統括調整官菊地原亜希   作:葛城マサカズ

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第4話被造物を逮捕せよ

 会議から三日後の東京都内

 夜の東京で赤色灯を光らせる警察車両が列を成して進む。

 パトカーに機動隊が乗る輸送車や特型警備車が縦列でビルの谷間をけたたましいサイレンを響かせて駆け抜ける。

 誰もがこの光景に何が起きたのかと驚き好奇心からスマホのカメラを向けて撮影する。

 「注目を浴びていますよ統括官」

 警視庁第4機動隊を率いる林田警視は外を眺めながら亜希へ言う。

機動隊を率いる林田が乗るランドクルーザーに亜希は同乗していた。

 「でも肝心の被疑者は見ているんですかね?」

 林田は振り返り亜希へ尋ねる。

 「見ていますよ。ずっと追って来てますから」

 亜希は自分が持つノートPCを見ながら言った。

 そこには自衛隊のレーダーで探知している被造物の位置がリアルタイムで表示されている。これは荒井の手配によって亜希が自衛隊の情報を入手できるようになったのだ。

 「では確保の段階に移って良いですか?」

 「はい。お願いします」

 亜希は飛行する被造物が出現したのを知ると機動隊の出動を警視庁に要請

 被造物を追うように機動隊の車列を移動させた。被造物が追跡されていると分かり車列の上空に来ると今度は被造物から離れるように先行する。

 レーダー探知で見る限りでは被造物が追いかけていると亜希は確信して被造物の身柄確保の段階に移る。

 (これで事態は前進できる)

 これまで被造物の情報は集めていたが接触はできていない。

 一人でも身柄が確保できれば被造物の正体が分かるかもしれない。

 亜希は機動隊を出動させたこの作戦に大きな期待があった。

 

 「所轄と先遣小隊が新宿御苑より民間人を退去させ展開要地の確保ができました」

 「よし。新宿御苑へ入るぞ」

 無線で状況を聞いた林田は部隊を新宿御苑へ進出させる。

 静かな新宿御苑は赤色灯で赤く照らされサイレンが重なり騒々しくなる。

 「小隊ごとに展開!銃対(銃器対策部隊)はこっちだ!」

 林田は指揮車から降りて指示を飛ばす。

 機動隊員達は片手にアクリルの防盾を持ちながら小隊ごとの隊列で庭園内を駆ける。

 「統括官、中で待っていて下さい」

 指揮車から降りて来た亜希へ林田が慌てた。自分の監督下で官僚が死傷するような事態は避けたいからだ。

 「邪魔はしません。直に現場を見たいのです」

 亜希は林田に頼み込むが口調は反論をさせない険しさがあった。

 「分かりました。ですが危険だと判断したらすぐに指揮車へ戻って下さい」

 林田は呆れながら亜希へ注意をして現場に立つのを許した。

 「降りて来たぞ!」

 「構え!」

 隊員達が騒ぎ出す。

 夜空へ誰もが視線を向けるとそこには一人の人の形を何かが浮いている。

 どうやらスカートらしい服を身に付けているようだ。

 (あれが被造物…)

 ゆっくりと降りる被造物の姿

 庭園の照明や周囲のビルの明かりにパトカーの赤色灯が被造物の姿を照らす。

 長い髪で黒衣を纏っているのが見えた。

 (あれは不特定対象)

