統括調整官菊地原亜希   作:葛城マサカズ

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第5話105号事案に防衛省が加わる

 亜希は久しぶりに都内にあるマンションの自宅に帰った。

 玄関で靴を脱ぎフラフラと廊下を歩く。

 リビングに着くやソファーに身体をぶつけるように座る。

 「はあ疲れた・・・」

 ソファの柔らかさに背中を預けながら亜希はぼやく。

 新宿で後に軍服の姫君と呼ばれる被造物に翻弄され逃した件で亜希は政府への報告で心身が疲れた。

 亜希も機動隊と航空隊を警視庁から借りて防衛省と情報連携して自信を持って軍服の姫君に挑んだだけに作戦の失敗と政府内からの失望の声に対応するので疲れたのだ。

 「警察で対応できてないじゃないか」

 「都内であんなに発砲して何も成果が無いとは」

 「抜本的な対策だ。人事面も見直すべきかもしれん」

 亜希は政府への報告に立つ時はまるで査問会にかけられている気分だった。

 「あの連中言いたい放題言って!被造物を過小評価していた私も悪いだろうけど」

 亜希は冷蔵庫から缶ビールを取り出すと一気に一本を飲み干し愚痴を吐き出す。

 心身にアルコールが回り亜希はストレスで強張る身体が緩まる。

 ジャケットを脱ぎシャツのボタンを外してよりくつろぐ亜希は酔いでぼんやりする。

 ぼんやりした頭でまた政府で報告をした時を思い出す。

 政府からの重い叱責を浴びていたのは亜希だけではなかった。

 亜希の上司である槙野もだ。

 閣僚の中には槙野の監督に問題があるのでは?と遠回しに言う者も居た。

 槙野は浴びせられる言葉に黙って聞き「今回の失敗は作戦を認可した私に責任があります」と答えた。

 (あんなに良い上司だと思わなかった)

 亜希は槙野の性格は正直分からなかった。

 いつも寡黙で余計な事は言わない性格だからだ。

 警察官の時代では警視庁警備部外事課長(外国のスパイやテロリスの捜査)や県警本部長・警察庁警備局長を経て警視総監になった人物だ。

 警備公安畑を主に歩んだ槙野

 同じく警察庁の公安でもあった亜希にとっては親近感のある経歴だがお互いが同族として好意的な仲になる訳でも無かった。

 あくまで仕事上の上下関係でのドライなもので仕事以外で話す事も無かった。

 それは槙野に限った事ではないが相手の一面しか見えない関係と言えた。

 だから亜希にとっては自分を擁護してくれる面は意外にも思えた。

 亜希と槙野への責めを一通り終わると報告会も終わった。そこで何かの処分が下される事も無かった。

 槙野は一言だけ亜希へ伝える。

 「気にするな。俺達以外やる者はいないんだ」

 それだけ言うと槙野は再び寡黙ないつもの姿に戻る。

 「他にやる人がいない・・・・それがいい事なのかしら?」

 今度はレモンチューハイの缶を開けてゆっくり飲みながら亜希は自分の置かれた立場を考える。

 被造物の逮捕に失敗した。

 だが被造物の事件への対処を亜希や槙野に代わりやりたい人は居ない。

 自分に押し付けられたままの責任・・・

 (やめよう。余計に気分が落ち込むわ)

 亜希は重くなる気分を変えようと缶に残るチューハイを一気に飲み干す。

 

 新宿での軍服の姫君との戦いから一週間が過ぎた。

 政府からは特に処分が下る事は無かった。

 やはり代わって被造物の事件に取り組む者は居ないようだ。

 誰も処分はされなかったが人員が追加された。

 「本日から防衛省からの出向で来ました。宜しくお願いします」

 荒井が特別事態調査室の所属となったのだ。

 「この事件は国防の案件になったか」

 橋田は防衛省の参加にややっこしい事態になるんじゃないかと思えた。

 橋田は警察による軍服の姫君逮捕の出動に際しての法的な根拠や正統性についての検証を行っていた。

今度は自衛隊が被造物に対して出動し武力行使をするかもしれない。実戦部隊が出動するだけでも根拠と正統性をどうするか頭が痛いなと法務の担当者として橋田は思ったのだ。

「防衛省の参加により105号事案はより被造物へ直接対処する段階へシフトしました。それでも今までの調査分析を行う事は変わりません。しかしより解決へ向けて前進する事になります」

