新世代と島村兄   作:凧山葵

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三人称って難しい。練習してたけど無理だ。
ということで、今回から一人称です。


第3話

夏の日射しは人を溶かすようにサンサンと輝いている。太陽だけに。

よし、少し体温が下がったな。

嬉しいことだが、変わりに羞恥心で温度が上がってプラマイゼロだった。ばーか!俺のばーか!

......俺はなにやってるんだろう。

人のキャラを崩壊させるほどに、今日の気温はバカ高かった。高温注意報など当たり前。埼玉のとある市では、日本記録を更新したりしている。

そんな日に外に出るなんてバカじゃないかと思うが、あれもこれも30分前のことが原因だった。

 

『お兄ちゃん、メニューに使う調味料の在庫がもうないよ」

『あ! やべぇ、注文しとくの忘れてた!』

 

おっと自業自得でしたね。

そんなわけで俺は、急いで駅前のスーパーに足りない調味料の買い出しに行った、その帰り道を歩いていた。

両手には、パンパンに詰まった大きな袋を握っていて、結構重い。

最初は卯月が行くと言っていたが、無理に止めて正解だった。卯月にこんな重いものを持たせるなんて、俺が自分を許せないからな。

......シスコンじゃないから! 勘違いしないでよね!

 

「う~ん。ここどこかな......」

 

そもそもシスコンの定義は曖昧だと思うんだ。

何で家族を大切にしただけなのに、白い目で見られなければならない。

くそ、クラスメイトたちめ。

 

「誰かいないかな~」

 

わざとらしい声が聞こえるが幻聴だな。

俺は、道を進んだ。

 

「ねぇ! そこはどうしたの? とか何か困ってるの? とか聞くところじゃない!?」

「やり過ごせなかったか......」

 

ガッと肩を掴んでくる茶髪の少女に、俺は面倒だと心の中で舌打ちした。

そもそも道を聞きたいなら、あんなに回りくどいことしなくても直接聞けってんだ。応対するかは分からんが。

 

「駅前に交番があるから、道に迷ってるならそこに行け」

「あはは~。いやー、それは無理かな......」

 

ばつが悪そうに目をそらす少女に、俺はジト目を向ける。

 

「何か後ろめたいことでもあるのか? なら早めに自首した方がいいぞ。自首すると刑期が半減され.......」

「いやいやいや! 私何もしてないからね! 勝手に犯罪者に認定しないで!」

「じゃあ何だ。俺は見ての通り大荷物抱えてるからな。あまり言い淀んでると待ちきれずに帰るぞ」

 

自首の下りは冗談だ。しかし、帰るのは本気だった。

だって手が痛いし、卯月に任せた店が心配だし。

俺が低い声でそう言うと、渋っていた少女はもじもじと恥ずかしそうに言った。

 

「その......、さっきその交番で地図書いてもらったんだけど、結局迷っちゃって」

 

うわぁ。

 

「お前......」

「そんな引いた目しないでよ! だ、だってしょうがないじゃん! 私東京来るの初めて何だから!」

「それでも地図あるんだろ? なのに迷うのはお前の方向センスじゃないか」

「うっ!」

 

少女は痛いところをつかれたと押し黙る。

そのあと「もういいよ! 自分で探すから!」とやけくそに後ろを向いて、地図とにらめっこしていた。

はぁ、何だか哀れに思えてきたな。

 

「おい。え~と......喧し少女」

「誰が喧し少女だ! 私は本田未央! ちゃんと名前で呼んでよ!」

 

仕方ないだろ。お前の名前知らないんだから。

 

「はぁ、分かった分かった。ちゃんと呼ぶからそんなに怒るな。......で、本田。お前急いでるか?」

「ううん。そんな急いでるわけじゃないけど」

「んじゃ、俺の店まで来い。10分ぐらいで着くからよ」

「え? な、ナンパ!?」

「違う。この荷物を置きに行くだけだ。いい加減手が限界なんだよ。そのあと道教えてやるからよ」

「私告白は何回かあるけど、ナンパされるのは初めてだよ。でもよく見るとカッコいいしありかも......」

「だから違うって言ってるだろ! 話を聞け!」

 

わけの分からんことを言ってる本田を何とか言いくるめて、俺は店に戻った。

 

 

 

 

店の前につく頃には、俺はとてつもなく疲弊していた。

原因は単純に荷物が重かったこと、そして途中で拾った本田が異常なくらい高いテンションで話しかけてきたこと。なにあのテンション。最近の女の子はあれが普通なの? そんな世界になったら俺の胃がマッハで死ぬんだけど。

汗を滴り落としている俺とは対照的に、本田は物珍しそうに店を眺めていた。

 

「へぇー。ここがとはるんのお店かー。あれだね、レトロってやつ?」

「素直にボロいと言っていいぞ」

「いやそれはさすがに......」

 

まあ普通、本人を目の前にして言わんわな。

あんなにぐいぐい来るから礼儀知らずかと思ったが、人並みの常識はあるようだ。

とはるんにはつっこまない方向で。

俺が店に入ると、卯月がコップを拭いていた。

 

「お兄ちゃんお帰りなさい。暑い中お疲れ様......あれ? その子は?」

「ああ、こいつは......」

「どうもどうも、はじめまして本田未央です! よろしくねとはるんの妹さん!」

 

おい、人の会話を遮るな。やっぱこいつ礼儀知らずだわ。

 

「え? あ、はい。よろしくお願いします」

 

そして戸惑いながらも頭を下げる卯月。やっぱり卯月はいい子だ(確信)。

 