 亜希はどの被造物なのか記憶を辿る。

 どのキャラクターと似ているか特定されていないのを「不特定対象」と呼称していた。

 「余を追いかけていたのはお前達か?」

 被造物は浮いたままで見下ろしながら問う。

 「そうだ。器物破損の容疑がある。同行願おう」

 林田が覇気のある声で被造物へ告げる。

 「それは私を罪人として捕らえると言うのか?」

 「容疑が固まればな。その為に署まで同行して話をしようじゃないか」

 林田は任意同行について基本的な事を述べた。

 「断ると言うなら?」

 被造物は試すように尋ねる。

 亜希には被造物が笑っているように見えた。

 「実力で身柄を確保させて貰う」

 林田がそう答えると被造物ははっきりと口元をニヤリとさせた。

 「ではやってみるが良い。余を捕まえてみせよ」

 被造物は地上に降り立った。

 機動隊員は盾を持ち身構える。

 「どうした?余を捕まえたいのだろう?」

 被造物は機動隊員へ呼びかける。

 「任意同行だ。そちらがこちらへ来て貰おう」

 林田は被造物へ行動を求める。逮捕では無い任意同行なのだから捕まえる事は出来ない。

 「余はそなた等に進んで身を預けるつもりは無いのだがなあ」

 被造物は韜晦するように林田へ言う。

 林田はたまらず亜希へ視線を送る。

 「公務執行妨害で確保しますよ。いいですね?」

 「はい」

 亜希は即答した。

 「任意同行拒否による公務執行妨害で逮捕する!確保!」

 林田の号令で機動隊員が一斉に動き出す。

 「やっとやる気になったか」

 被造物は自分の周囲に大量のサーベルを円状に出現させた。

 「あれは!」

 亜希は被造物が映し出された動画で同じ場面を見ていた。あの大量のサーベルはあの被造物の武器だ。

 「怯むな!突っ込め!」

 機動隊の小隊長達はサーベルが突如出現しても突入を続けさせた。

 この勢いを止めたら逆にサーベルを使われてしまう。間合いを詰めれば良いと判断したのだ。

 「蛮勇は嫌いではないぞ」

 機動隊の突入を眺めながら被造物は広げているサーベルを一斉に放った。

 サーベルは突入で駆ける機動隊を薙ぎ倒す。

 パトカーの赤色灯が庭園を照らしているせいか機動隊員が血を流して倒されたように亜希に見え亜希は目を丸くして絶句した。

 「やってくれたな…」

 林田は部下が刃に倒されたのを見て怒りを露わにする。

 「心配は無用だ。彼らをサーベルで叩いただけさ」

 被造物が言う通りだった。倒された機動隊員は痛みに呻きながら立ち上がろうと動いていた。

 負傷しているが殺されてはいない。亜希は安堵した。

 「鬼の4機を馬鹿にしおって…」

 学生運動によるデモ隊や過激派との闘争で恐れられた伝統を馬鹿にされたように林田は思えた。

 「銃対!あの犯人へ構え!」

 林田は被造物を警官に暴行を加えた犯人と認識して銃器対策部隊を前へ出す。

 隊員はMP-5短機関銃を被造物へ構える。

 「犯人に告ぐ!抵抗を続けるなら発砲する!」

 怒りがあっても林田は警官としてのやり方は崩さない。

 「撃ちたまえ。当てられるなら」

 被造物は両手を広げ挑発する。

 だが林田は短機関銃での威嚇発砲をする。

 夜空へ向けて撃つMP-5に被造物はため息を吐く。

 「そなた等は余を馬鹿にしておるのか?何がしたいのだ?」

 警察官職務執行法を守る林田の行動に被造物は呆れた。

 一方で林田は法の縛りが無ければ即座に被造物の身体へ銃弾を叩き込みたかった。

 犯人逮捕を目的とする警察官執行法では威嚇射撃をしても犯人が警察官に従わない、または抵抗をすれば当てる射撃ができる。

 「抵抗をやめろ!今度は当てるぞ!」

 林田は真面目に怒鳴る。

 「さっさとやりたまえ。やる気が無いなら余は帰るぞ」

 被造物は右手をフラフラと振り気が抜けたようなそぶりを見せる。

