亜希を乗せたハイヤーは内閣府ではなく総理官邸へ向かった。
槙野は亜希を官邸に呼んだからだ。
「NSC(国家安全保障会議)で決まった?そうですか…はい」
道中で亜希は槙野から政府内の動きの詳細を電話で聞いた。
ギガスマキナもとい巨大駆動体への対処を政府がNSCで自衛隊による武力行使で制圧する事が決定された。
NSCは国家の安全保障に関わる重要事項または緊急事態について内閣が審議する会議である。
そこでギガスマキナへ自衛隊が攻撃する事と被造物及び被造物の協力者の身柄を確保する事が決定されたのだ。
被造物の事案について任されている自分が外されて決められた強行案
関係各位を説得して対話による解決の実現を行うのを寸前で止められただけに亜希は憤慨した。
「まったく!あのバカが!」
槙野との通話を終えると亜希は車内で吠えるように怒声を放った。
聡美と運転手は噴火した亜希の怒りに体と心が硬直する。
「すみません。取り乱しました」
二人の様子に気づいた亜希は眼鏡を直しながら気を落ち着かせる。
まだ政府への暴言を言いたかったが車内だと怒りをぶつけるべきではない二人に当たり散らす事になる。それはいけないと亜希は自分を抑える。
「高江さん。おしぼりを頂戴」
亜希の求めを聞いた聡美は自分の鞄から使い捨てのおしぼりを一つ取り出し亜希へ渡す。
聡美から受け取ったおしぼりを亜希は目元とおでこに当てて自分をクールダウンさせる。
「ありがとう。落ち着いたわ」
「それにしても政府がここまで邪魔をするとは思いませんでしたね」
亜希から使い終わったおしぼりを受け取ると聡美は言った。彼女にしても被造物との対話が寸前で止められた事に不満を感じていた。
「与党副幹事長の須崎さんが中心になって自衛隊による攻撃を政府へ働きかけたそうよ」
「須崎さんは防衛部会長ですよね。でも部外者じゃないですか。それなのに介入するなんて」
今度は聡美がヒートアップしそうになっていた。
「こういう事は起こるのは想定していたけど、露骨に私を外して事を進めるとは思わなかったわ。本当にムカつくわね」
女子同士の愚痴の言い合いを続けながらハイヤーは永田町へと走る。
総理官邸に着くや亜希は目を吊り上げ赤いルージュ引いた唇を真一文字に結んだ不機嫌な顔を作る。
官邸の入口では槙野の秘書が亜希を案内した。
案内されたのは総理官邸地下の危機管理センターだった。
そこは二十四時間体制で有事に備えている部署だ。災害など有事の際に政府の対策室が置かれる。
「もはや実行段階か」
通された部屋は閣僚が集まる会議室だった。
総理大臣をはじめとした閣僚と統合幕僚長をはじめとした陸海空自衛隊の幹部が一同に集まり部屋にあるモニターは移動している陸上自衛隊の車列や基地でローターを回し離陸しようとしている陸自の各種ヘリの様子が映し出されている。
もはや作戦は動いていると見える光景だった。
亜希が入室すると誰もが一瞥はするが何も言われない。
「すまない。君の行動を止める事をして」
槙野は隣に座った亜希へ謝る。
「管理監のせいではありませんよ」
亜希は険しい顔を一時解いて言った。
「今はどんな状況ですか?」
「作戦開始直前だよ。自衛隊の部隊は展開が完了している。後は住民の避難完了と総理の命令だけだ」
「住民避難はどんな理由で?」
「不発弾だよ。被造物が居る自宅以外へ自治体や警察から人を出して直に避難を伝えている」
「そこまでやっているのですね」
自分の職分を無視して大きく進む事態に亜希は更に腹を立てた。
姿勢を正した亜希は机の上に資料が置いてあるのを見つけた。
そこにはギガスマキナへの攻撃に出動する自衛隊部隊と作戦内容が書かれていた。
・統合任務部隊(陸上自衛隊第1師団長指揮)
第32普通科連隊
第1偵察隊
第1特科隊
特科教導隊第3中隊・第4中隊
第1戦車大隊
戦車教導隊第1中隊・第2中隊
第1高射特科大隊
第1施設大隊
第1後方支援連隊
東部方面後方支援隊派遣隊
第1飛行隊
東部方面ヘリコプター隊
特殊作戦群
航空自衛隊第3航空団第3飛行隊
統合任務部隊は巨大駆動体を直接攻撃する第1戦闘団(第1戦車大隊・戦車教導隊の2個中隊、第1特科隊・特科教導隊の2個中隊)と支援する陸自のヘリコプター部隊に航空自衛隊の戦闘機部隊
周囲の封鎖を行う第32戦闘団(第32普通科連隊・第1偵察隊)や陸自の特殊部隊に各種支援部隊で構成されている。
作戦内容は三つの段階で組まれている。
第一段階「特殊部隊による被造物及び関係者の身柄確保」
第二段階「戦車及び火砲による巨大駆動体の無力化」
第三段階「被造物の抵抗を制圧し身柄を確保」
まずは被造物と関係者が集まる中乃鐘氏の自宅へ陸自特殊作戦群が突入し身柄を確保する。
だが被造物の抵抗を受けて失敗した場合は巨大駆動体を無力化して被造物の抵抗する意思を低下させる。
抵抗する意思を低下させた被造物と関係者を制圧し身柄を確保する。
要約するとそう作戦内容は書かれていた。
「こんな風に上手く運べるかしらね」
統合幕僚監部が立てた作戦内容を見て亜希は心中でぼやく。
だが特別事態対策会議でギガスマキナへの武力行使に消極的だった佐竹統幕長を思うと作戦を立てさせられた自衛隊側も苦労があったようにも亜希は文脈で読み取った。
作戦計画は道筋だけ書かれていて作戦が成功できる要素が書かれていないからだ。
無理もない、能力が常識から外れているアニメやゲームの創作世界から来た者なのだから。「勝つ要素が見つからない」のだ。
「警察より作戦地域の住民避難完了の報告がありました」
「特作群及び支援部隊の配置完了しました。いつでも開始できます」
報告が総理のところへ上がる。総理はそれでも佐竹統幕長へ作戦が成功するか念を押すような質問をしている。
亜希はこの場に集まる面々を見渡す。
やはりと思ったが閣僚では無い須崎副幹事長の姿は無い。
居ないのは当然だが自分を外して事を進めた張本人が居ないのは腹立たしい。
「自衛隊による作戦開始を許可する」
総理が決心を表明した。
「さて、私抜きでどれだけやれるか。お手並み拝見と行きますか」
亜希はこれから始まる作戦を険しい顔で見届けると決めた。