妖精と呼ばれた傭兵   作:vitman

8 / 30
みなさん明けましておめでとうございます!

私は学生なので、課題やったりテストやったりしてたら、こんな日にちになってました…
というか、今回は区切るのが難しくて、いつもの二倍ぐらいになっちゃったのが遅くなった要因ですかね



月下の剣舞

 目が覚めた。

 ベットから起き上がり、洗面所に行って顔を洗う。冷える朝に、冷たい水を浴び、背中が震える。

 適当に温かい服装に着替え、食堂へと朝食の為に向かうと、既に彼はいた。

 

「おはよう。いよいよだな」

 

「ああ。とりあえず朝食だ。どこぞの戦闘機パイロットが言うには、出撃前は避けた方がいいとか言ったそうだが、エネルギーは必要だ」

 

「その通りだな。腹が減っては仕事はできぬ、だ。日本の諺にもそういう言葉がある」

 

 そう言って、出されたキドニーパイとフルーツスープ食べる。

 昨日と同じく、温かい食事だったが、味はあまり感じなかった。決して薄いという訳ではなかったが。

 

 その後、クレイトンが起きて、同じように朝食を取ったら、宿代を支払い、コートを着込んで街へと出る。まだ朝の早い時間で、一般のサラリーマンでさえ、まだ家にいて寝ているような時間である。

 こんな時間に何をするかと言えば、そう、ACの受け取りである。

 路地裏に入り、角を3つ左、右、右の順番で曲がったところの突当たりに立っている、煤色のコートを着た男がいる。その男が、クレイトンに手で合図をしながら

 

「ビリヤードは?」

 

 と問いかけ、クレイトンは同じ手合図をしながら

 

「ナインボールで」

 

 と答えた。

 それを聞いて、私達は顔を見合わせると、煤色のコートの男に着いていき、この路地裏には不相応な扉の中に入った。

 そこは、傭兵御用達の運び屋集団『渡り鳥』のスウェーデン支部であり、全世界の拠点に通じる彼らの秘密基地であった。

 彼ら『渡り鳥』は、バックには大きな組織があるという噂があったが、実際、自分の目で見てみれば、なるほど確かにそれが納得できるだけの設備があった。

 私達が来たことを煤色のコートの男がカウンターで伝えると、2分程で大柄の男が出てきた。

 

「レイヴン、よく来てくれた。俺は一応、この支部のトップをやっている者だ。別になんと呼んでくれても構わないんだが...大抵のやつは俺の事をチコニアって呼ぶ。まぁ、適当に呼んでくれや」

 

 チコニアは、それから荷物の事について話してくれた。

 私達が戦場にしようと考えているポイントから、およそ5㎞ほど離れた地点にある倉庫を町工場のように見た目を改装し、それの中に運び入れたという。よくもまぁ、そんな事をしてバレなかったものだ。

 

「頼まれてた武装も、そこに運び入れておいた。整備も完璧なはずさ」

 

「何から何まですまないな」

 

「いいってことよ。それに、この仕事が俺達の最後の仕事になっちまうかもしれないんだからな」

 

 少し寂しそうにそう話したチコニアは、私達から少し目を逸らした。

 チコニアの言う通り、この戦闘が終わったら、傭兵(レイヴン)という職はお払い箱になるに違いない。戦力には、企業が自前で持っている『ネクスト』を使えばいい。雇われの鴉のような、不確定要素を戦力として使う必要はなくなるのだ。

 そうなれば、傭兵相手に仕事をしていた彼ら『渡り鳥』は、苦しい生活を強いられる事になるだろう。まさか、企業が彼らに依頼をするわけもないのだ。

 

「ま、俺達ができるのはここまで。後は、お前さん達レイヴンの仕事だ。…今朝方アフリカ北部で戦闘があって、またレイヴンが二人死んだんだ。お前さん達合わせて、もう22人しか鴉はいないんだ。俺達の仕事を減らすなよ」

 

 死ぬなと念を押された私達は、そこの職員達から、次の依頼に使える『割引チケット』なるものを渡された。

 その職員は言葉にこそ出さなかったが、チコニアと同じく、ビジネス的にも、人間的にも『死ぬな』と私達に思ってくれている事が嬉しかった。

 

