新世代と島村兄   作:凧山葵

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書き直しまくり遅くなる。小日向さんの口調がわかんねぇ……。


第5話

以前祖父から『明晰夢』という物の体験談を聞いたことがあった。

普通夢に意識はないはずなのに、これは夢だと自覚がある事を言うらしい。

かなり歳がいっているのに、若々しく、それでいて頑固なあの人が、唯一しんみりと自分を見せて語ってくれた話だった。

なのでよく覚えていた。

だから今、俺が体験していることも『夢』なのだと理解できた。

まだ俺の目線がテーブルを越せない頃、祖父が店で働いている頃、お客がそこそこいた頃、そして店がまだ綺麗な頃。

すでに、記憶からはすっかり消えてしまった、昔の『USQ』の姿だった。記憶な曖昧になっているが、それでもこれだと確信できるのだから、正確に精巧に再現された夢だった。

目に写るのは、古い映画のような砂塵混じりの映像だが、その懐かしさに心が熱くなるのを感じた。

「寅晴! そんなところにいねえでこっちこい! ちっこいお前がチョロチョロしてたら客の邪魔になるだろう!」

 

唐突に聞こえたダミ声で、俺は自分がホールの真ん中で、立っていることに気がついた。

ダミ声の正体は祖父だ。見た目に似合わず厳つい声を出す。喫茶店のマスターより、工事現場の隊長の方が向いてそうだ。

戸惑い半分に周りを見回すと、パソコンを打つサラリーマン、3人ほどで作られた主婦の集まり、祖父の老人会仲間の爺さん婆さんたちが、俺の事を微笑ましく見ていた。

小さい頃は、この視線が、とても不快だったのを覚えてる。まぁ、成長した今になれば、しょうもないことだった。

手に異物感を感じたので、確認すると、ガキの小さな両手には、2倍ぐらい大きくなったようなお盆を握っていた。

そういえばこの頃は、衛生上の理由でキッチンには入れてもらえなかったから、勝手にホールを手伝っていたな。

客から注文を取る度に、余計なことすんなって、怒られたのを覚えている。でも、本気で怒っていたわけではなかった。お盆を持って、ホールにいたのが、何よりの証拠だ。

あの頃は興味半分、意地が半分ぐらいでやっていたお手伝いだった。だが、楽しかったのを覚えている。ふらつきながら、コーヒーの入ったグラスを運ぶのも、常連のお婆さんたちとおしゃべりするのも、全部だ。

気がつくと、意識がブツッと途絶えた。

 

場面が変わり祖父の家。両親が共働きだった(今は違うが)せいで、俺や卯月は小さい頃から、都内の祖父母の家にいることが多かった。

壁が和風作りなのが懐かしい。触ってみると、つるりと木製独特の感触だった。

 

ふと、聞こえてきた祖父の声。玄関から聞こえるようなので、向かってみた。

 

そこでは、何やら祖父と三十代くらいの若い女の人が、玄関先で楽しそうに話していた。

そしてその女性の足元には、足にしがみついた小さな女の子がいた。いたと言っても、上半分はもやがかかり、顔は分からない。人見知りで、母親に甘えてるように見えるところから、女であると予想したまでだった。

そこを眺めていると、俺に気がついた祖父に手招きされた。

俺は逆らう理由もないので、それに従った。1歩、また1歩と近づいても、女の子の顔は明らかにならない。やはりもやがかかり、視認を阻害する。

「こいつが、うちの孫です。もう一人いるんですが、今は婆さんと出かけてまして」

 

祖父は俺の頭を撫で回しながら、笑い混じりに言った。

夢なので痛みはないが、荒々しく撫でられるから、気分的にいいものではない。そういえば、この雑な撫では、卯月に嫌がられてやめたんだよな。こちらでは、まだそうじゃないらしい。

「まぁ、可愛い子ですね。将来はイケメンになりそうだわ」

「そりゃあ、わしの血を受け継いでますから! 絶対にいい男になりますよ!」

 

得意気に言う祖父。夢の中でも、孫自慢は欠かさないようだ。

というか、それはどんな理論なのか。たしかに、隔世遺伝というのはあるが、いい男になるのかは俺次第だろうに。

しかし、会話を聞く限り、祖父とこの女性は、かなり仲がいいらしい。

 

「島村寅晴です。よろしくおねがいします」

 

