新世代と島村兄 作:凧山葵
以前祖父から『明晰夢』という物の体験談を聞いたことがあった。
普通夢に意識はないはずなのに、これは夢だと自覚がある事を言うらしい。
かなり歳がいっているのに、若々しく、それでいて頑固なあの人が、唯一しんみりと自分を見せて語ってくれた話だった。
なのでよく覚えていた。
だから今、俺が体験していることも『夢』なのだと理解できた。
まだ俺の目線がテーブルを越せない頃、祖父が店で働いている頃、お客がそこそこいた頃、そして店がまだ綺麗な頃。
すでに、記憶からはすっかり消えてしまった、昔の『USQ』の姿だった。記憶な曖昧になっているが、それでもこれだと確信できるのだから、正確に精巧に再現された夢だった。
目に写るのは、古い映画のような砂塵混じりの映像だが、その懐かしさに心が熱くなるのを感じた。
「寅晴! そんなところにいねえでこっちこい! ちっこいお前がチョロチョロしてたら客の邪魔になるだろう!」
唐突に聞こえたダミ声で、俺は自分がホールの真ん中で、立っていることに気がついた。
ダミ声の正体は祖父だ。見た目に似合わず厳つい声を出す。喫茶店のマスターより、工事現場の隊長の方が向いてそうだ。
戸惑い半分に周りを見回すと、パソコンを打つサラリーマン、3人ほどで作られた主婦の集まり、祖父の老人会仲間の爺さん婆さんたちが、俺の事を微笑ましく見ていた。
小さい頃は、この視線が、とても不快だったのを覚えてる。まぁ、成長した今になれば、しょうもないことだった。
手に異物感を感じたので、確認すると、ガキの小さな両手には、2倍ぐらい大きくなったようなお盆を握っていた。
そういえばこの頃は、衛生上の理由でキッチンには入れてもらえなかったから、勝手にホールを手伝っていたな。
客から注文を取る度に、余計なことすんなって、怒られたのを覚えている。でも、本気で怒っていたわけではなかった。お盆を持って、ホールにいたのが、何よりの証拠だ。
あの頃は興味半分、意地が半分ぐらいでやっていたお手伝いだった。だが、楽しかったのを覚えている。ふらつきながら、コーヒーの入ったグラスを運ぶのも、常連のお婆さんたちとおしゃべりするのも、全部だ。
気がつくと、意識がブツッと途絶えた。
場面が変わり祖父の家。両親が共働きだった(今は違うが)せいで、俺や卯月は小さい頃から、都内の祖父母の家にいることが多かった。
壁が和風作りなのが懐かしい。触ってみると、つるりと木製独特の感触だった。
ふと、聞こえてきた祖父の声。玄関から聞こえるようなので、向かってみた。
そこでは、何やら祖父と三十代くらいの若い女の人が、玄関先で楽しそうに話していた。
そしてその女性の足元には、足にしがみついた小さな女の子がいた。いたと言っても、上半分はもやがかかり、顔は分からない。人見知りで、母親に甘えてるように見えるところから、女であると予想したまでだった。
そこを眺めていると、俺に気がついた祖父に手招きされた。
俺は逆らう理由もないので、それに従った。1歩、また1歩と近づいても、女の子の顔は明らかにならない。やはりもやがかかり、視認を阻害する。
「こいつが、うちの孫です。もう一人いるんですが、今は婆さんと出かけてまして」
祖父は俺の頭を撫で回しながら、笑い混じりに言った。
夢なので痛みはないが、荒々しく撫でられるから、気分的にいいものではない。そういえば、この雑な撫では、卯月に嫌がられてやめたんだよな。こちらでは、まだそうじゃないらしい。
「まぁ、可愛い子ですね。将来はイケメンになりそうだわ」
「そりゃあ、わしの血を受け継いでますから! 絶対にいい男になりますよ!」
得意気に言う祖父。夢の中でも、孫自慢は欠かさないようだ。
というか、それはどんな理論なのか。たしかに、隔世遺伝というのはあるが、いい男になるのかは俺次第だろうに。
しかし、会話を聞く限り、祖父とこの女性は、かなり仲がいいらしい。