「ていうかとはるんって何?」

 

そしていつの間にカウンター席にいた渋谷が、怪訝に聞いてくる。こいつ今年受験なのによく来るな。そんなに余裕あるのかよ。

あととはるんについては聞くな。というか聞かないでください。

「いやぁ、道を歩いてたら、とはるんにナンパされちゃってさぁ。よかったら俺の店に来ない?って」

「ええええぇぇぇぇ!? お兄ちゃんが、女の子をナンパした!?」

「まさか、あの寅晴が......」

「嘘をつくな!話を盛るな! 俺を無理矢理捕まえたのはお前だし、店に来たのもこの荷物を置くためだ!」

「あれ、そうだっけ? ごめんごめん」

 

こいつ女だが殴りたい。

本田のうざさに殺意を滲ませていると、横から袖がくいくいと引かれた。

引かれた方を見ると、渋谷が難しい顔をしていた。

 

「寅晴。ナンパしたのは嘘なの?」

「はぁ、お前なぁ......。当たり前だろ。そもそもあんな暑い中で両手に重い荷物抱えてるときに、ナンパなんてしねえよ。どんな状況だよそれ」

「ふふ、そうだね。......よかった」

「今、なんか言ったか?」

「言ってない」

「いやだって、最後ぼそりとなんか」

「言ってない」

「そ、そうか......」

 

なんかこれ以上追求すると殺されそうな雰囲気なので、控えることにする。

この店内の女性人みんな強くない? 卯月は笑顔1つで相手をノックアウト出来るし、本田は相撲取りかよってくらい強い押しをしてくるし、渋谷は言葉だけで相手を黙らせる。

これは最強ですわぁ。

俺は、気を取り直して荷物を奥に置いた。

そして卯月に淹れてもらった牛乳を飲んで寛いでいた本田に聞いた。

というか本田ほんわかしすぎだろ。お前卯月の天然オーラにやられて、本来の目的忘れてないか?

「おい本田。お前が交番でもらっていう地図貸してみろ」

「え? 地図? ......あ、そうか地図! 私道に迷ってたんだ!すっかり忘れてた!」

まさかの本気で忘れてた件について。やっぱり最強は卯月だった。

「お前なぁ......」

「アッハッハ。はい! これが交番でもらった地図!」

「誤魔化すの下手か。まぁいい。んで、ああこの辺か......って、これ卯月の高校じゃねえか?」

「本当だ。ここ私が通ってる高校です」

 

卯月に聞くと驚いたように肯定した。

 

「しまむーってこの学校に通ってるの? えぇ!? じゃあしまむーってもしかして歳上!?」

「もしかしなくても歳上ですよ!? 私高校1年生です!」

「ごめん。私も卯月は同い年だと思ってた」

「ひどい!? うぅ、お兄ちゃーん!」

「......まぁ、しゃあない」

「ガーン......」

苦笑いで言うと、卯月はショックを受けたという顔をして、がっくりと項垂れた。

いやだって卯月は顔立ちが幼いから下に見えやすいし。

どちらかというと渋谷の方が歳上に見える。

あとしまむーって、卯月のこと? なんかちょっと可愛いじゃないか。今度こっそり使おう。

黒く淀んだ空気をまとっている卯月を見て、その発端になった本田はアワアワとしていた。

渋谷も無意識に追い討ちをかけたせいか、心配そうだ。

たくっ、手のかかる妹だ。

とどめさしたの俺だけど。

「ほれ卯月。いい加減元気出せよ。あとでお前の好きなもの食わせてやるから」

「......ふふ、いいんだよお兄ちゃん。私のことは気にしないで。私は所詮中学生何だから......ふふふ」

 

ショックのあまり、卯月がキャラ崩壊を起こしているぞー。

 

「ほ、ほら、本田は道が分からなくて困ってるんだろ? なら卯月が案内してやれよ。頼れる先輩として、後輩を導いてやれよ」

「後輩......、導く......」

 

卯月が少し戻ってきた。

俺は、ボーと見ている二人に「ほらお前らも」と手で促す。

 

「わ、私もしまむーに案内してほしいかな。しまむーなら案内も丁寧そうだし。お願いします、先輩!」

「え、私も? お、お願いします?」

 

調子よく大きな声で言う本田に、巻き込まれる渋谷。

その言葉に卯月はピクッと身体を反応させる。そしてさっきまでまとっていた淀んだ空気が、だんだんと浄化されていき。

卯月が満面の笑顔を見せたときには、キラキラと輝くオーラになっていた。

ま、眩しい!

 

「はい! 島村卯月、先輩としてお二人を導きます!」

「うん! よろしくね、しまむー!」

「ちょっと待って。私は行くつもりないんだけど......」

「諦めなよしぶりん。一緒に行こう」

「し、しぶりん!?」

 

しぶりん(笑)。

なんかにやけてたら、渋谷に殺意のこもった目で睨まれた。あれだ、呼んだら殺すってやつだな。恐いから、気がつかれないように呼ぼう。

「じゃあお兄ちゃん。行ってくるね!」

「おう、気を付けろよー」

 

卯月がドアを開ける。

去り際に本田が「また来るねー!」といったので無視した。

手を引かれ連れていかれた渋谷が助けてほしそうな目をしていたが、見なかったことにした。

さて、買ってきた調味料を倉庫に入れるか。

俺は、人がいなくなった店内に背を向けて、奥へと入っていった。

 




ちゃんみおは、高校の説明会に行くために東京に来ました。
本田さんは、中学まで千葉で、高校から東京に来ます。
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