夢の中だが、一応頭を下げておく。バカらしいと思うが、乱暴に撫でられるのは夢でもごめんだ。

 

「しっかり挨拶できて偉いわね。うちの子なんて、人見知りしちゃって、目も合わせられないのに」

「はは、人前だといい子なんですが、いつもは本当に生意気でして」

 

ほっとけ。

 

「子供は生意気なくらいが、元気でいいじゃないですか! ほら、あなたも挨拶して」

 

お母さんは、足にしがみついている子供の背中を押して、挨拶を促す。

手の動きから、ぎこちなさが伝わってくるその子は、蚊が鳴くような声で。

 

「始めまして▲▲▲です」

 

意識が遠くなり始めた。もう夢は終わりらしい。

 

「よろし……寅晴……」

言葉が途切れ途切れに聞こえ、ついには、白い世界に俺は呑まれるような感覚に襲われた。

「はっ! ……変な夢だったな」

 

目を覚ませば、自分のベッドの上だった。

片目を擦りながら、けたましく鳴っている携帯のアラームを消した。

あの女の子は誰なのか。とても記憶に引っかかりがあった。今のは、夢なのか? それとも別の何か……。

……ここで1つ言っておくことがある。

俺のアラームのスヌーズ機能は、俺が止めるまで、5分間隔に鳴るようにしている。要するに俺が起きなければ、アラームは延々と流れ続けるのだ。

何が言いたいかって?

 

AM9時30分。

 

寝坊した。

 

 

 

 

 

 

息が上がるほど走ったのは、何年ぶりだろう。

体育嫌いな俺は、体育は基本適当に流している。学校主催の体育祭やマラソン大会も同様だ。

特に夏は、汗がベタついて、不衛生になるのがものすごく嫌いだ。

それでも俺は走った。

家から駅まで走り、電車内でも落ち着かなくて、最寄りから店までも走っている所だ。

ペースを少し落として、携帯を取りだし時間を確認する。現在10時を少し過ぎた所。

ラストスパートだ。

店の前に着くと、制服姿の渋谷が不機嫌そうに腕を組んでいた。

 

「遅い」

「ぜぇ……ぜぇ……! わ、悪い。寝坊しちまっゲホッゲホッ!」

「なにやってんだか……。はぁ、取り合えず息整えて、汗を拭きなよ」

 

そう言って渋谷は、ハンドタオルを差し出してきた。異性のタオルを汗を拭うために使うのは、抵抗感があったが、こんな汗だくで過ごしたら風邪をひくかもしれない。

背に腹は変えられなかった。

それともう少し真面目に運動しよう。肺がヤバイ。

 

「悪い。今度洗って返す」

「うん、分かった」

「それと遅刻した分もいつか返す」

「別にいいのに。そんなに待ってないよ」

「自分で時間指定したのに、遅れたんだ。何かしらしないと、俺の気が済まん」

「ふーん。……じゃあ、考えとくね」

 

笑みを浮かべた顔に、俺は嫌な予感を覚えた。

 

「言っておくが、俺は人間だからな。限界があることを覚えておけよ?」

「大丈夫。寅晴なら、限界も乗り越えられる」

「なんだその謎の信頼。というか限界に挑戦するのは確定なのな……」

 

俺は、肩を落として、未来の自分の安否を心配した。

 

 

 

しばらく歩くと、俺の通う高校の校門に到着した。

 

「へぇ、けっこう綺麗な校舎だね」

「まあ、まだ新しい学校だからな。というか、それくらいしか見所がないまである」

「ちょっと。学校見学に来てるのに、そんな見も蓋もないこと言わないでよ」

「悪い悪い」

 

渋谷の苦言はもっともだった。

だが、改めて自分の通う高校の良いところを言うのは、気恥ずかしいことなのを理解してほしい。

大きく開かれた門を通って、俺は渋谷を先導しながら、会場になる体育館校舎に来た。

入り口には、腕に係りの腕章を付けた生徒たちが、忙しなく出入りしていた。

それだけで、忙しいのが見てとれる。これなら係外の生徒にまで声をかけるわけだ。

俺は、目当ての人物を見つけるために、辺りを見舞わした。

そして、入り口辺りで後輩に指示を出していた所を発見した。

その人物に、渋谷を連れて近づき。

 

「よう、忙しそうだな優樹」

「遅いよ、寅晴! もう準備始まっちゃってるよ!」

「悪い悪い。ちょっと寝坊しちまってな」

「はぁ、まったく……」

 