「島村寅晴です。よろしくおねがいします」
夢の中だが、一応頭を下げておく。バカらしいと思うが、乱暴に撫でられるのは夢でもごめんだ。
「しっかり挨拶できて偉いわね。うちの子なんて、人見知りしちゃって、目も合わせられないのに」
「はは、人前だといい子なんですが、いつもは本当に生意気でして」
ほっとけ。
「子供は生意気なくらいが、元気でいいじゃないですか! ほら、あなたも挨拶して」
お母さんは、足にしがみついている子供の背中を押して、挨拶を促す。
手の動きから、ぎこちなさが伝わってくるその子は、蚊が鳴くような声で。
「始めまして▲▲▲です」
意識が遠くなり始めた。もう夢は終わりらしい。
「よろし……寅晴……」
言葉が途切れ途切れに聞こえ、ついには、白い世界に俺は呑まれるような感覚に襲われた。
「はっ! ……変な夢だったな」
目を覚ませば、自分のベッドの上だった。
片目を擦りながら、けたましく鳴っている携帯のアラームを消した。
あの女の子は誰なのか。とても記憶に引っかかりがあった。今のは、夢なのか? それとも別の何か……。
……ここで1つ言っておくことがある。
俺のアラームのスヌーズ機能は、俺が止めるまで、5分間隔に鳴るようにしている。要するに俺が起きなければ、アラームは延々と流れ続けるのだ。
何が言いたいかって?
AM9時30分。
寝坊した。
◇
息が上がるほど走ったのは、何年ぶりだろう。
体育嫌いな俺は、体育は基本適当に流している。学校主催の体育祭やマラソン大会も同様だ。
特に夏は、汗がベタついて、不衛生になるのがものすごく嫌いだ。
それでも俺は走った。
家から駅まで走り、電車内でも落ち着かなくて、最寄りから店までも走っている所だ。
ペースを少し落として、携帯を取りだし時間を確認する。現在10時を少し過ぎた所。
ラストスパートだ。
店の前に着くと、制服姿の渋谷が不機嫌そうに腕を組んでいた。
「遅い」
「ぜぇ……ぜぇ……! わ、悪い。寝坊しちまっゲホッゲホッ!」
「なにやってんだか……。はぁ、取り合えず息整えて、汗を拭きなよ」
そう言って渋谷は、ハンドタオルを差し出してきた。異性のタオルを汗を拭うために使うのは、抵抗感があったが、こんな汗だくで過ごしたら風邪をひくかもしれない。
背に腹は変えられなかった。
それともう少し真面目に運動しよう。肺がヤバイ。
「悪い。今度洗って返す」
「うん、分かった」
「それと遅刻した分もいつか返す」
「別にいいのに。そんなに待ってないよ」
「自分で時間指定したのに、遅れたんだ。何かしらしないと、俺の気が済まん」
「ふーん。……じゃあ、考えとくね」
笑みを浮かべた顔に、俺は嫌な予感を覚えた。
「言っておくが、俺は人間だからな。限界があることを覚えておけよ?」
「大丈夫。寅晴なら、限界も乗り越えられる」
「なんだその謎の信頼。というか限界に挑戦するのは確定なのな……」
俺は、肩を落として、未来の自分の安否を心配した。
◇
しばらく歩くと、俺の通う高校の校門に到着した。
「へぇ、けっこう綺麗な校舎だね」
「まあ、まだ新しい学校だからな。というか、それくらいしか見所がないまである」
「ちょっと。学校見学に来てるのに、そんな見も蓋もないこと言わないでよ」
「悪い悪い」
渋谷の苦言はもっともだった。
だが、改めて自分の通う高校の良いところを言うのは、気恥ずかしいことなのを理解してほしい。
大きく開かれた門を通って、俺は渋谷を先導しながら、会場になる体育館校舎に来た。
入り口には、腕に係りの腕章を付けた生徒たちが、忙しなく出入りしていた。
それだけで、忙しいのが見てとれる。これなら係外の生徒にまで声をかけるわけだ。
俺は、目当ての人物を見つけるために、辺りを見舞わした。
そして、入り口辺りで後輩に指示を出していた所を発見した。
その人物に、渋谷を連れて近づき。
「よう、忙しそうだな優樹」
「遅いよ、寅晴! もう準備始まっちゃってるよ!」