 移動は民間の列車を利用する。

 人目に付きやすい場所の方が安全な時も、時にはあるという事だ。

 

 

 

 ____________

 

 

 

 

「結構いいガレージじゃないか」

 

 着いてみれば、かなりの規模のガレージで、AC三機が並んでいても全く窮屈ではない程の大きさだった。

 流石に、整備士はいないが、それでも整備に必要な道具や、頼んでおいたAC用のパーツや弾薬はしっかりと置いてあった。

 このガレージは、チコニアから壊してしまっても、何をしても構わないというお墨付きをいただいておいたので、作戦の中にはこれを利用する事も含まれていた。

 

「決行は今夜23:25より行う。では、各自食事を取るなり、ACを整備するなりしてくれ!」

 

 クレイトンは大声でそう言った。私達は、クレイトンを含め全員が、ACの整備に走った。勝てる戦いではない事は―一人の例外を除いて―分かっていたが、それでも、少しでも確率を増やすために、可能性を生み出すために動いていた。

 まずアセンブルだが、今回も前回と変わらずでいいだろう。こういう時は、自分の慣れた機体で行くのが一番良いと考えている。

 よって、中量二脚で、EN伝導効率の高い腕を使い、武装は射撃戦では『KARASAWA』とグレネードキャノンを利用し、クレイトンの機体によって証明された、火力でPAを壊す方法を使い、接近戦になれば、チェインガンとブレードを使って()()()()する。ちなみにミサイルは使わない。というより、使っても当たらないから、使う意味がないのだ。

 

 次に、FCSだが、今回は横長型のものにしておく。素早いネクストは、ロックオンする事さえ難しいので、少しでもその機会を得るためである。

 イクバール製の縦長型FCSは、ロックオン速度は速いのだが、陸戦がメインの中量二脚では使いにくいし、その横幅が狭いサイト内にネクストを捉える方が困難だ。ロックオンサイトの横幅という点では、レイレナード製FCSは優れていた。ただ、消費ENの多さだけは問題だったが...。

 

 アセンブルが終わって、弾薬の補充を行い、細かい調整としてスタビライザーの配置、頭部AIに搭載するチップ、機体にかける、細かなチューニング、その他色々あるが、そういった調整を終えた頃には、既に作業開始から7時間を超しており、すっかり辺りは暗くなっていた。

 やる事は終えたのだから、ここで休憩してもいいのだが、なんとなく、身体が落ち着かなかった。

 戦闘前に、これほど落ち着かなかったのは、レイヴンになる時のあの試験の時以来だろう。あの時は、まさかこうなるとは思ってもいなかった。私は、親が負の遺産として残した、多額の借金を返済するために鴉になったが、ついに借金を返し終わる事はなかった。借りていた先が別のレイヴンが起こした戦闘で壊滅的被害を受け、倒産したからだ。

 

 私は金銭的に得をしたのだが...そのレイヴンが、私の両親と同じ会社から借金をしており、返済が間に合わないからという理由でそこを襲撃したという事を後から知り、人生は思いがけない事が起こるものだと、痛感したものだ。

 だから、山猫が戦場の王になっても理不尽だとは少しも思わなかった。

 少し、寂しい気がしただけだった。

 

 

 

 

 ⑨

 

 

 

 

 23:20。作戦決行の時だ。

 私達三人は、既にACのコックピット内に入っていた。暖房をガンガンに効かせた、暖かいコックピットで、鴉としての最後の仕事にかかるため、私達は今か今かと待機していたのだ。

 そもそも、なぜこの時間かというと、この付近に、企業の物資輸送車両が通るという情報を掴んだからだ。どうも、工場へ輸送する途中らしい。

 それを襲撃すれば、ネクストが現れる。それが一機なら袋叩きに、複数いれば、その時はその時だ。

 

「よし、そろそろ来るぞ。全機、ACを戦闘モードに移行だ。各自出撃」

 

 クレイトンが威勢よく言ったのを合図に、キーでAIに指示を飛ばし、巡航モードから戦闘モードへと移行させる。

 ロックオンサイトがモニター上に現れ、武装のロックが解除され、引き金を引けば、すぐにでも射撃ができるようになった。

 遠隔操作でハンガーの扉を開け、ACを外の世界に出す。視界は最悪で、夜の暗闇と、降りしきる雪のせいで、目の前は通常のカメラモードでは目の前を見ることすら覚束ない。

 なので、私はACのヘッドパーツに搭載されている、夜間戦闘用の暗視モードを起動させた。緑色のモニターに、綺麗に街の家々の輪郭が映っていた。

 