呆れたように息を吐いた、この優男は、小日向 優樹(こひなた ゆうき)

この学校の生徒会長であり、俺とは中学からの付き合いである。実は妹がアイドルをやっていて、その系統の話で盛り上がることが多々ある。

成績は優秀で、先生からの信頼も厚い。が、印象は?と聞かれると、なぜか普通の男の子という言葉が最初に出てくる。

やはり、熊本出身の利点を活かさないのが、キャラの弱さに繋がっているのだろう。

「そういえば、助っ人を連れてくるって話だったけど……」

 

キョロキョロと、優樹は人を探す。

いや、後ろにいるだろ。俺は、後ろ向きに親指を指して。

 

「こいつだよ。俺の後ろにいる、この生意気そうなやつ」

「ちょっと、変な紹介のしかたしないでよ」

 

歳上を普通に呼び捨てにするやつを、生意気と言って何が悪い。運動部なら、呼び出し待ったなしだぞ。

俺が渋谷が助っ人だと示すと、優樹は驚いたように身体を仰け反らせた。

 

「えぇ!? と、寅晴が女の子を連れてきた!? あのシスコンの寅晴が!?」

「おいこら、ちょい待て。誰がシスコンだと? 俺は、たしかに卯月を大事にしているが、シスコンとまでは言えないはずだ。そもそも、お前にだけはシスコンって言われたくねぇ! このシスコンが!」

「シシシ、シスコンじゃなか! 僕は、普通だ! 普通の家族たい!」

「よく言うねぇ。妹が手伝いに来ても違和感ないように、家族に応援頼んでもいいとか異例の許可出したくせによ! 職権濫用じゃないですかね? それでいいんですか生徒会長?」

「そんなこと言ったらそっちだって! 前に店に行った時、妹さんと楽しそうに話してたら、コーヒー特別苦く作ってきたじゃないか! 僕が苦いの無理なのを知ってて! 店を預かるものとして、客に不味いもの出して、恥ずかしくないのか!」

「なんだと……!」

「なんだよ……!」

 

「要するに、二人ともシスコンってことだね」

 

「「シスコンじゃない!」」

 

勝手に話をまとめた渋谷に、俺と優樹は揃ってつっこんだ。

 

 

 

 

二人の息が揃ったつっこみを受けた後、私は係りの腕章を借りて、会場準備を手伝っていた。

寅晴は、生徒会長に別の仕事があると言われ、奥に連れてかれてしまった。

初対面の歳上たちの中に1人取り残される不安があったが、寅晴から「せっかく来たんだ。実際の生徒と話して、どんな学校なのか聞いてみな」と言われたら、少し前向きになれた。

無愛想でも、やるときはやるんだから。

誰が手伝える人はいないか、探していると、大きな机を持っている、眼鏡をかけた女の子がいた。

1人では持ちにくいのか、大分苦労している様子だ。端の方なので、他に気がついている人はいないみたいだった。

私は、あの人を手伝うことに決めた。

 

「手伝うよ」

「……え? あ、ありがとうございます!」

 

私が反対側の部分を持ち上げると、女の子は律儀に頭を下げてきた。目上の人に頭下げさせるのは、少し億劫だ……。

所定の位置まで、机を運び終えると、女の子はまた頭を下げてきた。

「あの、ありがとうございました! 1人で持てると思ったんですけど、思ったより重くて。え、と……」

「渋谷凛だよ」

「渋谷凛……。じゃあ、凛さんですね!」

「いや、呼び捨てでいいよ。私の方が、多分年下だし……」

「えぇ!? 凛さん何歳ですか?」

「14歳。中学3年生だけど」

「中学生!? ご、ごめんなさい! 大人びていたので、てっきり2年生か、3年生だと……」

 

それは前向きに捉えていい言葉なのか……、後ろ向きだと老けてるって言われてるみたいだし。

しかし、この子の性格的に、前向きに捉えていいんだと思う。人の悪口なんて言えそうにないし。

「じゃあ、凛ちゃんでいい?」

「うん」

「ならあらためて、手伝ってくれてありがとうね凛ちゃん。あ、忘れてた。私は、小日向美穂って言います。よろしくね」

 

小日向美穂……どこかで聞いたことあるような……?