「悪い悪い。ちょっと寝坊しちまってな」
「はぁ、まったく……」
呆れたように息を吐いた、この優男は、
この学校の生徒会長であり、俺とは中学からの付き合いである。実は妹がアイドルをやっていて、その系統の話で盛り上がることが多々ある。
成績は優秀で、先生からの信頼も厚い。が、印象は?と聞かれると、なぜか普通の男の子という言葉が最初に出てくる。
やはり、熊本出身の利点を活かさないのが、キャラの弱さに繋がっているのだろう。
「そういえば、助っ人を連れてくるって話だったけど……」
キョロキョロと、優樹は人を探す。
いや、後ろにいるだろ。俺は、後ろ向きに親指を指して。
「こいつだよ。俺の後ろにいる、この生意気そうなやつ」
「ちょっと、変な紹介のしかたしないでよ」
歳上を普通に呼び捨てにするやつを、生意気と言って何が悪い。運動部なら、呼び出し待ったなしだぞ。
俺が渋谷が助っ人だと示すと、優樹は驚いたように身体を仰け反らせた。
「えぇ!? と、寅晴が女の子を連れてきた!? あのシスコンの寅晴が!?」
「おいこら、ちょい待て。誰がシスコンだと? 俺は、たしかに卯月を大事にしているが、シスコンとまでは言えないはずだ。そもそも、お前にだけはシスコンって言われたくねぇ! このシスコンが!」
「シシシ、シスコンじゃなか! 僕は、普通だ! 普通の家族たい!」
「よく言うねぇ。妹が手伝いに来ても違和感ないように、家族に応援頼んでもいいとか異例の許可出したくせによ! 職権濫用じゃないですかね? それでいいんですか生徒会長?」
「そんなこと言ったらそっちだって! 前に店に行った時、妹さんと楽しそうに話してたら、コーヒー特別苦く作ってきたじゃないか! 僕が苦いの無理なのを知ってて! 店を預かるものとして、客に不味いもの出して、恥ずかしくないのか!」
「なんだと……!」
「なんだよ……!」
「要するに、二人ともシスコンってことだね」
「「シスコンじゃない!」」
勝手に話をまとめた渋谷に、俺と優樹は揃ってつっこんだ。
◇
二人の息が揃ったつっこみを受けた後、私は係りの腕章を借りて、会場準備を手伝っていた。
寅晴は、生徒会長に別の仕事があると言われ、奥に連れてかれてしまった。
初対面の歳上たちの中に1人取り残される不安があったが、寅晴から「せっかく来たんだ。実際の生徒と話して、どんな学校なのか聞いてみな」と言われたら、少し前向きになれた。
無愛想でも、やるときはやるんだから。
誰が手伝える人はいないか、探していると、大きな机を持っている、眼鏡をかけた女の子がいた。
1人では持ちにくいのか、大分苦労している様子だ。端の方なので、他に気がついている人はいないみたいだった。
私は、あの人を手伝うことに決めた。
「手伝うよ」
「……え? あ、ありがとうございます!」
私が反対側の部分を持ち上げると、女の子は律儀に頭を下げてきた。目上の人に頭下げさせるのは、少し億劫だ……。
所定の位置まで、机を運び終えると、女の子はまた頭を下げてきた。
「あの、ありがとうございました! 1人で持てると思ったんですけど、思ったより重くて。え、と……」
「渋谷凛だよ」
「渋谷凛……。じゃあ、凛さんですね!」
「いや、呼び捨てでいいよ。私の方が、多分年下だし……」
「えぇ!? 凛さん何歳ですか?」
「14歳。中学3年生だけど」
「中学生!? ご、ごめんなさい! 大人びていたので、てっきり2年生か、3年生だと……」
それは前向きに捉えていい言葉なのか……、後ろ向きだと老けてるって言われてるみたいだし。
しかし、この子の性格的に、前向きに捉えていいんだと思う。人の悪口なんて言えそうにないし。
「じゃあ、凛ちゃんでいい?」
「うん」
「ならあらためて、手伝ってくれてありがとうね凛ちゃん。あ、忘れてた。私は、小日向美穂って言います。よろしくね」
小日向美穂……どこかで聞いたことあるような……?