 ペダルを踏み、操縦桿を傾ければ、ACが歩き出す。そして、レーダーを起動させ、目標の輸送部隊を探す。

 ブースターを使い、散開して目標を捜索する。

 5分ほどたった頃だ。

 

「北西に反応多数。おそらく、目標のトラックだ」

 

 私の右横にいた彼が、熱源反応を探知した。数は3だそうで、輸送部隊にしては妙に少ない。ここはBFFの支配領域なので、別に分散させてコソコソと進む必要性は薄い。だとすると…

 

「いや、待て。その三つの反応から、更に三つ、熱源反応が出た。異様なほど、移動速度が速い。こいつは、ネクストだ」

 

 彼の少し笑い気味のその言葉を聞き、私とクレイトンは自分のACのレーダーマップを見た。確かに、トラックであろう反応から、もう一つの反応が出てきたような動きで、確かにこちらに向かってきている。

 その速さといったら、トラックやMTどころか、ACの機動戦特化機よりも遥かに速い。

 

 数秒後、私達の前方に、眩い光を纏った機体が三機、猛スピードで突っ込んでくるのが確認できた。その内、二機は見覚えのあるエンブレムを付けた機体で、もう一機だけは見たことがない機体だった。

 だが、その一機というのはクレイトンは見覚えがあるようで、彼が単騎で遭遇したネクストの一つだったそうだ。

 

「どうだ?俺の言った通り、3機で来ただろう?」

 

「あまり本当になって欲しくはなかったがね」

 

 そう言うと、三人は三手に分かれた。普通に考えれば、3機で一体を集中攻撃して撃破か撃退を狙うのを繰り返す方が効率がいいはずなのに、だ。

 でも、その戦い方は嫌だったのだ。ここに来たネクストは、彼らそれぞれに因縁のある機体だった。

 一機は、山猫のランク1。

 一機は、師弟。

 そして、最後の一機は「鴉殺し」であった。

 

 

 ____________

 

 

 

 気の乗らない作戦は、たった一枚の写真によって、彼女にとっての価値が180度変わった。

 それは、あの時のAC。

 

 恐ろしく強いわけではない。単純な強さであれば、彼の相方だという、レイヴンのトップである男の方が上だろう。

 精神的な強さが優れているわけでもない。資料によれば、友人の戦死でシェルショックになった事があるらしい。傭兵としては致命的だ。

 機体が特別な訳でもない。他のレイヴン達となんら変わらない、企業製のパーツを使ったACだ。

 

 では、何が彼女の目を惹いたのか。それは、彼の戦闘に惹かれたのだ。

 決して強くはない。だが、戦闘中の相手の動き、味方の動きを見て学び、瞬間的に活用する。その成長力。

 ネクストの絶対的な強さを見せつけられても、手持ちの武器で抗う、その姿。

 傷を負っても、武器を失ってもなお、戦を継続するその力。それは彼女の心を打つに足りていた。

 

 銃に頼らず、剣による戦闘に拘り、社内でも異端児として扱われていた彼女は、その戦闘が美しいと、そう感じていたのだ。

 だからこそ、彼女は拘った。彼と戦う事に。そして、彼を自らの手で葬る事に。

 

「だから、あの鴉は、私が殺す」

 

 

 

 ____________

 

 

 

 

 目の前のネクストは、私が初めて敵として出会ったネクストだ。それは今、世界で最もレイヴンを仕留め、『鴉殺し』などと言われ、レイヴンからは恐れられ、企業からはもてはやされているのだった。

 そんな機体は、美しい濃紺色に染められ、普通なら主兵装になるであろう射撃兵装を手に持たず、レーザーブレードを両手に装備していた。

 

 銃ではなく、剣で戦う。はっきり言って古臭い戦い方だ。

 剣では銃に勝てない。ずっと昔の戦争からそう言われている筈なのに、その姿勢を崩さない。あのネクストに搭乗しているパイロット―リンクス―である彼女は、その戦闘スタイルに強い思い入れがあるのだろう。

 

