特別事態調査室は橋田ら法務省の出向組を迎えた事で法的な問題の検証が進む。
ようやく調査室としての活動が本格化した。
そんな最中に亜希は総理官邸で開かれた「犯罪対策閣僚会議」の末席に加わっていた。
犯罪対策閣僚会議は文字通り犯罪の対策について内閣の閣僚が話す会議だ。
テロから銃器・薬物の犯罪に振り込め詐欺に関する情報と対策に治安に関わる課題が議題になる。
この日もテロ対策から会議の議題は始まった。
亜希が内心手持無沙汰で数々の案件の討議を聞き会議の最後にようやく出番が訪れた。
亜希は調査室の室長を兼務する内閣危機管理監である槙野友則に代わり説明する。
「特別事態調査室の統括官である菊地原です。現在調査中の異常事態について報告を申し上げます。まずは配布資料をご覧ください」
立ちながら亜希は軍服の姫君やセレジアなど被造物が起こす事件について説明を始める。
「冗談にしか見えん。現実に起きているのか?」
会議の主宰者である総理大臣が困惑しながら亜希へ尋ねる。
この反応は亜希にとってはもう慣れたいつもの事だ。
「はい」
毅然と亜希は答える。
だが総理も閣僚達も納得できていない。
亜希が事件を起こす被造物の動画も流して説明し、配布資料に様々な根拠を示しても納得ができない。
漫画やゲームのキャラクターがこの世に現れたと言うのを政府中枢がすぐに「なるほど」と呑み込めるものではない。
「菊地原統括官、どう解決をするつもりだ?」
停滞気味になりそうな場の空気を変えるように法務大臣が尋ねる。
「容疑者を逮捕し事態の収拾を図ります」
亜希の答えに閣僚達は固い表情のままだ。
できる訳が無いと言う反応を示している。
「このまま放置はできません。施設の被害だけでは無く死傷者が出る前に容疑者を止めなければ」
亜希は言葉を重ねるが閣僚達の信用は得られない。
「実行すべきです。菊地原統括官の言う通り放置はできない」
槙野が自分の部署の意見を亜希に代わり強調する。
「しかし、出来るのかね?」
総理は尚も疑問があるようだ。
「放置すれば我が国の治安維持に問題ありとなってしまいます。逮捕に動くべきです」
警察や公安をまとめる国家公安員長が発言する。
国家の治安を担当する彼からすれば被造物の動向は亜希と同じく放置できないのだ。
「総理、まずは警察で対処しましょう」
槙野は総理へ進言する。
統括官と言う役人に過ぎない亜希は言葉を重ねず総理の返答を待つ。
「分かった。この件は警察に任せよう」
決断は下った。
「でもどうやって逮捕するんですか?被疑者は空を飛ぶんですよ」
会議が終わって後で逮捕の方針に聡美が疑問を亜希へ投げかける。
「空を飛ぶ相手を見つけるアテはあるじゃない」
亜希がこう言うと聡美は何かを思い出した。
「能力は確かにありますけどアテにしていいでしょうか?」
そのアテにしていいのかと聡美が心配する人物と亜希は二日前に遭っていた。
「防衛省統合幕僚監部の荒井と言います。第105号事案で自衛隊の装備品が盗難された件について伺いました」
荒井と名乗る男は亜希に目的を述べた。
だが亜希はメテオラによる自衛隊装備盗難の件だけでは無い気がした。
それは荒川の様子を見ての直感だ。
眼鏡をかけ神経質そうな顔をした荒井
だがうつむき加減の顔は亜希を見つめているのが分かる。
(私の態度を見て決める気?)
亜希は荒井のような性格の人間が好きでは無かった。
まず相手の値踏みをしてから話を始めるようなタイプが。
「装備品盗難事件に関しては防衛省に通達して東部方面警務隊と防衛装備庁とで処理がなされたと聞いています」
亜希は終わった事だと述べる。
「その通り。盗難された装備品は無いと言う事でね。盗られた装備品はまだ納入されていないとされている」
荒井は何かを嘲笑するように言う。
防衛省は01式軽対戦車誘導弾などの装備品の犯人が被造物であるメテオラだと分かると逮捕や事件の追及が不可能と判断した。
それは事件そのものを「無かった」事にした。
メテオラが盗んだ対戦車ミサイルと機関銃はまだ配備されていない、メーカーから納入されていない駐屯地に存在していないモノとされた。
「これ以上何を知りたいんです?」
亜希は荒井の目的が分からない。
「貴方は察しが良さそうだ。本当の目的を教えよう」
荒井の態度に亜希は苛立つ。
「第105号事案は警察の力だけでは対応できなくなると防衛省は予測している。防衛省として事態解決に協力を申し出ると告げに来たのです」
「これは非公式ですか?」
「その通り。ただし防衛大臣と槙野監理官に総理は存じている」
亜希は警察庁の公安と言う職場でグレーゾーンな事態を目にして来た。
非公式な動きは珍しくない。
ただ亜希は目的を焦らすように見せない荒井に不快感があった。
「防衛省は何故105号事案に介入しようとするのです?」
「難しい話じゃない。漫画やアニメのキャラクターが出て来るのなら巨大な生物や巨大なロボットが出現する可能性がある。そうなれば国家の危機だ。自衛隊が出なければならない。だから早い内から事態に関わる事にしたんだよ」
亜希はようやく納得した。
現在出現している被造物は人間と変わらない姿と大きさだ。
しかし、いつ巨大な被造物が出現してもおかしくない。
歩くだけで街を破壊しかねない架空のキャラクターは山ほどある。
そうなると自衛隊の戦車や戦闘機による打撃力が必要となるだろう。
「分かりました。ご協力の申し出に感謝します」
荒井の目的が分かり亜希は納得して表情を緩ませる。
しかし亜希は警戒心を解かない。自分から協力しに来る役所は何かあると考えていた。