そういえば、さっき寅晴とじゃれあってた生徒会長の苗字が小日向だったな。ということは。
「生徒会長の妹?」
「うん、そうだよ。本当は私、別の高校なんだけど、お兄ちゃんに人が足りないからって頼まれちゃって」
寅晴の言っていたことは本当らしい……。ちょっと、評価が落ちたよ。まぁ、人が足りないのも本当だろうけど。
「凛ちゃんも、お兄さんかお姉さんにお願いされたの?」
「ううん。私は、知り合いにだよ。学校見学も兼ねてどうかって」
本当は友達と言いたかったけど、寅晴を友達と言うのは何となく躊躇いがあった。何でだろうか? よく分からない。
私の言葉に、美穂はクスッと微笑んだ。優しい包み込む笑顔。まるで卯月の笑顔を見ているようだった。
「ふふ。そうか、知り合いかー。その知り合いの人、まるで凛ちゃんの先生みたいだね。見学に来ないかなんて、普通の高校生なら、あまり出てこない言葉だよ」
「先生か……。うーん、先生って言うより、兄の方が似合ってると思う」
でも、納得はしない。あくまで、その表現の方がしっくりくるだけ。
「兄、そんな言葉をかける高校生、今日来てる人……。ねぇ、凛ちゃん。もしかして、その知り合いって……」
美穂が言いかけた時だった。
「渋谷ー! 悪いが、こっち来てくれないか!」
寅晴が、大きな声で私を呼んできた。話の途中だったので、私は、どちらを選ぶべきか迷ったが。
「いいよ」
美穂が言ったが、気になったので、何を言いかけたのかと聞くと。
「ううん。大したことじゃないから、気にしないで。呼ばれてるんでしょ、なら早く行かないと」
「う、うん。わかった」
後ろ髪引かれる気分だったが、美穂がすでに言う気はないようなので、私は寅晴の方へと向かった。
何だったんだろ……?
「……そうかー。やっぱり寅晴さんかー」
◇
その後、特に問題もなく説明会は終了した。説明内容も進学率やら学校の特色など一般的なことだった。いくつか聞き覚えのないこともあったが……修学旅行って沖縄なのか。俺ら京都だったんだが。
そんな発見もありながら、会は終わり、一般来場者は帰った。そして片付けも会長の優樹指示の元、手際よく終わり。俺と渋谷は帰ろうと体育館を出たところだった。
つうか、先に帰っていいと伝えたはずなんだけど……。まぁ、頑張ってやってたみたいだし、コーヒーの1杯くらい奢ってやるか。
「それで、どうだった説明会は?」
「うん。けっこう参考になった。家からも遠くないし、学力面も悪くない。けっこういい所かも」
「ほう。中々好評価だな」
それとも渋谷の評価が適正なのだろうか?
自分の高校って、妙に下に見がちになるんだよな。
「あと知り合いがいるのも、心強いかな……」
「ん、知り合い? ああ、そういうことか。っていってもなぁ。俺、お前が入学するときは3年生だし。すぐに卒業しちまうぞ」
「1年経てば、他に友達作れるって」
「本当かぁ……」
「む、それどういう意味?」
「いや、な。渋谷はあまり人と関わらないタイプかと思ってて。クラスに1人はいるだろ。窓の外見ながら、1人ボーとしてる女子」
「……でも、友達いるから」
あ、してるんですね。
図星だったらしく、渋谷は顔を逃がすようにそっぽ向いてしまった。
まぁ、強がって嘘つくようなやつには思えないし、実際に友達はいるんだろ。別に嫌なやつってわけじゃないもんな。ちょっと、無愛想ってだけで。
そんな会話をしながら、門の前まで来ると、眼鏡をかけた女の子が、門に背を預けて立っていた。
どこかで見覚えがあるような……。
その女の子は俺たちをじっと見ると、笑顔で手を振ってきた。
「あ。凛ちゃーん! 寅晴さーん!」
「み、美穂!?」
「ん? 美穂?」
あの声と形……ああ、なるほど。
「小日向か」
「知ってるの?」
「ああ。優樹の妹だからな。何度か会ったことあるよ。それによくテレビで見るしな」
「テレビ?」
もしや、渋谷は小日向のこと知らないのか? いや、知っているが、目の前の人物と同一人物とは思ってないってことだろう。大人気だもんな。無理もない。