『お前をずっと追っていた』

 

 彼女からの通信。それは、私に対する言葉にしては、随分と大層なものだった。

 

『そのために、私は世界を駆け巡った』

 

 私は強くない。相方や、クレイトンと比べれば、レイヴンとしても、人としても弱い。

 

『だが、貴様のような強者はいなかった』

 

 私の戦闘はただ、生き残るための戦闘。そのためには手段を選ばないだけ。他のレイヴンとは違う。

 

『だからこそ、私はお前を殺す。お前を殺して、初めて私は「鴉殺し」を名乗れるのだ』

 

 熱がこもったその言葉は、彼女が戦場に酔っている事を示していた。私にはそんな気持ちはない。死ぬ恐怖があるだけだ。

 

『この間と違って、今回は邪魔が入らない。だから』

 

 彼女のネクストが戦闘態勢に入った。両手の剣を構え、今にも飛び込んできそうだった。

 

『殺すわ お前を』

 

 そして、私のACが武器を構えると同時にブースターを起動。懐に入ろうと飛び込んできた。

 

 

 私の射撃兵装はKARASAWA。クレイトンの言葉と、ネクストもどきとの戦闘で立てられた、『PAも超火力は防げない』という仮説に基づいた武器だ。

 レーザーライフルの中でも最強の火力を有しているこれは、ネクストもどきが展開していたと思われるPAが、無いもののように扱われていた。今にして思えば、PAがあるというのによく弱点狙撃なんてしようとしたものだ。

 消費EN以外に殆ど欠点がないそれをネクストに向け、放つ。

 

 カァオ カァオ

 

 という、特徴的な音を出しながら、高速でそのレーザー弾は空を切るように飛んでいく。が

 

『なんだ、その弾は。当てる気があるのか?』

 

 さも当然のように()()()()()()()()()()()()。高速どころか、光速で飛来するレーザーは、避ける事が難しいではすまない。発射される前に、相手の銃口の向きから弾道を予測しなければまず不可能だ。それだというのに、彼女は発射してから回避行動をとり、見事に避けた。

 これがネクストの機動力によるものなのか、それとも彼女の反射神経が成せる技なのか…いや、おそらくその両方だろう。

 

 こうして避けられてしまうのであれば、もはやKARASAWAは、ひたすらに重く、ENを消費するだけの役立たずになり下がる。なので、右武装はパージ。肩に格納されていたブレードをサブアームで引っ張りだし、装備する。

 それを見て、彼女は嬉しそうだった。…声色からすればそうとれた。

 

『ACには右腕のレーザーブレードはないと聞いたが?』

 

「あぁ、特注品だ。貴女との戦闘なら、必要でしょう?」

 

 あの運び屋に“あれば買う”と言ったのだが、彼らは「作るから買え」と返してきた。

 結果的にブレードが手に入ったからよかったが…余計に金がかかってしまった。

 

『やはりお前は面白い。さぁ、今度は私から行くぞ!』

 

 ネクストのメインブースターが火を噴く。通常の機体よりも、出力が強化されたそれを装備した彼女の機体は、一瞬の間に時速1200㎞まで加速した。ACの機動戦特化機体の最高速度が時速600㎞オーバーに収まっている事を考えれば、異常とも取れる速度だ。

 まさに私が瞬きをする間に近づいてきたネクストは、右手に持っているブレードを横に振る。紫色の極厚の刃が迫る。

 

 急ぎサイドブースターを起動させ、左へと無理やり回避行動をとる。勿論そうすれば姿勢が崩れ、まともに行動できなくなる。

 その隙を彼女が見逃す訳がない。

 

『どうした?その程度なのか?』

 

 右のブレードを振った態勢のまま、更にネクストはブースターを使って再度私のACに向かって突撃する。今度は左のブレードを使ってだ。

 だが、態勢が崩れていてもできる事はある。火器管制システムをシャットダウンさせ、エネルギーに余裕を生み出す。ENの消費量が減ったためにできた、余分なエネルギーを使って、OBを使用する。

 機体のエネルギーをメインブースターに集中し、爆発的な速度を生み出す。

 ネクストと比べ、明らかに低い耐G設備によって、私に途轍もないGがかかるが、歯を食いしばって耐える。溶かされるよりはずっとマシだ。

 

