「このセレジア・ユピティリアを我々の協力者にしようと思います」
亜希は橋田や警察庁からの出向者を呼んで会議を開いていた。
「目には目を。歯には歯をですか」
警察庁の出向者である警備局警備企画課の所沢警視正が得心したように言う。
「そうです。被造物を相手に我々では力不足です。被造物に対するには被造物で立ち向かうのが良いと思います」
「同感ですね。漫画の世界から出て来た被造物だとSATやSITを全部集めても相手にならないでしょう」
警察の特殊部隊であるSATやSITでも被造物相手に勝てないと所沢は言う。実際に新宿では機動隊と同行したSATが軍服の姫君には敵わなかった。
所沢は新宿の件も知っていて(むしろ関係した当事者)亜希へ言っている。
「そういえば統括官は以前に被造物を協力者にできないか言ってましたね」
橋田が亜希に尋ねる。
「はい。橋田さんは協力者が便宜を求めた場合は在留資格が必要になるかもしれないとおっしゃいましたね」
「そうです。本当に漫画の世界から出て来た人間だとこの世界では戸籍は無い。日本で合法的になんらかの支援をしようとしても法的に何処の誰か分からないのではやりようがない。良い事では無いですが被造物を外国人として扱い在留資格を与えるのがやりやすい方法だと思います」
漫画やゲームなどの世界から現代の日本へ来てしまった被造物たちを協力者とする場合、日本での生活も考えねばならない。
国の保護や監視下にあってもある程度の自活はしてほしい。そうなると日本の社会で通用する身分が必要になる。
それが在留資格を持つ外国人に被造物を認定する事だった。
「では被造物の協力者に在留資格を与えると言う事を法務省や人事院へ伝えましょう」
「統括官、この際だから協力者を公務員の扱いにして給料が出るようにしましょう」
橋田は追加の提言をする。
「それは良いですね。これで直に給料を協力者に与えられます」
亜希は良い案だとして法務省と人事院へ伝える事項のメモに加える。
「橋田さん失礼な言い方だと思うんですが、これは協力者を日本の公的な傭兵にすると言う方向性ですかね?」
所沢は遠慮気味に訊く。
「そう言われるとそうだが・・・」
橋田は言葉に窮する。
「こう考えましょう。協力者に相応の報酬を支払う。単純に考えましょう」
亜希がこう言うと所沢は「そうですね」と少しすまなそうに答えた。
そこへ聡美が「会議中失礼します!」と慌てて入る。
「統括官!荻窪署が被造物に襲われました!」
東京都都杉並区荻窪にある警視庁荻窪警察署
ここで事件が起きた。
甲冑に身を包んだ金髪の白人女性らしい人物が馬に乗って警察署内に乗り込んで来たのだ。
まさに騎兵の如く馬で駆けて警察署へ突入して来た。
荻窪署の正面玄関で門番のような立番勤務をしている警官は「止まれ!」と叫んだが無視して署内突入を許してしまう。
馬に乗って現れた侵入者に署内の警官も落とし物を受け取りに来た一般人も呆気に取られた。
「創造主は何処だ!」
馬上の女は大声で尋ねる。
周囲へ呼びかけるが皆はただ戸惑うばかりだ。
馬に乗った甲冑姿の女が現れて現実なのかどうか理解が追いつかないのだ。
その女が尋ねる創造主はこの荻窪署に居た。
名前を高良田概と言う。
高良田は荻窪署へ「脅迫を受けている」と身柄の保護を求めた。
警察は高良田を別室へ招き事情を詳しく訊く面談を行った。
そこへ甲冑姿の女が馬に乗って現れたのだ。
「何故答えぬ!創造主を匿っているのを知っておるぞ!」
甲冑姿の女は苛立ちを高める。
それは警官が刺又を持ち拳銃を出して甲冑姿の女を囲んでいるのも余計に苛立ちを高めた。
「ただちに馬から降りなさい!」
荻窪署の刑事が高圧的に呼びかける。
「馬を降りよとは何だ!無礼だぞ!」
甲冑姿の女は苛立ちから怒りに感情が移る。刑事の高圧さと馬から降りろと言う指示が彼女の逆鱗に触れたらしい。
「無礼はそっちだ!馬で乗り込むなんて非常識だぞ!」
刑事も負けじと反論する。
しばし両者の口喧嘩と言える口論が続いた。
噛み合わない口論はただお互いの怒りの感情を徒に高めるだけだった。 「お前に構っている暇はない!創造主を出せ!」
甲冑姿の女は馬上槍のような長く尖った武器を出現させて刑事の鼻先へ向ける。
「何をする!公務執行妨害と銃刀法違反で逮捕するぞ!」
刑事は冷や汗を出しながらも気力を振り絞り警告する。
「やれるものならやってみろ!」
それから荻窪署は嵐が吹き荒れた。
甲冑姿の女は刑事を含めた警官を薙払い自分を止めようとする者達を倒した。
どれも気絶させただけで殺しはしなかった。
だが彼女が探す創造主の居所を教える事は無かった。無理もない創造主と言う意味が誰も分からないからだ。
「ならば、勝手に探すぞ」
甲冑姿の女は署内の壁を突き破り創造主である高良田を探す。
程なくして高良田は見つかり甲冑姿の女に連れ去られた。
これが荻窪署での事件の顛末である。
「これは酷い」
亜希は荻窪署へ来て被造物である甲冑姿の女が起こした惨状を目の当たりにした。
「統括官、荻窪署内のカメラが撮影した映像で被造物がどのキャラクターか分かりました」
聡美がタブレットPCで荻窪署を襲った被造物の正体を亜希へ見せる。
「漫画「緋色のアリステリア」の主人公アリステリア・フェブラリィです。連れ去られた男性はこの漫画の作者である高良田概のようです」
亜希はタブレットPCに写る戦国武将のような気迫を感じさせる絵のアリステリアを眺めながら頭痛を感じた。
警察署を襲撃し、そこから一般人が連れ去られる。
もはや軍服の姫君とセレジアにメテオラが起こした戦いで代々木体育館が損壊した事件を越えた事態だ。
治安の拠点である被造物にこんなにもやられたのだから。
(早く被造物の協力者を得ないと。この世界はただ壊されるだけだわ)
焦燥に近い危機感が亜希の中で高まる。