そういえば、さっき寅晴とじゃれあってた生徒会長の苗字が小日向だったな。ということは。

 

「生徒会長の妹?」

「うん、そうだよ。本当は私、別の高校なんだけど、お兄ちゃんに人が足りないからって頼まれちゃって」

 

寅晴の言っていたことは本当らしい……。ちょっと、評価が落ちたよ。まぁ、人が足りないのも本当だろうけど。

 

「凛ちゃんも、お兄さんかお姉さんにお願いされたの?」

「ううん。私は、知り合いにだよ。学校見学も兼ねてどうかって」

 

本当は友達と言いたかったけど、寅晴を友達と言うのは何となく躊躇いがあった。何でだろうか? よく分からない。

私の言葉に、美穂はクスッと微笑んだ。優しい包み込む笑顔。まるで卯月の笑顔を見ているようだった。

 

「ふふ。そうか、知り合いかー。その知り合いの人、まるで凛ちゃんの先生みたいだね。見学に来ないかなんて、普通の高校生なら、あまり出てこない言葉だよ」

「先生か……。うーん、先生って言うより、兄の方が似合ってると思う」

 

でも、納得はしない。あくまで、その表現の方がしっくりくるだけ。

 

「兄、そんな言葉をかける高校生、今日来てる人……。ねぇ、凛ちゃん。もしかして、その知り合いって……」

 

美穂が言いかけた時だった。

 

「渋谷ー! 悪いが、こっち来てくれないか!」

 

寅晴が、大きな声で私を呼んできた。話の途中だったので、私は、どちらを選ぶべきか迷ったが。

 

「いいよ」

 

美穂が言ったが、気になったので、何を言いかけたのかと聞くと。

「ううん。大したことじゃないから、気にしないで。呼ばれてるんでしょ、なら早く行かないと」

「う、うん。わかった」

 

後ろ髪引かれる気分だったが、美穂がすでに言う気はないようなので、私は寅晴の方へと向かった。

何だったんだろ……?

 

 

「……そうかー。やっぱり寅晴さんかー」

 

 

 

 

 

その後、特に問題もなく説明会は終了した。説明内容も進学率やら学校の特色など一般的なことだった。いくつか聞き覚えのないこともあったが……修学旅行って沖縄なのか。俺ら京都だったんだが。

そんな発見もありながら、会は終わり、一般来場者は帰った。そして片付けも会長の優樹指示の元、手際よく終わり。俺と渋谷は帰ろうと体育館を出たところだった。

つうか、先に帰っていいと伝えたはずなんだけど……。まぁ、頑張ってやってたみたいだし、コーヒーの1杯くらい奢ってやるか。

 

「それで、どうだった説明会は?」

「うん。けっこう参考になった。家からも遠くないし、学力面も悪くない。けっこういい所かも」

「ほう。中々好評価だな」

 

それとも渋谷の評価が適正なのだろうか?

自分の高校って、妙に下に見がちになるんだよな。

 

「あと知り合いがいるのも、心強いかな……」

「ん、知り合い? ああ、そういうことか。っていってもなぁ。俺、お前が入学するときは3年生だし。すぐに卒業しちまうぞ」

「1年経てば、他に友達作れるって」

「本当かぁ……」

「む、それどういう意味?」

「いや、な。渋谷はあまり人と関わらないタイプかと思ってて。クラスに1人はいるだろ。窓の外見ながら、1人ボーとしてる女子」

「……でも、友達いるから」

 

あ、してるんですね。

図星だったらしく、渋谷は顔を逃がすようにそっぽ向いてしまった。

まぁ、強がって嘘つくようなやつには思えないし、実際に友達はいるんだろ。別に嫌なやつってわけじゃないもんな。ちょっと、無愛想ってだけで。

そんな会話をしながら、門の前まで来ると、眼鏡をかけた女の子が、門に背を預けて立っていた。

どこかで見覚えがあるような……。

その女の子は俺たちをじっと見ると、笑顔で手を振ってきた。

 

「あ。凛ちゃーん! 寅晴さーん!」

「み、美穂!?」

「ん? 美穂?」

 

あの声と形……ああ、なるほど。

 

「小日向か」

「知ってるの?」

「ああ。優樹の妹だからな。何度か会ったことあるよ。それによくテレビで見るしな」

「テレビ?」

 

もしや、渋谷は小日向のこと知らないのか? いや、知っているが、目の前の人物と同一人物とは思ってないってことだろう。大人気だもんな。無理もない。

 