 ただ、少し遅かったらしく、グレネードキャノンに損傷を受ける。砲身が真っ二つに折られ、まともな射撃はもはや不可能だろう。

 

「くっ…」

 

 火力でどうにかするのは不可能に近くなった。ただのデッドウェイトと化したグレネードキャノンをパージし、機体を軽くする。

 

『浅いか…なら次だ』

 

 再び突撃してくる彼女の機体に、私はゾッとした。あの連撃をどうにか押さえないと、私に勝機は1%だってないだろうと思ったからだ。

 彼女は袈裟と逆袈裟を交互に行い、双剣という特徴を上手く活用している。これには、剣士としての彼女の腕もそうだが、おそらくネクストに搭載されている、AMSも関わっているのだろう。

 残念だが、ACにはあの動きはできない。

 

 だが私は地を這う猫ではない。空を飛ぶ鴉だ。

 

『…!上か!』

 

 バックブースターを使用し、後ろへと移動しながら上昇する。そうすれば、近接機に対してすこぶる有効な、引き撃ちの態勢だ。

 火器管制システムを呼び起こし、すぐさまチェインガンを起動させる。ロックオンサイトが出現し、ネクストを捉える。流石にネクストにもブレードを振った後の硬直時間はあるらしく、1.8秒程固まっている。

 それだけあれば十分だ。

 

 チェインガンから無数の弾丸が射出され、ネクストへと殺到する。が、どれも致命傷を与えるには至らない。ネクストが周囲に展開させている、PAがあるからだ。

 小ジャンプを繰り返し、なんとか次の斬撃も回避するが、これも何回も続かないだろう。

 

『その両手の剣は飾りか?なら、斬らせてもらうぞ』

 

 チェインガンは効かず、KARASAWAは当たらず、グレネードを撃とうと構えれば斬られ、ブースターを幾ら噴かしても逃げきる事は不可能。対AC戦闘で有効だった引き撃ちも、ネクスト相手では殆ど意味がない。

 なら、やはりこれしか倒す術はないのだろう。

 

 ネクストが斬りかかると同時に、チェインガンをパージ急ぎ後ろに回避行動をとる。

 その場に置き去りにされたチェインガンは、爪楊枝のように、いとも簡単に真っ二つにされてしまう。だが、それによってネクストは攻撃後の硬直が生まれる。

 だが、通常のブースターによって行うブレードホーミングでは、間に合わない。そこで、OBを使用して近づき、左腕のブレードを振りぬく。

 PAがまるで存在しないかのように、ブレードはネクストへと吸い込まれるように向かう。

 

『そうだ!それでこそだ!』

 

 私の振ったブレードは、ネクストの装甲の表面を浅く掠る程度だった。が、それでも彼女の闘志を昂らせるに十分足りていた。

 彼女の攻撃は更に増していき、それを紙一重で回避する。本当にスレスレで、少しでも遅れたり早かったりすれば、たちまちチーズのように切り裂かれてしまうだろう。

 それだけは避けたかった。

 

 いつかの戦闘を思い出し、ネクストが横へ瞬間移動をする時、その瞬間にOBを使い、同じように横に移動。

 流石に速度は違うが、それでも、ただ移動するよりはずっと速い。ENの消費も、ブレード以外に武器がないためか、割と余裕がある。

 

 ネクストの機動にも目が慣れ、追いかけれるようになる。

 いつかの時と同じだ。違うのは、最強の鴉がそばにいないことだけ。傍から見れば、大きな違いだが、この場においては些細なことだ。

 

 戦闘がヒートアップするにつれて、お互いに余裕がなくなってきた。私のACはAPがもう残り40%を下回っており、腕こそ無くなっていなかったが、コアや頭部は損傷があった。

 対して彼女のネクストも、大きな損害はないが、細かい傷が増えてきたように見える。すれ違いざまの斬り合いで、肩の武器が破損し、投棄した事以外は殆ど見た目に影響のある損傷はない。

 これだけ損害に違いがあるのは、技量もあるのだが、やはりPAによるリーチの差があった。

 

 PAがある限り、ブレードレンジギリギリで斬った位では、刃がPAによって無力化されてしまうため、どうしても私は密着する位まで近づく必要があった。対して彼女は、私にはPAのようなものがないため、レンジギリギリでも斬撃をする事が可能だ。

 私にはこれを覆す事が可能なほどの技量も、機体性能もなかった。

 

『足掻いてもいい...無駄だから』

 

 ACにダメージが蓄積し、これならあと一撃で屠れると確信したのだろう。両腕のブレードを展開し、斬り込んでくるネクストの姿があった。

 私は勿論逃げようとしたが...

