようなものを感じる。
鴉の時代は、終わるのだと悟っているかのように。
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20:34
スウェーデンの港に着いた私達は、適当な宿を取って、食事をした。外の寒さとは全く違い、温かい食事。
ロールキャベツとえんどう豆のスープは、その温かさが身に沁みるようで、スープの味も少し濃いのが気になったくらいだった。
スウェーデン料理という事で、若干恐れていたシュールストレミングであったが、私達が来た南部の方ではあまり食されないようで、周りでも食べている人は全くいなかった。というか、アレは誰かが食べていたら気づく程の臭さだから、気にする必要はなかったようだが。
クレイトンはビールを山ほど飲んでいた。二日酔いにならないかと心配したが、彼は元々ロシア人であったらしく、酒の強さには自信があるらしい。周囲の客と飲み比べをしているところを見ると、明日殺し合いをする人間にはとても見えない。
私ともう一人のレイヴンは、隅っこのカウンターで密かに二人で飲み食いしていた。
彼はグロッグとかいうワインを飲んでいたが、私は生憎酒に弱いので、度数が小さいものを頼んで飲み、アップルパイとチーズケーキを食べていた。
「今回の戦闘…恐らくだが、数で勝る事は不可能だと思う」
彼が話したのは、明日の戦闘の事。私達が当初考えていた、多数対1の状況を作る事による、集中砲火は、できないだろうという話だった。
「この間、企業側が正式に発表した、ネクストの数だ。実戦に投入できるだけで、26機あるらしい」
「待ってくれ。ネクストが、26機だって?それじゃ…」
「ああ。今生き残っているレイヴンは、26人。おまけに、昨日起こった戦闘で、また二人減っているらしい。という事は、企業は鴉一匹につき、一匹の山猫を送っている、もしくは、送れる余裕があるって事になる」
恐ろしい話だ。
とてもじゃないが、私はネクストと一対一で勝てるとは到底思えない。
この間のネクストもどきのAC。それでさえ、私は目で追いかける事が精一杯で、なんとか高出力のKARASAWAがあったから生き残れたというのだ。
それなのに、あのACよりも数倍濃い濃度で展開されるPA、絶え間なく使われるQB。そして、降りかかる高火力。どれを取っても、レイヴンが使うACよりも数段強力なソレは、私程度で勝てるとは思えなかった。
現に、私より高ランクのレイヴンが何人も死んでいた。
「だが、それでも、一機につき一機のネクストが来るだけで済むはずだ。なら、まだやりようはある」
彼が言う事の意味が分からなかった。ACが、ネクストに単騎で勝つだって?
確かに、私もネクストを撃破する事はできるかもと言った。だが、それは複数でかかればだという話で、彼の言う一人でではなかった。
「元々、俺は二対三を想定していた。勿論、ネクストが三機でな。だけど、クレイトンのおっさんがいるから、更に楽になると思ったんだ。だから、夢物語ではないって話だ」
無茶苦茶だ。
「そもそも、俺はあのレイレナード社強襲任務で気づいていたのさ。あいつらに有効な攻撃が。それはお前も分かるだろう?」
知っている。ブレードだ。確かにそうに違いない。だが、だからといって勝てるというものではない。
「確かに、危険だとは分かっているが、ネクストを撃破するのに最も有効なのはブレードだ。それをするしかない」
私の気持ちとは反対に、彼の口からは、ネクストに対抗するための策がペラペラと出てくる。
ショットガンを使って、少しでもPAを薄くしてからブレードで切り裂くだとか、FCSについている、ブレードのホーミング機能を利用した、高火力兵装の射撃だとか、射突型ブレードで一発で決めるだとか。
その言葉の奔流に、ついに私は口を開いてしまった。
「そんなの…無茶だ。無理だ。対ACなら、途轍もなく有効なんだろうけど、それは、ネクストにやるには...厳しすぎる」
「だが、やるしかない。俺の勘が正しいなら、あの時のリンクスは必ず現れる。その時は...そいつは君に任せる。俺は...あの山猫共のトップ鼻をへし折らないと気がすまないんだ」
そう言うと、彼はカウンターに酒の代金を置いて、借りた寝室へと向かっていった。その背中は、どこか、寂しそうだった。
彼が言う、あの時のリンクスが誰かはすぐに分かった。
その言葉が信頼によるものか、駒として言われた言葉かは分からないが、それでも私は戦わなくてはいけない。
鴉の時代がたとえ終わっても、死ぬのだけは私はごめんなのだ。
次で序章はラスト...かな?