新世代と島村兄   作:凧山葵

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わ、私は悪くない。
あのテストってやつが悪いんだ!


ライブ(卯月と美穂)

 

会場が揺れるような大声援が、ステージ上から控え室の廊下まで響いてくる。

ああ、ついに始まったんだ……。

もうすぐ私は、あのステージの上に立つ。美嘉さんのバックダンサーとして観客の前に出る。夢だったアイドルの階段の一歩目を踏み出せる。でも、今一実感がわかなかった。

だって私は、つい数ヵ月前まで、アカデミーでレッスンを受けるだけだった身。何年も売れ残りみたいになっていた私が、気がつけばこんな所にいる。まるで魔法使いに魔法でもかけられたようだ。

だからなのかな、頭の中がふわふわして、足が地についていない。

これが夢だと聞かされたら信じてしまいそうだ。それくらいに意識がハッキリしない。

今私は、与えられた控え室でなく廊下にいるけども、いつ出てきたかも覚えていなかった。なんて言って出てきたかも、そのときの二人の顔も……勿論覚えていなかった。

私は二人より歳上で、引っ張ってあげなきゃいけない立場なのに、こんなことでどうするんだ。

そう思いつつ、控え室に戻れない私もいた。戻りたくない私がいるのだ。逃げたいと思う心があるのだった。

ずっと目指してきた夢の舞台、なのに目の前に来ると、ワクワクよりも先に恐怖心が表に出てきた。

「卯月ちゃん」

 

本当にどうすればいいんだろう。

電話は控え室に置いてきてしまったから、お兄ちゃんに連絡して気をまぎらわせることも出来ないし。

というか、それだと結局お兄ちゃんに甘えてるし……。

 

「卯月ちゃん!」

「ひゃあ!? みみみみ、美穂ちゃん!?」

 

いきなり現れた久方ぶりの親友に、私は驚いて壁に背中がつくまで下がってしまった。

「うん。久しぶりだね卯月ちゃん」

 

でも、美穂ちゃんは、最後に会った時と同じで輝くような笑顔だった。

何だかオーバーリアクションしたみたいで恥ずかしいな……。

そんな気持ちもあってか、私が落ち着きを取り戻すのは思っていたよりも早かった。

 

「ふぅ……うん。久しぶりだね美穂ちゃん」

 

それは私が小日向美穂と、約1年と半年ぶりに交わした挨拶だった。

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに会った私たちは、昔話にはなをさかせていた。

「卯月ちゃんは変わらないね」

「そういう美穂ちゃんは変わりましたよね。昔は目も合わせられないほどに、人見知りで緊張しいだったのに」

「う~ん、そうかなぁ? 周りの人も変わった変わったっていうんだけど、私自身ではそんなに変わった気はないんだよね」

 

私の記憶の美穂ちゃんは、いつも兄の優樹さんの後ろに隠れていたイメージある。

でも、中学3年生……いや、あの346プロのオーディション前に、美穂ちゃんは変わった。

人が変わったみたいに輝き始めた。

そう私は記憶している

 

「もし私が変わったのなら、それはきっと寅晴さんのおかげだね」

「お兄ちゃんですか?」

「うん。寅晴さんに恋したおかげ」

「……」

 

美穂ちゃんの気持ちは何となく勘づいていたけど、直接言われてみるとやはり衝撃がすごかった。

「そ、そうなんですか……」

 

と、ひきつった顔で言うのが精一杯だった。

私はお兄ちゃんが大好きだ。でも、人気アイドルが惹かれるほどかと言われれば、首を捻られざるおえない。

美穂ちゃんは、くすりと笑って。

 

「別に私は、昔話や赤裸々な恋話をするために卯月ちゃんに声をかけたわけじゃないよ」

「じゃあ、何で?」

「覚えてない? 二人で受けた最後のオーディション前に、卯月ちゃんが言った言葉」

 

 

 

ーーー絶対にトップアイドルになろうね!

 

 

それは、まだ自惚れていた時の島村卯月の言葉だ。

あのときはレッスンの先生からも太鼓判を押され、自分でも自信に満ち溢れていて、勝手に受かった気になっていたから言えた言葉。

そしてその後、はりぼての自信を完全に失って、塞ぎこんでしまった。

トップアイドルになる。

それは、昔は目標、今はただの夢へと成り下がった。

いや、正確にはちょっと前までの私には叶えようがない夢だった。

 

今は違う。

 

私には仲間ができた。一緒に笑い合える友達ができたのだ。

そして、二人が気が付いていないと思うけど、二人に出会ったから、私はアイドルになれたと感じている。

更にいえば、二人に出会わせてくれたお兄ちゃんもだ。

色々な人に支えられ、見守られた。

「私は今も目指してるよ、トップアイドル」

 

親友(ライバル)は、余裕のある笑顔で言った。

それは遠回しだが、私が聞けば直球な挑発だった。

 

『追い付けるものなら、追い付いてみてよ』

『バックダンサーなんかで、終わらないよね?』

 

ということだ。

激励ではなく、挑戦状。

それも相手がレベル100なら、私は1にも満たない。

 

長く険しい道のりだ。

 

だからこそ、こんなところで逃げだすわけにはいかない。

 

「あ、私そろそろ出番だから行くね」

 

そう言って美穂ちゃんは悠然とステージの方に歩いていった。

美穂ちゃんのステージの次は……はっ! 私の出番もうすぐだ!

急に現実に引き戻されて、若干焦っていると、長い廊下の奥から。

 

「ステージに上がるとき、三人の掛け声があると緊張がほぐれるよ!」

 

私の心情を見透かしたような大きな声が響いてきた。

どうやら美穂ちゃんには、私のことなどお見通しのようだ。

アドバイスをもらったことに、悔しさを覚えつつも、私は美穂ちゃんに感謝した。

そして、片手に拳を作って。

 

「トップアイドル目指して! 島村卯月、がんばります!」

 

 

今は遠い背中だけど、絶対に追い付いてみせますよ、美穂ちゃん!




女心を書くのは難しい。
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