「こんにちは寅晴さん! お久しぶりです。兄がいつもお世話になってます」
「こちらこそ世話になってるよ。本当に久しぶりだな……。最後に会ったのいつだったか」
「私が中学三年生の時ですよ」
「へぇ、けっこう経ってたな。そういえば、仕事順調みたいだな。よくテレビで見るよ」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいです」
照れ臭くしながら、顔はとても喜んでる。
なにこの可愛い生き物。卯月の次くらいに可愛い。優樹がシスコンになる理由わかるわ。
そして渋谷さん。何でそんな怖い目をしてるんだい? 人殺せそうだよ。リアル版直死の魔眼になってる。
「ねぇ、テレビってなに?」
心なしかドスの効いた低い声で、渋谷は聞いてきた。
だから怖いって。お前の身に何が起こったんだ。
「あ、ああ。本当に知らないか? 小日向美穂だぞ?」
「小日向……美穂……えぇ!? それって……」
「うん。そうだよ」
そう言いながら、小日向は変装用(と思われるが、ほとんど隠せてない)眼鏡を外し、素顔を露にした。
「346プロ所属アイドル。小日向美穂です!」
「え、えぇ!? ほ、本物?」
「信じられないのはわかるが、本物だ。大人気アイドルの小日向美穂だよ」
「だ、大人気なんて、そんな……。私なんてまだまだですよ」
高垣楓や城ヶ崎美嘉にも並ぶアイドルがまだまだとか、謙遜しすぎではないか?
まぁ、そんな素朴な所も、彼女の人を惹き付ける魅力の1つなんだろう。
俺が考察をしている間に、小日向は渋谷の耳元に。
「凛ちゃん。……ボソ」
「……ッ!?」
何か言ったんだろうが、小さすぎて俺には聞き取れなかった。
離れた小日向はイタズラに成功した子供のように得意顔。渋谷は驚いた様子で小日向を見ていた。
「それじゃあ寅晴さん! また今度お店行きますね!」
「ん? もう帰るのか?」
「はい。これからお仕事なんです!」
「ほーん。よく仕事前に、こっちの仕事来たなぁ。優樹もそのくらい気を回せばいいのに」
「いえ今日はお兄ちゃんに黙って来たんです」
「は? 何でまた……」
「うーん。言ってもいいんですけど……。やっぱり内緒です」
「そうか、わかった」
「えぇー。もう少し興味持ってくれてもいいじゃないですかー」
「俺にどうしろと!?」
俺のつっこみにテヘっと舌をだす小日向。本当に変わったよなこの子。昔は目も会わせられない緊張しいだったのに、いつの間にか小悪魔系女子に。人の成長ってすごいわぁ。
「それではさようなら」
手を振りながら、小日向は去っていった。何で待ってたんだ……?
「なぁ、渋谷。さっき小日向に何を言われ……」
「内緒」
「さいで」
何でこんなに不機嫌なんだよ。怖いわ。小日向のやつ、渋谷に何を吹き込みやがった。
隣でバーサーカーを英霊召喚してる渋谷の機嫌は、俺がカフェモカを奢るまで直らないのだった。
◇
『凛ちゃん。私、負けないからね』
美穂は私にこう耳打ちしてきた。
この意味がわからないほど、私は鈍感じゃない。美穂は寅晴が好き。理由は分からないけど、異性として意識してる。
では、私はどうなんだろう。
寅晴が友達として好きかと第3者に聞かれれば、『好き』だと答えるだろう。いい人だし、聞き上手だから会話も楽しいから。
では、異性としてはどうか。これには『わからない』と言うしかない。何度か男の人を気にしたことはあるが、それも小学生で終わった。中学生になってから、恋らしい感情を抱いた相手はいなかった。
だから『わからない』。正確には、判別できない。
でも……渡したくない。
そう思ってしまった。気持ちはハッキリしないけど、渡したくありません。なんて、自分勝手な理論だった。ただの子供のワガママだ。
でも、そんな自分を肯定する自分もいた。
寅晴を渡したくない。
アイドルだって、負けたくない。
それだけはハッキリと、私の心に根付いていた。
小日向さんは、アニメを見てると年下や同じにはため口かなと。
モバマスだとPには基本敬語だから、歳上には敬語って感じにしてみまして。