新世代と島村兄   作:凧山葵

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第2章
第7話


春。それは桜舞散る華やかな季節。

綺麗な桜の木の下で、敷物に座って、コーヒー片手に花見なんてのも乙なものだ。

本田には爆笑されたが。なにが花見にコーヒーは似合わないだ。花を見ながらコーヒー飲むの美味いんだからな。

そしてまた春とは、人によっては今までの生活が激変する。

例えば俺の周りなら、渋谷が俺の通う高校に入学したり、本田が千葉からこっちに引っ越してきたり、家が近くなったせいで春休みの間、毎日のように3人で店に集まってきたり。

おかげで、静かだった生活は一変してしまった。

まぁ、騒がしいのが嫌いと言うわけではないが。単純にうっとおしい。

そんな感じに春とは、人の生活に変化をもたらす季節なのだ。

だが、一番の変化は決まっていた。

その変化は、誰もが望んでいて。願っていて。……応援していた。

 

本人は長年努力を続けた。挫折しかけた。しかし、諦めなかった。そして、ついに叶えた。

 

もうお分かりだろう。そうその変化とは……。

 

 

 

ーーー卯月がアイドルになった。

 

 

 

 

 

入学式も終わって数日。

先輩にしごかれる仮入部の新入生たちを、俺は懐かしむように眺めていた。俺も優樹に付き合わされて、色々な部活の仮入部に参加したからだ。まぁ、どれも興味を持てず続かなかったのだが。

特に運動部は駄目だ。腕立て伏せ50回? 腹筋100回?外周10周? 運動初心者も混ざってるのわかってるのかって、言いたくなった。しかも先輩たちは平気でこなしてるし。あいつら人間じゃない。人間の皮を被った鬼だ。なんか涙出てきたわ。

そんなトラウマもあるせいか、よけいに息を切らせている後輩がかわいそうに見えてきた。

頑張れ。諦めなければ道は見えるぞ。

俺は拳を強く握って、応援の念を送った。

 

「……さっきから、何一人で百面相してるの? 正直気持ち悪いよ」

横から聞こえてきたドン引いた声に、俺の表情がひきつる。

声の正体は、失礼生意気な後輩代表、渋谷凛だ。

「うるさい。お前には見えないのか。先輩たちから、俺らは出来るんだからお前らもやれよと理不尽な扱きを受けてる同級生の姿が!」

「いや、運動部なんだから、それくらい普通でしょ。友達もダンス部の先輩が厳しいって愚痴ってたよ」

 

力説してみたが、呆れ混じりにあっさりと返されてしまった。

悲しくはない。相手にされなくて、空しいだけだ。

俺は苦し紛れに話題を変えた。

 

「……そうか。お前も窓際族から、友達もちに昇格したか。よかったな」

「意味は分からないけど、なんか馬鹿にしてるのは伝わった。……人目がなくなったら、背後には気を付けてね」

「怖えぇよ! 最後の言葉完全に犯罪予告じゃねえか!」

「大丈夫。バレないから犯罪にはならない」

「論点そこじゃないから! まず犯罪すんな!」

 

俺のつっこみに、凛はクスクスと笑っていた。

こいつ、けっこう人をからかうの好きだよな。冷たそうに見えるが、素は中々のいたずらっ子なのである。面倒な性質だな。

そしてからかわれた俺は、やり場もない気持ちをため息で吐き出すしかなかった。

まぁ、喧嘩を売ったのは俺なんだが。渋谷はそれを利用しただけ……なんだ、ただの自爆か。

もう一度ため息が出た。

「そういえば、お前は部活入らなかったのか?友達はダンス部なんだろ。誘いとかなかったのか?」

「うん、まぁ……。誘われたけど。ダンス部、吹奏楽部、合唱部とか」

「音楽系多いな!? ああ、そういやお前、音感いいからな。カラオケも上手かったし」

 

春休みの。俺含め卯月と渋谷は、本田に捕まってカラオケに連れていかれた。その時聞いた渋谷の歌は、素人レベルならかなりの歌唱力があると感じた。

この世に才能というものが存在すると感じた。

 

「そういう寅晴も凄かったよ。カラオケの得点で50点台だったけ? もはや、あそこまでいくと逆に技だよね」

「うるせぇ、ほっとけ!」

 

