新世代と島村兄   作:凧山葵

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書いてたら、しぶりんが女々しくなったので、ないよう少しカットしました。
だから、少し短めであっさりと終わってます。


第10話

 

「1、2、3、4! 5、6、7、8!」

 

トレーナーの数字のリズムに合わせて、渋谷凛、島村卯月、本田未央の3人は振り付けを行う。

キュッ、キュッと靴がフローリングに擦れる音が、レッスン室に響く。

彼女たちは現在、半月後に行われる346プロのライブに、城ヶ崎美嘉のバックダンサーとして出るために練習に励んでいた。

その出演が決まってから、毎日のように練習しているが。

 

「本田ぁ! リズムが遅れてるぞ!」

「は、はい!」

 

「島村ぁ! お前はリズムが早すぎだ! お前一人出来ても、他の二人を置いていってどうする!」

「す、すいません!」

 

「渋谷ぁ! 足の位置が逆だ! 気を付けろ!」

「……は、はい!」

 

中々上手くいかないようだ。

元が素人の本田と渋谷は、ダンスの振り付けと笑顔をキープの両立に四苦八苦し。

卯月はダンスには問題はないのだが、年長者そして技術的に秀でている分、他の二人に合わせなくてはならないので、そのズレを修正できないでいた。

だが、足踏みしてるわけではなく、少しずつだが前には進んでいる。

()()()()()()()

 

「きゃっ!」

「ご、ごめん卯月……」

 

3人で揃ってターンを決めるところ。

中央の卯月がターンをするとき、渋谷が本来とは逆に回ってしまい、二人は接触してしまった。

それにトレーナーの目が鋭くなった。

 

「渋谷ぁ! お前は今日これで、振り付けを間違えるの何度だ!」

「す、すいません……」

「もういい! やる気がないなら帰れ!」

「……っ!? ……やる気はあります」

 

やる気があるのは事実だ、渋谷凛は、何事にも手を抜くことはない。

しかし。

 

「だが、明らかに集中していない!」

「……っ!」

 

それも事実だった。

練習が始まった当初は、渋谷も二人に続いて意欲的に取り組んでいた。

しかし、だんだんと……いや三日前から、ぼんやりとしていることが増えた。

どこか元気がなく、考え事をして、集中しきれないのか振り付けを間違えるようになった。

 

「先程からお前がミスをする度に、本田と島村も練習を中断しているんだ。それでも二人は成長しているのに、お前は何だ! 初歩的なミスを繰り返し、顔にも覇気がない! よくそれでやる気があるなど言えたものだ!」

「……」

 

渋谷は、何も言えなかった。

そしてトレーナーは、最後に強い口調でこう言った。

 

「はっきりと言っておく。今のお前は、二人を邪魔している! 足を引っ張っている、お荷物だ!」

 

その言葉は、渋谷の心に深く突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

『今のお前は、二人を邪魔している!』

『足を引っ張っている、お荷物だ!」

 

この言葉が、私の心の中で延々と反芻していた。

実際にショックだった。そう言われたことでなく、それが事実だと認識できてしまったことに。

私は自分をお荷物だと認めてしまったのだ。

それが堪らなく悔しくて、情けなかった。

こんな筈ではなかった。

卯月に憧れて、チャンスがあったから飛び込んだこの世界。

順風満帆なんて甘いことは考えなくとも、絶対に下を見たりはしないと決心していた……のに、このざまだ。

レッスンが終わったあと、私はすぐに着替えて、二人より先に事務所を出た。

ともかく逃げたかったのだ。それが何にもならないと、分かっていながら逃げたのだ。

未央の呼び止める声が聞こえたけど実家の手伝いを言い訳にした。

私は早足で廊下を歩く。

視線の先には、地面のタイルの模様だけが映っていた。

エレベーターで一階へと降りた私が自動ドアを通ろうとすると。

 

「凛ちゃん」

 

円形の柱の下に立っていた人に、私は声をかけられた。

聞き覚えのある声だった。

いや、そもそもシンデレラプロジェクトのメンバー以外で、私をちゃん付けで呼ぶ人など、一人しかいなかった。

 

「……美穂」

「うん。こんばんは。少し話したいことがあったから、待ち伏せしちゃった」

 

言い訳をしないところが、正直者な美穂らしい。

しかし、今の私に話をしている余裕はなかった。

 

「ごめん。急いでるから……」

「10分でいい。……ううん。5分でいいから、時間をもらえないかな?」

 

真剣な眼差しで願ってくる美穂に、私はしばし悩んだ。

そして最後には折れた。

 

「分かった。少しだけね」

「うん。すぐに終わるよ。……私の話はね、寅晴さんとのこと」

「……っ!?」

 

私は死角から金槌で殴られたような衝撃だった。

てっきり、最近の腑抜けて姿のことだと確信していたからだ。

しかし、少し冷静になって考えると、美穂の話に寅晴が関わっていない筈がなかった。

どうやら私は、かなり混乱していたようだ。

だが今の言葉で、逆に目が覚めた。

「凛ちゃん。寅晴さんと喧嘩したんだよね?」

「ううん。喧嘩って言うより、私が勝手に不貞腐れてるだけ。だから寅晴は悪くないよ」

 