 

『避けさせない』

 

 今まで使わなかった、ネクストの肩武装。それが今使われた。

 音もなく放たれたそれは、ロケット弾のようで、恐らくそれの着弾による衝撃で足止めするタイプだと悟った。それを見て、私はバックジャンプをし、ギリギリ避けた。が、それは間違いだった。できるだけ離れるか、後ろを向いてOBで逃げるべきだった。カウンターを狙ったのが運の尽きだったのだろう。

 

 そのロケット弾はフラッシュロケットというタイプで、所謂閃光弾だった。メインカメラを閃光が焼き、パイロットの視力を保護するために、モニターはブラックアウトした。目の前の光量が元に戻ってから数秒しないと、これは元に戻らない。

 急いでレーダーを見るも、ECMの効果もあったのだろうか。全く機能していなかった。

 

『さぁ、どうするレイヴン...』

 

 彼女の声と、音は聞こえた。

 それが分かった途端、私は集音マイクの機能をオンにした。元々は歩兵を探すための機能だが、この状況において、立体音響は何よりも心強いものだ。

 ネクストはまっすぐに向かってきていた。真正面から堂々と。なら、やりようはある。

 

『終わりね』

 

 ブレードを振るフレームの音が聞こえる。右と左、両腕のフレームが鳴り、殺意の刃が近づいてくるのがすぐに分かる。

 だが、まだ諦めるには早い。まだ何かある。生き残る方法はあるはずだ。

 諦めるのは、その後だ。

 

 エクステンション装備を起動する。

 私が今回装備したエクステンション装備は、あの時と同じ装備。そう、イクバール製の近接散弾兵器だ。敵機との距離がブレードが接触する位に近い今なら、確実に当たる。

 迷わずトリガーを引く。PAを貫通する事が不可能でも、なんとか削って、衝撃力で止まる事を願った。

 肩に装備されていた外付け装甲のようなそれは、前方に向き、多量の散弾を一気にばらまく。距離が距離なだけに、その殆どはネクストに当たる。近距離すぎたことと、ブレードによる攻撃中だったことが、ネクストの回避行動を阻害したのだ。

 続けてトリガーを引き続ける。三回目のトリガーで、何発かが機体に到達する。四回目で完全にPAが消滅し、大多数の弾が命中する。これならいける。そう思った瞬間だった。

 

『やはり、お前は美しい...だからこそ、私は負けられない!』

 

 肩散弾による衝撃力では、ネクストを止める事は不可能だったらしく、そのまま両腕が振られる。相手がこちらの攻撃を回避できなかったように、私もこの攻撃を完全に避ける事は不可能だ。

 ようやく回復した視界をフルに活用し、後ろに下がるのではなく、前に出る。OBを起動し、全力でだ。

 すれ違いざまに私のACもブレードを展開し、お互いに斬り合う。

 私から見て右側に走り去りながら斬り、相手のネクストは右肩のフラッシュロケットを破損し、私は左肩半分がなくなった。

 

 振り向き、一合、二合と斬り結ぶ。その度にお互い傷が増えていく。だが、勿論私のACの方が格段に深い傷をだ。

 機体性能だけでなく、剣士としても私は彼女の足元にも及ばないという事だ。ACでの近接戦闘が苦手だったという事もあり、それは当たり前と言ってはなんだが、それでも、負けたくはない。負けたら死ぬから。

 

 死にたくはなかった。

 勝たなくていい。負けなければいいのだ。

 

 今までビビっていたが、深く斬りこむことにする。どっちみち、そうしなければ勝てない。いや、こちらだけ損害を受けて死ぬだけだ。

 だから、ブーストを多く使い、相手の懐まで潜り込む。その際、右肩の装甲がなくなったが、止まらない。止まったら死ぬ。

 右のブレードを使う準備をする。ブレードは展開されない。なぜなら、右のブレードはレーザーブレードではないからだ。ブレードとは名ばかりで、実際はパイルバンカーとも言うべき代物だ。