そんな技は絶対にいらん。

だが、音程ってどうやって合わせるのか、まったく分からない。

 

「まぁ、一応色々な部活を見学をしたよ。でも、どれもピンと来なくて……」

「1つもか?」

「うん。なんか私には合わないかなって。何かに夢中になるって、よくわからないから」

「あー。俺も部活には入ってないから、偉そうには言えんが、まず始めてみることが大事だと思うぞ。自慢じゃないが、俺も幾つも仮入部して体験してみて、全部無理だと気がついたからな」

「本当に自慢じゃないね……」

 

残念な人を見る目が、(心に)刺さる刺さる。

辛すぎて、顔ごとそらしてしまうまである。

仕方ない。人間には向き不向きがあるのだから。なんのために帰宅部があると思っているんだ。部活に適応出来ない生徒を助けるためだぞ。

それに俺には、他にやるべきことがあるからな。

「でも……」

「ん?」

 

渋谷が何かを言いかけたので、視線を向けると。

 

「機会があれば、挑戦するかどうか、考えてみようかな」

 

渋谷は、ポツリと呟くように、そして決意を込めて言った。

前みたいに後ろ向きではなくて、しっかり前を見ている。……これなら大丈夫だな。

俺は、渋谷の頭に、ポンポンと手を2回軽く押して。

 

「まぁ、頑張れ」

「ちょっ! と、寅晴……!?」

「ん? どうかしたのか?」

 

俺が渋谷の頭に手を置くと、渋谷は顔から首筋までをタコのように真っ赤にして、バッと俯いてしまった。

もしかして熱でもあるのかと、俺は考えた。

下から渋谷の顔を覗き込んで。

「渋谷顔が紅いが大丈夫か? まさか風邪か?」

「…………べ、別に! 大丈夫、平気!」

「そうか? まぁ、無理はするなよ」

「う、うん。……寅晴のせいなのに、バカ」

 

なんか心配したら、バカと言われた件について。理不尽すぎるぜ人生よ。

何か怒っているのか? 正直、俺は女性の心情変化に疎い、らしい。昔、卯月に言われたから、多分その通りなんだと思う。

だから、どこで何に対して不満に思うところがあったのか見当もつかない。

謝るべきなんだろうけど、取り合えず謝罪っていうのも誠意がないよな。

うーむ……よし、ここは美味しいもので機嫌直そう作戦だ(思考停止)。

「なぁ、渋谷」

「……なに?」

 

あらまぁ、不機嫌そうな声ですこと。しかも顔を俯かせて声だけだ。

渋谷は、相当お怒りらしい。

 

「あ、ああ。そのな。最近駅前に出来たカフェがあってな。そこに味の参考のために行きたいんだが、男一人でお洒落なカフェ行くのはきついから、付いてきてほしいんだが……」

10秒無言で歩いたあと、渋谷は立ち止まって口を開いた。

「……それは寅晴のおごり?」

「あ、あたり前だろ! 俺が誘ったんだ。俺が全部出すさ!」

「ふーん。じゃあ行く」

「おう。行くか!」

俺たちは駅前のカフェに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

外観はセンスのいい色使いでとてもお洒落。従業員も男が中心で、みな容姿が整っている。女性をターゲットにしているのが、よくわかった。

これが駅前に出来たとなれば、売れないわけがないだろう。

目的のカフェに着いた俺たちは、さっそく中に入ろうとドアに近づいた。

すると、ドアは人を検知して自動的に開いた。ここですでに格の差を感じてしまう。

 

「いらっしゃいませー! 2名様ですか?」

「はい。二人です」

「では、こちらの席にどうぞ」

 

案内されたのは、当たり前だが禁煙席。喫煙するには喫煙所を別途に用意しているから、その喫煙席という言い方は相応しくないか。

喫煙者、吸わない人、どちらにも対応できる店内。接客もしっかりとしている。店の中を見回してみても、落ち着いていてゆっくりと出来そうだ。

うちの店とは距離があり、客の層が違うからライバル関係などではないが、似た系統の店がスペック高いと劣等感をまったく感じないというのは難しい。

店内をなめ回すように観察していると、渋谷が話しかけてきた。

「ねぇ。わざわざ来るってことは、このお店って有名なの? 」

「いや、店自体はここが1号店だ。だが、店内やメニューやらをプロデュースしてる人が、世界的に有名なバリスタってことでな。雑誌でも特集されて、すごい注目されてるんだよ。このバリスタのコーヒーは、俺も1度は味わってみたいと思ってたからな。そんな人の店が近くに出来るって言うんだ。こなきゃ損だろ」