そう。寅晴は悪くない。悪いのは私。

噂だって、アイドル業の支障になることは目に見えていた。

だから寅晴は、当たり前の判断をした。

ーー 一緒に帰るのをやめよう。

 

別に会えなくなるわけじゃない。

ただ帰り道の20分程度の時間がなくなるだけ。そう、たったそれだけなのだ。

だけど私は、腸が煮えくり返る気持ちだった。

理由は分からない。だが、あの後から寅晴とは会っていない。

時々教室のドアを見るが、姿はなかった。帰るときも、門の前にいるかもしれないとつい視線を動かしてしまう。

結局私は、勝手に突き放しておいて、寅晴が自分から来てくれることを期待していようだ。何て厚かましい女だと、自分で自分を罵りなくなる。

「寅晴さんは悪くない……か。それが凛ちゃんの本当の気持ち?」

「どういうこと?」

「もっと他の言葉ないの? って意味だよ。例えば、不満とかさ」

「そんなもの……」

「ないわけないよね? だってないなら、元から怒ったりしないもん」

「え……」

「凛ちゃんは、寅晴さんの言葉に不満があった。だから怒った、不貞腐れた。でも、凛ちゃん自身はそのことから目をそらしてる。本当は気がついてるのに、気がつかないふりをして悩んでいる。言葉にして寅晴さんに嫌われたくないって、恐がっちゃってる」

「…………」

 

ーーだって、ワガママな女だって思われる。

ーー自分勝手だって、嫌われる。

そんなのは絶対に嫌だった。

「そう……かも……ね」

 

絞り出すように出た言葉だった。

 

「私は寅晴に嫌われたくなかった。でも、沸き上がる気持ちも抑えきれなかった。それで勝手に不貞腐れて、勝手に一人で悩んで、それで卯月と未央にも迷惑かけて……本当に馬鹿みたい」

 

涙が出そうだった。だけど我慢した。私に泣く権利などないのだから。

泣いている暇があるなら、自分を叱咤したかった。

 

「本当はね。もっと早く来ようと思ってたんだ」

 

俯いていたら、唐突に美穂が語り始めた。

 

「でも、仕事とレッスンとで時間が取れなかった。だから、こんなに遅くなっちゃった。ごめんね」

「美穂が謝ることじゃないよ」

 

むしろ私が、時間とらせてごめんと言う立場だと思う。美穂はテレビにライブにと引っ張りだこのアイドルなのだから。

「そう。でも、寅晴さんにお願いされてたから、その意味も込めて謝らせて」

「寅晴が?」

「うん。仕事帰りにいきなり電話がかかってきて、開口一番に凛ちゃんが大変らしいから、助けてあげてくれないか? って」

 

……不覚にも、少し喜んでしまった。

 

「嬉しかったでしょ?」

「そんなことない……」

「そうなの? 私はとっても嫉妬したよ。だって寅晴さん、せっかくライブチケットあげたのに、凛ちゃんのことしか頭にないだもん。私より凛ちゃんの方が大切なんだー、って思っちゃったよ」

 

美穂は、笑い半分に不貞腐れたように言った。

結局、チケットのお礼はなかったらしい。

義理深い寅晴にはあり得ないことだ。それだけ余裕がなかったということなのかもしれない。

べ、別に嬉しくないんだからね!

 

「もう凛ちゃんってば、喜びが隠しきれてないよ」

「えぇっ!?」

 

急いで顔を確認すると、たしかに頬は緩んでいた。無意識だったようだ。

何が、表情を取り繕うのが特技だ。最近穴だらけじゃないか。

羞恥心で顔が熱い。

今熱を測ったら、何度あるか予測がつかないほどだ。

「はぁーあ。私も寅晴さんのお店行きたいな……。最近、ご当地の仕事が増えてきたから、時間がどんどん削られちゃうんだ」

「大変そうだね」

「うん。今度なんて、346のライブの一月後ぐらいに、東京でまたライブだもん」

 

本当に人気アイドルなんだなぁ。

こうして話していると、普通の女友達なので、今一実感がわかない。

もし私が、美穂と同じぐらい人気になったら、やはりこうなってしまうのだろうか。そうなると寅晴とは……。まぁ、何かの間違いでもない限り、ないだろう。今は、ただの夢物語に過ぎない。

 

「それで凛ちゃん。腸は決まった?」

「それを言うなら『腹』でしょ?」

「そうとも言うね!」

「そうとしか言わないよ……」

 

本気なのか、ボケなのか分かりにくい。

美穂って、昔は緊張しいだったって嘘だよね? 絶対にクラスの中心で声あげてる人だよ。

「まぁ……うん。明日寅晴に話してみるよ。私が何で怒ったのか。どうして調子悪かったのか。不満も希望も全部伝えるよ」

「それって、さ。……ほぼ告白じゃない?」

「え、あ、いや……そんなつもりは……ないんだけど」

 

よく考えたら、たしかに、あなたと少しでも一緒にいたいって言うのと同じだよね。

どうしよう……。

でも、よく考えたら。

 

 

「寅晴だから、多分肝心の気持ちは伝わらないと思うよ」

「ああ、寅晴さんだもんね……」

 

どんなにアピールしても、全部勘違いされる未来しか見えない。伝わっても冗談で流されそう。

そんな鈍感な想い人に、私と美穂は、揃ってため息をついた。

 

 

 

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