亜希は既に調査室へ出向している省庁の官僚達へ向けて言った。

特段の変わった反応は見られない。

漫画やゲームのキャラクターが現実世界で暴れている事件に関わっているせいか防衛省が加わったぐらいでは驚かないのかもしれない。

 

 「正直貴方が来るとは思わなかったです」

 亜希と荒井は調査室の面々への挨拶が終わると別室に移る。二人以外にも聡美と荒井の部下が同席している。

 「いつの間にか関係者になっていてね。ならばここへ行けと言われたのさ」

 荒井の口調からは調査室への出向をどう思っているか亜希には読み取れなかった。

 「ところで話があるとは?」

 別室に移り話があると言い出したのは荒井だった。

 「105号事案についてアメリカも興味を持っている」

 「アメリカが?」

 「新しいテロリストとして興味があるようだ」

 「それよりもアメリカが105号事案をどうやって知ったんですか?」

 国民を混乱させるとして105号事案は機密事項になっている。それが何故アメリカが知っているのか?と言う疑問が亜希と聡美に浮かんだ。

 「被造物と言ったか。アレが飛び回るのは在日米軍のレーダーでも探知している。それを米軍が独自に調査していた」

 日本国内には日米安保条約により米軍が基地を置き駐留している。横田基地のレーダーにアンノウン(国籍不明機)が度々映り調査を始めた事から米軍も被造物について調べて知っていたのだ。

 「防衛省や自衛隊が情報をリークしたのでは?」

 自衛隊と米軍の情報共有は密なもので105号事案について防衛省か自衛隊によって情報提供されたのでは?と亜希は指摘したのだ。

 「共通の脅威だからな。米軍がある程度自分で調べてからこちらに尋ねて来たよ。丁度105号事案が制定された頃にね」

 「そうですか」

 機密事項を米軍へ教えた事に亜希は怒る事は無かった。

 警察庁では公安に居た事で機密情報が横から流れるような出来事は経験があるからだ。

 「それでアメリカは何か要求がありましたか?」

 「要求では無く協力する事は無いか尋ねて来たよ。必要ならステルス戦闘機でも特殊部隊でも用意できるとね」

 亜希は「そうですか」と短く応える。

 「しかし安保条約があっても他国の手を借りるのは気が進みませんね」

 「だが警察だけで無理なのは確かだ」

 新宿の事を言う荒井に亜希は少し苛立つ。

 「では荒井さん。防衛省はアメリカの介入が必要だと考えているんですか?」

 「いや私だって早々に米軍に助けは求めたくはない。だがまともに勝てる相手じゃない。選択肢はあると私は言いたかったのです」

 荒井は亜希が機嫌を損ねていると察した。

 「まともに勝てる相手でないのは新宿で十分に分かりました。ですが米軍の協力を要請するのは最後の手段です。まだ万策尽きた訳ではありませんから」

 「何か策があるんですか?」

 荒井は関心があると顔に書いて亜希へ訊く。

 「策と言える段階ではありませんが何か進展する糸口にはなりそうなんです。事態がはっきりしてからお伝えします」

 

 「菊地原さん。荒井さんへ言った糸口は警視庁が見つけたキャラクターですか?」

 荒井との話を終えると聡美は亜希へ尋ねた。

 「そうよアレが私達に協力してくれれば解決への糸口になるわ」

 二人が言う糸口やアレと言う対象を見つけたのはSNSだった。

 あるキャラクターに凄く似ている人が居ると画像付きで伝え広まっていた。

 調査室はそうしたSNSの動向を警察庁情報通信局から伝えられた。

 亜希はSNSで拡散されているその情報を見て見憶えがあった。

 代々木の国立競技場で軍服の姫君と剣で戦った赤い髪のキャラクターに似ていた。

 SNSの情報からそのキャラクターは都内に居るらしいと判明する。亜希は警視庁へ捜索を依頼しすぐに見つけた。

 そのキャラクターの名はセレジア・ユピティリア

アニメ「精霊機想曲フォーゲルシュバリエ」のヒロインだ。

 

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