 「林田警視、危害射撃をするべきです」

 「分かっている。銃対!犯人へ向かい危害射撃!撃て!」

 亜希の進言も受けて林田は被造物の身体へ当てる射撃を命じた。

 MP-5の9ミリ弾は被造物へ向かうが被造物は飛び上がって回避する。

 「あそこだぞ!撃て!」

 林田は方向を指示して射撃させる。

 しかし銃撃を被造物はヒラリと身軽にかわす。

 「くそ!」

 林田は銃器対策部隊の銃撃を嘲笑うように避ける被造物に悪態をつく。

 「航空隊!容疑者の頭を押さえろ!」

 林田は現場を空から監視している警視庁航空隊のヘリに被造物の動きを押さえさせようとした。

 「ふむ。空を飛ぶ乗り物か」

 被造物は新しいモノの出現に興味を持つ。

 「被疑者の頭を押さえて飛行の妨害をしろ!」

 林田はそう命じるが当のヘリのパイロットは難しさを感じた。

 被造物はヘリの周りを縦横無尽に飛び回る。むしろヘリの方が翻弄されていた。

 「ダメだ!容疑者の方が早い、こっちが振り回されている!」

 「航空隊は容疑者の追跡を中止、一時離脱せよ」

 パイロットの悲鳴に近い連絡に林田はヘリによる抑え込みを中止させた。

 「くっ…」

 亜希は警察で捕まえるのに限界が来たと感じた。

 屈強な機動隊員は一瞬で叩き伏され、銃撃も容易くかわされ、ヘリを翻弄してしまう。これ以上の手段は警察に無い。

 「待機中のSATと銃対で連携して容疑者を狙撃せよ」

 でも林田は諦めていない。ヘリに乗り空中で待機している特殊部隊SATと地上の銃器対策部隊とで被造物を挟み撃ちにする作戦に

 そんな時に亜希の携帯が着信したと震える。

 電話をかけて来たのは荒井だった。

 「被造物を逮捕できましたか?」

 亜希は荒井の言葉が嫌味に聞こえた。

 「いえ」

 「手に負えないようでしたら防衛省としても手を貸せますよ」

 「どのような事ができます?」

 「百里基地からF-15が2機、訓練名目で千葉県沖の太平洋を飛行している。これをすぐに東京へ行かせられる」

 「人口密集地の上空で空中戦をする気ですか?」

 さすがに亜希は驚いた。

 「そちらも庭園の中とはいえ都市のど真ん中で発砲しているではないですか」

 荒井の反論に亜希と林田の行動を荒井は監視していると分かった。

 「周囲の一般人を避難させて交通を規制した上での発砲です。戦闘機を出しての空中戦とは違います」

 「確かに戦闘機が作戦行動を行えば範囲は狭く出来ない。だが国家の安全を考えれば大きなリスクは背負うべきだ」

 「そうした解釈には今は同意しかねます」

 亜希と荒井が電話で話している間にSATを乗せたヘリは被造物へ狙撃する位置に到達した。

 SATの隊員は機上からM1500狙撃銃で被造物への狙撃を試みる。

 だが被造物は降下して簡単にかわす。

 降下した被造物を地上の銃器対策部隊と空中のSATがMP-5で射撃するがサーベルを出現させて回転させながら銃弾を弾き返す。

 「化け物め!」

 林田は呻いた。

 そんな林田の姿を見て被造物は高らかに笑う。

 「もう降参か?余には傷一つ無いぞ」

 林田をはじめ機動隊員皆が屈辱に震える。

 「弱い!お前達は弱すぎる!創造主の世界の兵達がここまで弱いとは思わなかった。余は呆れたぞ」

 亜希は目が険しくなり唇をかみしめて屈辱の感情に耐える。

 「お前達に付き合うのに疲れた。帰らせて頂くよ」

 被造物はそう告げると姿を消した。

 「消えた…」

 林田や機動隊員達は突然消えた事に呆然とするように驚いた。

 「逃がしたかね?」

 電話の向こうから荒井が尋ねる。

 亜希は無言で電話を切った。

 これが後に軍服の姫君と呼ばれる被造物と亜希が初めて対峙した時であった。

 

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