 ショートカットキーを用い、右腕のブレード『射突型ブレード』を構える。姿勢制御はコンピューター持ちだから、機体の機動だけ私は考える。

 

 右にフェイントを仕掛け、まっすぐOBを一瞬使う。ブーストを切り、左に少し姿勢を崩す。そして、そのまま向かって左側に突っ込み、相手のコアに向けてブレードを振る。

 ACの腕が相手の装甲に当たり、ガリガリと音を立てる。その感触に、思わずニヤリとする。

 トリガーを引く。射突型ブレード内で炸薬が起爆し、ブレード、いや、『杭』が放たれ、ネクストの装甲を抉る。

 手応えは確かにあった。だが、彼女から放たれたのは、非情な言葉だった。

 

『左腕がやられたか』

 

 私が射突型ブレードをフレームに当てる際、瞬間的にサイドブースターを使って避けたのだ。

 だが、ほんの1秒にも満たない時間だけ足りなかったのだろう。私の放った射突型ブレードは、たしかにネクストを貫いた。

 ネクストの左腕を。

 

『では、お返しだ』

 

 残った右腕のブレードで、ACの右腕が斬られる。

 彼女は、あのタイミングなら私を殺せたのに、そうしなかった。

 逃げるなら今がチャンスだった。

 

『逃げるか?それもいい。でも…』

 

 悟られていた。殺気の有無でバレたらしいが、どんな技術だ。と、悪態づく。

 そして、ネクストの残った片方の腕である、右腕を私に向ける。まるで、まだ決闘は終わっていないと言うように。

 私は立ち上がり、機体の頭部をネクストに向け、装甲越しにそれをにらむ。昔、日本にいた時の友人と決めた言葉を彼女に投げかける。何故だか、彼女はその言葉を知っているように感じたのだ。

 

「でも、前を向かぬ者に、勝利はない!」

 

『...っ!』

 

 OBを使い、一気に距離を詰める。ネクストからも、OB特有の変わった音がする。レーザーブレードの出力を最高にまで上げ、最大限威力が高まるようにし、この一撃に全てをかける。

 この一合でこの勝負は決まる。彼女の機体のブレードも、刀身がかつてないほどに分厚く、長くなっている。

 

 双方同時に動く。当然、ネクストの方が速いが、すれ違いざまに斬るだけだ。速さは関係ない。一瞬のタイミングをはかるのに、目と脳、そして鴉の勘を頼るだけだ。

 接近する。その距離、僅か8m。機体の全高が10mほどのACとネクストが戦闘するには、普通なら近すぎる距離。

 その距離で、鴉は左下から右上へ、逆袈裟斬りし、山猫は突きと、そのすぐ後に右脚による蹴りを繰り出した。

 

 鴉のACは頭部を失い、蹴りによって、吹っ飛ばされた。ACを構成するパーツの中心で、コックピットも存在するコアはひしゃげ、内部へのダメージは想像に難くない。

 一方、ネクストの方は脚部のスタビライザーが斬られ、コアが少しばかり損傷した程度で、大したものではなかった。最も、ノーマルACとの戦闘で受けるものではなかったが。

 

 

 

 

 ____________

 

 

 

 

 ACのコックピット内で、一人の男がシートに座っていた。頭にはいくつもの切り傷があり、かなり出血が酷い。しかも、身体にはいくつもパーツの破片が刺さっており、放っておけば死んでしまうのは確実だった。

 モニターは損傷しているためか、それとも頭部ユニットが無くなっているためか、映像が所々途切れ、ノイズが走っており、だいぶ見にくい。

 だが、そのモニターをじっと男は見ていた。いや、睨んでいた。去っていく山猫をしっかりと見つめ、目に焼き付けるように、じっと、目を凝らして見ていた。

 




夜という事を最大限に活かした戦闘にしたかったのですが…それすると収拾がつかないのと、アンジェとの戦闘だけで3話くらいになっちゃいそうなので没

そして結局0章はまだ1、2話続いちゃいます…進行遅くてすみません


《今回の没ネタ》

『見つけたぞ、あの時のレイヴン。決着を付けようか』

私は右腕のレーザーライフルを構え、トリガーを引く。

ピーピーピーボボボボボ



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。