「……相変わらずコーヒーには目がないね」

「当たり前だ。じゃなきゃ、こんな男が来づらいところ、わざわざ来ないさ」

 

店内では女子率99%(男、俺1名)。別に店側が公言したわけではないが、やはり男一人で来るのは抵抗がある。

だからずっと来たかったのだが、卯月がオーディションに受かったりして忙しかったから都合がつかず、多忙な小日向に頼むわけにもいかなかったので、足踏みしていた。

だから、今日の出来事はある意味ちょうどよかったと言えなくもないな。

渋谷は「ふーん」と反応薄くメニューを開いていた。お前が質問しておいて、その塩対応かよ。こいつもこいつで相変わらずだ。

俺も同じくメニューを開き、アイスのアメリカンを注文した。渋谷は、アイスのカフェオレ(メニューにカフェモカがなかったからだろう)とお高いチョコケーキを頼んだ。

奢ると言ったが、少しは遠慮しろよ。躊躇いなく頼みやがって。

今月金欠だな……。

10分ほどで、注文した商品は運ばれてきた。

 

「いい香りだ……」

 

コーヒーの豆の香りが、しっかりと薫ってくる。淹れ方が荒いと香りが混ざりもののようになるが、これは丁寧に作られてる。

飲む前から、美味しいと予感できる。

そしてグラスの中を、ストローから吸い出してみると。

 

「上手い」

 

その一言しか出なかった。

アメリカンは苦味が薄く酸味が強いのが特徴だ。なので、苦いのが嫌いな人が、好んで飲むことが多い。

だが、このコーヒーは薄い苦味を酸味に上手く調和させている。多くの人がおいしく飲める作りになっているのだ。

これは俺には出来ない。

これが世界レベルのコーヒー。本場で修行した成果……か。

嫉妬も出来ない腕の差だな。

 

「美味しい……」

 

渋谷もここのコーヒーはお気に召したようだ。つうか俺のコーヒーよりも美味しそうな反応だな。

認めているが、やはり悔しい。

嫉妬も出来ない差があっても、悔しいものは悔しいんだ。

「どうしたの? 恐い顔してるよ」

「……別に」

 

今の心境を声に出すのは、負け犬の遠吠えに等しい。だが、いつか胸を張って言えるようになりたい。

俺のコーヒーの方が上手いっ、とな。

 

 

 

 

 

 

お店を出た私は、花屋の手伝いがあるので、家に帰っていた。

本当は時間まで寅晴の店に行くつもりだったけど、今日は違う店に連れ行かれたので、行けなかった。まぁ、気にしてないけど。

でも、あの有名な人の考えたコーヒーは美味しかった。今現在では、寅晴のコーヒーよりも美味しかっただろう。

だから寅晴は恐い顔をしていたのだろうか? 普段は勝負事には興味を持たないのに、コーヒーのことになると別人のようにムキになるから。

それにしても、寅晴は本当に鈍感だ。卯月や美穂からも聞いていたけど、かなりの朴念人だ。

あっさりと人の頭を……。

思い出したら、また顔がにやけてきた。恥ずかしいからずっと下向いてたのに……。

「あの、すいません」

 

紅くなった顔を、手で隠しながら歩いていると、後ろから渋い男の声が聞こえてきた。

幸福から、一転して警戒心が沸き上がってきた。

私は、いつでも逃げられるように半身になって、後ろを見た。

そこには、どうみてもヤクザにしか見えないスーツ姿の男が、立っていた。

けっこう恐怖を感じた。

「……な、何ですか?」

「いえ、大したことでは」

 

そう言って男は、懐から小さな紙を取り出して。

 

「アイドルに……なりませんか?」

 

鋭い眼光で私をしっかりと見据えながら、そう言った。

 




ようやく武内p出せた……。
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