大月は都内にあるアパートから取材のために出かける。
道路に出るや大月は何処からか視線を感じた。歩けばその視線は背中から感じた。
(予想通りだが)
大月は亜希に接触した事で何らかの監視があるだろうと予想していた。
だが少し驚いたのは監視の人間が堂々と大月の前に現れた事だ。
まるで「俺達は見ているぞ」と示している事だ。
(まあ当然の行動だな)
監視をしているのは公安の捜査員だった。
大月は自分を止める為にあえて捜査員が自分の存在を見せていると分かっていた。
(でもこれぐらいじゃ諦められないな)
大月は背後の捜査員を引き連れている気分で街を歩き続ける。
大月と同じく尾行を受ける者が居た。
「ねえ?誰かに見られてない?」
セレジア・ユピティリアはメテオラ・エスターライヒに話しかける。
二人は気晴らしにと外を散歩している。
創造主である松原崇とまりねに出会い、まりねの家で暮すようになった彼女達
服装もようやくこの世界のものを着て外出ができるようになっていた。
だが誰かに見られている視線をセレジアは感じていた。
「私も視線は感じている。敵意でもない好意でもない視線」
二人が感じる視線は勿論公安の捜査員からだ。
大月とは違い対象から分からないように監視をしているつもりだった。
しかし常人とは違う身体能力があるセレジアとメテオラは注意深く行動している筈の公安捜査員の存在を察知しつつあった。
「私達の存在はこの国の役人に知られていると思った方がいいかもしれない」
メテオラの考えにセレジアは「あれだけ暴れたらね」と苦笑いする。
夜の都内で軍服の姫君との戦いに加えて、「マジカルスレイヤーまみか」の主人公まみかと白昼の戦いも起こしていた。
どの戦いでも爆発を起こし周囲の建物に被害が出る派手なものだった。
大都会でそんな事をすれば目撃される。
SNSでは空を飛ぶ姿や戦う姿が挙がっている。政府や警察が知らない訳が無いとメテオラは認識していた。
「私達は捕まるかな?」
「元の世界だと街の平穏を乱したと衛兵に捕まる。この世界も同じような理や法があるだろう」
セレジアはまた「ははは」と苦笑いを浮かべる。
「捕まるにしても颯太や松原・まりねに迷惑はかけたくないな」
セレジアの思いに「同感だ。恩を仇で返したくない」
二人は捜査員の視線を背中で受けながら今後起きるかもしれない事を案じた。
「ユピティリアとエスターライヒは現在、皇浦綾乃の自宅で暮しているようです」
特別事態対策会議の事務局では対策会議の正式発足を前に実務についての会議が開かれていた。
警視庁公安部より調査室の時から出向している秦野がセレジアとメテオラについての監視報告を行っていた。
「この皇浦綾乃と被造物の関係性は?」
亜希は秦野へ尋ねる。
「皇浦綾乃は<まりね>と言う名前でイラストレーターをしていて、<精霊機想曲フォーゲルシュバリエ>と言う作品のイラストを担当しています。この<フォーゲルシュバリエ>のヒロインがユピティリアになります」
「つまり自分を創造した人間を頼って住まわせて貰っているのですね」
「そうだと思われます。皇浦と被造物を引き合わせたのが<フォーゲルシュバリエ>の原作者である松原崇です」
公安は松原がまりねの自宅があるマンションへセレジアとメテオラを送っている所も監視していた。
「この少年は何者かね?」
槙野が画像に移る眼鏡の少年を指して尋ねる。
「高校生の水篠颯太であるとは特定しましたが創造主と被造物との関係がどうなっているのか不明です」
槙野は「そうか。未成年もこの事案に絡んでいるか」と少し悩まし気に言う。
「この5人についての対処をどうするかですが」
亜希が槙野や集まる面々へ問う。
「被造物に関しては器物破損の容疑で逮捕はできるでしょう」
橋田が答えた。メテオラに問えるとされていた銃刀法違反は盗まれた装備を「納入前で駐屯地に無い装備」として防衛省が処理したので適用ができなくなっていた。
「他の3人は犯人隠避罪を適用して逮捕は難しいですね。被造物の起こした事件は公になっていませんから」
荻窪署襲撃事件も火災だとして報道させるなど被造物の起こした事件は報道管制を敷いている。そうなると事件を知らなかったと言う方便も通るからだ。
「逮捕か。大人しく捕まるとは思えん」
荒井の指摘に警視庁からの出向組が頷く。
「皆さん。議論が捕まえる方向ですが私は彼女達を味方にしたいと考えています」
亜希が提案を出すと周囲の反応は意見を更に聞こうとする構えになる。
橋田など一部とは以前からセレジアを協力者にしたいと考えを伝えていたので反対する者や驚く者は居ない。
「できるかね?」
槙野は質す。
槙野は亜希からセレジアを協力者にしたいと言う考えを聞いていた。だが荒井など亜希の考えを聞いていない者の意志を代弁する。
「会って交渉しないと味方になるかどうか分かりませんが、ユピティリアの性格が小説の設定どおり正義感が強いなら味方になる可能性は高いです。エスターライヒも知性が高く主人公を導くと言う設定です。交渉によって味方に引き入れるのは可能だと考えます」
亜希の提言に周囲は納得はするが不安げな表情だ。
「作り物の人物とはいえ設定通りの感情のままだろうか?心変わりをするかもしれない」
荒井は亜希へ疑問を投げかける。
「ありえると思います。ですがそこは直接会って確かめなければなりません。まずはアプローチをするべきと考えます」
亜希の答えに「なるほど」と言って反論はしなかった。
「警察の力では被造物に対して限界があるからな。味方にするプランを進めたまえ菊地原君」
槙野はまとめに入る。
「ありがとうございます」
以前からの根回しもあってセレジアを協力者として味方に引き入れる計画がこうして実現に向かう事になった。
「これより特別事態対策会議の設置に関する関係会議を開きます」
亜希はようやく発足した特別事態対策会議の最初の会議で進行役を務めていた。
集まる面々は警視庁警備局長に統合幕僚長・総務省総合通信基盤局長など治安や情報の関係部署の局長級だ。
つまりある程度の決定権を持つ人々がこの場に居る。
被造物に関する対応がようやくここまで進展したのだ。
「統括調整官、質問があるのだが」
挨拶と105号事案に関する情報についての説明が終わると広田警視庁警備局長が亜希へ質問する。
「被造物と呼ばれる者達は何を目的にこの騒擾を起こしているのだ?」
「それについては不明です。どの被造物も同じ作品のキャラクターではなく敵対する関係性は薄い筈です。これは互いに意見の相違が起こり騒擾に発展したものと事務局では推測しています」
亜希はそう答えたが被造物達が何を目的に戦い合うのか何も分からなかった。
建物などへの被害が生じるのも被造物同士の戦いによる巻き添えであって破壊を目的にしている訳では無いようだ。
「被造物の目的が分かれば対応策を立てやすい。被造物から情報を得る機会が必要だ」
東村内閣情報官が言う。これに参集した誰もが同意する言葉や頷きをする。
早々に被造物を協力者として味方にする案を出せる流れになった事で亜希は内心で微笑む。
「事務局としてはそうした情報収集も含め被造物への対応に協力する協力者を被造物から引き込もうと考えています」
亜希の提言に広田や東村は「それは良い案だ」と賛同する。
「では被造物の協力者を獲得する決議を内閣へ建議します」
こうして1回目の対策会議の会合は亜希にとって望む方向で進み終える事ができた。