「警察署をこの女一人で破壊したのか。信じられん」
「大問題だぞ。警察署が攻撃されるとなれば治安は保てんぞ」
「ともかく、巡回の強化で署が襲われるのを防ぐしかあるまい」
アリステリアによる荻窪署襲撃事件はその日の夕方には警視庁と警察庁でそれぞれ上層部での緊急会議が開かれた。
内容は事件の内容を確認する事と不審者に対する警戒を厳にすべしと言う結論しか出なかった。
夜に開かれた東京都の公安員会と国家公安員会の緊急会議もほぼ同様の内容だった。
「この事案に対処している部署があったろう?アレはどうしてる?」
それぞれの会議で特別事態調査室が話題になる。
「新宿では機動隊と特殊部隊を使って逮捕しようとしたそうだが」
「そんな権限あったのか?」
「内閣府と警察庁を通じて警視庁へ要請して部隊を動かしたんです」
特別事態調査室についての認識を改めているとある考えが浮かぶ。
「この先を考えるとあのよく分からない者の逮捕や制圧の責任が我々に置かれるのはいかがなものだろうか?」
責任の所在である。
背負うにはリスクが重いこの事案を自分達で負いたくないと言っている。
それは参集した警察上層部の誰もが同じだった。
危険思想の過激な集団やテロリストならともかく、この世の者ではない漫画や小説・ゲームの世界から来た被造物との戦いで責任が取れるかと言う思いがあった。
「特別事態調査室に権限を持たせて警備や取り締まりの指揮をさせましょう」
「その提案を政府へ上げよう」
警察庁から出た特別事態調査室の組織を改編して権限を持たせると言う提案は国家公安委員会も同意して政府へと届く。
「特別事態対策会議ですか。私は何か異動や職務が分かるのですか?」
亜希は槙野に呼ばれて特別事態調査室が特別事態対策会議に改編されると聞いた。
荻窪署襲撃事件から五日後の事だった。
亜希も槙野も警察庁と国家公安委員会や政府内の動きを察知はしていた。
被造物に関する事件、第105号事案に関して今までに無く政治的な動きが活発になっていた。しかし当事者である亜希と槙野はあまり関わる事は無かった。
そこへ内閣官房副長官から特別事態対策会議へ改編すると通達が槙野にあった。
次いで内閣官房長官が直に槙野へ改編についての説明を受ける。
「荻窪署襲撃で我が国の治安は深刻な事態になったと政府は判断した。警察・自衛隊など治安や情報に関わる職長クラスが参集する。その職長達をまとめて被造物と言ったか、被造物による犯罪を取り締まって貰いたい」
官房長官の説明に槙野はある部分が気になる。
「職長達をまとめると言う事は私に何かの権限が与えられるのですか?」
「被造物の事件に関しての指揮監督の権限を与える」
「私が警察や自衛隊の部隊を指揮下に置けるんですね?」
「あくまで警察庁や防衛省など関係する省庁と協議した上でだがね」
「しかしそれでは緊急の時に遅れます」
槙野は協議に時間が費やされて被造物への対処ができない事を危ぶんだ。
「緊急時の事など必要な事は協議して決めたまえ。新しい法律が必要なら特別立法を成立させる」
「つまり自由にして良いと?」
「政府への連絡や相談はした上でな」
槙野は官房長官から自由裁量が自分にある事を知るが顔は険しくなる。
「分かりました責任者としてこの役目拝命します」
槙野は自分がこの第105号事案の責任を負うのだと覚悟した。
そうなるとは予想はしていたが現実に直面すると気持ちが改まる。
「菊地原君。引き続き統括調整官を務めてくれ。今までと違うのは我々がこの事案の対処や解決の牽引役になる」
今度は槙野が亜希へ役目を伝える。
亜希も槙野同様にこうなる事は予想していた。
「牽引役と言う事は作戦計画は私達が立てるんですね?」
「そうだ。菊地原君その立案は君に任せる」
「はい」
「責任は私が持つ。自由にやりたまえ」
「ありがとうございます」
亜希は役目の大きさと共に後ろ盾となってくれる上司に感謝した。
「久しぶりに見る名前ね」
特別事態対策会議の本格始動の準備に追われる亜希へ電話がかかる。
ジャケットの内ポケットから携帯電話を取り出した亜希は着信を確認すると久々に見る名前に懐かしさ感じた。
その名前は大月孝之と言う。
大月はフリージャーナリストで彼から取材の申し込みがあり会った縁がある。
週刊誌の記事や独自に取材して書籍を出している大月が専門とするのは社会問題や事件だった。
その取材は裏社会にも及び情報の人脈は広い。
警察官僚である亜希へ取材の申し込みが出来たのも大月が得た警察庁内の人脈があったからだ。
「大月さんお久しぶりです」
亜希は久しぶりの声での再会をにこやかに迎える。
大月も「ご無沙汰してます」と穏やかに挨拶を交わす。
「菊地原さん。内閣府へ異動になったんですね」
「ええ」
和やかな気分から警戒に入る亜希
「噂で聞いたのですが。内閣府にある新設の部署に菊地原さんが居るとか?」
「それについてお答えはできません」
亜希は冷めた態度になる。
「分かりました。ですが内閣府の新設部署について知っている事を教えてくれませんか?」
大月が特別事態対策会議について探っているのは亜希には分かった。
「それもお答えできません」
「つれないなあ。以前の借りを返すと思って少しだけでも教えてくださいよ」
大月は甘えた口調で亜希へねだる。
「すみません。何も言う事はできません。それでは失礼します」
亜希は大月との会話を強引に終えた。
マスコミの取材がここまで及んだ事に亜希は戦慄を感じた。