「こんにちは寅晴さん! お久しぶりです。兄がいつもお世話になってます」

「こちらこそ世話になってるよ。本当に久しぶりだな……。最後に会ったのいつだったか」

「私が中学三年生の時ですよ」

「へぇ、けっこう経ってたな。そういえば、仕事順調みたいだな。よくテレビで見るよ」

「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです」

 

照れ臭くしながら、顔はとても喜んでる。

なにこの可愛い生き物。卯月の次くらいに可愛い。優樹がシスコンになる理由わかるわ。

そして渋谷さん。何でそんな怖い目をしてるんだい? 人殺せそうだよ。リアル版直死の魔眼になってる。

 

「ねぇ、テレビってなに?」

 

心なしかドスの効いた低い声で、渋谷は聞いてきた。

だから怖いって。お前の身に何が起こったんだ。

 

「あ、ああ。本当に知らないか? 小日向美穂だぞ?」

「小日向……美穂……えぇ!? それって……」

「うん。そうだよ」

 

そう言いながら、小日向は変装用(と思われるが、ほとんど隠せてない)眼鏡を外し、素顔を露にした。

 

「346プロ所属アイドル。小日向美穂です!」

 

「え、えぇ!? ほ、本物?」

「信じられないのはわかるが、本物だ。大人気アイドルの小日向美穂だよ」

「だ、大人気なんて、そんな……。私なんてまだまだですよ」

 

高垣楓や城ヶ崎美嘉にも並ぶアイドルがまだまだとか、謙遜しすぎではないか?

まぁ、そんな素朴な所も、彼女の人を惹き付ける魅力の1つなんだろう。

俺が考察をしている間に、小日向は渋谷の耳元に。

 

「凛ちゃん。……ボソ」

「……ッ!?」

何か言ったんだろうが、小さすぎて俺には聞き取れなかった。

離れた小日向はイタズラに成功した子供のように得意顔。渋谷は驚いた様子で小日向を見ていた。

「それじゃあ寅晴さん! また今度お店行きますね!」

「ん? もう帰るのか?」

「はい。これからお仕事なんです!」

「ほーん。よく仕事前に、こっちの仕事来たなぁ。優樹もそのくらい気を回せばいいのに」

「いえ今日はお兄ちゃんに黙って来たんです」

「は? 何でまた……」

「うーん。言ってもいいんですけど……。やっぱり内緒です」

「そうか、わかった」

「えぇー。もう少し興味持ってくれてもいいじゃないですかー」

「俺にどうしろと!?」

 

俺のつっこみにテヘっと舌をだす小日向。本当に変わったよなこの子。昔は目も会わせられない緊張しいだったのに、いつの間にか小悪魔系女子に。人の成長ってすごいわぁ。

「それではさようなら」

 

手を振りながら、小日向は去っていった。何で待ってたんだ……?

 

「なぁ、渋谷。さっき小日向に何を言われ……」

「内緒」

「さいで」

 

何でこんなに不機嫌なんだよ。怖いわ。小日向のやつ、渋谷に何を吹き込みやがった。

隣でバーサーカーを英霊召喚してる渋谷の機嫌は、俺がカフェモカを奢るまで直らないのだった。

 

 

 

 

 

『凛ちゃん。私、負けないからね』

 

美穂は私にこう耳打ちしてきた。

この意味がわからないほど、私は鈍感じゃない。美穂は寅晴が好き。理由は分からないけど、異性として意識してる。

では、私はどうなんだろう。

寅晴が友達として好きかと第3者に聞かれれば、『好き』だと答えるだろう。いい人だし、聞き上手だから会話も楽しいから。

では、異性としてはどうか。これには『わからない』と言うしかない。何度か男の人を気にしたことはあるが、それも小学生で終わった。中学生になってから、恋らしい感情を抱いた相手はいなかった。

だから『わからない』。正確には、判別できない。

でも……渡したくない。

そう思ってしまった。気持ちはハッキリしないけど、渡したくありません。なんて、自分勝手な理論だった。ただの子供のワガママだ。

でも、そんな自分を肯定する自分もいた。

 

寅晴を渡したくない。

 

アイドルだって、負けたくない。

 

それだけはハッキリと、私の心に根付いていた。

 

 

 




小日向さんは、アニメを見てると年下や同じにはため口かなと。
モバマスだとPには基本敬語だから、歳上には敬語って感じにしてみまして。
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