統括調整官菊地原亜希   作:葛城マサカズ

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第2話被造物の法的問題を検証せよ

 特別事態調査室が発足して警視庁と警察庁内だけで抱えていたX事案が第105号事案と呼ばれるようになった。

 これは警察だけの問題から政府の問題になった事を意味する。

 政府の問題となった事で被造物が起こす事件に警察が困っていた事が政府や省庁の間でだけ公になってしまった。

 警察にとっては恥を晒すと言う意味にもなる。

 でも良い事がある。

 他の省庁からの人材を呼べる事だ。

 「自衛隊の装備品が盗まれた上に使用されて建物に被害ですか。こんな重大事件が起きていたとは」

 メテオラが01式軽対戦車誘導弾を自衛隊駐屯地から盗み軍服の姫君に対して使い代々木体育館の一部を損傷させた事件のファイルを読むのは法務省の官僚だ。

 法務省大臣官房司法法制部の橋田は事件の内容に驚いていた。

 「こんな事件よく隠し通せましたね」

 神経質そうな顔をしている橋田が皮肉ぽく言う。

 「代々木体育館は国立の施設でしたから」

 橋田の皮肉に亜希は眉一つ動かさず答えた。

 「その隠された事件で私は何をすればいい?」

 橋田は問う。

 「105号事案に関わる容疑者を法的にどう裁く事ができるか知恵を頂きたいのです」

 亜希は先輩へ教えを乞うような物腰になる。

 どうも橋田の態度は特別事態調査室へ来た事を不満に思っているのが分かったからだ。

 亜希は部署のまとめ役ではあるが上下関係で従わせるような事はできない。

 この特別事態調査室は各省庁からの出向者が来る。

 同じ役所なら上下関係で話はできるが他の役所から来た者を強引に従わせるのは無理な話だ。だから不機嫌な相手には下手に出てお願いするしかない。

 「分かりました。お教えしましょう」

 亜希の態度に橋田は満足した。

 「ではこの代々木での事件で自衛隊の装備を使った容疑者はどんな違法があったのですか?」

 亜希は仕切り直して尋ねた。

 「まず自衛隊の装備を盗んだ窃盗罪及び自衛隊施設へ侵入した住居侵入罪ですね。更に盗んだ自衛隊の武器を所持して使用した銃刀法違反ならびに代々木体育館を損傷させた器物破損または放火未遂に問われると思われます」

 橋田はメテオラが代々木で犯した違法行為について並べ立てた。

 「ミサイルでも銃刀法違反なんですね」

 聡美が思わず口にした。

 亜希は橋田が機嫌を悪くしないかとヒヤリとする。

 「それはですね」

 橋田は快く聡美の質問に答えた。意外と語りたい性格なのかもしれない。

 「ミサイルでも銃刀法での「その他金属性弾丸を発射する機能を有する装薬銃砲」に当てはまるんです。また使用したので銃刀法での発射した罪にも問えます」

 「これは勉強になります」

 聡美はそう言って納得する。

 橋田にしても満足そうだ。

 聡美は亜希の方へ少し笑みを浮かべた。どうやら聡美が橋田の性格が分かった上で質問をしていたようだ。

 「しかし、空を飛ぶとかこの容疑者は宇宙人とか言いませんよね?」

 橋田はメテオラなどの容疑者の正体について触れる。

 「容疑者の特定に繋がりそうな情報はあります。これなんですが」

 亜希は「X事案調査報告第22号」のファイルを橋田に見せる。

 橋田はファイルを開くとすぐに顔をしかめた。

 「菊地原さん。これは冗談ですか?」

 橋田は笑いながら言う。

 「いいえ。真面目な検証です。私も信じられませんが」

 「そうですよね」

 橋田は亜希の信じられませんと言う言葉にだけ応えた。

 「仮にこの容疑者が漫画のキャラクターだとしたら氏名不詳で起訴になりますね」

 「え?名前があるのに?」

 聡美がまた疑問を投げかける。

 「名前があっても証明する必要がある。この自衛隊装備を盗んだこの容疑者がメテオラ・エスターライヒと言う名前を名乗ったとしても実在を証明できないんですよ」

 橋田は聡美の疑問に答える。

 「つまり戸籍が見つからないと言う事ですか?」

 聡美の答えに橋田は頷く。

 「そうです。同姓同名は居るでしょう。でもこのエスターライヒさんが戸籍と住所や学校または職場に所属しているなど個人として証明されないといけない」

 名前があっても何処に住んでて何をしている人か特定の個人として証明できないと法的には正体不明なのだ。

 「このエスターライヒと言うキャラクターがゲームに存在すると分かっても私達の世界に居るかどうかが問題ですね?」

 論点整理として亜希は言う。

 「そうです。まあゲームや漫画の登場人物が抜け出ているなんて私は思えないですが・・・」

 橋田は現実主義がブレない。

 「橋田さん。もしもこの容疑者達の中から捜査の協力者を獲得する場合は法的に難しくなりますか?」

 亜希が尋ねる。

 「そうですね。捜査に使うだけなら個人の特定はあまり必要ないでしょう。しかし協力者が日本国内の定住などの便宜を求めた場合は法的な保障を与えないといけないですね」

 「身分保障になるとしたらどんな法を適用するようになりますか?」

 「まずは協力者に在留資格を法務大臣が与える事ですかね」

 橋田が言う在留資格とは外交や教育に経営などの仕事や芸術活動などの文化活動をする外国人が日本国内で一時的に住めるようにできる資格の事だ。

 認定は入国管理局を監督する法務大臣による。

 あくまで何かの活動の為であり定住者のような移民や移住の資格とは違う。

 「漫画やゲームのキャラクターに在留資格を与えるとしても元の国籍が架空の御伽の国じゃ法務省は困るだろうと思うのだがね」

 橋田は笑う。どうもまだ被造物の事を信じてないらしい。

 「大臣を困らせるような事はあまりしたくはありませんね」

 亜希は橋田に合わせてそう答える。

 「でも多くの人に迷惑をかける事になるでしょうね」

 正体がまだ分からない被造物が起こす事件

 警察だけではもはや解決できないとしてこの特別事態調査室がある。

 既に色んなモノを巻き込んでいる。

 その一つが橋田自身なのだ。




 今回のメテオラの容疑に関しては「魔法少女まどかマギカ」の研究本である「ミタキハラ白熱教室‐これからの「契約」の話をしよう・補講‐を参考にしました。
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